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第二話.君が離れない理由

目を覚ましてから三日。

俺はまだ入院中だった。

骨折はしていないが、全身打撲と軽い脳震盪。

医者曰く「奇跡的に軽傷」らしい。

そして――

「……まだいるのか?」

ベッドの横の椅子。

そこには今日も凛が座っている。

「なにその言い方」

「いや、学校は?」

「午前で帰ってきた」

即答だった。

凛はりんごを剥きながら、ちらりと俺を見る。

「ちゃんと反省してる?」

「え、何を」

「無茶したこと」

少し怒っているような声。

でも、りんごを切る手はやたら丁寧だ。

「凛を庇っただけだろ」

「だからそれが無茶だって言ってるの」

包丁を置く音が、やけに大きく響く。

「……もし、あんたが本当に死んでたらどうするつもりだったの」

視線が落ちる。

震えている。

「私……あの日、何もできなかった」

あの交差点の光景が、脳裏に蘇る。

凛は固まっていた。

動けなかったんじゃない。

きっと、怖かったんだ。

「凛が無事なら、それでよかった」

そう言うと、凛は顔を上げた。

目が潤んでいる。

「よくない」

きっぱりと。

「私は、あんたがいない世界なんていらない」

心臓が強く跳ねた。

凛は立ち上がると、ベッドの横まで来る。

そして――

ぎゅっと、俺の手を握った。

事故の日より、強く。

「もう、勝手にいなくならないで」

声が、小さい。

でも確かに震えている。

「……約束して」

「……約束する」

そう答えると、凛は少しだけ笑った。

本当に少し。

でも、今まで見たどんな笑顔よりも柔らかかった。

コンコン、とノックの音。

「失礼します」

看護師が入ってきた瞬間、凛はぱっと手を離す。

……が。

数秒後、またそっと握り直してきた。

「離さないって言った」

小声で。

「いや言ってないけど」

「今言った」

前より距離が近い。

明らかに近い。

塩対応はどこへ行ったのか。

「……退院したら」

凛がぽつりと言う。

「毎日一緒に帰るから」

「今も一緒だろ」

「もっと」

その「もっと」の意味を、俺はまだ完全には理解していなかった。

でも。

赤信号の向こうで、確かに何かが変わった。

凛はもう、気持ちを隠そうとしない。

それが嬉しくて、少しだけ怖い。

もしこれが夢だったら?

もしまた、失いかけたら?

俺は、凛の手を握り返した。

「今度は、俺がちゃんと守る」

凛は目を細めて、静かに言った。

「守らなくていい」

そして、ほんの少し照れながら。

「隣にいてくれればいい」

春の光が、病室に差し込む。

交差点で止まっていた時間は、

ゆっくりと、また動き始めていた。

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