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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
109/375

第105話 継承


「さてミラ、これからどうしたい?」

「え?」


 ここは第6魔王城・ローレライの謁見の間。

 その中心に、俺とミラ、そしてこの城の主…… 第6魔王 “歌姫” ミューズ・ミュースが瀕死の重傷を負い床に拘束されている。


「ちなみに俺は復讐肯定派だ。更にコイツには情けを掛ける必要は無いと思ってる」

「………… はい……」


 しかし、如何に相手が魔王と言えど、ミラにとっては血の繋がった母親だ。当然無理強いなど出来ない。

 だが…… コイツはここで殺しておくべきだと思う。


「ミラは先代勇者の血を引いている、可能性は低いが『魔王殺し(ホワイトアウト)』を受け継いでいる可能性がある」

「…… はい」

「ただ、魔王ミューズも言っていた様に何も受け継いでいない可能性の方が高い、そもそも勇者は25年周期で現れるたった一人の存在だ」

「…………」

「つまりミラが止めを刺した場合、魔王の力が消える事は無く、ミラに継承されるだろう」

「…………」


 自分の手で復讐を成し遂げる代償は、自分の魔王化というワケだ。


「今だったらあっちに転がってるバカ勇者に止めを刺させることも出来るし…… 見逃すことも出来る…… どうする?」


「………………」


 正直あまり考える時間を与えられない…… ある程度時間が経てば『反魔術領域(アンチマジックフィールド)』の効果も切れるし、再び『限界突破(オーバードライブ)』が使用可能になるだろう。

 もちろん二度とこんな奴に操られる事は無いだろうが、属性変化魔法の効果が切れた今の俺には戦う術が無い。


 それから僅か一分…… ミラが結論を出した。


「私が…… やります。私がやらなければいけないんです!」


 その瞳に迷いは無い。最初から決まってたんだな…… むしろ俺が余計なことを言って迷わせてしまったのか。


「魔王の力を継承すると言う事は…… 貴方と…… カミナ様と同じ存在になるという事ですよね?」

「ん? まぁ……そうだな……」

「だったら迷う事など有りません!」

「ん…… そうか…… 分かった」


 もはや何も言うコトは無い。ミラは自分で魔王を継ぐことを決めたんだ。


「うぅ…… ゴホッ!」


 魔王ミューズ・ミュースが意識を取り戻した。タイミング悪いなコイツ……


「ミラ、魔王に止めを刺すには心臓を潰すしかない。向こうに捨てた男殺し(アダムキラー)を拾って来てくれ、ゆっくりでいいから」

「え? あ、は……はい、わかりました!」


 ミラが離れた後、床に横たわっているミューズに顔を寄せ話し掛ける。


「気分はどうだ? 魔王ミューズ・ミュース」

「ぐっ、ゴホッ! い…いいわけ無いでしょ」

「これからお前には死んでもらう事になる。今までして来たことへの報いだ。だがその前にどうしても言っておかなければならない事がある」

「な…… なに?」


「娘さんは俺が貰い受ける、お義母さんは安心して逝ってくれ」


 皮肉を込めて別れの言葉を魔王に贈る……


「…… ブッ! ハハ……ハハハハハ…… ゴホッ!!

 あ……あんな欠陥品で良ければ好きにしなさい……」


 最後に母親らしい言葉を期待したんだが…… やはり無駄か。まぁ、決心が鈍らなくて有り難い、お義母さんから結婚の許可を貰えた程度に思っておこう。


「はぁ…… 念の為に聞くが、ミラ…… セイレーンに残す言葉はあるか?」

「ハハ…… あるワケないでしょ、せいぜいアンタの選んだ男は浮気癖があるぞ……って事くらいかな?」


 チッ! さすが百戦錬磨の淫乱糞ビッチ、見抜かれたか…… いや、浮気はしない! 全部本気だ!

 世界中のヒトを敵に回すような考え方だな…… 俺って完全にクソヤローだ。


 しかし今から数十秒後に殺されるってのに口の減らない…… いや、コレが魔王のプライドなのかもな…… 惨めな命乞いはしない、自分の仕出かした所業の報いを受け入れてるのか……


 俺にはそんな矜持は持てそうにない…… 嫁達が俺の帰りを待っている以上、這い蹲ってでも生き延びる道を選ぶ。


「カミナ様……」


 ミラが戻ってきた、その手には男殺し(アダムキラー)が握られている。ここからは母娘二人の時間だ。

 黙ってその場を離れる……




「お母様……」


「セイレーン…… アンタなんか生まなければ良かった…… その所為でこのザマよ……」


「はい……」


「アンタを妊娠したせいで気持ち悪いわ、苦しいわ、痛いわ、男たちとヤれないわ…… 生まれてくる前からアンタのコト大っ嫌いだった……」


「はい……」


「生まれてきてからも、大した力も持っていない欠陥品の失敗作…… どれ程失望した事か……」


「はい……」


「でも一つだけ認めてあげる…… アンタの男を見る目は私より上だった……」


「は……い……」


「ゴホッゴホッ! さ……さっさと終わらせなさい…… これ以上苦しむのは御免だわ……」


「は……ぃ……」


 ミラが男殺し(アダムキラー)を魔王ミューズの心臓の上に掲げる……


「うっ……」

「はぁ……早くしなさい…… ゴホッ! 今まで私の期待を裏切り続けてきたんだから…… 一回くらいは期待に答えなさい……」


「はぁ、はぁ、……ッ さようなら…… お母様……!」


 トスッ―――


 男殺し(アダムキラー)は大した抵抗も無く、魔王ミューズ・ミュースの心臓を貫いた。


「…………」




 第6魔王 “歌姫” ミューズ・ミュースはそのまま声を上げることなく息を引き取った…… 





---



― 第7領域・大森林 沿岸 ―



迅雷閃(じんらいせん)万下(ばんか)


 視界を埋め尽くさんばかりの大量のコバンリュウに、全天から雷が一斉に降り注ぐ。

 見るだけで視力を失う程の閃光と、聞くだけで鼓膜が破ける程の轟音が鳴り響く。


 バシャアアアアァァァァァァアアアン!!!!


 1秒前まで視界を埋め尽くしていたコバンリュウは、黒焦げになり森に落ちていく。


「おぉぉ~! ウィンリーちゃん、スゴイ!!」

「フハハハハーーー! ざっとこんなモンじゃ! 次はルカの番じゃ!」

「う~~~ん…… 私はウィンリーちゃんみたいに自力じゃ出来ないんだけど…… うん、やってみるね?」


 二人の周りにギミック付きの煙突にも似た砲塔が浮かび上がる。


「おぉっ! こないだ妖魔族(ミスティカ)達に使ったヤツか?」

「『対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』展開!! IFFオート、超長距離砲撃モード!」


 二人の周りには半透明のターゲットスコープが浮かび上がり、全方位にいる敵全てをロックオンしていく。


「第7階位級 光輝魔術『閃光』レイ チャージ50倍 アクティブホーミング!!」


 砲塔から放たれた光線は、360度、思い思いの方向へ飛んでいく。例え目視できなくとも、射程範囲内に居れば光線から逃げる事は出来ない。

 ギガンティクシスの山脈のような背の向こう側に居てもお構いなしだ。光線は弧を描くように飛び確実にコバンリュウを焼き払っていった。


 僅か数十秒…… 二人の女魔王の攻撃で、実に25000匹ものコバンリュウが焼き払われていた。


「スゴイのぉ~! 花火みたいだった! ルカ、もう一回見てみたいのぅ?」

「う~ん、直ぐにはムリかな? 射程範囲内に敵がいなくなっちゃったから」

「そうかぁ…… 残念じゃのぅ。……ん?」

「どうしたの? ウィンリーちゃん?」

「ルカ、重力負荷を止めてみてはくれんか? ギガンティクシスの目つきが変わった」

「え?」


 ウィンリーにつられてギガンティクシスの目を見る……


(おっきい目…… 目だけで何百メートルあるだろう?)


 そんなギガンティクシスの目を見るが…… 変化が分からない…… 相変わらずどこを見ているのか分からない目だ。

 それでも先輩魔王・ウィンリーに従って重力負荷を解除してみる。すると……


 ゴゴゴゴゴゴゴ……


 方向転換した…… 海へ帰っていくんだ。それはつまり……


「どうやらカミナがやってくれたようじゃのぅ」

「じゃ……じゃあ、神那は無事なんだね? はふぅ~~~…… 良かったぁ~~~」

「そんなに心配じゃったかのぉ? 確かに相手があのアバズレでは多少の心配も否めんが、余はカミナの勝利を確信しておったぞ?」

「わ……私だって信じてたけど、その……第6魔王って『男殺し』って異名があったから…… 神那…… 男の子だし……」

「男殺し? カミナがあんなアバズレに負けるハズ無いぞ?」

「フフ…… うん、そうだよね? カミナが勝つに決まってたよね、だって約束したもん……」



---



― リスリゾート ―



 敵の数が多い……

 そして何よりも敵が気持ち悪い……


 見た目、巨大ヤツメウナギのコバンリュウとの戦闘は続いている。


 前線の方ではあの気持ち悪い口にガッツリ吸いつかれている人が居る…… もし私が同じ目に遭ったら、吸いつかれる直前にショック死するだろう。


 そんな訳で、私、霧島伊吹の仕事はあの気持ち悪いのを地上に叩き落とす事だ。


 おにーちゃんのギルド『D.E.M.』は遠距離攻撃が得意な人が三人いる。おにーちゃんとお姉様とミラさんだ。

 そして都合が悪い事に三人とも不在だ。そこで私の出番だ。


「落ちろーーー!!

 『世界拡張(エクステンド) 5:5』 超下降気流(フォールダウンバースト)


 私が大き目のウチワを振り下ろすと、5km四方に強烈な下降気流が発生し、空を飛ぶ生き物を根こそぎ叩き落とす。

 このウチワ、なんとギルド『D.E.M.』所蔵の神器らしい。その名も『芭蕉扇』。強力な風を操る力が有るが、射程が短いのがネックだったらしい。

 私が使えばこの通り、強力な対空兵器に早変わりだ。きっと上級ドラゴンだって叩き落とせるだろう。


 そう言えば昔、おにーちゃんに風域魔術の習得を進められた事がある。

 おにーちゃん曰く、12属性魔術の中で風属性が一番汎用性が高く、使い勝手がイイとのコト。

 正直、風域魔術の成績があまりヨロシク無い私は、この『芭蕉扇』をこのまま借りパクして自分のモノにしようと決意していた。

 まぁ、借りパクなんかしなくても、シスコンのおにーちゃんなら私が頼めばくれるだろう。


「あ……」

「どうしました? 白様?」

「ブロウレジオの洗脳が…… 解けた」


 え?


 白ちゃんが突然そんな事を言い出した。


「そうか、どうやらカミナとミラがやってくれたらしいな…… まったく大した奴らだ」

「ほ~…… 今回の魔王討伐も大して仕事しなかったな…… 神那クンに嫌味言われるのかな?」


 ギルドメンバーはその言葉を疑うことなく撤収準備を始めた。

 そう言えば白ちゃんは目を見た相手のステータスが理解るギフトを持ってるらしい。その力であの島みたいな龍のステータス異常を確認したのか……

 信じられない…… 白ちゃんのギフトがじゃ無く、おにーちゃんが本当に魔王を倒したのか……


 数分後にブロウレジオは後退を始め海へ帰っていった…… 本当におにーちゃんがやったのだろうか? あのアホなおにーちゃんが……



---



― 魔王城・ローレライ ―



 ミラは魔王ミューズ・ミュースの亡骸の側で佇んでいる…… もしかしたら泣いているのかも知れない…… 何か気の利いた言葉でも掛けて上げられればいいのだが、肉親を失う気持ち、肉親を手にかけた気持ち…… 俺には到底計り知れないモノだ。


 しかしいつまでもココに留まっていて良いモノか……

 そう言えば、魔王が代替わりした場合、先代魔王の使途はどうなるんだろう? もしかして敵討ちにやって来るのだろうか? 魔王が死ねば血の力で繋がっている使途にも異変は伝わるはず、もしかしたらもうじき魚介系使途が集まって来るかも知れない…… 今はマズイ。せめて反魔術領域(アンチマジックフィールド)の範囲外まで移動するべきか?


 突然の襲撃に備え緋色眼(ヴァーミリオン)のゲインを上げると微弱なオーラを捕えた。


「ん?」


 勇者たちがいる方向じゃない、泡が割れない様にゆっくり近づいてみる…… これは……


「ミ……ミラ! こっち!」

「ぐすっ…… は……はい? なんでしょう?」

「この子! マリーナは生きてるぞ!」

「…… えっ!?」


 全裸で横たわる全裸のマリーナは、全裸にもかかわらず僅かながらのオーラを発している…… 美少女の全裸だけど、傷だらけの身体を見てもあまり興奮しない、痛々しいだけだ。


「マリーナ! マリーナ!」

「落ち着けミラ、動かしちゃ駄目だ。ちょっと待ってろ……」


 緋色眼(ヴァーミリオン)で傷口を調べる。

 ギリギリ動脈を外れてる…… いや、普通なら切断されていてもおかしくない位置だ。使途の…… 心臓に宿る魔王の力の影響だろうか? それよりも何よりも……


「この子…… 使途じゃ無くなってる……」

「え?」

「普通の人魚族(マーメイド)だ」

「あぁ…… マリーナ…… 良かった……」


 ところがあまり良くない…… 使途じゃないって事は、使途の生命力も失っているという事だ。

 こうしている間にもどんどん弱っている…… 仕方ない、せめて応急処置だけでもしておくか。


 マリーナを泡の中へ迎え入れ、傷口に触れる……


「カ……カミナ様?」


 違うぞ! 胸に触れている訳では無い! 傷口に触れているんだ!


「俺の血液変数(バリアブラッド)で応急処置をする。反魔術領域(アンチマジックフィールド)の効果が切れるまでは、ロクな治療が出来ないからな?」

「あ…… そうですね…… フフッ……」


 ミラが微笑んだ…… 俺が性欲に駆られて幼馴染に手を出したんじゃないと分かってもらえたのかな?


「私も初めてカミナ様に逢った時に治療してもらいましたね?」

「あぁ…… そんな事もあったな……」


 あの時は思いもしなかったな…… ミラの母親に「娘さんをください」と言いに来る日がこようとは…… まぁ、「ください」じゃなく、強引に貰い受けたんだけど。

 そんな事を思っていたら自然と笑みがこぼれた……


「…………」


 気が付いたら瀕死の重傷を負っているマリーナと目が合っていた……


 俺の手は彼女の控えめな胸を包んでいる…… 口元に笑みを浮かべながら…… ヤバイ…… 現行犯だ!


「き……きゃあぁ……イツッ!!」


 悲鳴は上がらなかった、肺に穴が開いているからか、ただ単に傷が痛むのかは不明だが。


「マリーナ! マリーナ!」

「え? セイレーン? どうしてココに…… あ、そういうコトか……」

「?」

「私…… 死んだのね? セイレーンが迎えに来てくれたのね?」


 勘違いしている、無理もない…… ミラは死んだことになってるからな。


「違うよ、マリーナ…… 私もマリーナも生きてる…… お母様は……もういないの」

「ナニ言ってるの? もしこれが現実なら、私今まさに痴漢されてる真っ最中じゃない…… こんな現実嫌だ……」


 違うって…… コレは治療行為だ。

 もしこれで訴えられるなら、飛行機の中で急病人が出てもお医者様は名乗り出てくれなくなるぞ?


「カミナ様はマリーナを治療して下さってるのよ? 今この周辺では魔術が使えないから」

「ウソよ…… そんなコトある訳ないでしょ? だったらセイレーンは何で血の涙を出してるの?」


 気が付けばミラは左眼から流れでた血は周囲の海水に溶け広がっていた。


「え? 痛っ!?」


 ミラが左眼を押さえる…… あぁ、アレか……


「大丈夫だ、痛み自体はしばらくすれば収まる。それは左眼が緋色眼(ヴァーミリオン)に変化してるんだ」

緋色眼(ヴァーミリオン)に? そう言えば……」

「俺も魔王レイド戦の直後に経験した。琉架も同じだった」

「そう……でしたね、緋色眼(ヴァーミリオン)に……」



 これで確定したな…… ミラが『魔王の力』を継承した事が……




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