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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
103/375

第99話 開戦


 バン!!


 D.E.M. のギルドホールの扉が勢いよく開かれる。

 入ってきたのはD.E.M. の専属オペレーターのリルリットさんだ。


 彼女がこんな感じで飛び込んでくる時は、大抵ロクな要件じゃない…… 何かしらの厄介事が舞い込んだ合図だ。


「み……みなさん! 大変です!」


 ほらね?


「たった今情報が入りました! ノースポート付近に要塞龍・ブロウレジオが上陸したと!」


 この世界の常識にまだ慣れていない伊吹が質問する。


「要塞龍ってこのギルドのペットみたいなヤツの事でしたっけ?」

「ブロウレジオは海洋種です。大きさは比較になりません! 体長80kmにも及ぶ島のような龍です!」

「は? 80km? 瓢箪っぽい形をした島じゃなくて?」


「龍です」


「さ……さすが異世界! そんなのがゴロゴロしてるとは、恐るべしファンタジーワールド!」

「イヤイヤ伊吹ちゃん、さすがにここまでデカイのはゴロゴロしてないって。

 それで? どういった依頼なんですか? まさか要塞龍討伐とかじゃ無いですよね?」

「えぇ、要塞龍はさすがにどうしようもないですが、問題はコバンリュウです。

 その生息数は数千~数万はくだらないでしょう。そいつらの駆除要請です」


「討伐じゃなくて駆除なんですね…… そして当然のようにウチのアホギルマスがいない! こんな時に限って! いっつもこのパターンだよ!」

「落ち着けサクラよ、この一年、二人が不在でもやって来ただろう?」


「フゥー フゥー そ…そうですね…… 私たちはSSランクの最強ギルド! コバンリュウの千や万! 大した問題じゃない! 大軍殲滅のプロ、ミラちゃんがいるんだから!」


「…………え? はい、なんですか?」


「ミラちゃん…… 聞いてなかったの?」

「い…いえ、そうじゃないんです、ゴメンナサイ。ちょっと考え事してて……」


「まぁミラちゃんがいればコバンリュウの大半は殲滅できるからね、後はその魔法を潜り抜けてきたのを私たちで処理するだけの簡単なお仕事!」


 そんなプランを立てていた時、人のいないはずのバルコニーから男の声が聞こえた。



「そんな先輩に残念なお知らせがあります」



 疫病神の声がした……



---



「おに~ちゃん…… お帰りなさい……」


 白がシッポを振りながら出迎えてくれる、その姿はご主人様の帰宅を喜ぶワンコのようだ。実に可愛い。


「おぉ、ただいま白」ナデナデ

「ん……」


「あれ? おにーちゃんだけ? お姉様とウィンリーちゃんは? “私”の女神様と天使ちゃんは?」

「“俺”の女神と天使は大森林に残ってもらった」

「“私”の女神様と天使ちゃんを残して何でおにーちゃんだけ帰ってくるのよ!」

「こっちだって断腸の思いだったんだよ! “俺”の女神と天使を置いてくるのは!」


「はは…… 二人ってホント兄妹だよね~、そっくり」


 伊吹のせいで先輩に呆れたような乾いた笑いをされた。まったく困った妹だ。


「おにーちゃんのせいで笑われた! まったく妹に恥かかせないでよ!」


 俺達は本当にそっくりの兄妹だ…… お互い相手に罪を擦り付ける責任転嫁までカブるとは……


 クイクイ


「ん?」

「何が……あったの? おに~ちゃんがルカを置いてくるなんて…… 珍しい……」


 そうだな…… 俺と琉架はどこへ行くにも大体一緒だからな…… 半身を失った気分だ、なんだかとっても寂しい…… なのでこの寂しさは嫁達に埋めてもらおう。

 白を愛でながら説明する。


「要塞龍が上陸したのは第12領域(トゥエルヴ)だけじゃない。大森林でも今頃別の奴が上陸している頃だ、ギガン……何とかってヤツだ。琉架にはそいつの足止めを頼んだ」

「ギ…ギガンティクシスか!? 史上最大の生物の!?」


 ギガン何とかでも通じた…… やはりシニス世界の住人にとっては常識なのか。


「そう、そいつだ」

「それではカミナ様…… これはやはり……」

「あぁ、第6魔王の攻撃だ」

「やはり…… そうですか……」


 どうやらミラには分かっていたらしい、この事件が……

 ミラの顔色が傍目にも悪くなり、明らかに落ち込んでいる。その理由はもはや語るべくもない。


「リルリットさんも居るならちょうどイイ、これよりD.E.M. は三手に分かれて第6魔王と戦います」


 突然の第6魔王との開戦宣言、その場にいる半数に「何言ってんのコイツ?」って目をされた。

 もう半数は呆然としている。

 しかし、そんな場の氷り付いた空間でミラだけがいち早く声を上げる。


「カ……カミナ様! あ…その……! 私も! 私もお連れ下さい!!」

「あぁ、分かってる。最初からそのつもりだった」


 父親の仇でもあり、実の母親でもある第6魔王との戦い……

 ミラには参加する資格があり、義務があり、権利がある。


「だが…… 覚悟はいいか?」

「はい! 3年以上前に心に誓った事です!」


 ミラと見つめ合う…… その瞳に迷いの色は無い。

 本当はかたき討ちなんか忘れて、俺の嫁として幸せに生きていってほしかったが、この世界情勢では常に母親の悪行が伝わって来ただろう。

 もはや説得の段階は通り過ぎてる…… ならば一緒に連れて行くだけだ。


「え…… ちょ……ちょっと待って神那クン! いくらなんでも計画性なさすぎだよ! 何でいきなり第6魔王と? 討伐軍も国軍も居ないんだよ? こんな少人数ギルドでどうにかなる相手じゃないでしょ!」

「いや、みんなはブロウ……なんとかのコバンリュウ対策に回ってくれ、大森林も琉架に任せれば大丈夫だ、ウィンリーもいるしな」


「お……おい、カミナよ! まさか二人だけで行くつもりなのか?」

「第6魔王は海の底にいるから、基本的に護衛軍を持たないハズだ、誰も攻めて来ないからな。更に現在戦争中だから自らの使途も世界中に派遣している…… だろ?」

「そうですね…… 城と自分の身の回りの世話をさせる使途が少数いるだけです」


 つまり警戒していない敵の懐へ、少数精鋭による奇襲を掛けるワケだ。たった二人の奇襲部隊、これなら少なくとも魔王城辺りまで気付かれるコト無く近付けるハズだ。


 もちろん不安もある、魔王軍では無く魔王特性がだ。

 どんな生物も意のままに操れるということは、簡単に雑兵を量産できるということ。

 そしてこの異世界の海にはどんな危険な生き物がいることか…… 海の中では使える魔術も限られるだろうし……

 相手は性格が悪いことで有名な第6魔王だ、不測の事態に備えて対策を練っておくか。


 その頃になってようやく現状を理解した先輩が慌てはじめる。


「ちょっ……! ちょっと待って!ちょっと待って! 神那クン、ミラちゃん連れてっちゃうんだよね?」

「そうですね」


「遠距離攻撃できる人残ってないじゃん!」


 まぁ、そうなるな…… しかしD.E.M. だけに駆除依頼が来たわけじゃあるまいし、他のギルドもいるだろ? そこそこの数にはなるはずだ、頼りにはならないかもしれないが……


「そう言えばミラが琉架の魔神器を使ってたんだっけ? 今更だけど良く使えたな?」

「あぁ、それはですね、クリフさんとシャーリーさんが「せっかく使えるだけのスペックがあるのに使わなかったら宝の持ち腐れだ」……とおっしゃって、ドコからか白衣の集団を連れて来て私用に再調整して下さいました」


 クリフ先輩とシャーリー先輩の入れ知恵だったのか…… 確かに原初機関の連中なら再調整も可能だろう。

 もちろんそれはミラのスペックが以前の琉架に近いから出来た芸当だ。今から他のメンバーに合わせて再調整しても意味が無い。

 相変わらず我がギルドは遠距離攻撃力が不足してるのか…… こんなことならリータ=レーナを強引にでも引き入れとくんだった! リク…なんとかって弟は要らないけど……


 だが心配はいらない! 何故なら超新星がいるからだ!


「そこは我がギルドのニューフェイス! 霧島伊吹の働きに期待しましょう!」

「へ!? わ…私!?」


 伊吹には『世界拡張(エクステンド)』がある。このギフトなら階級の低い魔術や威力の低い魔導具でも効率的に駆除が出来る。

 一つ空中の敵に効果抜群の神器もあったハズだ。


「この俺、魔王殺しの英雄・霧島神那の妹ならこの程度のミッション、何の問題も無く成し遂げるはずだ! 期待しているぞ我が妹よ!」

「むぅ…… またそうやってハードル上げるんだから! 人の心配より自分の心配しなよ!」


 ごもっとも、でも俺シスコンだから妹のことが心配なんだよ、だって伊吹ってアホの子だから。


「ジーク!」

「なんだ?」

「伊吹はまだ戦闘馴れしてないから接近戦はさせないでくれ、そしてお前はお前の最大の役割(肉壁)を果たせ!」

「ふむ…… 承知した」


 こっちはこっちで不安が残るが、白とミカヅキは近・中距離戦で圧倒的に強い。ジークを壁にすれば伊吹は比較的安全に遠距離攻撃できるだろう。



「ミラ、すぐに出発するから準備を」

「は…はい! 少々お待ちを!」


 自らの部屋へ駆けていくミラを見送った。



「おに~ちゃん…… 白も……」

「マスター」


 嫁達がこっちに来たがってる…… 俺も連れて行きたいのは山々なんだが……


「海の底に居を構える第6魔王の所まで行けるのは現時点で俺とミラだけなんだ。だからこっちの事を頼む」


 そう言って白の頭を撫でる、不服そうではあるが頷いてくれた。エエ子や……


「マスター、次こそはお早いお帰りをお願いします。もう1年も待つのは嫌ですからね?」

「分かってる、俺だって1年も離れ離れになるのはもう御免だ」


 同じことを繰り返したら次も待っててくれるとは限らない! 戻ってきた時には離縁状だけが残されていたり…… そんな未来は断固拒否する!



「カミナ様、お待たせしました」


 あれ? ずいぶん早いな、女の子の支度はもっと時間が掛かると思ってたが…… 見た目何も変わってない、必要なモノだけ魔神器に突っ込んできたのか?

 まぁ、早いに越した事はない。デートに行く訳じゃ無いしな。


 ミラを連れてバルコニーへ出る。ここから上空で待機しているホープまで一気に飛び乗るのだ。


「ミラ、俺にしがみ付いてくれ」

「え? あ…… よ…宜しいのですか?///」

「琉架が居ないから重力遮断が使えないんだ、ちょっと強引に飛ぶことになる」

「で……では…… 失礼致します///」


 たったコレだけで赤くなってる…… 世界にその名を轟かす淫乱糞ビッチから生まれて来たとは思えない程の純情っぷりだ。

 そしてこのタイミングでリルリットさんが話し掛けてきた、ナイス! 話を長引かせてミラの感触を楽しもう♪


「あ……あの、カミナ君は本当に第6魔王討伐に向かわれるのですね?」

「はい、討伐依頼出てましたよね?」

「えぇ…… 世界中の海路を使用不能にしている第6魔王討伐は急務ですが…… こんな何の準備も無しにいきなりとは……」


 準備無しか…… 確かにそう見えるだろうがそれは間違いだ。


「いつかこんな日が来る事は分かってましたから、あの日、ミラに出会った時から……」

「カ……カミナ様……///」


 思い出されるミラとの出会い…… 悪夢の寒中水泳…… 琉架の胸の感触…… そして「金色の野」……

 ヤベ……思い出さなくていい事まで思い出しちゃった。ミラが密着してるんだから自重しろよ!


「カミナ君が魔王殺しを成し遂げた事は存じておりますが決して油断することのないよう、注意して下さいね?

 そして今度こそ無事に帰還されることを心より願っております」


 あ…… 何か懐かしい…… 1年以上も前になるが、前回の魔王討伐の時もこんな感じでリルリットさんに見送られて旅立ったっけ?

 ………… 何か…… 嫌なフラグが立った。

 大丈夫! 詐欺フラグは役に立たん! 今度こそ無事に戻って見せる!


「それじゃ行ってくる、みんなは少し下がっててくれ。いいか?ミラ」

「は……はい、よろしくお願い致します///」


 魔力微細制御棒(アマデウス)を取り出し魔術制御を行なう。琉架の重力場が無いため、いつもの調子で飛び出したらGの影響をモロに受ける事になる。

 俺はともかくミラが死に掛けたらシャレにならん。慎重に魔力をコントロールする。


「第4階位級 風域魔術『風爆』エアロバースト」


 ブワッ! ドゥン!!


 比較的衝撃の少ない飛行に成功した。




---




 アトランティス……


 第一次魔王大戦の時に海底に没した失われし大陸……

 実際はアルカーシャ王国程度の島だったらしいが、今はそこが第6魔王 “歌姫” ミューズ・ミュースの居城になっている。

 場所はトゥエルヴと中央大陸と大森林の中間地点に位置し、我々は今現在その上にいる。


 正確には真上では無く、少し離れた場所で旋回している。


「あの…… 今更なんですが、カミナ様は海の底へ行けるのですか?」

「あぁ、今は属性を変えて貰ってるので問題ない……ハズだ」


 よくよく考えたらテストも何もしていない…… 大丈夫なんだろうか? 不安が募る……

 アーリィ=フォレストが本当にインテリ魔王だったらここまで不安にならなかっただろうが、あのボトラー予備軍を信頼するのは難しい……


『心配する事は無い、あやつはああ見えて優秀じゃ』


 アルテナが太鼓判を押す…… ぶっちゃけアルテナの信頼度も落ちてるんだよな…… アレのどこがインテリだよ!

 アイツの性格で俺を騙す事はまず無いだろうが…… あとはアイツが欠陥魔法を作ってない事を祈るのみ。


「もし失敗してたらアイツの引きこもり部屋を破壊してやる。

 それじゃミラ、ここら辺から飛び込むぞ?」

「あ……! カミナ様! 少々お待ちください、最後の準備をします」

「最後の準備?」

「はい…… あの、後ろを向いてて貰えないでしょうか?」


 そう言われると見たくなるのが人情ってものだろ? とはいえ、俺は紳士だからミラの言葉に素直に従う。

 そのかわり、耳に全神経を集中させる。


 シュル…… パサ……


 衣擦れの音がする…… 俺の後ろでミラが脱いでる!

 正直予想はしていた、つまりパンツを脱いでるんだ! このまま海に飛び込めばパンツは破れてしまう! したがって事前に脱いでいるのだ!

 振り向いた時、そこにはノーパンのミラが立っているのだ! 落ち着け俺! 今のミラは酔っ払っていない! つまり俺を誘っている訳じゃ無い! 冷静に……COOLになれ!


「お……お待たせして申し訳ありません、もう大丈夫です……」


 声を掛けられ振り向くと…… ミラはパンツどころかスカートすら履いていなかった!

 よくよく考えれば当然だ、俺が不測の事態に備えて履くように進めたロングスカートは泳ぐのには邪魔になる。


「ぁ…… うぅ……///」


 今のミラは大きい魔女帽子を取り、ノースリーブシャツワンピース、腰にアルテナと魔神器のバインダーを下げている……

 そしてその下は…… 履いてません!


 正直に言おう…… 俺はこの格好が大好物だ! 今度ギルドの制服とか言ってみんなにこの格好してもらおうかな?

 伊吹辺りには見透かされそうだが、なぁに、構うコトは無い!


 しかしミラの足は相変わらず魅力的で美味しそうだ…… 俺はなぜあの時、ミラにロングスカートを進めてしまったのだろう?


「あ……あの…… そんなにジッと見ないで下さい……///」


 しまった! 思わずガン見してしまった! しかし思春期真っ只中の少年に見るなという方が無理な相談だ。しかも海に飛び込めば、人魚形態に戻ってしまう。今の内にじっくり鑑賞して慣れておく必要があるんだ。


 とは言え本人が嫌がっている事を無視するワケにもいかん。俺、自称紳士だし。


「いや、すまない。ミラと出会った時の事を思い出してた…… あの時は、まさか二人でミラのお母様に会いに行く事になるとは思ってもいなかった」

「っ…… お母様……」


 ミラが小さく震える、やはり覚悟はしていても恐怖があるのだろう。まして今から行われるのは戦いだ。娘さんを僕に下さいって挨拶に行くワケじゃ無い。いや、それもある意味戦いだが……

 俺は半分そのつもりだ。戦ってミラを奪い取りに行く。


「ミラ、もう一度だけ聞くが、本当に覚悟はいいか?」

「……はい、大丈夫です」

「この際だからハッキリ言うが、俺は第6魔王ミューズ・ミュースを殺す」

「すぅ……はぁ…… ………… カミナ様、大丈夫です」


 ミラの瞳に迷いは無い…… 大丈夫だ。


「よし! 行こう!」

「はい!」


 ミラの手を取り一緒に海に飛び込む。


 空中でミラの足をガッツリ眺めながら……




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