表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
121/375

第117話 息抜き5 ~戦勝記念編~


 一週間の長きに渡る出張から愛する嫁達の元へ帰った俺に待ち構えていたものは……


 先輩の尋問だった……


「それで?」


 とだけ聞いてくる、主語が抜けている…… まるで恐喝を受けてる気分だ。

 コレはアレだ「お前今いくら持ってる? ちょっとジャンプしてみろ?」ってヤツか? いや、そうじゃ無い。門を開きし者(ゲートキーパー)習得が上手く言ったか聞きたいんだ。


 しかし全く怖くない、先輩が小さいからだろうか? ギャグ担当だからだろうか? 両方かな?


「え~とですね……」

「バカ話は要らないから結果だけを言いなさい、マジで!」


 ちょっと勿体ぶってみようと思ったが見破られた。

 何だかんだで先輩との付き合いも長い、俺の性格をよく理解している。まぁ、いいか。勿体ぶる必要もないからな。


門を開きし者(ゲートキーパー)を習得しました。往復実験も成功です」

「それはつまり……」

「はい、往復にはまだまだ問題がありますが、帰れます」


 サクラ先輩はその場で力を失ったようにペタリと座り込んでしまった。


「はっ…… はぁ…… 帰れる…… ホントに……やっと……」


 先輩が神隠しに遭って早2年、ようやく帰還の目処がたった。如何にアッパラパー…… ごほん! とにかく明るい先輩でも、家族には会いたかったコトだろう。


「ランダム要素が強いですが、しっかり準備していけば比較的安全に帰れるでしょう」

「ん? ランダム要素? 比較的ってどういうこと?」

「転移先座標を設定できないんです。海に飛ばされるコトは無さそうですが、最悪の場合 南極大陸にワープアウトする可能性も僅かながらあります。その場合は…… 死にますね」


「アフターフォローちゃんとしろよーーー!!」

「文句は魔王リリスに言ってください」


 アイツが記憶書を盗まなければこんな事には…… まぁアイツがいなければデクス世界の文明も無く、最悪俺達も生まれてないんだがな。


「どうしますか先輩? 帰りますか? 今なら特別に先輩の為だけにゲートを開きましょう」

「え? 私一人で? ……それはチョット……恥ずい」


 何だその理由は? とは言え……


「まぁ確かに、帰還する時はある程度の人数で纏まって帰った方が良いでしょうね。テリブル対策の為にも」

「テリブル…… 確かアッチの世界に現れた魔物的なヤツだっけ? そんなに強いの?」

「いえ、実戦経験が豊富なトラベラーなら大した相手じゃないです。小型種なら先輩でも余裕で倒せると思います」


 人型種はどうかな? 今の先輩がどれだけ戦えるか知らないんだよな…… 遠距離攻撃手段があればイケそうな気がするが……


「それで神那クン達は帰らないの?」


「…………」

「…………」

「…………」


 先輩の一言で俺に視線が突き刺さる。超見られてる……


「いずれは戻りますが今はまだ予定は立たないですね、色々やらなければいけない事、調べなきゃならない事が山積みですから」


 次に帰る時は嫁達を連れて行こう。ちょっとした観光だ。


「そっか~、みんなで向こうへ行くのはまだ先になるのか…… じゃあ、私もその時まで待ってようかな?」


 何故かみんなで行くことがバレてる…… もちろんそのつもりだったが……


「先輩はそれで良いんですか? 帰りたかったんですよね?」

「帰りたい気持ちは確かにあるんだけど…… 帰りたくない気持ちもあるんだよね…… だってほら、私、中等部3年生だから……」


 フッ…… と、先輩が諦念の表情で笑った。

 その顔には哀愁が溢れている…… まるでハードボイルドな中年オヤジだ。


「えっと…… 進級試験を受ければ飛び級できますよ? 俺と琉架もそれのお陰で留年しないで済んだんですから」

「それは……二学年一気に飛び級できるものなの?」

「二学年は…… どうでしょうね?」


 多分無理だ、試験で満点取ったって二学年飛び級は出来ないだろう。


「でも、まぁ…… 俺達の後輩から同級生にはなれますよ?」

「ハァ…… もう……帰りたくない…… 神那クンさぁ、向こうに帰ったら私の両親に伝えてくれないかな? あなた達の娘はこっちの世界で希望を胸に幸せに生きています……って」


 そんな事を絶望の表情で言われても困る。

 こっちに移住したいなら俺が連れて帰ってくるから、一度は帰るべきだ。俺はサクラ先輩のお母様に泣かれたんだからな。


「さて…… 一応聞いておくけど、伊吹はどうする?」

「私が帰る時はお姉様と一緒です!」


 あ…そう、だと思った。

 当の琉架はどうなんだろう? 家族思いだしやっぱり帰りたいのかな?


 そう思い琉架を見ると……


「私は神那と一緒に居るよ、今まで通り」


 そんな事を言われると、頑張らない訳にはいかないな!


「それで神那、色々やらなきゃいけない事、調べなきゃいけない事って何をするの? 神代書回廊(エネ・ライブラリー)で調べられないの?」

「もちろん神代書回廊(エネ・ライブラリー)も活用させてもらうが、今すぐ調べたいのは『浮遊大陸・アリア消滅』の噂だ」

「え? ありあショウメツ?」



---



 クラウニア王国


 トゥエルヴ4王国の一つ、島国であるクラウニア王国の面積はおよそ90,000平方kmで4王国の中では3番目の大きさだという。

 我らギルド『D.E.M.』は噂の真相を探りにここへやって来た。


 ……と、言うのは建前だ。真の目的は戦勝記念である。


 しかし今回の戦勝記念はあまり羽目を外せない、何せ倒した相手が第6魔王、ミラの母親だ。

 如何に外道な母親だったとはいえ、娘の目の前で「おめでとう」とか言えない……


 敢て口には出さないが、今回はどちらかと言うとミラを慰める為に来たと言える。

 俺のオモテナシ技術を存分に発揮してミラを慰めてやる! そしてミラの好感度を更に上げるんだ! ミラが自分から据え膳になってくれるまで!


 とは言え、あまり露骨にやると本人に気付かれて、逆に気を使われることになるだろう。あくまでもさり気なく、みんなで楽しむような感じで。


 クラウニア王国に降り立つと、ミカヅキがこんな事を言った。


「はぁ、懐かしいです…… クラウニア王国……」

「ん? ミカヅキ、この国に来た事あるのか?」

「はい、私が第12領域(トゥエルヴ)で一番最初に訪れた国です。第9領域(レイガルド)を経由してきました」


 ミカヅキの故郷第4領域(ヘルムガルド)第9領域(レイガルド)の東に位置する大陸だ。

 確かに呪われし賢王の噂を聞きつけて、第12領域(トゥエルヴ)の東、フィー半島へ赴くにはガイアを目指すよりコチラ経由の方が近いだろう。

 来た事があるなら好都合だ、この街についていろいろ聞いておこう。


 まずは建前である噂の調査、噂の出処を探る。

 噂は一人でも経由すると別物に変わる可能性がある、なので一番最初の声を知りたい。


 みんなで手分けして探そうと思ったら、すでにジークが一人で出かけていた……


 あの男はいつもこうだ、チームプレイの和を乱す、集団行動が出来ない、自由行動になれば速攻で消える、最年長のクセにだ。

 俺はあの男の単独行動癖に…… とても感謝している!


 あの筋肉が消える事で俺のハーレムが完成するからだ!


 もしかしたらジークなりの気遣いなのかもしれない、俺の視界が美少女で埋め尽くされている場において、あの筋肉ダルマは美観を損なう。

 そんな俺の気持ちを汲み取っての行動だとしたら、アイツに足を向けて寝れないな……


 更に言えば、ヤツは単独行動でもちゃんと成果を出すからな。

 ジークが有益な情報を持ってくる時は、大抵ソロプレー時だ。きっと賢者ネットワークをフル活用しているのだろう。

 ならばこちらもヤツの気持ちを汲み取って、単独行動には口を出さず、そっとしておいてやろう。

 その方が好都合だから。


 ミカヅキのアドバイスに従い、2チームに分かれる。


 Aチームは琉架とミカヅキと伊吹。

 Bチームは俺と先輩と白とミラ。

 それと単独行動のジークが一応Cチーム。


 取り敢えず先輩をトレードに出して琉架とミカヅキを獲得したい。先輩一人にそれほどの価値が有るかどうか……

 無理に決まってる! このトレードが成立することは無さそうなので泣く泣く諦める。


 三手に分かれて噂の調査に当たる。

 我々Bチームは港周辺の聞き込みだ、ロールプレイの基本「手当たり次第に周囲の人々に話し掛ける」を実践する。

 しかしどれだけ話し掛けても「ココはクラウニアの町です」と返してくれる奴はいなかった。やはりああいう奴は街の入り口付近に配置されてるのだろうか?

 この分だと「昨夜はお楽しみでしたね?」と言ってくる宿屋に出会える確率も低そうだ。

 もっともそんな事を言われたらぶん殴るだろうけどな、プライバシーの侵害だ。



「おう! 俺の友達から聞いた話だと、この沖に墜落したらしいぜ!」


 さっきからこんなのばっかだ。友達から聞いただの… 隣の奥さんが噂してただの… 家政婦が見ただの…

 大まかに纏めると「この近くの海にアリアが墜落した」と言う話になっている。


 金曜日でも無いのに誰かがバ○スと唱えてくれたらしい、きっと空に憧れる少年と、空から舞い降りた少女のおかげだろう。ありがとうパ○ー! ありがとうシ○タ! ありがとうム○カ!


 もっともこの話の信憑性は極めて低い。何故なら巨大な浮遊大陸が海に墜落したら、この港町は津波にのまれて消滅している。

 念の為、白のギフトで確認してもらったが……


「誰も嘘はついて無い…… 本気で信じてる……」


 この噂のおかしな所に疑問を持つ奴はいないらしい。島国は魔王の被害を受ける確率が低いから平和なのだろうか? ちょっと前まで海上封鎖されてたハズなのに。

 ふと見ると、ミラが波止場の先端で海に向かって何やら話していた…… 水死した人の霊でも見えるのかな? ちょっと危ない感じがしたので止めさせようと思ったら……


「キィキィ」


 イルカさんとお喋りしてました。な○り雪じゃ無くてね。

 とてもメルヘンチックな光景だ。


「うん、アリガト」

「キィキィ」


 イルカはキィキィ鳴いて去っていった。生憎と俺には水生哺乳類の言葉は分からない。一体何を話していたのか…… てか、人魚族(マーメイド)も水生哺乳類に分類されるのかな?


「おおぉ! ミラちゃんってイルカとお話しできるの?」

「はい、お話というとちょっと違いますが、神曲歌姫(ディリーヴァ)を応用して情報を聞いてみました」

神曲歌姫(ディリーヴァ)の応用…… 小夜曲(セレナーデ)で操ったって事か?」

「はい、大脳の発達した哺乳類でしたら、意思疎通と言うほどではありませんが、言いたい事は大体わかりますし、こちらの言う事も大まかには理解してくれる子もいます」


 なるほど、操る事はどんな生き物でも出来るが、もう一歩進むには脳みそが重要になって来るのか。


「それで? イルカは何だって?」

「近くの海に何かが落ちたという事は無かったみたいです。ただ、海に大きな影が落ちていたらしいので、アリアが近くに来ていた事は事実みたいです」


 うむ、人間に聞くより余程実入りのある話だった。

 イルカ侮り難しだな。


「白は目口物言(ディープ・サイト)で同じようなコトが出来るんじゃないか?」

「多分……無理…… 動物って大体食べ物のこと考えてるから…… こっちの知りたい情報は…… 見れない……」


 あぁ……うん、すごく納得できる。


---

--

-


 結局、噂の出処を掴む事は出来ずにタイムアップ。

 集合場所の高級食堂に集まる。


 報告は後回しにして、本日のメインイベント戦勝記念お食事会を始める。

 もちろんメニューは名物のロブスター! 運が良い事に今はちょうどロブスターの旬の季節だ。

 少々割高だったが喰い放題コースにしてある! さあ、思う存分喰らうがイイ!


 そこで俺はまたしてもこの世の不思議を目の当たりにする事になった。



 バリバリバリボリ!



 ミラが幸せそうな顔をしてロブスターを食べている…… 音が変だって思うだろ?

 ロブスターを丸ごと食べている、文字通り“殻”ごと全部食べているのだ……


「ボリボリボリ…… ゴクン。 はふぅ…… 美味しいです」


 顔を蕩けさせ一息つくと、すぐさま二匹目に手を伸ばす。


 バキン! バリバリバリ!


 その光景を全員が呆然と眺めている…… 確かにミラは良く食べる子だが、この食べ方は想像の範疇を越えている。

 確かに甲殻類の殻は良い出汁が取れる、美味いのかも知れない…… だが殻ごと喰っても美味いとは思えない。そもそもこんな食べ方は真似できない。


 コンコン


 試にロブスターを指で叩いてみる、硬い…… 脱皮したてのソフトシェルってワケじゃ無い。

 一体どういう顎をしてるんだ? 歯は鋼鉄製か? 胃袋がブラックホールなのは知っていたが……


 この分だと、サザエとかも丸ごと口に入れて殻を噛み砕き、破片だけを口から出すのかも知れないな…… コブダイみたいに……

 は……はっはっはっ! 無い無い! あり得ない! 美しいミラがコブダイ的な事をするハズが無い! あってたまるかぁ!


「ボリボリ…… ゴクン。ふぅ…… あら? 皆様食べないんですか?」


 ハッキリ言ってミラの喰いっぷりに見惚れてた…… ワイルドなんてレベルじゃ無い。この映像を投稿すれば一億回くらい再生されそうだ。


 そう言いながらミラは既に三匹目に手を掛けている。


「ミラは……え~と、ロブスターが好物なのか?」

「はい! 大好物です! 伊勢海老やタラバガニはチクチクして食べにくいですよね?」


 同意を求められた……

 いやいや、チクチクじゃ済まないだろ…… 真似したら口の中が血だらけになる。そもそもロブスターにだって尖っている部分はあるし、殻を噛み砕いたら危ないだろ?


 ミラの甘噛みには気を付けよう。俺の耳や乳首なんか簡単に噛み千切られそうだ。


「んくっ、はふぅ…… スミマセン、おかわり下さい」


 一匹食う毎にペースが上がっている気がする……

 そうだ、せっかく高い金出して喰い放題コースを選んだんだから、この店に赤字を出させるくらい喰いまくってやる!


 ミラ以外のメンバーはようやく食事を始めた。



---



「と、いうわけでこっちは噂の出処は掴めなかった」

「私たちも、又聞きしかいなかった」


 腹が満たされた所で報告を上げる、ミラはまだ食事中だがまぁいい。


「こちらは現場を目撃したという老人を見つけた」


 おぉ! ソロプレーの達人! 賢王・ジークがいい仕事をした!


「ただし直接消えた所を見た訳じゃ無いそうだ」

「ん? どういう事だ?」


「遥か遠くに見えたそうだ、アリアが雲に入り出てこなかったと……

 どうにも眉唾だ、アリアが一地点を通過するのにかかる時間は丸一日。それをずっと見ていた訳でもあるまい?」


 ジークの言い分も尤もだ、老人の証言と言うのも怪しい…… もしかしてボケてるんじゃないか?


「そもそもおにーちゃんは何でそんなに第3魔王にこだわってるの? はっ! まさか……!」

「あん?」

「第3魔王って女魔王だよね? まさかおにーちゃん…… 第3魔王を自分のハーレムに入れようと思ってる?」


 あぁもう、このアホ妹…… なんでそうなる?


「そう考えれば納得がいく! まだ席が余ってるし!」


 席? 何の話だ?


「ホントおにーちゃん死ねばいいのに!」


 冤罪だ…… 俺は「あん?」しか言ってないのに、妹に死ねと言われた…… なんて可哀相なおにーちゃんなんだ……


「誤解するんじゃないアホ伊吹、俺がアイツを一番気にするのは、アイツが全人類にとって一番厄介な敵だからだ」


 このままアイツが二度と現れなければ、これ以上の朗報は無い。

 しかしこのまま終わるはずが無い……とも思っている。

 たとえ浮遊大陸が墜落したとしても魔王が死ぬだろうか? ましてや上位種族出身の魔王だ。そんな簡単に死ぬハズが無い!


 正直、魔王の失踪とかこの先起こる凶悪なイベントの前振りとしか思えない。

 その時になって後手に回らないよう、今の内に出来る事はしておきたい。


 とは言え、現状で出来る事と言えばアリアの行方を探る程度しか無いんだがな……



「はふぅ~~~、お腹いっぱい! ご馳走様でした!」


 報告会議の最中もロブスターを貪り食っていたミラの腹がようやく満たされたみたいだ……

 殻が残ってないからよく分からんが、軽く10匹以上食べてる…… たぶん20匹はいったんじゃないか?


 満足そうに腹を撫でるミラだが、その腹は全く膨らんでいない…… いつものクビレのあるキュッとしまったお腹だ。

 何kgもあった大量のロブスターは一体何処へ消えたのか……


 アリアの謎より、人魚族(マーメイド)の謎の方が気になる会議だった……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ