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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
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第112話 門を開きし者 ― ゲートキーパー ―


 キング・クリムゾン地下1階


「カミナ君の魔力コントロール…… スゴイね」


 魔力コントロールが得意な耳長族(エルフ)出身の魔王様に褒められた…… ちょっとテングになっちゃいそうだ。


「まぁ、これだけが特技だからな」


 ちょっと謙遜してみる、魔力コントロール技術に関しては確かに自信がある。

 俺の魔導魔術も反魔術(アンチマジック)も、全ては繊細な魔力コントロールスキルに因るところが大きい。


「本当にスゴイ! ここまでの魔力コントロール技術をもつ者は耳長族(エルフ)にも殆んどいないです! ちょっと嫉妬しちゃうほどです!」


 べた褒めが気持ちいい…… 多分お世辞も含まれているだろうが、自信のある技術を褒められるのはいい気分だ。

 奴隷は要らないが、俺を無意味に↑age↑てくれる彼女なら欲しいかも……


 今更か…… 俺の嫁達は俺の事を持ち上げてくれるから。


「ただ、カミナ君はデクス世界出身で魔法は使えないんですよね?」

「ああ…… アレ? 俺、自分がトラベラーだって言ったっけ?」

「いいえ、ですが神代書回廊(エネ・ライブラリー)に記されてましたから」


 あぁ、神代書回廊(エネ・ライブラリー)ね、そういう…… ちょっと待て! 一瞬怖くなったぞ? もしかして検索したら俺の個人情報が出てきたりするのか?

 神代書回廊(エネ・ライブラリー)の情報は噂の集合体だ。俺の噂なんかロクなモノが無いに決まってる。ギルドの名前を上げる時、汚名が俺に集中するよう工作もした……

 もちろん人類で俺の事を知ってたのは極一部だが……


 そもそも神代書回廊(エネ・ライブラリー)を閲覧しているのはこの引きこも魔王様だけだ。

 それでも一応、後で検索してみようかな?


 もし俺の項目に「悪魔」の文字が入ってたら絶対BAKA勇者の所為だ! またお見舞いに行かなくっちゃ♪


「コホン、魔法が使えないと門を開きし者(ゲートキーパー)の習得に支障があるのか?」

「いえ、逆です。門を開きし者(ゲートキーパー)の技術はどちらかというと神術…… 魔導魔術の技術に近いですから」

「ん? ちょっと待て! 神術って古代神族(レオ・ディヴァイア)が使ってた神術か?」

「そうです。私が個人的に研究していたモノでもあるんです」

「神術と魔導は同一の物なのか?」

「完全に同一というワケでは無いですが、基本は一緒です」


 マジか…… って事は…… 魔王リリスはシニス世界で廃れた神術をデクス世界で復活させたのか…… アイツは何故そんな技術を知っていた? それも神代書回廊(エネ・ライブラリー)から得たのだろうか? 目的は?

 考えたって分かる訳ないか。この疑問はいずれ本人から直接聞きだしてやる! 文句言いたい事も山ほどあるしな。


「いい機会ですので、私もカミナ君と一緒に門を開きし者(ゲートキーパー)を習得してみようと思います」

「確か魔王なら理論上誰でも習得できるって話だったけど…… 魔導魔術だろ? アーリィ=フォレストは覚えられるのか?」

「大丈夫だと思います。私は魔導……というより神術を習得してますので」


 そうなのか? この子ホントに優秀だったんだ……

 それなのにどうしてこんなに性格が破綻してるんだろうな? 勿体ない…… コレでインテリキャラだったら……


「カミナ君も神術を習得してみますか? それだけの魔力コントロール技術があればきっと直ぐにマスターできると思いますよ?」

「ほぅ…… 正直、すごく興味がある。今は門を開きし者(ゲートキーパー)だが、神術というモノを学んでみるのもイイかもしれないな」

「はい! いつでもお越し下さい! 私はいつまでも待ち続けていますので!」


 二度とココに来れないようなフラグが立ちそうな言い方だな。

 来て欲しいのか、欲しくないのか判断し辛いな……



---



 首都ガイア

 ギルドセンター屋上 D.E.M. 自由スペース……

 ソコには現在、二人の魔王がいる。


 ブシュ~~~~~ッ!!


 屋上からは盛大に白煙が吹き上がっている。


「う~ん……やっぱりダメか。ミラさん用に調整してもらった魔導器全滅だね」

「ゴ……ゴメンナサイ! 借り物なのに壊してしまって……!」

「ううん、いくらでも直せるから気にしなくて良いんだけど、このままじゃ使いものにならないね? もう一度調整してもらわないと……」


 この世界で魔導器の再調整が出来るのは原初機関だけ…… でもあそこって入る時にスキャンされるし魔王が自ら出向いて行ったらバレちゃうかな? デクス世界と違って魔王に詳しそうだし。

 機材さえあれば神那にも調整ってできるかな? う~~~ん……


「とにかく神那が帰ってきたら相談してみようね?」

「あ、はい…… カミナ様に……」


 ん?


「ミラさん…… この間から思ってたんですけど、神那と何かありました?」

「え!いえ! 何もありません! ありませんでした!」


 確実に何かあった…… それだけは理解る……


 そう言えば最近ミラさんは頬を染めながら唇に指を当てて何かを思い出してる仕草をよく見せる…… 神那となにか美味しいモノでも食べてきたのか…… 或いは……

 いや、ナイナイ! 神那とミラさんが二人で出掛けたのは魔王ミューズと戦った時だ、まさか戦場でそんな……コトは……ねぇ?

 きっと何か美味しい物を食べてきたんだ、新鮮な魚介類を!


「はふぅ……」


 ミラさんは幸せそうな表情を浮かべ微笑んでる…… 確かに彼女は満腹になるとあんな表情を浮かべる。

 でも本当にそれだけだろうか?


 以前お姉様に相談した時は「今は絆を深める時期」とだけ言われた、でも私はあの時お姉様達に神那に関する肝心な情報を隠していた……

 神那はモテモテでお嫁さん候補が何人もいる事を……


 本当にこのままで良いんだろうか? もしかして私、取り残されてない?

 いや! この一年間絆を深める事に尽力してきたつもりだ。お姉様! 信じてます!


「ルカ様? どうかされましたか?」

「はっ! う…うんん、何でもないよ。それじゃ緋色眼(ヴァーミリオン)の制御訓練を始めよっか?」

「はい、よろしくお願い致します」


 でも不安だから、もうちょっとだけ絆を深めてみよう…… 具体的に何をすればいいのか分からないけど……

 そう言えばサクラ先輩がそういうコトがいっぱい書かれてる雑誌を読んでたなぁ…… 見せて貰おうかな?



---



 時刻は深夜……

 場所はキング・クリムゾンの外……

 一人の男がヤンキー座りで心底疲れたタメ息をついている……


「ハァァァァァ~~~~~……」


 思っていた以上に大変な目にあった……

 そこに一人の精霊が声を掛けてきた。


『お疲れ様です』

「お疲れ様ですじゃねーよ…… 若い女の子にあんな事させるなよ? いや、若くはないのか?」


 門を開きし者(ゲートキーパー)習得は思った以上に順調だ。

 この能力は空間把握能力が重要になってくる。跳躍衣装(ジャンパー)を習得してから空間把握能力は格段に上がった。恐らくコレがテレポーターの資質ってやつだ。

 そしてもう一つ、転移先の世界、デクス世界をイメージする力だ。

 あっちの世界で生まれ育った俺には実に簡単な事だ。むしろ魔王レイドや魔王リリスはどうやってイメージしてたのだろうか? 時折り現れる天然モノの神隠し被害者から向こうの世界の事をリサーチしてたのだろうか?


 そういった事情もあってアーリィ=フォレストは苦戦しているが、俺の方は後二日もあれば実験くらいは出来そうだ。

 彼女も魔王の中では魔力コントロール技術が優れているようだが、まだまだだ。俺がガキの頃からチマチマ魔力をケチって習得したこの技術は世界に通用する!


 そんな訳で門を開きし者(ゲートキーパー)習得は問題ない。


 問題なのはアーリィ=フォレストだ。


 風呂に入れば…… 「おぉお…お背中流しましょうか?」と、顔を真っ赤にして入ってくる…… タオルの下は当然全裸だ。

 寝ようと思えば…… 先に布団に潜り込み温めておいてくれるサービス付だ。顔を真っ赤にし「め…め…召し上がれ」とか言ってくる…… Tシャツ一枚でだ。


 据え膳食わぬは男の恥……という言葉がある。いい言葉だ、俺の座右の銘にしよう。

 要するに女の子のほうから言い寄ってくるのを受け入れないのは、男じゃねーってコトだ。


 しかしこの据え膳は迂闊に食えない! なにせ据え膳自身が自分の意思で自らを差し出してるワケでは無いのだから。

 禁域王は良い娘の味方! どこぞの精霊にマインドコントロールされてる娘を美味しく頂く訳にはいかない!


『お気に召しませんでしたか? 確かにアーリィ様の胸はカッティング・ボード平原並みのなだらかさを誇っていますが、肌はキレイですよ? 殆んど日光を浴びた事が無いですから』


 カッティング・ボード平原ってどこだよ? てか、褒めてないだろソレ?

 それにまな板は言い過ぎだ、服の上からは殆んど確認出来ないが、それでも慎ましやかなふくらみは確かに存在している。先輩並みではあるが……


 いくら俺が鈍くても理解る。ドリュアスはアーリィ=フォレストを俺のハーレムに入れる気なんだ。

 俺に押し付けようとしているとも言える……


 確かに女魔王に相応しい男は俺くらいしかいないだろう。他の男魔王の事は良く知ら無いが、俺ほどの紳士魔王が他にいるとは思えない。

 底意地の悪いクソガキだったり世界一のブサイク生物だったり、俺以外の男魔王は性格もルックスも期待できない……

 俺の様なイケメン魔王は2人と存在しないのだ。


『私としては、カミナ様にアーリィ様を貰って頂くのが最善だと思っております』


 そうだろうとも、俺以上の適任者はきっといない。

 しかし焦り過ぎだ。未だDTの俺は禁域王として未熟だ、まずは信頼関係を強固にしなければ! 俺の若いリビドーをぶつけても揺らぐことの無い信頼関係を!


 きっと俺は暴走するから……


「まだ早い…… 知り合って2週間かそこらだぞ?」

『私としては、一秒でも早く嫁に行って欲しいのですが……』


 それはお前の都合だろ? こっちの都合も考えてくれ、俺が真の禁域王に成長するその時まで!


『仕方ありませんね、確かに少々焦り過ぎていたかも知れません。

 婚期を逃し続けること2400年のアーリィ様に当てられたみたいです』


 この優秀な精霊さんを見ていると、昔のミカヅキを思い出す。

 株式会社キング・クリムゾンは余程のブラック企業らしい。社長を追い出したくて仕方ないようだ。950年も目の濁った引きこもりの面倒を見て来たんだ、当然の反応だな。


---

--

-


 ヴヴゥゥゥン


 低周波のモスキート音とでも表現すればいいんだろうか? そんな音がキング・クリムゾンの地下に響き渡る。

 門を開きし者(ゲートキーパー)の習得訓練を始めて三日目にしてゲートの開放に成功する。


「うっ…… コレは……なかなか……」


 ゲート発生にはかなりの魔力を消費する。それも自前の魔力では無く、心臓から絞り出した「魔王の魔力」をだ。

 目の前にはいつか見たのと同じ、真っ黒な球体が発生している。

 ゲートは創り出すのこそ大変だが、維持するのはさほど難しくない。もちろん魔力の供給が絶たれればすぐに消えてしまうだろう。どうも発生させる空間との相性もありそうだ。

 魔力溜まりのような場所で創れば、周囲から勝手に魔力を吸ってしばらくは発生し続けるかもしれない…… 誰かが制御できれば、魔王がその場に留まり続ける必要は無さそうだ。

 もしかしたらクレムリンの地下はゲート発生に適した空間になっているのかも知れないな。

 今度調査してみよう。


「さ……さすがカミナ君…… こんなにあっさり習得するなんて…… スゴイです!」


 うむ、やはり美少女に褒められるのは気分が良いな。


「それに比べて私なんて…… 2400年も生きてるのに……

 片や生まれてから20年も経っていない、私から見れば受精卵にも等しい程若い子に手も足も出ず完敗……

 ホント、ダメ魔王だ…… ダメダメだ……」


 いきなりアーリィ=フォレストのダメな部分が顔を出した。確かに受精卵に勝てないなら一度死んで生まれ変わった方が良い…… てか受精卵って…… まぁオタマジャクシとか、ティッシュのシミとか言われなかっただけマシか。

 そもそも天才美少年と自分を比べて落ち込むのは不毛だぞ?


「アーリィ=フォレストは向こうの世界を知ら無いから上手くイメージできないんだろ? 俺の場合は色々な条件が偶然クリアできてたから上手くいっただけさ。直ぐに出来るようになるよ」


 一応慰めておく、落ち込むと面倒臭そうだからな。


「はい、ありがとうございます。精進します」


 コッチはこれでイイ…… 問題は……



 目の前のゲートを見る……



 どうするか、コレ? やっぱり検証しなきゃいけないよな……

 自分で作り出しといてなんだけど、この真っ黒な球体に飛び込むのは結構勇気がいる……


 普通なら動物実験でもする所なんだが……

 向こうに帰りたがってる先輩でも放り込んでみるか? しかし、こちら側からあちら側を観測できなければ何の意味も無い。


 つまり自分で入って確かめるしかないってコトだ……


 仮に成功したとして、向こうからこっちへ戻るためのゲートを創れるだろうか?

 …………

 大丈夫そうだ。こっちには俺の帰りを待っている嫁達がいる。より簡単にゲートを創れる気がする。


 しかし実験は明後日だ。向こうへ行ったものの魔力切れで帰れなかったらそれはそれで厄介だ。

 魔王由来の能力値が自分でもよく分からない。ウィンリーから聞いた魔族作成方法から察するに、休めば回復するのは間違いない。

 まずは自分の能力値でいくつゲートを開けるのか、翌日にはちゃんと魔力が回復しているのか、この二つを確認してから実験だ。


 もともとこの門を開きし者(ゲートキーパー)習得の旅は一週間を予定している。正直この期間で習得できるか分からなかったが、取りあえず一週間出張に行ってくると嫁達に伝えた。

 こういう時、嫁が複数人いると安心できる。旦那が出張中に洗濯屋辺りと浮気される心配が無い。まぁ、ウチの嫁に限ってそんな事はあり得ないがな。


 なので焦る必要は無い、まずは自分が創り出したゲートが間違ったプロセスで発生してないかきちんと検証する。実際に試さない限り成功しているかどうかは分からないが、手順が間違っていないか確認するのも重要だ。

 なにせ異世界に転移する為のゲートだ。失敗は命にかかわる。

 半不老不死の魔王なら死ぬことは無いだろうが、混沌の海を永久に彷徨う事になったら目も当てられない。


「カ……カミナ君は向こうの世界に帰るんですか?」


 アーリィ=フォレストが不安げな表情で聞いてくる。普段なら白が聞いてくる感じだ。思わず抱き締めて安心させたくなるが、この子は白じゃ無い、我慢だ。


「帰るというか…… 一度は往復して試さないといけないからな」


「あの…… 私もご一緒してイイですか?」


 アーリィ=フォレストがそんな提案をしてきた。




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