彼女は死んだか
文字にすればたった六文字の現象を、頭が読み取るまいと拒絶する。事実がわからないから、涙も出ない。
千早との共通の友人である桝谷という男から電話が来る。桝谷は千早の幼馴染みで、彼を通して僕たちは知り合った。
電話の向こうで、桝谷は、
「平気か?」と聞いた。「メール、来たんだろ?」
返事をしないでいると、ジリ、とジッポを擦る音がする。匂いがこちらにまで届きそうなほど、大仰な吐き方をした。
「俺も、驚いた。千早が自殺なんて」
言葉は平坦で、そのせいか真実味がある。
桝谷ならば、千早が死んだ理由を知っているのだろうか。僕よりも長く、千早を見てきた人。ただ、結果はともかく、それを聞くのが怖かった。
人が死ぬ理由は千差万別で、一つとして同一のものはない。誰かが作ったカテゴライズに当て嵌めればそれは酷く単純なものに見えることもあるが、他人の、深遠な精神は、そんなものでは測れない。
もしも千早が僕のせいで自らの前途を閉ざしたとして、それを「男に振り回されて」と揶揄されるのは、たまらなく嫌だった。彼女は彼女でしかなく、それは誰にも知りえない領域を持っているということだ。
「本当に千早は死んだのか?」
問うべきは、先にこれだ。理由など誰かが納得するための、誂え品でしかない。
長い長い溜息は、この世とあの世を繋ぐノイズのように鳴る。
「千早は死んだ。死んだんだ」
心がずしりと、沈んでいく。




