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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
123/375

第119話 大空洞・前編


 本日は琉架と二人で空の旅、目指すは中央大陸地下に広がる第8領域『大空洞』。

 琉架と二人っきりは随分久しぶりな気がする…… 実際はそんな事は無いが、最近は別行動が多かったのは事実だ。

 なので久しぶりの擬似デートを楽しむことにする。


 デートスポットは地下に広がる薄暗いアンダーワールド。

 ハプニングの予感がする。


 薄暗い地下坑道…… 琉架は怖がりだからきっと俺の腕にしがみ付いてるだろう……

 足元が悪く転びそうになる琉架…… それを支える俺……


『きゃっ!』

『大丈夫か? 琉架』

『う……うん、アリガト神那……』


 俺の胸に縋り付く琉架と見つめ合う…… その距離はわずか10cm……

 辺りは暗く、そして誰もいない……

 重なり合う視線…… そして自然と近付く二人の距離……


『か……神那……』

『琉架……』


 大丈夫、誰も見てないよ…… 今この瞬間は太陽ですら俺達から視線を外している……


 若い二人が暗く狭い地下に閉じ込められたら何が起こる?

 そう! 古代神族(レオ・ディヴァイア)達も言っていた! 100%の確率でおっぱじめると!

 古き神々が言った事が正しいかどうか検証できる。

 その時ソコは薄暗い地下世界(アンダーワールド)から、夢の楽園世界(ワンダーワールド)に変わるのだ!



「神那? お~い、もしも~し!」

「ハッ!?」

「大丈夫、神那? もしかして寝てた?」

「あ……あぁ、悪い、ちょっと寝てた……」


 ちょっと寝てたというより、ちょっと夢見てた。


「疲れているなら少し横になった方が良いよ?」

「大丈夫、ちょっとボ~っとしてただけだ」


 テンションが変な感じに上がってしまった。

 もうじき目的地に着くんだ、シャンとしなきゃな。



 大空洞はその名の通り、中央大陸の地下に広がる広大な地下空洞だ。その面積は一説にはトゥエルヴに匹敵するほどの広さだという。

 その出入口は中央大陸に無数に存在していたが、炭鉱族(ドワーフ)が引きこもった際に殆んどが埋められてしまったらしい。

 現在残っているのはムックモックとレイガルドに各2つ、計4ヵ所だけだ。その内訳は……


 一つ目は……

 地下世界との出入り口で最大のモノ、第11領域・ムックモックの北東、中央大陸のほぼ中央に存在する『黄泉比良坂』…… あの世の入り口という意味の言葉だ。あまり縁起が宜しくない。

 この入口には侵入者を阻むために大型のゴーレムが大量に設置されているらしい。


 二つ目は……

 同じく第11領域・ムックモックの西の砂漠地帯に存在する『地獄の門』…… またしても縁起が良く無い名前だ。

 この入口は炎に包まれているそうだ、魔術を使えば簡単に消せるだろうが、この炎は有毒ガスの放出を食い止めるために点けられたとか何とか…… 同じようなモノがデクス世界にもあった気がする。

 とにかくこの入口は遥か昔から通行不能だ。


 三つ目は……

 第9領域・レイガルドの北東の海の近くにある『ブルーホール』…… 直径200メートル程の真ん丸な穴だが、そこにはタップリと水が蓄えられている、要するに池だ。

 ダイビングの用意をすればここからの侵入は可能だが、大変革(レヴオル・シオン)後にこの池には獰猛な淡水鮫が放たれたそうだ。


 四つ目は……

 レイガルドの古来街道大要塞近くに存在する『グランドネスト』…… 遥か昔に絶滅したグランドアントという身の丈3メートルにもなる巨大アリの巣だ。

 しかし元がアリの巣だけあって、その中は正に迷路のようになっている、ここを通り抜ける事が出来るのは炭鉱族(ドワーフ)だけだろう。


 …………


 要するに今俺たちは黄泉比良坂へ向かっている。消去法でココしか残って無かったからだ。

 もっともちゃんと調べれば、小さな出入口は幾らでも存在しているハズだ。ただそれは普通のヒトには発見できないだけで。

 神代書回廊(エネ・ライブラリー)を使えば見つけるのも容易いだろうが、わざわざそんな労力を掛ける必要もない。

 正面から大胆かつコッソリとお邪魔させてもらおう。


「あ、ねぇ神那、もしかしてアレかな? 大きな穴が開いてる」

「おぉ!」


 山の中に唐突に巨大な穴が現れた。

 まだかなり距離があるのにその巨大さが一目で理解る、周囲にある小山が5~6個余裕で収まる程巨大だ。

 穴の直径は5km以上あるだろうか? 螺旋状に道が作られ、それが地の底まで続いている。なんとなくダイヤモンド鉱山っぽい。

 そしてその穴の周りと螺旋状の道の要所要所に巨大なゴーレムが大量に設置されている。

 2メートル程度の泥人形(マッド・ゴーレム)と、5メートル程の岩人形(ロック・ゴーレム)

 そしていつか獣衆王国で見た15メートルクラスの鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)が侵入者を阻むように立ち塞がっている。

 なかなか強力な布陣だ。この世界の奴等は引きこもりに命掛け過ぎだろ?


「うわぁ~、いっぱいだね。どうやって中に入るの? 相手はゴーレムだし全部壊しちゃう?」

「う~む…… ゴーレムは戦力になるから勿体無い、てか穴の中心に飛び降りればスンナリ入れそうな気がするな」


 もちろんそのまま飛び降りたら目立ち過ぎるが……


 黄泉比良坂の上を旋回してみると穴の底が見える、深さは1000メートル程だろうか? 恐らくそこから横穴に繋がっているのだろう、きっとそこが国境だ。


「琉架、打ち合わせ通り『擬態(ミミックヴェール)』を頼む」

「りょーかい」


 擬態(ミミックヴェール)は何も狐耳やロップイヤー、狸っ娘に変身する為だけの魔法じゃ無い。あらゆる種族に擬態できる。

 今回は炭鉱族(ドワーフ)だ。しかし小型種族である炭鉱族(ドワーフ)と、さらに小さい妖精族(フェアリア)に擬態するのは少々無理がある。

 身長を縮める事は出来ないからな、ちょっと育ち過ぎた炭鉱族(ドワーフ)になってしまった。

 つまり髪の色と肌の色と目の色が変わった程度だ。炭鉱族(ドワーフ)よりも更に小さい妖精族(フェアリア)への擬態は無理だったな。


「なんかお揃いみたいになったね?」


 髪はこげ茶色、肌は褐色、目は茶色…… 要するに全体的に茶色い種族、それが炭鉱族(ドワーフ)だ。

 ちなみに緋色眼(ヴァーミリオン)だけは朱いままだった。


「髭とか生えてないよな?」


 自分の顔に触れてみる…… うん、大丈夫だ。ツルツルだ。

 大人の男性炭鉱族(ドワーフ)は例外なくヒゲを生やしている、正直あんな感じになるのは嫌だ。

 ガイアの移民区で買える炭鉱族(ドワーフ)の民族衣装はどれもサイズが合わなかったので諦めた。その代り民族特有の細かな刺繍が施された大きめのマントを購入し纏う。


「ねぇ神那、これで大丈夫かな?」

「多少変な目で見られるだろうけど、一応は炭鉱族(ドワーフ)に見える。たぶん大丈夫だ」


 あまり目立ちたくないが仕方ない。


「それで、これからどうするの?」

「そうだな…… 飛び降りるか」


 普通に考えたら頭おかしい発言。しかし俺はパラシュート無しのスカイダイブには一家言ある。そんな俺に言わせればこの程度のダイブ、グダグダいうレベルじゃ無い。


「減速はどうするの? 私がやる?」

「いや、穴の底に着いたら俺が跳躍衣装(ジャンパー)を使って落下速度を無効化する、そこから連続ジャンプで一気に気付かれない様に国境を越えるよ」


 琉架も俺同様、パラシュート無しのスカイダイブの経験が豊富だ。この程度は朝飯前だな。


「第6階位級 光輝魔術『偏光』ミラージュ」


 一応目暗ましを掛ける。完全に姿を消せる訳では無いが、目立たなくはなる。

 そしてホープが黄泉比良坂の真上に来たトコロで飛び降りた。



 ビュオオオォォォオオオーーー!!!!



 どんどん地面が近づいてくる、あっという間に黄泉比良坂に突入する。

 てかヤバイ! 速すぎる! 怖えーよ!


「ひぅ!! か…神那ぁ!!」


 琉架に思いっ切り抱きつかれる、物凄い勢いで落下しているが気分は天にも上りそうだ! とか言ってる場合じゃない!

 緋色眼(ヴァーミリオン)で地形のオーラを読み取り進路を決める。北側に大きな通路と雨水や地下水が流れる河川が見える、その先に広い空間が広がっている、アレが大空洞……

 なるべく壁側に寄り墜落死直前に跳躍衣装(ジャンパー)で瞬間移動するんだ!


 そんな0.1秒の判断が生死を分ける瞬間、ふと嫌な考えが脳裏を過ぎった……

 跳躍衣装(ジャンパー)って本当に運動エネルギーを無効化出来るんだろうか?

 よくよく考えたら試した事が無かった……(0.1秒)


 跳躍衣装(ジャンパー)の実験中、『強制転送(アスポート)』と『強制誘導(アポート)』での運動エネルギー無効化は成功した。と言っても研究室で琉架にピンポン球を投げて貰っての実験だったが……

 強制転送(アスポート)強制誘導(アポート)で成功したなら自分自身が跳ぶ跳躍衣装(ジャンパー)も問題無いだろうと思い込んでいた。(0.1秒)


 しかし検証はしていない、魔王レイドが出来ると証言していただけだ。もちろん本人も墜落死しそうな時にそんな嘘を吐くとも思えない…… しかし……(0.1秒)


 一度嫌な予感がしてしまうと、次から次へと浮かんでくる。

 この間、僅か0.3秒ほど…… そんな刹那の時間の間にまるで走馬灯のように色々な事が思い浮かぶ。(0.1秒)


 てかコレ、走馬灯じゃ無いのか?

 もしかして今俺達、死に掛けてる? どちらにしても今からこの勢いを殺すのは不可能だ、ならばこのまま突き進むべし!(0.1秒)


 琉架を力いっぱい抱きしめる、どうせ死ぬならせめて最後にセクハラしてみたいから……とかじゃ無い、最悪の事態になった時、琉架だけでも強制転送(アスポート)して助けるためだ、もちろん上手くいけばの話だが。


 そして墜落死まで0.1秒を切った瞬間、跳躍衣装(ジャンパー)で瞬間移動した!





 その瞬間、身体の感覚が失われた…… 一瞬死んだのかとも思ったがそうじゃない。

 身体に打ち付けられていた風の感覚も、重力による身体の重さも、そういったモノはジャンプした瞬間全て無効化されていたのだ! 成功だ!

 間髪入れずに次のジャンプを行なう。横穴を大空洞へ向かって……


 横穴に入ってから20回程ジャンプした地点で、周囲に生き物がいないのを確認して着地する。

 20回の連続ジャンプはかなりの魔力を消費した。もし魔王化していなかったら魔力枯渇でぶっ倒れてた所だ。


 さっきまでテンパってた事などおくびにも出さずに琉架に話し掛ける…… そこでようやく気付いた。

 琉架が気絶している……


 コレはアレだな。チャンス到来。


 もちろん俺は紳士だ。色々やりたい事はあるが、そういったモノはグッと我慢し介抱してやる。

 気を失っている琉架の唇を奪ったり、胸を揉んだり、スカートをめくったり、俺にベタ惚れになる様な睡眠暗示を施したりはしない…… したいけどしない。


 俺も船酔いの時に琉架に色々助けてもらったからな、その恩返しだ。

 それに心配もいらないだろう、琉架の顔色は悪くない…… てか、真っ赤っ赤だ。恐怖のあまり気絶したというより、興奮のあまりショートしたみたいだ。

 絶叫モノの乗り物は弱いのに今のスカイダイブはエキサイトできたのだろうか? 謎だ。


 かく言う俺もかなりテンパってた。冷静になって考えてみれば、一回上方向へジャンプして試してみればよかったんだ…… もちろんあの時点でそれをやったら炭鉱族(ドワーフ)に目撃されていただろうが……

 今も出入り口の方がザワついている、墜落しなくても音や衝撃はあったからな。


 出入り口にヒトの目が集まってる隙に、もっと奥まで進んでおくべきか……?

 しかし琉架は現在気絶中…… じゃあ仕方ないよな? うん、仕方ない。


 琉架を背負って大空洞へ向けて歩き出す、お姫様抱っこも捨てがたいが、やはりココはおんぶだ!

 こうする事により、琉架のたわわに実ったルカを背中で感じる事が出来る!


 …………


 一人で死に掛けたせいかな? 性欲が暴走しかけてる…… 取りあえず素数でも数えておこう。

 もし契約を破ったら、琉架の二人のお姉様にデビルズ・ナックルランサられるかもしれないからな。


「2、3、5、7、11、13、17、19、23…………」ブツブツ




---




 ブツブツ…………


「ん…… んん……?」


 何か聞こえる…… 数字? 神那の声だ……

 え……と、何してたんだっけ?


 確か大空洞へ行くって…… それでホープから飛び降りて…… それで……

 か……神那に力いっぱい抱きしめられて…… 頭に血が上って…… ショートしたんだ……


 またやっちゃった…… 偶にこういう事がある、神那の事を考えていると頭が沸騰して倒れる……

 どうやら私の頭の中のブレーカーは容量が低いらしい、直ぐに意識が落ちる。


 それで今はどうしたんだっけ? 少し胸が苦しいけど、なんだか暖かくて、ゆらゆらと揺れが心地良い…… 何だか眠くなってくる……


「199、211、223、227、229、233、239…………」ブツブツ


 神那の声…… この数字は……


「……そすう?」

「お、琉架、気が付いたか?」


 え……? もしかして今 私、神那におんぶされてる?

 自分が置かれている状況に気付いた瞬間、体温が上昇した気がする! スゴク恥ずかしい!


「ゴ……! ゴメンね神那! すぐ降りるから!」

「わっ! ちょっと待てって……!」


 手足をバタつかせて無理矢理降ろしてもらう。

 しかし地に足がついてない感じだろうか? 足元がおぼつかない、まともに立っていられず、またしても神那に抱きしめられた!


「あっ……あぅ……///」

「ほら、無理するなって」


 結局もう一度、神那におんぶされるコトになった…… 恥ずかしい……!


「悪かったな、琉架。あのスカイダイブは怖かった。俺もちょっと後悔した」

「え? そんな事ないよ、私は神那のコト信じてるから」

「うん? じゃあどうして気絶したんだ?」

「あ……」


 しまった…… 本当の理由なんて恥ずかしくて言えない……


「う……うん、さすがに地面が近付いてくるとパニックになっちゃった!///」

「だよな? あれは絶叫コースターの比じゃ無い」


 うぅ…… おんぶしてもらってて良かった…… きっと今、顔真っ赤だ。


「お! 見えてきたぞ」

「うん?」


 長いトンネルの先から薄っすらと明かりが漏れてきた。

 そこに広がっていた光景は正に地下世界。


 地下空間の天井付近からの眺めだ…… いくつもの鍾乳石の様な巨大な柱が天井を支えている。

 地下にも拘らず、森が、川が、湖が存在しており、街や村なんかも見える。

 そして何よりも圧巻なのが、広大な空間そのもの! 地平線の果てまで広がっている!


「すごい…… ココが……」

「そう…… ココこそが第8領域『大空洞』だ」


 私たちは地下世界・大空洞へやって来たのだ。




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