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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
122/375

第118話 妙案


 5月某日 ―


 第6魔王を倒してから1ヵ月ほどの時間が流れた……


 今ガイアでは…… いや、世界中で話題になっている噂は『第3領域、浮遊大陸・アリア消滅』だ。

 そして実際にアリアの目撃情報は出てこない。


 何が起こったのかは結局謎のままだ。

 厄介な魔王が一人消えた、取りあえず今はその事実に喜んでおこう。


 そうなってくると次の問題はやはり『門を開きし者(ゲートキーパー)』だ。

 コチラに永住を望んでいる者も少なくは無いハズだ、特にこっちで結婚した人とかは。しかし神隠し被害者の多くは帰還を望んでいる、安全にゲートが使えるなら家族を連れて向こうへ移住を考える人も出てくるだろう。


 個人的にはさっさとゲートを開放して、帰還者並びに人族(ヒウマ)以外の種族の移住者をデクス世界に送りたい。

 向こうの世界に多種族が大勢移住すれば嫁達を連れて行きやすくなる…… 完全に俺個人の都合だ。野望と言ってもイイ。

 しかしその為にはどうしてもクリアしないとならない課題がある。


 中央大陸北部戦線だ。


 いっその事、第10魔王を討伐した方が早いかも知れないが、とにかく第10魔王は情報が少ない。

 そもそも機人族(イクスロイド)自体が数が少ない種族だ。そして生物が殆んど住んでいない大氷河が支配領域の魔王だ。

 如何に神代書回廊(エネ・ライブラリー)でも大した噂を収集できない。

 神代書回廊(エネ・ライブラリー)の性質上、魔王や使途、魔族の情報は集めにくいからな。


 今度ウィンリーが遊びに来た時に第10魔王の事を聞いてみるか。

 1200年前に第5魔王と第10魔王は戦っている、確実に何かは知っているハズだ。


 とは言え魔王と戦うのは命がけだ、避けられる戦いなら避けたい……と言うのが本音だ。

 大氷河とか超寒そうだし……


 何かいいアイデアは無いモノだろうか? そもそも何で第10魔王は1200年ぶりに動き出したのか?

 誰にも言ってないが実は仮説がある。

 単純な話だ、第11魔王レイドが今まで第10魔王を押さえていた。何故なら魔王レイドには『グレムリン特性』があったからだ。

 近付くだけで機械類を壊すマルファンクション『グレムリン特性』。

 機人族(イクスロイド)にとって魔王レイドは正に天敵だったんだ。

 そう考えれば、魔王レイドの死と共に、第10魔王が動き出した事にも説明が付く……


 それはつまり…… 俺の所為か?


 残念ながら……と言うより、幸運な事に俺に『グレムリン特性』は引き継がれていない。

 こんな特性まで継承していたら俺はデクス世界では生きていけないからな。危ない所だった……


 そんな特性があれば第10魔王なんか簡単に倒せるだろうが無いモノは仕方ない。それより俺にも何か魔王特性があるのだろうか?

 もしかしたら『ハーレム特性』とか持ってるのかも知れない、何せ“禁域王”だからな!


 …………


 本当にあるかも知れないな『ハーレム特性』…… 着実に魔王ハーレムが形成されつつあるからな…… 素晴しい!


 イカン! 思考がそれた、今は門を開きし者(ゲートキーパー)と第10魔王だ。

 何か良いアイデアは無いモノだろうか?




「おに~ちゃん?」


 白に呼ばれて我に返る、そうだった、今は夕食の買い出しの最中だ。

 週に一回の白とのデートタイムだ。

 いつも通り白とお手てつないでお使いだ、白の好感度ならそろそろ腕組みもイケるんじゃなかろうか? 今度試してみようかな? 今から楽しみだ!


 そんな感じで白と何気ない会話を楽しみながらマーケットに差し掛かった時だった…… 知り合いに出くわした。


「お?」

「あ?」


 そこにはチーム・レジェンド+サポーターが集結していた。

 そういえばコイツ等もこの街に居たんだった……


「霧島……」


 久しぶりに見た伝説(レジェンド)君はそこら辺に居る冒険者と変わらない格好をしていた。

 皮鎧に2本のショートソードを腰に下げてる、盾は持っていない所を見ると素早さ重視の攻撃型スタイルだ。軽戦士というよりシーフっぽいな。


 黒大根こと黒田先輩はイメージ通りのバスターソードの重戦士ファッションだ、と言っても鎧を付けているのは胴体と足だけ、肩から腕に掛けては剥き出しだ。コイツ何でノースリーブなんだよ……

 前にも言ったが、肩を露出していいのは可愛い女の子だけ!というのが俺の美学だ。つまりコイツの存在そのものが俺の美学に反している…… 向こうの世界では売っていなかったが、トゲ付き肩パットをプレゼントしようかな?


 仮面こと加納先輩は魔術師系のファッションだ。トレンチコートっぽい赤のローブを羽織っている。下は学院の制服のままだ。

 杖の類は持って無さそうだが、完全に後衛だな。


 そして武尊は安定の黒一色、クロム系の装飾がそこら中にじゃらじゃら付いている…… ちょっと多すぎる、そう言うのは主張し過ぎない方が良いと思うぞ?

 背中にはロングソードが2本、ガン○ムみたいに配置されてる…… 腰に差した方が抜きやすいと思うんだが…… まぁ、好きにさせとけばいいか。


 天瀬先輩と真夜は学院の制服のままだ。やはりこの二人はクエストには参加していないのか。

 先輩はともかく真夜はかなりの戦力になるんだが、勿体無いが無理強いも出来ないか。


 そう言えば伝説・黒大根・仮面のギフトは知ら無かったな…… まぁ別に興味も無いが……


「おぉ! 神那君久しぶりだな! そちらの可愛らしい御嬢さんは?」


 天瀬先輩が身を乗り出すと白は俺の後ろに下がり隠れた。本能的にコイツが危険だと悟ったのだろう…… 或いは単純に気持ち悪かったか…… 後者かな?


「ウチのギルドのメンバーの一人、獣人族(ビスト)の如月白です。可愛いでしょ?」

「ほうほう、獣人族(ビスト)か! その耳とシッポは狐系かな? 初めて見たよ」


 マッゾサイエンティストの鼻息が荒くなった…… うむ、相変わらず気持ち悪い。

 もし白に指一本でも触れてみろ、その手を切り落としてやるからな。マジで……


「霧島、お前のギルドは一体どうなってるんだ?」

「ん? どうって?」


「ギルド結成から僅か一週間でAランクまで上がり、一か月後にはSランクになっていた。

 古代の迷宮をあっという間に攻略し、獣人族(ビスト)の国との友好条約を締結させた。

 伝説の要塞龍を使役し、魔宮を攻略。

 そして魔王を倒し、世界最強のギルドとなった…… 何処までがフィクションなんだ?」


 伝説君が信じられないのも無理はない、大筋では間違っていない…… が、微妙に話が盛られている……

 噂は人を介するとこんな感じで歪むから厄介だ。


 しかしどうするか…… 正直に話してコイツ等がD.E.M. に加入したいとか言い出したら嫌だな。

 そんなこと言わないか? まぁ適当に濁しておこう。


「その噂はちょっと大げさだな。世界最強ギルドの件は俺と琉架がデクス世界に帰った後の話だし」

「じゃあ一週間でAランクまで上がったってのは本当なのか!?」


 それぐらいはイイか?


「あぁ、ちょっとした裏技を使ってな」

「ど…どうやってやったんだ!? 教えてくれ!!」

「あ?」

「Eランクの仕事ばかりを選んでやっているんだが、未だにランクが上がらない。正直手応えが無さすぎる、このままでは大した経験が積めない」


 まぁ、全員がギフトユーザーのギルドだ。恐らくそんなギルドは世界中探してもこいつ等だけだ。

 慣れてしまえば低ランクの仕事じゃ満足いかないのも理解できる。

 この様子ならだいぶシニス世界にも慣れてきたみたいだし、ここらでステップアップするのもアリかな?


「教えてもいいけど、当然危険だぞ? 俺は責任を持たないしおススメもしないが……」

「構わない! この世界で生きる以上、自己責任は分かっている。その方法を使うかどうか決めるのはあくまで俺達だ、お前に責任は無い!」


 ま、そこまで分かってるならイイか。


 D.E.M. がAランクまで上がる切っ掛けになった魔物、ハゲイナゴこと人面毒蝗(レギオンビートル)と、キモ龍こと百足龍(むかでりゅう)の事を話してやる。


「なるほど…… 高ランクの魔物を仕留めるのか……」


 正直、素人に毛の生えた程度のコイツ等に教えて良かったのか…… まぁいいか、判断するのはあくまで本人達だ。


「………… 正直な意見を聞かせてくれ、俺達にAランクの魔物を狩れるかどうか?」


 難しい事を聞いてきやがる…… どうだろう? デクス世界に居た頃のコイツ等なら確実に返り討ちにあってただろうが……


「参考までに聞くが、今までに倒した魔物の中で一番強かったのは何だ?」

「先日依頼の帰りに偶然出くわしたはぐれコバンリュウだな。いきなり5匹現れてちょっと焦ったが」

「ほぅ」


 コバンリュウは単体でC~Dランクくらいはありそうだが…… それが5匹か…… 依頼の帰りって事は準備無しだろうし……


「ちょっと待っててくれ、白」

「?」


 白に伝説・黒大根・仮面のギフトを調べてもらい、こっそり教えてもらう。



「真ん中のヒト……『自己加速(アクセラレイト)』…… 物体の動きを速くする事が出来る……」


 おぉ! 伝説君は加速装置か…… 能力自体は伊吹の下位互換って印象だが、自分だけでは無く物体に使えるなら戦闘ではかなり有効な能力だ。


「おっきいヒトは……『剛力(ストロングス)』…… 腕力だけを数十倍にまで…… 高められる……」


 黒大根は腕力強化か…… 腕力だけってトコロが中途半端だが火力としては申し分ない。だからノースリーブを好んで着るのか。


「女のヒトは……『霧中索敵(サーチャー)』…… 見えない所でも…… 敵が見つけられる……」


 仮面は索敵能力か…… 第3階位級魔術と組み合わせれば確実な先制が取れるな。ぶっちゃけ緋色眼(ヴァーミリオン)の下位互換だが…… まぁ、いいか。


 これに防御能力が高い武尊の『天五色大天空大神(アマゴシキダイテンクウダイジン)』が加われば結構隙の無い布陣だぞ。

 チームとして動ければ、相当な戦力になる。



「イケそうな気はするな、それでもさっき言ったようにおススメはしないがな」

「! そ…そうか! いや、分かった、参考にさせてもらう」


 やはりおススメはしないが、ちゃんと準備さえしていけば、ハゲイナゴくらいは余裕で倒せるだろう。

 ならば余計な事は言うまい、自分たちの実力を自分たちで把握できなければこの先、生き残れないからな。


「俺達D.E.M. の経験談から一つ忠告しておく、この裏ワザが成功してギルドランクを上げられても栄誉とかは得ずらくなるからな」

「うん? どういう意味だ?」

「ギルドランクが一気に上がると他のギルドから妬まれるんだ。例えば戦争とかに参加しても他ギルドと連携が取り辛くなる、要するにちょっと嫌われるってコトだ。その覚悟はしとけよ?」

「な……なるほど、もっともな話だ。それも考慮に入れておくよ」


 今気が付いたが、シニス世界に来てから伝説君が妙に素直だ。

 同い年だし初対面の時の印象もあるからもっと反発するかと思ってたんだが、やはり異世界経験者の意見は無視できないのか。

 コトある事に突っかかってくる勇者みたいにならなくて良かった。

 あんなのが二人もいたら目も当てられない、バカは一人で十分だ。


「しかし戦争をしているなら戦力は多い方が良いんじゃないか? お前たちは参加しないのか?」

「戦争は組織でするからな、如何に実力が有ろうとも少人数ギルドの俺達が参加しただけで戦局は動かない。

 戦局を変えるには敵大将の首を取るか、もっと大軍を投入するしかない…… ん?」


 大軍を投入?

 そう言えば余っている戦力があったな…… それを中央大陸北部戦線に投入出来れば……


 結構いいアイデアが浮かんだ、もちろんリスクはあるが、現状では最善だと思える案だ。

 ただしこのアイデアのリスクは俺一人に掛かるモノでは無い、どうしても琉架にも関係してくるモノだ。

 故に独断で決める訳にはいかない。今夜相談してみるか。


「戦争に参加するかは未定だ、こっちもちょっと忙しいんでな。

 お前らも無理はするなよ? Aランクの魔物ははぐれコバンリュウより強いから」

「あ……あぁ、十分注意するよ」


 それだけ言ってチーム・レジェンドと別れる。

 彼らも経験を積めばSランクを狙えるぐらいのポテンシャルは持ってるからな。



 クイクイ


「おに~ちゃん……」

「ん? どうした白?」

「第10魔王…… 倒しに行かないの?」

「いずれは倒さなきゃいけなくなるかも知れないが、今のトコロは予定は無いな。

 魔王討伐は命がけだ、これ以上白を危険な場所へ連れて行きたくない」

「それは…… ちょっと困る……」

「は?」


 白は第10魔王に恨みでもあるのだろうか? 1200年も沈黙を守ってきた魔王だぞ? そんなものあるか?

 或いはこの一年で何かあったのだろうか?


「…………」


 白の頬には薄っすらと赤みが差している…… 妹がおに~ちゃんに隠し事してる!

 何かちょっと不安になった。



---



「大空洞へ行くの?」


 夕食後、全員が集まっている席で、琉架に今後の予定を話す。

 予定と言っても未定だ、相談し了解が貰えたら第8領域「大空洞」へ赴く。


「あぁ、大変革(レヴオル・シオン)で先代・第8魔王は軍を動かさなかった。つまり未だに地の底には炭鉱族(ドワーフ)の軍隊が無傷で残っている。

 そいつらが連合軍に力を貸せば第10魔王軍を押し返す事も容易いだろう」

「なるほど…… 確かに……」


 正直、無傷かどうかは分からない。大空洞で内乱が起こってるなんて噂もあったからな。

 しかしこのプランには大きなメリットがある。


炭鉱族(ドワーフ)は先代・第8魔王の命令で、色んな所にケンカを吹っ掛けていた。そして主を失い仕返しを恐れ、大空洞に閉じこもっている。

 コレはチャンスなんだ、連合軍に味方をして第10魔王を押し返せば炭鉱族(ドワーフ)へのネガティブなイメージを払拭できるかもしれない」


 炭鉱族(ドワーフ)がどうなろうと個人的にはどうでもイイ。

 だがせっかくのチャンスだ、活用すべきだろう。


「うん、良いかも知れない。連合軍の助けにもなるし、炭鉱族(ドワーフ)妖精族(フェアリア)の助けにもなる」


 そう…… 間接的に妖精族(フェアリア)の助けになるのが気にくわないが、ムックモックに住んでいた妖精族(フェアリア)とトゥエルヴに住んでいる妖精族(フェアリア)は別物だ。ここは許容しよう。


「ただし一つだけ問題がある」

「うん? 問題?」

「アイツ等をまとめ上げて連合軍に協力させるには、どうしても魔王の権力を使わなければならない。

 つまり世界に新しい魔王の存在を知られることになる」

「あ」


 もちろん名前も出さないし、顔も隠すつもりだが、魔王の力が継承される事を知られるのは少し問題だ。

 まぁ、いつかは知られる事だろうし、既に知ってるヤツもいるハズ……


 ならば変なウワサが立つ前に、問題の無い情報を選び流してやる方が安全かもな……


「マスター、お聞きしたい事があります」

「ん?」

「マスターは第10魔王を討伐しに行かれないのですか?」


 アレ? ミカヅキも? 何だろう、第10魔王討伐ブームでも来てるのか?


「取りあえず…… 今のトコロその予定は無い」

「そうですか…… それは少し困りましたね……」


 一体何なんだろう? ホントに来てるのか? 魔王討伐ブーム……

 そんなブーム来られると迷惑なんだけど、だって俺、魔王だから討伐される側だし……




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