彼女は死んでいない
ひとしきり涙を流してしまうと、妙に頭がクリアになっていく感覚があった。人が死ぬと、ここにいるから、と言って頭や胸を指す仕草を良く見るが、千早はどこにもいなかった。
千早はこれからきっと焼かれ、灰や煙になり、自然に還る。人は死んだらそれきりだ。もう一度僕と千早が巡り会うことはない。
それだからこそ人は悲しみ、一瞬を大事にする。
そう、あるべきだ。
千早の母へ、自分は千早の恋人であると名乗った。僕は恋人として彼女を送りたい。
着信は、千早の電話からだった。何を期待したのか、心が逸る。もちろん、知らない女性の声だった。
「貴方に伝えるべきか、わかりません。千早の残した言葉には、貴方のことも書いてありました。どうか、気になさらずに。貴方のせいではないから。と、それが千早の心です」
もう、様々な感情は吐き捨てたようで、女性は淡々と語る。
「一体、なぜ。教えていただきたいと願うのはおこがましいのでしょうか」
「千早は、ただ謝るだけの手紙を残しました。理由はわかりません。しかしそんなもの、些細なことだと思います。どんな理由でも、謝るくらいならどうか生きてと、そう遅れて願うだけです。もっと向き合うべきでした」
すみません、と謝って、女性は通話を切った。
僕の中でも、千早の母の中でも、やはり彼女は死んでいない。だから苦しい。辛い。考えるだけで、心が潰れ、透明の血が流れる。




