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第五話.君の隣が、帰る場所

キスをしてからというもの。

凛は、遠慮というものを完全に捨てた。

朝。

「起きて」

カーテンを開ける音。

俺の部屋に立っているのは、当然のように凛。

「なんでいるんだよ」

「合鍵」

「いつの間に」

「昨日、おばさんからもらった」

うちの母、仕事が早い。

「ほら、着替える。遅刻する」

「見ないでくれ」

「今さらでしょ」

今さらってなんだ。

学校。

教室に入ると、凛は迷いなく俺の隣。

そして、自然に指を絡めてくる。

「授業中」

「バレなければいい」

優等生のくせに。

休み時間。

女子たちが凛を囲む。

「最近雰囲気変わったよね」

「彼氏できたの?」

凛は一瞬だけ俺を見る。

そして、はっきり言った。

「うん」

教室がざわつく。

「誰!?」

凛は俺の手を引っ張った。

「この人」

一斉に視線が刺さる。

「えぇ!?」

男子からの嫉妬が痛い。

でも、凛は平然としている。

むしろ、俺の腕にぎゅっと抱きつく。

「文句ある?」

ないです。

放課後。

例の交差点。

今はもう、怖い場所じゃない。

凛は赤信号で止まると、俺の肩に頭を預けた。

「ここ、嫌いだった」

「うん」

「でも今は好き」

「なんで?」

凛は少し笑う。

「ここで、本当の気持ち言えたから」

信号が青に変わる。

二人同時に歩き出す。

渡りきったあと、凛が立ち止まった。

「ねえ」

「ん?」

「約束、追加」

「なに」

「ケンカしても、絶対逃げない」

「うん」

「不安になったら、ちゃんと言う」

「うん」

「好きって、ちゃんと言う」

俺は笑う。

「それはもう毎日言う」

凛は照れながらも、小さく頷く。

「……じゃあ私も」

夕焼けの中。

凛は俺をまっすぐ見て言った。

「大好き」

胸がいっぱいになる。

あの日、もし少しでもズレていたら。

もし本当に終わっていたら。

今、この言葉はなかった。

俺は凛の手を強く握る。

「帰ろう」

「うん」

隣にいることが、当たり前じゃないと知った。

だからこそ。

この当たり前を、ずっと大切にする。

塩対応だった幼馴染は、

今日も俺の隣で笑っている。

それだけで、十分幸せだ。

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