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第二章・一話

二章ではボーイズラブ、メンズラブといった表現が含まれます。苦手な方はお戻りください。

 美大を出たものの、絵や彫刻で食っていけるほどの実力も実績も無いまま、出版社のとある雑誌のレイアウトやら構成を任せられる、少し有意義な、それでいて不満もない仕事につけて、まだまだ新人の俺は会議にとりあえず出席するだけのパシリ。なんだかんだで三年が経つ。

 そんなある日、隣の部署の高村花(たかむらはな)という女性から呼び出しを食らった。

 内容はかるいもので、同じ大学のOBだということを聞きつけて、今度ある学生作品を集めた個展に行かないかと誘われた。

 ゲイである自分からすれば、見ず知らずの女性と休日を共にするのは少し気が引けたのだが、対して予定もなく、人の申し出をむげに断ることのできない僕は、安請け合いしてしまう。

 僕はこの性格を半ば呪っていたが、今では全く逆の感情を抱く。運命の相手と再会したからだ。

「あっ」

 素っ頓狂な声を出して二人は互いを見る。先日ゲイショップで店主の変わりで店番をしていた人だと、僕は一瞬でわかった。相手も覚えがあるような無いような、もうしわけないような表情で名前を聞かれた。

「佐藤孝幸です。前、あの……お店で会って……」

「ああ!! 」

 思い出したように指をさして頭を上下に振る。

 花村尚也(はなむらなおや)四十二歳、定職には就いていない自由業、大学で非常勤講師をしたり、道端で似顔絵描いたり、絵画教室を開いたり、マンガのアシスタントに駆り出されたり、法廷画家までやったことがあるそうだ。

 彼が教えてる大学が大塚美術大学で、そこの卒業生だというところから会話の糸口を見つけ、どうにか話を盛り上げる。

 花はというと、二人を見るや否や、少し焦ったような表情で別行動を進言し、どこかへ行ってしまった。

 僕はと言うと、ここぞとばかりに焦っている。変な汗が背中を伝い、口の中はカラカラだった。

「にしても、今年の子は凄いね、頭のいいバカがいっぱいいるね」

 そう言って無邪気に笑う顔が好きだった。不精髭を撫でつけ、真剣に細部までをも丹念に見る目つきが好きだった。

 視線に気づかれないかと内申ドギマギしていて、始終行動に一貫性が無い様をさらけ出し、アタフタしてしまった。早く次の言葉が投げかけられないか、受身の姿勢も変わらない。

「特にこれ、織姫と彦星の作品、一緒になれば離れて、ふたつに分けると会えるなんて、とっても意地悪だけどロマンチックだよね」

 彫刻のことなんてわからなくて、月並みな言葉が口をついて足早に出て行く。

「ねぇ、お腹すかない? 」

 時間は午後二時、昼に花と待ち合わせ、食事もとっていなかったため、当然お腹はすいていたし、何より花村さんからの誘いを断るなんて無粋なこともできず、ふたつ返事で了承を示す。

 花とは別にデートでもなんでもなかったため、一言挨拶に行くと、後輩と盛り上がっている様子で、後腐れなく別れを告げることが出来た。


 そこからはもう雪崩のような一日だった。

 自分がゲイだと自覚して日は浅くないが、肉体の経験は少なく、月に数回行くゲイバーでも、相手を探すよりママとの会話の方が盛りあがてしまうため、相手もあいにくいなかった。

 花村さんと食事をとった後、部屋にこないかと誘われ、内心心臓が飛び出さんばかりだった。

 相手は自分がゲイだと知っているし、相手もバイで可能性が無いわけではない。

 ところがこうも上手くことが運ぶことなんてあるのだろうか、全てが終わった後、ベッドの上にいる今その時も疑ってしまう。

 僕はようやく、運命の相手と出会った。

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