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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
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第97話 第7魔王・前編


 その塔は深い緑で埋め尽くされている大森林の中で、異様な存在感を放っている。

 朱色の塔……キング・クリムゾン。


 恐らく2400年以上昔から建っているその塔は、緑に飲み込まれる事なく美しい姿を保っている。


 見た目、毒キノコっぽいけど…… 或いは朱いタケノコか……


『この周辺は森の結界になっておって、空を飛ぶモノ以外近付けんのじゃ』


 ジャングルの真ん中に建ってたら獣の声がウルサイと思ったが、ちゃんと対策を取ってたのか。引きこもりには有難い環境だな…… 虫はどうなんだろう? でっかいのが飛んで来そうで……

 上空を一回りして廃都を確認するが、ホープが降りられそうな場所は無い…… 仕方ない、また飛び降りるか……


 そんな時だった……


 朱色の塔の周りに蜃気楼のようなモノが見える。

 塔は高さ100メートル程はありそうな円錐状であるが、その塔を覆いかぶさる形で幻が広がっている。


「なんだ? アレ……?」

「むぉっ!? あやつ攻撃してくるつもりじゃ!」


 なんだと!? 三大魔王同盟にいきなり戦争を吹っ掛ける気か!?

 塔に覆いかぶさる幻は巨大な樹のようだ、見る間に枝葉を広げ数百メートルはあろうかという巨木の姿になる。何だコレ? 森樹魔法か?


 数本の枝がスゴイ勢いでこちらに伸びてくる、拘束系の魔法か!


「まずい! 離れるのじゃ! アレに捕まれると面倒じゃ!」


 あんな枝、斬るなり焼くなりしてしまえばいいじゃないか……


「アレに絡まれると生命力を吸われて死ぬ」


 怖! 拘束系じゃなくって即死系だった!

 俺たちはともかくホープが不味い! いや、ホープは幻の塔が起動している間は死なないんだったっけ?

 どっちにしろ得体が知れない、逃げた方が良さそうだ!


 こっちは戦いに来た訳じゃ無い、反撃するのもマズイ……


「アルテナさん、アルテナさん! 魔王だったら攻撃されないんじゃなかったのか?」

『う~む、寝ぼけてるのかもしれんのぅ、早朝だし…… 或いは…… 敵だと思ってるのかもしれないなぁ』


 引きこもりにはリアルの時間は関係無いと思うんだが…… だったら敵認識されてる?

 しばらく逃げ続けていると地面から猛烈な勢いで槍のような根が伸びてくる、気が付けば廃都周辺は木製の触手みたいなモノで溢れかえっていた。

 ヤバイ、逃げ道が無くなる。波風立てないとか言ってる場合じゃない!

 とにかくこの卑猥な木製触手をどうにかしないと!


「第4階位級 火炎魔術『皇炎』ラヴィス・レイム」


 全力で攻撃すると文字通りクリムゾンを炎で染め、廃都を灰に変えてしまうので、触手だけを焼き払う。


 キィィィィィ……


「ん?」


 周囲に放った炎は葉に触れた途端、収束しだした。


「ダメじゃカミナ! 魔術は反射される!」

「なに?」


 カッ!!


 収束された炎は一際大きな光を放つと、炎弾として跳ね返ってきた。


「ちぃっ!!」


 パキィィィィィン!!


 反魔術(アンチマジック)で打ち消す。自分の魔術を自分でキャンセルしたのは初めてだ…… これは第7魔王のギフトなのか?


「こりゃーーー!! アーリィ=フォレストよ! いきなり攻撃してくる奴があるかぁー!」


 ウィンリーが初めて会った時と同じく雲を作り出した。

 周囲は一気に暗くなり、雲からはゴロゴロと雷の音が聞こえだした。


迅雷閃(じんらいせん)百下(ひゃっか)


 ウィンリーが軽く手を振り下ろすと、雲からは計100本もの雷が落ちてくる!


 ビシャァァァァアアン!!!!


 凄まじい閃光と轟音が辺りを包むと、次の瞬間には周辺を埋め尽くしていた木製触手は全て焼け落ちてた……

 さすがウィンリー…… 相変わらずお強い……


 しかし喜びも束の間、触手たちはすぐに再生を始める。マジかよ…… 何なんだこの能力は……


「いい加減にせんかぁーーー!!」


 ウィンリーが一本だけ放った雷が巨木に包まれている塔に直撃した、すると……


『ザザ…… もしかしテ…… うィンリー?』


 機械を通した様な声が聞こえてくる…… それと同時に触手たちが止まった。


「ようやく気付いたか?」

『うィンリー…… あナたが敵に回るナんて…… とても残念ヨ…… でも絶対負けナいんだから!』

「敵として訪ねて来たんじゃ無いわ、そもそも戦う理由が無かろう?」

『アレ? そうナの? 言われてみればそうかモ……

 それじゃナんで来たの? あナたがここを訪れるナんてどういう風の吹き回し? 風巫女だケに…… ププッ』


 うわぁ……


 最後の一言ですごく残念な感じが伝わってきた…… 誰だよ、コイツがインテリ魔王だとか言ったのは。あ、アルテナが言ったんだっけ?


「それで? わざわざ訪ねて来たのに迎え入れてはくれんのか?」

『はぁ…… 仕方ナいわね、入る時は靴を脱いで上がってネ』


 その言葉と同時に大木は薄れ消えていった。やはり今の樹がアーリィ=フォレストのギフトだったのだろうか? いかにも耳長族(エルフ)っぽい能力だったな…… そう言えば魔王のギフトって出身種族の特性を色濃く反映しているモノが多い気がする……

 ウィンリーが気象兵器みたいな能力を使い、ウォーリアスが重力操作を使う、レイドは……種族というよりアイツ個人の性質に合ってたか。


「ホープが降りられそうな場所は無いんだよな……」

「うむ、飛び降りるしかないのぅ」


 空からしか来れないのに離発着場なしか、客が来る事を一切考慮していない造り…… 引きこもりプロだな。仕方なく朱色の塔の根元に飛び降りる事になった。



---



 塔の根元から上を眺めてみるが、窓の類は一切ない。唯一の侵入口である入り口も人一人がやっと通れる感じの細い切れ込みみたいだ、ジークみたいな巨漢は絶対に入れないな。

 狭い入口を抜けるとホールになっていた。壁には外の映像が映し出されている、何となくこの塔は魔科学的な要素が散りばめられている気がする…… 何故シニス世界にこんな場所が存在する?

 足元には土足厳禁の文字…… スリッパが用意されていない。本当に客が来る事を想定していない、にも拘らず土足厳禁の文字……謎だ。


 チーン


 ホール中央に設置されているエレベーターの音だ。まるでデクス世界だ。


「こっちよ、靴脱いで着いて来なさ……え?」


 エレベーターから降りてきた人物と目が合った。彼女が第7魔王 “探究者” アーリィ=フォレスト・キング・クリムゾン・グローリーか。


 太ってない! むしろ痩せ気味だ…… 全体的に不健康感が漂っている。


 服装はダボダボのTシャツにヨレヨレの白衣を着ている。どこぞのマッゾサイエンティストみたいだ。

 青と緑の中間色ターコイズグリーンの髪の毛は、(くるぶし)の辺りまで伸びている超ロングストレート。見た目年齢は俺や琉架と同年代、まだ少女と言える年頃だ。恐らく15~16辺りで魔王になったのだろう。

 種族のトレードマークでもある横に飛び出した長い耳をしており、耳長族(エルフ)特有の線の細い体つきだが、俺の知る耳長族(エルフ)と違い、胸の辺りがさみしい…… ハッキリ言って貧乳だ。

 ツインテールにして歌でも歌わせたら人気が出そうな感じだ。


「な…… な…… な……!」

「そうじゃ、紹介しよう。こちらの二人が……」

「キャァーーーーー!!」


 目が合い数秒固まっていたと思ったら急に悲鳴を上げ、たった今 自分が降りてきたエレベーターに乗り込み去っていった。

 魔王アーリィ=フォレストに逃げられた! ちょっとショックだ……


「なんじゃ? 一体……」

『ザザ…… な…な…な……なんで男がいるのよ! ウィンリー、私を謀ったのか!』

「謀る? ??」

『と……! とにかくちょっと待ってなさい!』ブツン!


 一方的に通信を切られた。謀るって何の事だ? ウィンリーのような純真無垢な幼女に謀り事が出来るとは思えないが。


「挨拶をする暇も無かったな…… やはりアポも無しに突然大人数で押しかけたのがマズかったのか?」

『はぁ、主殿は相変わらずニブイのぉ』


 アルテナにため息をつかれた、え? 俺の所為なの?


『たとえ2400年以上生きていようとも、あやつは女、乙女じゃ。見ず知らずの男にあの格好を見られたくなかったんじゃ』


 えぇ~? それって普通の女の子じゃん。

 そりゃ確かに、ウィンリーを見て魔王への概念は粉砕されたけど、それって全ての魔王に適応されるの? 魔王レイドはガキっぽかったけどちゃんと魔王してたよ? ウォーリアスは言わずもがなだったし……


『ちょっと待っておれ、今に身綺麗にして戻って来るから』



 アルテナの予言通り、10分後、アーリィ=フォレストは戻ってきた。

 片眼鏡をかけ、服装は白いワンピースに黒い白衣……黒衣って言うのか? 髪をポニーテルにしてる…… おしい! シッポは二本の方がより望ましいのに!


「ま……待たせたわね」

「やっと来おったか、何やっとったんじゃ?」

「ウ…ウ…ウルサイ! それよりウィンリー! あなたこそどういうつもりよ? こんな所に人族(ヒウマ)を連れてくるなんて! ま……まさかアンタのか…か…彼氏とかじゃないでしょうね!」


 あれ? さっきバッチリ目が合ったのに気付いて無い? どんだけテンパってたんだ? てか、彼氏って……


「何を言っておる、二人は我らと同じ魔王じゃぞ?」

「へ? え…… あ!」


「おぬし知らんかったのか? 魔王レイドと魔王ウォーリアスが倒されたことを、この二人が魔王の力を継承したんじゃ」

「魔王が倒された!? いつ!?」

「1年前じゃ」


 筋金入りの引きこもり魔王だ…… テレビもネットも無いジャングルの奥地に引きこもっているから世界情勢から取り残されるんだ。


「だ……だからか! ミューズ・ミュースが嫌がらせをしてきたのは…… そっちの情報は見てなかった…… ドリュアス! あんたどうしてそういう重要な事を伝えないのよ!」


 ドリュアス? 同居人でもいるのか? 孤高の引きこもりだと思ってたが…… まさか母親の事じゃ無いだろうな? 床を殴ると飯を持ってきてくれるような。


 エレベーターの方から緑色の小さな光が飛んでくる、よく見ると中には小さな人形のようなモノが…… あ、精霊か?


『あれは樹を司る上位精霊・ドリュアスだ』


 やはり精霊か…… アルテナの仲間みたいなものか。

 何やらアーリィ=フォレストと言い合いをしている様だが……


『お言葉ですがアーリィ様、緊急事態以外 外の情報を完全にシャットアウトせよと申されたのはアーリィ様ご自身ですよ?』

「魔王交代とか歴史的大事件でしょ!」

『実際この1年間、何か不都合がございましたか? 更に言えば1年前、私はアーリィ様に魔王が討たれたことをご報告しております。そしてこれから世界が混迷していく可能性があることも申し上げました』

「え?」

『その時アーリィ様はこう返されました「ウルサイ!今忙しい!」と』

「あ…… その……」

『ですから私はここキング・クリムゾンに直接関わることの無い情報をシャットアウトしてきました。

 私の仕事はどこが至らなかったのでしょうか?』

「そ……その…… ウッ あの……」

『泣けば許されるとでも思っているのですか? 2400年以上生きてるクセにご自身の発言に未だに責任というモノをお持ちいただけないのですか?』

「ゴ……ゴベンナザイ……ヒック……」


 泣かされた! 魔王が精霊に泣かされた! 何という打たれ弱さだ!

 おいアルテナ! インテリっぽさを微塵も感じないんだが…… 大丈夫か? この魔王様……


『お見苦しいトコロをお見せして申し訳ございません。私は魔王アーリィ様のお世話をしております上位精霊(ハイ・スピルト)のドリュアス・グ=リーフと申します。

 魔王ウィンリー様、そして魔王カミナ様、魔王ルカ様ですね? 以後お見知りおきを……』


「うむ、ご丁寧な挨拶痛み入るぞ!」

「どうぞよろしく」

「よ……よろしくお願いします……」


『それではこちらへどうぞ、ご案内いたします』


 上位精霊(ハイ・スピルト)ドリュアスに促され、エレベーターに乗りその場を後にする…… 泣きべそかいてる魔王アーリィ=フォレストをその場に残し……

 この精霊さんが本物の第7魔王なんじゃないのか? あっちのボカロっぽい子は影武者かなんかで。


 案内されてる途中、扉が開きっぱなしになっている小部屋が目に入る。中にはアーリィ=フォレストがさっきまで着ていたダボダボのTシャツとヨレヨレの白衣が脱ぎ捨てられていた。

 その部屋は大量のモニターが設置されており、布団は敷きっぱなし…… 間違いなくヤツはココに籠っていた。これでションベン入りのペットボトルでもあればパーフェクトのダメ魔王だ。

 幸いペットボトルは見当たらなかった…… どうやらボトラーでは無いらしい。


『あまり見ないで上げて下さい、そこはアーリィ様の研究室なのです』


 研究室!? これが!? どう見ても引きこもり部屋だ! 研究室とかそんな上等なモノじゃない!!

 まぁ、学院の研究室を休憩室に改装した俺に言えたセリフじゃないな。第7魔王に少しだけ親近感が湧いた。




『改めまして、ようこそキング・クリムゾンへ、よくお越し下さいました魔王様方。主に代わり歓迎いたします』


 良くデキた精霊さんだ、この廃都を管理しているのも実質この精霊の仕事だろう。ウチのメイドさんに匹敵するほどの有能さだ。


『お主はいつ頃からアーリィに使えておるのじゃ? 前大戦の頃は居らんかったろ?』

神代偽典(しんだいぎてん)の精霊、エネ・アルテナ様ですね? アーリィ様からお話は伺っております』


 アルテナとドリュアスは初対面なのか、精霊同士の会話に少々興味が湧いたので、そのまま黙って聞いてみる。


『私がアーリィ様に召喚されたのは1000年ほど前になりますでしょうか? それ以来、このキング・クリムゾンの管理とアーリィ様の身の回りのお世話を任されております』

『1000年ずっとか? 大変だったろう…… それよりアーリィはどうしてしまったのだ? 昔はあんなでは無かったハズじゃが?』


 ん? 昔は違ったのか? あのボトラー一歩手前の魔王様は?


『昔から部屋に籠りがちではあったが、それでも探求の為なら自ら現地へ赴くくらいのバイタリティーはあったハズじゃが? 何せ我を手に入れる為に魔宮に潜ったくらいじゃからな』


 そう言えばそうだ…… ただの引きこもりに魔宮攻略など出来るハズが無い。それともネトゲ感覚で楽しんでたのか? それなら納得できるが……


『理由は分かりませんが前大戦時、地下の『神代書回廊(エネ・ライブラリー)』で何かがあったようなのです、それ以来、外部からの侵入を決して許さなくなり、常にこのキング・クリムゾンに留まる様になったのです』


 そうか…… 俺が求め続けた『神代書回廊(エネ・ライブラリー)』はこの下にあるのか…… いや、勝手に入ったりはしないよ? なんかマジギレされそうだし……


『そうして人と会うことの無くなったアーリィ様は少しずつ無頓着に、ズボラに、だらしなくなられ、950年前の時点で今のような目の濁った廃人に成り下がってました』


 950年もアレ(・・)の世話をしてきたのか…… ヒドイ言われ様だがそれも当然だな。


『そうか…… お主も苦労しておるな…… 昔のアーリィはもっとシャンとしてたのに……』


「ドリュアス! アルテナ! 余計な事は言わないで!」


 この廃都の主、アーリィ=フォレストがやって来た…… 目が赤い…… 緋色眼(ヴァーミリオン)どうこうじゃ無くて、充血してる。自分の召喚した精霊に泣かされた魔王様だ……

 ホントに昔はシャンとしてたのか? 全く想像できん。


「さっき見た事は取り敢えずすべて忘れなさい!

 改めて自己紹介するわ。私が第7魔王 “探究者” アーリィ=フォレスト・キング・クリムゾン・グローリーよ!」


 さっき見た事をすべて忘れる前提なら、今の自己紹介はビシッと決まってカッコ良かったぞ? もっとも、忘れる事が出来ないからこそ茶番にしか見えないが……


「それで? あなた達も自己紹介してもらえるかしら?」


「フハハハハーーー!! 我こそが第5魔王……」

「ウィンリーはいいわよ、良く知ってるから」

「むぅ~~~~!!」


 コラコラ、幼女を虐めるんじゃありません。子供は世界の宝なんだから。

 しかし魔王の名乗りとは二つ名とセットでするモノなのか? 俺も琉架も堂々と名乗るのは小っ恥ずかしい……

 俺が逡巡していると、助け舟という名の余計なお世話が入る。


『こっちの若いメンズが、今の我の真なる主! 『新・第11魔王 “禁域王” 霧島神那』じゃ!

 そしてこっちの清純派ヒロインっぽいのが『新・第8魔王 “女神” 有栖川琉架』じゃ!』


 アルテナさんが余計なコトしてくれた…… おかげでこっちが赤面する羽目になった。




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