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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
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第102話 第6魔王 ~勇者殺し~


― 第7領域・大森林 沿岸 ―


 その海岸線近くをウィンリーに抱えられた琉架が飛んでいる。


「ウィンリーちゃん大丈夫? 疲れてない? わ…私、重くないかな?」

「うむ、今のルカは余の羽根の力で重さが無いから全然問題なしじゃ! それにルカは元々軽いじゃろ? 何をそんなに気にして…… そうか! オッパイ大きくなったからか!」

「そ……そうじゃなくって! ウィンリーちゃん小っちゃいから疲れてないかな?って……」

「フハハー! 心配無用じゃ! 余は24時間耐久飛行で地球一周経験もあるのじゃ!」

「すご…… 無茶するね?」

「風に乗ればさほど難しくないからのぉ、眠気との戦いじゃ!」


 そんな緊張感の無い会話をしている内に、いつの間にか目標地点に近づいていた。


「む! 見えてきたぞルカ! アレじゃアレ! 史上最大の生物、要塞龍・海洋種 ギガンティクシスじゃ!」

「う……わぁ……」


 視線の遥か先には今まさに上陸しようとしている巨大な龍の頭が海から突き出ていた。

 頭の高さだけでも4000メートルを越えている…… 幾らなんでも無茶苦茶だ。


「うぉーーー♪ でっかいのぉ! 噂には聞いてたがこれ程とは!」

「………………」(絶句)


 まだかなり距離があるにも拘らず、その様子は海から山脈が飛び出して来たかのようだ。

 あそこまで巨大な生物が地上に全身を出せるのだろうか? 自重で潰れないのかな?


「アーリィ=フォレストが泣いてすがる訳じゃ、これはどうしようも無かろう」

「うん…… コレは人型種族にどうにか出来るレベルじゃ無いよね……」

「だがルカなら殺さずに止められるのじゃろ?」

「う……うん、アレだけ大きければ重さもとんでもないハズ、地上ならちょっと重力負荷を掛けるだけでイイって神那が……」

「うむ、余も出来るだけ殺さずに済ませたい。要塞龍は絶滅危惧種じゃからな!」


 神那とミラさんが第6魔王を倒すまで足止めすればいいだけ…… なんだけど…… 問題は……


「コバンリュウどもが騒いでおるのぉ、どうやらアイツ等は操られて無いらしい。

 宿主が突然地上に上がった為に興奮状態じゃ、周囲の生物に無差別に襲いかかって来るぞ?」


 数十万匹は生息しているというコバンリュウ…… 放置しておいたら大森林に住む耳長族(エルフ)にも確実に被害が及ぶ。


「ウィンリーちゃんも手伝ってくれるの?」

「うむ、余も対価としてクラン・クランのメタボ対策を教えてもらうからのぅ!」


 さっそくコバンリュウ達がこちらを見つけ飛び出してきた、ウィンリーちゃんがいてくれれば心強い。


 戦闘開始だ。




---




― 魔王城ローレライ ―



 そろそろヤバくなってきた……

 魔王ミューズの力を見たくて観察していたが、このままでは確実に全滅する。

 本当はもっと早く介入しても良かったんだが、勇者御一行に俺が魔王になった事を知られたくなかったんだ。知れば勇者の攻撃対象がこちらに向くことは間違いない。


 しかしこのままじゃ……


「じゃあ改めて全員殺しなさい、その後自刃して果てなさい」


 もはや四の五の言っている場合じゃない、未だエルリアの意識があるが、待っていたら勇者に殺されてしまう。


「カシコマリマシタ……」


 勇者が焦点の合わない目でエルリアを見下ろし剣を構える。


『ミラ…… いいか?』

『はい、覚悟はできてます』


 よし! 行くか! まずはあのバカ勇者を止める!

 岩石魔術『崩落(フォーリング)』で通風孔を破壊し飛び出す。


 ゴガッ!!


「ん?」

「え……?」

「ウガ?」


「バカ勇者! 歯ぁ食いしばれ!! 勇者殺しキーーーック!!」

「グゴッ!?」


 勇者の顔面を靴型に凹ませる勢いで蹴る! 勇者本日4回目の吹っ飛び!

 しかし勇者は頑丈だ、こんなものでは意識を刈り取れない! 刈り取れるハズがない! 刈り取れていないハズだ! なので躊躇など微塵も見せずに追い打ちを掛ける!


「勇者殺しパンチ!!」

「勇者殺しサミング!!」

「勇者殺し裏拳!!」

「勇者殺しエルボー!!」

「勇者殺し大車輪キック!!」

「勇者殺しシャイニングウィザード!!」

「勇者殺し地獄突き!!」

「勇者殺しフランケンシュタイナー!!」

「息子殺し金的!!」

「勇者殺し投げっぱなしジャーマン!!」

「勇者殺しパイルドライバー!!」

「勇者殺しヒップアタック!!」

「勇者殺し瞬!獄!○!!」


 落ちたかな? ダメ押しにもう一つ! ほらココに立って、フラフラすんな!


「勇者殺しドロップキック!!」


 もちろん顔面にかます、え~と、今ので何回目の吹っ飛びだ? 今日は勇者の人生で一番吹っ飛んだ日になっただろう。

 スッキリした。こんな爽快感は久しぶりだ。


「…………」ち~~~ん


 操られていた勇者を落とすことに成功した!


「き…… 霧島……神那? な……なんで? どうしてココに? あなたは……」

「久しぶりだなエルリア・バレンタイン。俺がいて良かったな? 危うくバカ勇者に殺されるトコロだったぞ?」

「や…… やりすぎ…… たぶんエルボーの辺りで落ちてた……」

「そうか? 大車輪の辺りまでは意識があったと思うが?」


「ナァニ、キミは? 勇者君たちのお友達? 随分と容赦無いというか…… ヒドイことするのね?」


 うっさい! お前にだけは言われたくないんだよ!

 今の惨劇を見てニヤニヤしているお前も同じ穴のムジナだろ、心底楽しそうな顔しやがって!


 しかし続いて降りてきた人物を見て怪訝な表情を浮かべる。 


「うぅん?」


 ミラはそんな魔王ミューズを無視し、エルリアのそばに寄る。


「大丈夫ですか? エルリアさん」

「ミ…ラさん? え? 人魚族(マーメイド)? え?」


「あれ? ミラってエルリアと親しかったの?」

「一時期、毎日のように病院で顔を合わせてましたので」


 あぁ、そう言えばエルリアも治癒魔術が使えたんだったか? コイツもナイチンゲールやってたのか。


「少し待っていてください、後で治療しますので」

「え…… 待って、あなた達二人だけなの? あ…有栖川さんは? 他のメンバーは?」

「ワケあって別行動だ。大森林に行ってる」


 そんな俺たちのやり取りをしばらく黙って見ていたミューズが、思い出したかのように尋ねて来た。


「ねぇ、あなた、もしかしてセイレーン?」


「………… はい、お久しぶりです、お母様……」

「ぷっ! あははははっ! あんた生きてたんだ? 何で首しか見つからなかったのか不思議だったけど、すっかり騙されたよ。うん、良くデキてたよ、アレ」


 魔王ミューズは娘の生存を喜んでる。しかしその意味は無くしたと思っていたオモチャが見つかった程度にしか感じていないだろう。


「ふふっ、それで? 死を偽装して私の追跡から逃れたのに何で戻ってきたの? しかも男連れで!

 あ、もしかして結婚の許しを貰いに来たとか? 確かにこんな欠陥品でも回収業者は一応断りを入れるべきだものね!」


 さっそく煽ってきた…… やり口が本当に俺に似ている。

 それだけに余計に冷静に受け止める事が出来る。煽り攻撃に重みが足りてない。


「え?え? お母様? それって…… 魔王の……娘?」

「悪いなエルリア、そういうワケだからあの獲物は俺達D.E.M. が貰う。お前たちは事が終わるまで寝ててくれ」


 チクッ


「? え? 今ナニ……を……」


 既に体は痺れていたみたいなので、『麻酔針(スリーパー)』でエルリアを眠らせた。

 起きていられると色々と困る、アイツに操られて敵のコマに成り下がられたり、何より、これから始まるのは魔王同士の戦いだ。見られるワケにはいかん。


「アレ? キミもしかして魔王? 始めてみる顔だけど…… 誰だっけ?」

「一応…… 新しい第11魔王だ」

「第11魔王? それじゃ1年前に死んだレイドの後継者って事? 魔王の力って受け継がれるんだ……

 ぷっ! まさか娘が連れてきた男が魔王とは……ね」


 同格の魔王相手に随分余裕だな…… やっぱり俺が男だからか?


「魔王ともあろう者が、こんな欠陥品に誑し込まれるとは…… ねぇどうだった? 一応この娘には技術を仕込んだけど、魔王ですら虜に出来るレベルだった?」

「やめてください! お母様! 彼は……」

「ハァ? アンタには聞いてないでしょ? 口開くな!」

「……ッ!!」ビクッ!


 緩急をつけてきたな…… 流石はド外道魔王、この威圧感は本物だ。


 ここは乗るべきじゃ無い。アイツに場をコントロールされる危険がある。

 しかし“俺のミラ”を無意味に貶めるのなら舌戦を繰り広げる覚悟はある。

 その為には俺は常に冷静でいなければ……


 アイツの禍々しいドピンクのオーラが広がってる。


「ミラ…… いや、セイレーンは既に俺のものだ、今更あんたの許可なんか必要ない。それとも今になって惜しくなったのか?」

「ハンッ! こんなのが欲しいなんて、新しい魔王は随分謙虚なのね?

 その分だとまだ手を出してないでしょ? アンタ…… 童貞でしょ?」


 ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!!


 いや……うん、ドコに出しても恥ずかしい正真正銘のDTだよ。大事にとってあるんだよ。

 コイツと性的な舌戦を繰り広げても勝ち目がない、なにせ相手は2400年モノの淫乱糞ビッチ。下ネタ界の覇王だ。

 アイツは自分に有利なアンダーワールドの土俵に俺を乗せようとしている。このビッグウェーブには乗らない方がいい。


「アンタがまともに子育てしなかったおかげで、セイレーンはアンタに似ない良い娘に育った。

 ソコには感謝してるよ、セイレーンをアンタみたいな汚れた大人にしないでくれて」

「ハァ~~~ 想像以上のガキね、現実が全く見えてない。

 真に美しいものなどこの世界全体の1%にも満たないのよ?」

「反面教師って言葉知ってる?

 世界一汚いものを身近に感じて育てば、世界一綺麗に育つんだよ」

「ぷっ! コレだから女を知らない童貞は…… 夢と現実の違いを学びなさい」

「2400年も男の下半身のことしか考えてこなかった奴に、世界が見えてたとはとても思えないがな」

「アナタよりは遥かに見えてるわ、少なくとも欠陥品に期待を寄せたりしない」

「それが間違ってるんだよ、本当に欠陥品なら魔王を味方にできるわけ無いだろ」


「…………」

「…………」


「なるほど…… そういうタイプか…… 一本取られたわね」


 ちっ! やはり無駄か…… 一本取られたと思ったなら少しぐらい悔しそうな素振りを見せろよ。全く動じてない。

 勇者だったら簡単に心を折れるのに!


「いいわ、そこまで言うならセイレーンの選んだ男の実力、見せてもらいましょう」


 ヒュッ♪


 魔王ミューズは短く口笛を吹く、すると大量の魚が謁見の間に飛び込んでくる。アッという間にミューズを囲む渦を作り出した。


「これは?」

「肉食魚ラプティリアです。お母様に操られているんです」


 先代勇者を噛じったヤツか…… ピラニアみたいなものか?

 しかし数が多い、一匹40~50cm、既に部屋を埋め尽くさんほどの大軍だ。しかし……


「舐めてるのか?」


 いくら新米魔王でも、魚の群れにやられるほどしょぼく無いつもりだが…… これは様子見なんだろう。ならばこちらも労力を払わず迎え撃とう。


「弐拾四式血界術・拾参式『箒星』」


 貫通力を落としたアンカーを一匹の肉食魚に打ち込む、しかしそんなモノはものともせず泳ぎつづけ血糸を引っ張っていく。何となく釣りをしている気分になる。

 アンカーを付けられた一匹が渦を一周したところで準備完了。攻撃される前にさっさと片付けよう。


「第4階位級 流水魔術『激流』トレンヴュート」


 強烈な水流の壁を作り……


「爆ぜろ! 血糸!!」


 血糸をアルカリ金属のルビジウムに変化させ、水と反応させる。


 バァァン!!!!


 ほんの一瞬の間、大きな音と衝撃を発生させ爆発する。城全体が震えるほどの爆発だった…… ちょっとやり過ぎたか? またしても水が濁ってしまった。

 さっきまで元気に泳ぎ回っていた魚たちが力を失い漂っている。衝撃波で気絶したのか死んだのか…… 所謂ダイナマイト漁ってヤツだ。なるほど、環境によろしく無いな…… 禁止されるワケだよ。


「へぇ…… こんな攻撃してきたのは君が初めてよ……」


 魔王ミューズが濁った水の中から平気な顔をして出てきた。爆発の中心にいたハズなのに…… 魚たちが壁になったのか? それともこの程度じゃ効き目無しか?


「ミラ! 打ち合わせ通りアレをやるぞ!」

「は……はい! し……失礼します///」


 ミラをお姫様抱っこしてやる。役得だ。


「ん? 何やってるの?」


 魔王ミューズが当然の疑問を投げかけてくる、確かに突然目の前でイチャつき出したようにしか見えないだろう。


「流水魔法『不変膜(イミュータブル・フィルム)』 チャージ20倍!!」

「第4階位級 風域魔術『風爆』エアロバースト」


 ミラが作り出したシャボン膜のような透明な水の膜の内側に、魔力変換で直接大量の空気を作り出し満たしていく。その膜は周囲にいる人や魚や建物自体を飲み込み巨大化する。

 ローレライの上部は空気の膜に包まれた。


「おっとっと!」


 魔王ミューズは器用に尾びれで立っている、ちっ! 転ぶと思ったのに!


「驚いた、まさか強引に地上と同じ環境を作り出すとは……

 かつて、今日のも含めて勇者と5回戦ってきたけど、こんな手段で人魚族(マーメイド)の優位性を無効化したヤツはいなかったわ」


 シュゥゥゥゥゥ……


 魔王ミューズの足が変化し出した、まだ乾いていないハズなのに…… 自力で変身できるのか?

 慌ててミラの足を風域魔術で乾燥させる。


 二人はすぐに人間スタイルに変身した。


「カ……カミナ様、今は見ないで下さい……」


 ミラの真っ白なフトモモに何かが見えた気がする…… きっとこれは俺の願望が見せた幻だ。

 ミラから視線を外し敵を見る……魔王ミューズもミニスカルックになってしまった。子持ちのクセになんて魅惑的な…… いかん! 惑わされるな! アイツは淫乱糞ビッチだ!


 とにかくこれで敵に圧倒的有利な環境から五分の環境に移行できた。

 しかし地上の環境を作り出したとはいえ、ココは海の底だ。いくら不変膜でも大規模破壊魔術には耐えられないだろう。


「アルテナ様、チャンネルをお願いします」

『ふぅ~~~、ようやく外に出られるか…… む、ココは湿度が高すぎる! シワが寄るではないか!』

「あ……後でちゃんとケアしますからっ! お願いします!」

『分かっておる、さっさと片付けろよ?』


 ミラを降ろし、魔神器から『地下壕潰し(バンカー・バスター)』を取り出す。

 この環境では威力と範囲を絞った攻撃が必須だ。故に指向性爆発誘導が簡単に行なえるコレが有効だ。


「よし…… やるぞミラ!」

「はい!」


 あえて真正面から突っ込む。


「なぁに? 環境が互角なら勝てると思ってるの?」


 魔王ミューズが軽く息を吸い込んだ、超振動が来る!


「わっ!!」


 全方位に放たれた振動波により城全体がビリビリと震える、自分の城なのにお構いなしか!

 しかしその影響は俺には及ばない。


「え?」


「第7階位級 火炎魔術『炎弾』ファイア・ブリッド!!」


 予想外の事態に戸惑い動きが止まっている魔王ミューズに向けて、手にした『地下壕潰し(バンカー・バスター)』を経由して、爆炎を放つ。


「うぐっ!? くっ!! 『大水牢(アクアケイジ)』」


 ドジュウウゥゥウウゥゥーー!!


 ミューズが咄嗟に発生させた水牢により、火だるまになる寸前に炎を消火した。

 ちっ! やはり魔法を使えるのか……

 第4階位級が使えれば、この程度で鎮火されることも無かったのに、いやまだだ! このまま追い打ちを掛ける。


「第7階位級 風域魔術『烈風』スラッシュ」


 風の刃が水牢を切り裂く。


「このっ!! ふざけるなっ!! 『歌姫人魚(ディーヴァ)』 超振動!」


 魔王ウォーリアス戦でミラが使ったのと同じ、振動波をバスケットボールほどの球状空間内に込めている。この使い方が最も威力が高いらしい。


 しかし……


 ……ィィィイイイン……


「なっ!? なん……で!?」


 ミューズの作り出した超振動球はその場で消え去った。


「第7階位級 風域魔術『空圧』コンプレス × 第4階位級 火炎魔術『皇炎』ラヴィス・レイム

 合成魔術『大爆縮』インプロージョン」


 呆然自失状態の魔王ミューズに、更なる追い打ちを掛ける。




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