第四話.はじめてのデートは、手をつないで
「デ、デート、する?」
放課後の教室。
凛が、やたら真面目な顔で言った。
「え、今なんて」
「デート。嫌ならいい」
「嫌じゃない!」
食い気味で答えると、凛は少しだけ満足そうに目を細めた。
「じゃあ今週の日曜。駅前集合」
「了解です」
こうして、俺たちの“はじめて”が決まった。
◇
日曜日。
駅前の時計の下。
凛はすでに来ていた。
白いワンピースに薄いカーディガン。
いつもの制服姿とは違う、少し大人びた雰囲気。
思わず見惚れる。
「……なに」
「いや、可愛いなって」
一瞬固まる凛。
それから顔を真っ赤にして視線を逸らす。
「当たり前でしょ」
声が小さい。
そして、数秒後。
「……あんたも、まあ……悪くない」
遠回しすぎる。
でも嬉しい。
「で、どこ行く?」
「映画」
凛は俺の袖を掴んだ。
そして自然な動きで――指を絡める。
恋人つなぎ。
「え」
「嫌?」
「全然」
むしろ心臓が限界。
映画館までの道。
凛は一度も手を離さなかった。
むしろ、信号のたびに握る力が強くなる。
例の交差点に差しかかる。
一瞬、凛の足が止まる。
俺は何も言わず、手をぎゅっと握った。
凛も握り返す。
そして、小さく笑った。
「今日は、怖くない」
その言葉が嬉しくて、胸が温かくなる。
◇
映画の後。
少し暗くなった帰り道。
「楽しかった?」
聞くと、凛は少し考えてから。
「……うん」
それから、俺の肩にそっと寄りかかる。
「でも」
「ん?」
「映画より、あんたといる時間のほうが好き」
不意打ち。
顔が熱い。
「それ反則」
「反則じゃない」
凛は真剣な顔で言った。
「あの日、失いかけてわかったの」
立ち止まる。
夕焼けが、街を染める。
「私は、あんたがいないとダメ」
その言葉は重い。
でも、甘い。
俺はそっと凛を抱き寄せた。
「俺もだよ」
凛は一瞬驚いて、それから静かに目を閉じる。
「……キス、する?」
顔が近い。
距離、ゼロ。
俺はゆっくり頷く。
唇が触れた瞬間。
春の風が、優しく吹いた。
短くて、不器用で。
でも、確かに恋人のキスだった。
離れたあと、凛は真っ赤になって言う。
「これからも、隣にいる」
「うん」
「絶対、いなくならないで」
「約束」
指切りみたいに、小指を絡める。
塩対応だった幼馴染は、
今は俺だけに、とことん甘い。
でもきっと。
この甘さは、
一度失いかけたからこそ、生まれたもの。
俺たちは、ゆっくり歩き出す。
手をつないだまま。




