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第一章・一話

 すぐ片づけるからと言って三十分、一行に片付いていないと思うのは夏の暑さによる厳格ではなく、もともと掃除が苦手な高倉真のせいである。

 美奈子はとりあえずと案内された部屋の隅で、その光景を見つめるだけであった。

 素人、いや、業務にかかわっていない人全てが、どれが必要なものでどれが不必要なものなのかは皆目見当がつかない。大きさがまばらな材木達が、奇麗に資格を保ってたてかけられてるだけで、それが少しずつではあるが、必要と不必要にわけられていく。その光景を見ているだけで、なんだか美奈子は楽しくなってきていた。

「あ、ごめんごめんお茶とか出すべきだったね」

「いえ、こっちが無理言って押しかけたようなものですから、お構いなく」

 そうですかと真は作業に戻るとしたとき、思い出したかのように材木の束を運んできた。

「こんなもんでいいんですか? 俺が提供できる廃材ってのは、加工失敗したやつだけで、丸太みたいなんは無理だけど……」

「いえいえ、十分です。ありがとうございます」

 そう言って美奈子は自分のカバンから彫刻に使う道具を引っ張り出し、あてがわれた机に並べ、材木を選ぶ。それを見て真は作業に戻る。

 更に三十分ほどして、真はようやく片付けを終えることが出来た。と言っても、必要と不必要に分類しただけで、乱雑に変わりはなかった。

 人のしていることが気になる真は、よく電車で新聞を覗いたり、携帯を覗いたりしてしまう。

 一言言えばいいのに、真はそっと美奈子の背後に近寄り、作業を見学する。

 下書きも無しに、いとも簡単に掘り進め、人の顔の形を作り上げていく。

 粘土やパイに顔を押しつけてできるような窪み程度の作品ではなく、まるで何か一枚のガラスを通して向こう側に、浮き出ている絵があるかのような繊細さ、細かくやすりで削っては、荒々しさの中に細やかな曲線を作っている。

「あ、」

「わっ!! 」

 声を漏らしてしまい、手を滑らせ、美奈子は左手の人差し指を少し切ってしまう。

 美奈子にとっては慣れてしまったもので、別段慌てるものではないのだが、原因を作ってしまった真は気が気でない。わーわー騒いで救急箱を探し、水道はこっちで、タオルがこれでと半ばはしゃいでいるようにも思える。

 ようやく見つかった救急箱から、消毒と絆創膏を取り出し、優しく看病する。

「大丈夫、痛くない? 」

「はい、平気です。いつものことですから」

 不器用な手つきで絆創膏を貼り終え、真は何度も謝った。美奈子は傷が浅かったためか、あまり怒ってはいなかった。むしろこのアクシデントで、距離が縮まって、居心地が良くなったと笑って話した。

 そして、気づいたように先ほどまで作業をしていた板を一枚持ってきて、真の目の前に突き出した。

「じゃーん」

「ん? 」

「わかりません? 」

 板の横から顔を覗かせ、美奈子は疑問符を浮かべる。

 同時に真も真剣に悩みだしたが、結局答えは出なかった。

「降参、正解は? 」

「ん~、似てないかー難しいな。正解は真さんでした」

「えー!! 俺? 美化しすぎじゃない? 」

「そうかな? 」

 言われて悪い気はしない。むしろ嬉しいくらいだ。真は内心ホッとしたのが半分と、嬉しさが半分ずつ介在していた。

「一応、お世話になるってことで、プレゼントです」

「えっ、マジ!? ありがとう」

 その後というものの、意気投合してしまい、真の仕事の話、美奈子の学校の話と、自分の身の上を語り出してしまった。

 真の材木店はフルオーダー制で、一般客や、起業の立案の際に用いられたりする。友達のデザイナーを呼び、お客さんや企業の形を図にしてまとめて、後は真が一人で仕上げるといった形だ。

 一点もので、特別な木を使ったりするため、一件の受注で結構儲かる。

 更には、フルオーダーが苦手、案が浮かばない人のために、手作り感を演出することを目的とした組み立て式の椅子やテーブル、棚などをこしらえることもある。

 ちなみに、ホームページのデザインも友達任せである。

 美奈子の方はと言うと、奔放な発想と、作るまでの時間、完成度の高さから将来を期待されたものの、調子にのって次々に大きな作品を作って行き、学校側の経営をひっ迫させていたようで、自ら材木店に頼みこんで、作品を作らせてもらいにきたとのことだった。

「あ、もうこんな時間、今日何もしてない」

「ほんとだ、俺も何もしてないな」

 少しの間があり、そして二人を同時に口を開く。

「明日が忙しそうだ……」

 二人は顔を見合わせ笑い合った。美奈子はわざと恭しく改めて挨拶をして、帰って行った。

 真はというと、受注のメールを確認しながら、なんだかすこし空虚な気持になっていた。

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