かつて浮気されたうえ婚約破棄された女ですが、今は前向き夫と幸せに暮らしています。
かつて私は婚約破棄された。
こちらに非はなくて。
けれども浮気されたうえ理不尽に切り捨てられてしまったのだった。
……でも、今はもう、折れてはいない。
「リーナ、見て! ケーキ焼いたんだ! 美味しそうにできたと思わない?」
「ええ、本当に。美味しそうな見た目ね」
「やった! 褒められたっ。えへへ、バナナケーキだよ」
なぜなら、婚約破棄の後、現在の夫である彼エイディに出会ったから。
彼との出会いは私を絶望の海から救い出してくれた。
彼と出会い、希望を知った。
彼と出会い、未来に光を見られるようになった。
「リーナさ、前、ドライフルーツ好きだって言ってたよね?」
「ええ、好きよ」
「だから! 今回は! ドライフルーツも入れたんだ!」
「そうなの? それは素敵ね、美味しそう」
「やややったー!」
どんな時も前向きで明るいエイディは、今も、日々私を励ましてくれている。
気の利いた言葉を発する、とか、愛を囁く、とか、そんないかにもなことをしてくれるわけではないけれど。でも、それでいいし、それがいいのだ。彼が彼らしい姿で傍にいてくれる、ただそれだけで、私は勇気を与えてもらえるのだから。
彼が彼として生きている姿を見せてくれていれば、それだけで、私はどこまでも勇気づけられる。
「じゃあじゃあ、早速食べる!?」
「そうしようかしら」
「分かった! じゃ、切るね! ……あ、飲み物どうする?」
「普通の紅茶がいいわ」
「はーい」
ちなみに、元婚約者の彼はというと、私を捨てた直後に浮気相手だった女性と婚約したらしい。しかし、その人と婚約して間もなくまたしても浮気してしまったそうで、かなり高額な慰謝料を支払わされたうえ婚約破棄されてしまったそうだ。
彼が痛い目に遭ったと知ることができたことは私にとっても悪いことではなかった。
もう他人である彼がどうなったとしても今の私には何の関係もないのだけれど、でも、自滅したのだと知れたことは不快なことではなかったしむしろ逆であった。
「淹れてきたよー」
「ありがとう」
「じゃ、切るね!」
「お願い」
「リーナにはフルーツ多めのところをあげるからね!」
「嬉しいわ」
「そんなそんなー、嬉しいのはこっちだよ! リーナに喜んでもらえるなら、そんなに幸せなことはないから」
私はこれからもエイディと共に生きていく。
どんな時も前向きな彼となら、きっと、山も谷も嵐だって……越えてゆけるだろう。
「いただきます」
「うんうん」
「……これ、美味しい」
「やったぁ!」
「優しい味ね。でもそこがいい、すごく好きだわ。ふわっとしていて、でも食べ応えはあって……こんなに美味しいなんて。こんなことを言うのは変かもしれないけれど……明らかに想像以上だわ」
「褒められたー! 大成功っ」
「お菓子作り上手いわね」
「えへへっ」
「これならいくらでも食べられそうよ」
「気に入ってくれた?」
「ええ、とっても」
「やったー!」
未来のことなんて誰もわからない。
私と彼がどうなっていくのか、その答えを知る者がいるとすれば神様くらいだろう。
でも、それでも、明るい未来を信じて歩むことはできる。
だから私はその道を選ぶ。
希望を信じ、希望を護る。そうやって生きていくつもりだ。確かなものなど何もなくとも、そこだけは変えるつもりはない。
「エイディも食べてみてちょうだいね」
「いい?」
「もちろんよ。美味しいものは一人で食べるより二人で食べた方が美味しいものなの、だから一緒に食べましょう」
「そう言ってもらえるなら食べるよ!」
「ま、そもそも、貴方が作ったものなのだしね」
「また作るからねっ」
「楽しみ。待ってるわ」
「嬉し嬉し嬉しいっ。最高の言葉をありがとうー! リーナ大好きっ」
◆終わり◆




