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第9話 得たもの

今回は短めです。

むかしむかしの世界には、魔物がいませんでした。

だから、ヒト科の動物達は動物の中では1番強く、世界中のどこでも繁栄していました。

しかし、悪い神様である神ゾルフィアはその現状を見て嘆きました。

ヒト科の動物が1番強かったが許せなかったのです。

神ゾルフィアは魔素がいっぱい溜まっていた火山を噴火させました。

更に、その火山の麓で初めての魔物を作りました。

それが、今の魔王です。

その魔王は悪い神様から力を分け与えてもらい、各地で魔物を作り始めました。

ヒト科の動物達は為す術なくやられていき、世界の9割は魔王の支配下になってしまいました。

しかし、良い神様である神フェイリスはその現状を見て嘆きました。

神ゾルフィアが本来の秩序を破壊したことが許せなかったのです。

だからこそ、神フェイリスは勇者を誕生させました。

勇者はとても強く、魔物を次々と薙ぎ払っていきました。

お陰で、今では世界の3割に魔王を抑えることに成功しました。

今でも勇者は、世代交代しながら私達を支えてくださっています。

勇者と神フェイリスに感謝を捧げましょう。

おわり。



──外務大臣は手に取っていた絵本を閉じた。

これはアンファング王国立図書館にあった絵本の内のひとつを翻訳したものである。

子供向けの絵本にしては少し難しい内容であると感じたが、伝えたいことははっきりと伝わる。

2行にまとめると、

魔王悪いやつ。

勇者と神様バンザイ。

である。

恐らく子供のうちから勇者と神様は正義であると刷り込んでいるのだろう。

しかし、そういった情報以外にも重要な事実を入手することができた。

昔は魔王及び魔物がいなかったこと。

聖職者がいることを鑑みるに、神フェイリスを国単位で慕っていること。

そして1番重要なのは

世界の3割が魔王の支配下にあることである。

推測にはなってしまうが、人類は以外に魔王を追い詰めているのだろう。

確か、魔王の四大魔王幹部に負けたと言っていた。

即ち、四天王クラスを討伐しようとしているところまで話が進んでいるのだ。

興味深い情報が得れたと本を閉めようとすると、

「佐藤さん!!」

と私の名前を呼びながら民族学専攻の通訳者が駆け寄ってきた。

その声と様子から重要な情報を手に入れたに違いないと察した。

しかし、良い意味で予想は裏切られることとなった。

通訳者は興奮気味に語る。

「ありました…!ありましたよ!石油が…!!」

石油…!?

思わず目を見開く。

日本は現在、大きく2つの深刻な問題を抱えている。それは、石油不足と食料不足である。

石油が無くなればインフラは機能しなくなり国は崩壊し、食料不足に落ちいれば餓死者で日本が荒れることとなる。

その石油問題が解決出来るとなれば、外務大臣が落ち着いていられないのも必然であった。

1度息を整え、通訳者に詳細を聞く。

「石油はどこにあったんですか?」

未だに興奮している通訳者は語る。

「砂の国、ソルド国です」

砂の国…。

たしかに石油がありそうな環境である。

通訳者は続ける。

「最初に見つけた情報は、火の湖と呼ばれる場所がソルド国にあるという情報でした。魔法関連とも考えたのですが、鉄や金も存在する世界、石油があってもおかしくないと考え、火の湖についての情報を集め始めました。すると、ビンゴ。火を灯すと燃え続ける液体がゾルト砂漠に存在するという情報を得ました」

なるほどと外務大臣は相槌を打つ。

外務大臣の頭には、即座にソルド国に赴いて石油を掘削する権利を貰うことしか頭になかった。

それ故に、外務大臣は通訳者にその国の情報を求めた。

通訳者は頭を搔く。

「いやぁ、それがなんですがね」

急に羽切が悪くなる。

「どうやら、ソルド国は独裁国家らしく、良くない噂が耐えません」

外務大臣は不穏な気配を感じ取る。

「詳しくお願いします」

外務大臣は一通り通訳者からソルド国についての情報を得た。

世界で3位の軍事力を持つ。

王政ではなく大統領制に近い。

虐殺は当たり前。

そこらかしこに戦争をふっかけている。

植民地も持っている。

勇者に牽制され、現在は活動を控えている。

とのことだ。

…。

思わず心の中で叫ぶ。

(この国だけ時代感が違う…!やってることは帝国主義。中世ヨーロッパ程度の世界ではあまりにも時代を先取りしすぎている!)

外務大臣はため息を吐いた。

「これは、難航しそうですね…」

世界は魔王討伐の為に一致団結してるのではないかと、思わず愚痴りそうになってしまった。

「後でヴァイセ国王に確認しましょう。扱いにくそうな国ではありますが、なんとしてでも石油は手に入れなければなりませんからね」

そう言って外務大臣は椅子から立ち上がった。



──石油の情報を得てから直ぐに、王との面談を取り付けた外務大臣は、王座に座る王に一人で対面しソルド国との関係について確認し始めた。

通訳は王の側近である私達の案内人と通訳者に任せてある。

なお、勇者のように直接話せるようにはならないので、案内人を介しながらとなる。

王は重々しく言う。

「ソルド国と我々は貿易していない。あの国は異質だ。自国と属国のみの関係で経済を回しており、殆どの国はソルド国と関係を持っとらん」

そうですか…、と外務大臣は項垂れる。

王はしかもと続ける、

「あの国は魔王を倒すことを目標としていない。領地を広げることに躍起になっている。いくら魔王の力が弱まり驚異ではなくなり始めたとはいえ、強大な軍事力を他国の殲滅に使うとは惨めなものよ」

やはり、ソルド国はこの世界の人達からも異様な国と認識されているらしい。

「では、私達が赴いたとしても…」

王は頷く。

「あの国にとっては知らん国。その場で殺されるのではないか?」

あまりにも物騒だ。

外務大臣は頭を悩ませる。

その様子を見た王は、名案とばかりにあることを提案してきた。

「正直、あの国はこの世界に害あって一利無しだ。世界各国から嫌われとる。それらの国と力を合わせれば蹴散らすのも容易いぞ?」

「つまり…?」

王は微笑む。

「戦争じゃ」

外務大臣は非常に微妙な顔をする。

日本はそもそも戦争出来るほどの余力を持っていないし、戦争するためには石油がなければならない。

また、憲法上でも禁止されている。やり方次第では戦争しようとすればできるのではあるが…。

「ふむ。不安か?」

その問いかけに外務大臣は首を振る。

「いえ。戦争は最終手段といたしましょう。魔王もいる手前、人類同士で争うのは無益でしょう」

「ふむ、そうか」

といいながら顎髭を触る。

外務大臣は他の道を模索しようとした。

「確か、現在は勇者様の牽制により活動を控えているとありますが、一体勇者は何をしたのですか?」

簡単な事だ、と王は言う。

「次侵略行為をするようであれば容赦しないとソルド国に言い放ったのだ」

外務大臣は勇者に感心した。

「一国を敵に回してまでも戦争を止められたのですね。とても立派だ」

ですが無謀でもありますねと外務大臣は言う。

「ソルド国により勇者様が暗殺されてしまう可能性もあったわけですよね」

そう考察を述べると、王は豪快に笑う。

「それはありえないであろう。そもそもソルド国が勇者に勝てるとは思えない」

そう王は言い切った。

外務大臣は驚きを隠せない。

「一国の軍事力より、勇者様の方が強いというのですか?」

王はうむ、と肯定した。

外務大臣は認識を改める。

そして、ひとつ案を思いついた。

「もし、勇者様がよろしければ、一緒に同行してもらい、石油だけでも分けて貰うよう交渉するのはいかがでしょうか?」

その提案を王は否定する。

「勇者がいるだけでは石油を分け与えるような真似はしないだろう。自国領を荒らされるのはあの国の嫌いなことの1つであろう」

そう返されても外務大臣は冷静であった。

「確かに、無償で渡してもらうのは無謀でしょう。しかし、ソルド国は現在他国と貿易出来ていない状態ですよね。そんな中、欲しがるものなどたかが知れています」

王の目は、外務大臣を測ろうとする目に変わっていた。

「いくら自分達の経済圏を作ろうと、それだけじゃ賄えないものがある。それこそが、"情報"。未知の技術、情報がそこに転がって、その見返りが使い道のない黒い液体だとしたら、貿易せずにはいられないでしょう。即ち、私達の"情報"で石油を得ます」

王は外務大臣の考えを聞き、また豪快に笑った。

「気に入った。なんとも平和的な解決策であろうか。貴殿の意図は理解した。最大限助力しようではないか」

では、具体的な段取りに入ろうと、外務大臣と王が見つめあった時だった。

アンファング王国の一兵士が走って王の間に乱入してきたのだった。

兵士は酷く息を切らしている。

外務大臣は何回もこの光景を見てきている。

おそらく、朝倉優真の身に何かあったのだろうと推測できた。

しかし、外務大臣や王が想像した以上に事は深刻である。

その兵士は、到底理解し難い事実を我々に伝えてきた。

「勇者が…。勇者が死にました!!」

その悲痛な報告が場内に響き渡った。




──外務大臣と王は即座に、城壁の門へと向かった。

城壁の外側の門の傍には、横に並べられた兵士達と項垂れるボロボロになった日本国の者たちがたっていた。

王は叫ぶ。

「一体…!?何があった…!!!朝倉悠真!!」

悠真はただただ答えた。

「魔王が来ました」

と。

その答えは王には到底信じられるものではなかった。

「ここは魔王の生息地とかなり遠い、魔素の薄い土地!魔王なぞ現れるはずもない」

悠真は何も答えない。

王は感情をむき出しにする。

「信用したワシが馬鹿だった!!未知の力で勇者を殺したのであろう!お前らは魔王の使いか!?そもそも国ごと転移してきたという点で魔王の手先である可能性を考えるべきだった。勇者が油断している所を殺したのであろう…?勇者は世界の希望。貴様ら万死に値する!!」

王は冷静ではなかった。

勇者は文字通り希望。

勇者が居るから世界に安念がもたらされていた。

また、王と此度の勇者は親密な関係を構築していた。

頼りあえる仲間だったのだ。

だからこそ、王は冷静ではいられない。

しかしまた、悠真もまた冷静さを保てなくなっていた。

魔王を憎む気持ちで心が満たされる。

勇者は優しかった。

未知の人々の存在を受け入れ、外交が円滑に進むようにと配慮してくれた。

勇者は優しかった。

日本国の為に、私にスキルを譲渡してくれた。

勇者は優しかった。

ヴォルテクスと戦ってい間も私達を気にかけてくれた。

そんな勇者を殺した魔王を許せなかった。

悠真の瞳孔が極限まで開く。

「全てお話します。魔王が述べた言葉を一言一句正確に…!!」

悠真はダンジョン内で起きたことを詳細に、王に語るのであった。

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