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ロンリー・シングルカード

作者: kurororon

 午後1時、都内某トレーディングカードショップに俺はいた。待ち合わせていた友人は15分ほど遅れるらしく、空いた時間で俺は店の商品、特にシングルカードの価格を確かめることにした。

 と、その前に俺はスリーブ売り場へと向かった。友人が来てからでもシングルカードを見ることは出来るが、萌えスリーブを見ることなど恥ずかしくて出来ない。陳列されたスリーブの中にストーリーはひどいけどキャラが可愛いから視聴を継続している某アニメのスリーブが無いか確認してみるが、見当たらない。商品化されたという話も聞いていないから、本格的に人気が無いのだろう。何故アニメ化したのだろうか、あの作品は。

 使いたい萌えスリーブが無かったので、俺は本来の目的であるシングルカード売り場へ向かう。ショーケースの中には3000円を超えるトップレアから50円のカスレアまで、幅広く飾られている。前評判は高いが大会での使用率はそれほど高くないレアカードは順当に値下がっており、買おうかどうか少し悩んでしまう。しかし、今後さらに値下がることは容易に想像できたため、他のカードに目を移す。

 ふと、前から気になっていたカードが50円で売られていることに気が付く。正直、単体では全く役に立たないカスレアではある。しかしこのカードと別のカスレアを組み合わせることで、驚くべきコンボを決めることが出来る。もしそのコンボが決まれば勝利は確定であり、予想外の瞬殺に対戦相手は呆然としてしまうだろう。これは少し試してみたい気がした。

 さて、問題はもう片方のカスレアである。2種類のカスレアが4枚ずつあれば、瞬殺コンボデッキを作ることが出来る。しかしどちらのカスレアも現在1枚すら所持していない俺は、それらを4枚ずつ買わなければならない。片方のカスレアは50円で買えるが、もう片方の値段次第では高くついてしまうだろう。もう片方のカスレアの値段は……と。

 100円。両方のカスレアを4枚ずつ揃えるとすれば、600円。なかなか安い買い物である。

 だが待て。確かに瞬殺コンボは可能であるが、成功する確率はかなり低い。そんなデッキを作るより実用性のあるカードを600円で買った方が良いのではないか……

 逡巡しながらショーケースを見つめ、他に使いたいカードが無いかも検討する。現状、欲しいカードは思いつかない。だったら先ほどのカスレアを買って対戦相手となる友人を驚かせるコンボを決める方が楽しいのではないか。

 よし、決まった。俺はカードの整理を行っている店員に声をかけた。

「すみません、ショーケースの商品買いたいんですけど」

「あ、申し訳ありません、先にそこの購入用紙に記入をお願いします」

 店員が差す先に、ボールペンと購入用紙が置いてある。うーむ。出鼻を挫かれた感じだった。

 購入用紙にカスレアの名前と購入枚数、1枚当たりの値段を記入し、今度はレジにいる店員の元へ向かう。

「すみません、シングルカードの購入したいんですけど」

「はい、少々お待ちください」

 店員はショーケースに向かわず、レジカウンターの先にあるカードの収納箱を探り始める。なるほど、カードによってはショーケースの中以外にも在庫があるのか。

 しかし、店員はカードの収納箱から離れ、ショーケースへと向かう。どうも嫌な予感がする。

「お待たせしました」

 店員がカードを持って戻ってきた。

「申し訳ありません、こちらのカードは4枚あったのですが、こちらの在庫は2枚しか無くて……」

「あ、いや大丈夫です」

「では状態の確認をお願いします」

 俺はカスレア6枚の状態を確認した。傷などは特にない。あっても気にしない値段ではあるが。

「大丈夫です」

「それでは合計400円になります」

 俺は財布から小銭を出し、100円玉4枚をカウンターの上に置く。

「400円ちょうどですね」

 レジを操作し、店員が会計を行う。レシートが排出され、続いて店員は6枚のカードを小さな袋に包装し、レシートと共に俺に手渡す。

「ありがとうございましたー」

 カードとレシートを受け取った俺はそれらを胸ポケットに入れ、再びシングルカードのショーケース前に立つ。

 ……4枚ずつ無いから、コンボ決まらないだろうな。

「ごめんごめん」

 多少落胆していた俺に、遅れてやって来た友人が声をかけて来た。

「どうよ、最近の相場は」

「やっぱりこの辺のレアは値下がってるな」

 シングルカードの値段について、他愛もない会話をする俺と友人。

「あれ? このカスレア売切れてる」

 友人が指差したのは、俺が先ほど購入したカードの片方。

「そういえばこのカードとこっちのカードで瞬殺コンボ出来るんだってね」

 友人が指差したのは、俺が先ほど購入したカードのもう片方。

「どうせ組んでるんだろ、お前は~」

「……組んでない」

 まだ組んではいない。嘘では無い。

「期待してるから組んでみれば?」

「……そうだな」


 その後、友人と数回対戦をした。2勝6敗の負け越しだった。


 コンボデッキを組むのは戦う前から負けた気分になったのでやめた。

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