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第二章・二話

 何度逢瀬を重ねただろうか、僕にとって最良で、最高の日々が毎日のようにやってきた。

 会えた日の喜びも、会えない日のもどかしさも、すべてのものが愛おしく、その手に、その肌に、その熱に触れていたかった。できればずっと。

 互いの部屋を行き来し、食事当番はもっぱら僕で、彼は楽しそうにお酒を飲んでいた。彼が喜んだ姿が見たいからなんて、相手を甘やかしているようにも見えるが、彼もれっきとした大人だから、そのあたりの関係は十分に理解していると思う。

 とある日、彼が用事で会えない日、僕は久しぶりに行きつけのゲイバーでママに幸せを報告してやろうと、半ば嫌味交じりの気分で、足は浮かれ気分でそこへと向かう。

 今日はあまり繁盛していない、常連客が二人だけ。僕は無難に挨拶しいつもの席に座る。

 鼻歌交じりとまではいかないが、顔は幸せをかたどっているようで、ママからは一目瞭然で少し嫌な顔をされた。

「いいことありましたよって、これ見よがしな顔ね」

「わかる? 」

 僕は事の次第をママに話した。

 単なるノロケ話なのだが、その一線を越えれば見事な運命的な出会いの話、嫉妬の念も無くなって、皆は興味津々に僕たちの物語を聞いてくれた。

 今日は俺のおごりだなんて言っておきながら、ビールの一杯だけをみんなにふるまい浮かれ気分。

 できるなら毎日でも会いたい。毎日でも体を重ねたかった。それは若さゆえの衝動ではなく、確かに感じる愛の形を見失いたくなかったからだ。

 でも、人生ってやつはそんなにうまくいかない。僕がうまくいっていても、必ず誰かが、外から、壊しにやってくるのだ。

「空いてる? 」

 聞き覚えのある声、今日は確か仕事が忙しいとのことだったのでそうでは無いとわかっていても、体は自然と声のする入口の方へと向く。

 そこには俺と同い年くらいの男を連れた、尚也の姿が見えた。

 完全に目が合った。あっちもどうしたらいいかオロオロしていたが、連れの若い男に引っ張られ店内へ、俺はというと、その空間に、状況に耐えることもできず、適当に金を財布から取り出しカウンターに叩きつけるようにしておいて、店を出る。

 その日家に帰る間も、次の日起きた時も、電話は遠慮しがちに、それでいてさびしそうに鳴っていた。

 表示される彼の名前に複雑な気持ちになりながらも、とりあえず会社に向かう。

 オートロックのマンションを出た道に向かい側、不安そうに携帯を握りしめた尚也の姿があった。

 急に現れたためか慌てふためいていて、僕はというと、言葉を聞くことすら怖くなって、逃げだすように歩きだした。

「孝幸待って!! 」

 必至そうな声に足を止める。

「その……昨日は、ゴメン。もうアイツとは会わないから、その……ゆるしてくれないか? 」

 震えた声は、誰よりもよわよわしく思えた。被害者である僕以上に、真に迫るものを感じた。

 しかし、それは勘違いだったのだろうか、一回目僕は素直に尚也を許した。

 また二人は仲好く毎日を送るが、たまに尚也は浮気をする。

 僕が見つけることもあれば、ゲイバーのママからの情報もあった。

 バイだからしかたないと言ってはどうしようもないが、女性と浮気をした時は本気で別れようと思ったのだが『二度としない』『絶対しない』『金輪際しない』『一生のお願い』、もう言ってない言葉が無いくらいに、彼は俺に謝罪を繰り返す毎日を過ごしていた。

 そして僕も、それを許してしまう毎日を、ボロボロになりながらも過ごしていた。


「これで何回目? 」

「えっと……八回目かな? 」

「八回目かな、じゃないでしょ、もういっそ別れちゃいなさいよ」

「彼だって反省してるし……」

「してたら八回も浮気しないわよ、しかも今度は女だって言うじゃない」

「料理できる人に弱いから」

「冷静に分析してんじゃないの」

 毎度いただくきついお叱り。それでも僕は彼を忘れられないし、絶対に戻ってくるから安心しきっている。

 どれだけ浮気しても、必ず最後には僕のもとにやってきて、謝って解決。

 それでいいと思っているし、問題ないとも思っている。

 でも、周りをそれを心配しているし、別れを進める。別れられないというと、頭を抱えて溜息を洩らす。そんなに酷い状況なのだろうか、僕は自身のことすらよくわからなくなっていた。

 九回目の浮気が終わり、またしても元の鞘に収まり、心配をしてくれた周りの友達に報告がてらバーに向かう。

 みんなはそれでも深刻そうに頭を抱え、そして僕に呪いをかけた。

「十回目の浮気がわかったら、許すにしても冷たい態度をとりなさい。いっかい悪いって思い知らせないと、いずれ捨てられるわよ」

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