第五話.君の隣が、帰る場所
キスをしてからというもの。
凛は、遠慮というものを完全に捨てた。
朝。
「起きて」
カーテンを開ける音。
俺の部屋に立っているのは、当然のように凛。
「なんでいるんだよ」
「合鍵」
「いつの間に」
「昨日、おばさんからもらった」
うちの母、仕事が早い。
「ほら、着替える。遅刻する」
「見ないでくれ」
「今さらでしょ」
今さらってなんだ。
◇
学校。
教室に入ると、凛は迷いなく俺の隣。
そして、自然に指を絡めてくる。
「授業中」
「バレなければいい」
優等生のくせに。
休み時間。
女子たちが凛を囲む。
「最近雰囲気変わったよね」
「彼氏できたの?」
凛は一瞬だけ俺を見る。
そして、はっきり言った。
「うん」
教室がざわつく。
「誰!?」
凛は俺の手を引っ張った。
「この人」
一斉に視線が刺さる。
「えぇ!?」
男子からの嫉妬が痛い。
でも、凛は平然としている。
むしろ、俺の腕にぎゅっと抱きつく。
「文句ある?」
ないです。
◇
放課後。
例の交差点。
今はもう、怖い場所じゃない。
凛は赤信号で止まると、俺の肩に頭を預けた。
「ここ、嫌いだった」
「うん」
「でも今は好き」
「なんで?」
凛は少し笑う。
「ここで、本当の気持ち言えたから」
信号が青に変わる。
二人同時に歩き出す。
渡りきったあと、凛が立ち止まった。
「ねえ」
「ん?」
「約束、追加」
「なに」
「ケンカしても、絶対逃げない」
「うん」
「不安になったら、ちゃんと言う」
「うん」
「好きって、ちゃんと言う」
俺は笑う。
「それはもう毎日言う」
凛は照れながらも、小さく頷く。
「……じゃあ私も」
夕焼けの中。
凛は俺をまっすぐ見て言った。
「大好き」
胸がいっぱいになる。
あの日、もし少しでもズレていたら。
もし本当に終わっていたら。
今、この言葉はなかった。
俺は凛の手を強く握る。
「帰ろう」
「うん」
隣にいることが、当たり前じゃないと知った。
だからこそ。
この当たり前を、ずっと大切にする。
塩対応だった幼馴染は、
今日も俺の隣で笑っている。
それだけで、十分幸せだ。




