第8話 ダンジョン観光2
腹にブルースライムの突進が当たった。
威力は、小学一年生のドッチボールの玉ぐらいだろうか。
痛くはなかった。
だが、非常に恥ずかしい。
こんなスライム程度に遅れを取るとは。
悠真は短剣を振り回す。されど、スライムに当たらず。
悠真の悔しそうな表情とただ剣を振り回す様子に、勇者は思わず声を出して笑ってしまった。
「ふふっ。適当に振り回してはダメだ。目をしっかりと開き、スライムをギリギリまで引き連れて攻撃しろ」
あのいつも無表情だった勇者が笑った。
その事実に気づく間もなく、悠真は勇者の指示通りにする。
ブルースライムがぴょこぴょこと突進してくる。
ブルースライムをじっとりと見つめる。
まだ剣は振らない。
ブルースライムが直前まで迫った。
だが、まだ振らない。
ブルースライムが小さい跳びを入れてから、ついに強く地面を蹴って腹へ突進してくる。
それを見て悠真は察した。
(タイミングをずらしてやがったのか…!)
しかし、直前まで目を凝らした悠真にそんな小細工が効くはずもなく、ブルースライムは悠真によって真っ二つにされた。
すると、ブルースライムは粒子状に分解され、とても小さい1粒の虹色の塊とブルースライムの残骸が地面に落ちた。
その光景を見ていた勇者は、悠真に拍手しながら褒め始める。
「見事だ。アドバイスをすぐにものに出来るとは優れた才能だ」
勇者に褒められ、悠真は少し照れる。
しかし、そんな調子に乗っている悠真に対し、勇者は容赦しない。
「あれらの魔物も討伐してこい」
と残酷なことを言い放ったのだ。
悠真は即座に前を見る。
そして気づく。
ブルースライムが数十体ほど押し寄せてきていることに。
え全部俺がやるんですかという顔を勇者に見せるが、頷きだけ返された。
逆に悠真の中に闘志が芽生える。
「やってやりますよ。なんだって日本国の王ですからね…!」
うぉぉぉと叫びながらブルースライムの群れへ突っ込み、悠真はひたすら剣を振ったのだった。
──ブルースライムの大群を処理してから約20分後。
悠真達は、既にダンジョンの奥深くまでに到達していた。
洞窟の奥なだけあって気温が低く、悠真は肩を震わせる。
そんな悠真を見た勇者は突然魔法を唱えた。
「ポカンズ」
勇者がそう唱えると、ダンジョンに潜っている全員の体感温度が上がった。
悠真は思わず聞く。
「今のは?」
「ポカンズ。暖かい外気を纏わせる魔法だ」
どうやら、俺を気遣って魔法を使ってくれたらしい。
「ありがとうございます」
礼を言う。
大したことじゃないと呟いた後、勇者は前を指差す。
その指の方向へ悠真は顔を向けた。
するとそこには一際大きな空洞が広がっていたのだ。
「ここが最深部だ」
勇者の一言で、ここが最深部であることに気づき、いつの間にか最深部に到達していたことに驚いた。
「体を冷やしていたらパフォーマンスを最大限発揮できないだろう?最深部にはボスがいる。心してかかれ」
勇者はそう言うと、悠真にさっさと奥へ行くように促してきた。
それに応えるように、悠真は
「分かりましたよ」
と返事をし、屈伸を挟んでから奥へ進んだ。
そして目の前の違和感に気づく。
「ブルースライムの群れ?」
目の前にはブルースライムが大量に居た。
それだけなら良かったのだが。
ブルースライムは1匹2匹と周りから続々と現れ始めどんどん数を増やしていったのだ。
その数100匹ぐらいだろうか。
流石にこの数を相手取るのは面倒臭い。
そう思っていたが、どうやら違うらしい。
大きな空洞の真ん中へ集まったブルースライム達がそれぞれ結合し始めていたのだ。
そして、どんどん大きくなっていく。
悠真はこれは不味いと直感で悟った。
多分、合体してパワーアップする奴だと。
手がつけられる前に倒そうとして駆けようとするが、既に遅かった。
100匹ぐらいのスライムはお互いに完全に接合され、大きな魔物へと成り代わる。
青いスライム状の人型モンスターへと姿を変えたのだった。
「くそ…。」
思わずつぶやく。
とりあえず、あいつの情報を手に入れなければと、鑑定をする。
《名前:ブルースライマン レベル:13》
俺よりレベルが上だ。
格上だと悟り、即座に臨戦態勢を取る。
しかしそんな最中、悠真の中で突然邪念が生まれてしまったのだ。
…なぜこんな強そうなやつと戦わなければならないんだと。
そもそもなんでダンジョンなんかに潜っているか。
その理由はレベリングに他ならない。
なぜレベリングをしなければならないのか。
それは、鑑定スキルを得るためだった。
鑑定スキルは、元の世界の人間から見れば破格の性能のスキルである。
そのスキルさえあれば、ちまちまと研究して情報を暴いていくという作業が必要なくなるからだ。
しかし、鑑定スキルを得るためには知力というステータスが必要だった。
そこで白羽の矢がたった、というより勇者が悠真なら鑑定スキルを覚えれると言ったことにより、ダンジョンに来てレベリングをする羽目になっているのだ。
そう、目的はレベリングなのだ。
なら、わざわざ剣で戦う必要なくね?
と悠真は気づいてしまった。
気づいた直後、悠真はすぐ後ろへ引き返し、自衛隊に意図を伝え、銃を貰った。
悠真は銃を構える。
ブルースライマンは何かを感じ取ったのか、全速力で走って悠真に拳を振りあげようとした。
しかし、間に合わない。
悠真はブルースライマンに向け、銃を乱射した。
激しい銃声が鳴り響く。
銃弾を一身に受けたブルースライマンはその場に倒れ込み、粒子状に分解されたのだった。
悠真はガッツポーズする。
そんな中、勇者と兵士たちは全く喜んでいない。むしろ恐れの感情の方が強いだろうか。
彼らは、悠真が持っている武器に目を奪われていたのだ。
勇者は考え込む。
(なんだあの攻撃は。魔力感知には引っかからなかった。あれは魔法ではない。つまり、日本国の主張する、''科学''というやつか。写真という一瞬して絵を残す道具といい、剛鉄の船といい、俺らの常識を超える道具がぞろぞろと出てくる。恐ろしいと言う他ない。恐らく、日本国はまだ実力を隠している)
日本国への懐疑は未だにある。
だが、その未知の部分にこそ、ヴァイセ国王並びに勇者は絶大な期待を抱いていたのだ。
この世界には共通の目標がある。
それは魔王を討伐すること。
先程の攻撃を見て、日本国は魔王を倒す力を持っていると勇者は確信した。
日本国に売れる恩は売っとくというアンファング王国の方針は間違っていなかったのだ。
ヴァイセ国王の聡明さに感動しつつ、その武器の強さを測ろうと、勇者は鑑定スキルを使用した。
勇者の鑑定スキルは最高レベルのLv10である。鑑定出来ないものはない。
しかし、なぜか鑑定スキルが発動しなかった。
勇者は頭を抱える。
鑑定スキルが発動しないことはたまにある。
それは相手が鑑定阻害魔法を使用していた時だった。
鑑定スキルはその武器のもつ固有の魔素を感知し情報を特定するスキルである。
鑑定阻害魔法はその固有の魔素を感知しにくくさせることにより、魔素を感じにくくさせる。
しかし、この武器には鑑定阻害魔法がかけられた形跡がない。
そのことから勇者はひとつの結論を得た。
勇者は悠真に質問する。
「それは、武器か?''科学''の」
悠真は頷く。
「えぇ。これは銃と言いまして、狙った方向に弾丸を飛ばせる武器です」
「そうか」
自身の推理が恐らく正しいことを察した。
あの武器は魔素を持たない、''科学''の武器なのだ。
魔素を持たぬのなら、鑑定スキルが発動しないのも納得ができる。
しかし、だとしたら1つ疑問が残る。
勇者は悠真を見つめる。
《名前:朝倉悠真
レベル:10
体力:20 +100
魔力:0
攻撃力:19 +200
知力:21
敏捷:19
幸運:28
スキル:鑑定Lv1》
やはり、人は鑑定出来る。
次に、悠真の秘書官と名乗る人物を鑑定する。
《名前:加藤千秋
レベル:1
体力:11
魔力:0
攻撃力:9
知力:14
敏捷:8
幸運:13
スキル:NA》
これらの結果から、日本国民は鑑定可能と考えるのが妥当であると判断した。
しかし、それこそがおかしなこと。
鑑定スキルは相手が魔素を有していないと鑑定出来ない。
なのに、朝倉悠真、加藤千秋の日本人2人はどちらも魔力がないのに鑑定できるのだ。
勇者は頭を悩ます。
もしかしたら、魔力感知ができていないだけなのかもしれないと仮定してみた勇者は、悠真に向かって小声で
「スイマ」
と唱えた。
この魔法は、相手の体内の魔素に関与する事により、眠気を催させるデバフ魔法である。
もし、朝倉悠真が体内に魔素を有しているのなら、急激に眠くなるはずだが。
……。
魔法が効いた様子はない。
これにより、魔素を有していないことは明らかになった。
勇者は一旦悩むのを辞めた。
そもそも国家ごと転移してきた異世界人なのだ。
常識が通じなことなどざらにあると納得して、悠真との会話に戻る。
「何はともあれ、討伐は成功した。そして、レベルも上がり、鑑定Lv2が習得可能となった。よって、今授ける」
そう言うと、勇者の体は淡く青く光り始め、その青い光が悠真の方へ向かっていった。
悠真は青い光を一身に受ける。
そして、悠真は自身のステータスを確認した。
《名前:朝倉悠真
レベル:10 (+3)
体力:20 (+2)+100
魔力:0
攻撃力:19(+3) +200
知力:21 (+4)
敏捷:18 (+0)
幸運:27 (+1)
スキル:鑑定Lv2》
…上がり幅がしょぼすぎる。
それは悠真が初めに思ったことである。
(俊敏+0って。レベル上がったのにステータスが上がってないのは流石に悲しすぎるだろ。)
悠真は自身の弱さを嘆いた。
勇者は悠真に確認する。
「鑑定Lv2は習得できているか?」
「はい。ありがとうございます」
悠真は頭を下げた。
これで目的は達成である。
勇者はもうここでやり残した事はないと判断し、全体に声をかける。
「目的は果たされた。これより帰還…」
その時だった。
鼓膜を揺らす鈍い轟音とともに、砂煙と衝撃波が洞窟を駆け抜け、大地が悲鳴を上げたのは。
悠真は反射的に顔を覆う。突如として視界を奪われ、肺が焼けるような塵の臭いに咽せた。
「……うぐッ!!」
砂煙の向こうから、聞き慣れない勇者の苦悶の声が響く。
悠真が必死に目を凝らすと、そこには異様な光景が広がっていた。
砂煙を切り裂いて佇むのは、蒼き鱗を持つ巨大な龍。その顎には、無惨に噛みちぎられた勇者の右腕が、未だ温かい血を滴らせながら加えられていた。
「下がっていろ! あいつはヴォルテクス……四大魔王幹部の一人だ!」
右腕を失いながらも、勇者――レオンは悠真たちを庇うように叫ぶ。
兵士たちが震える手で剣を構え、悠真を後退させようとするが、悠真は腰が抜けて動けなかった。
洞窟内に、ポタポタと一定のリズムで血が滴る音が響く。平和な日本で育った悠真にとって、目前で人間が損壊するという現実は、思考を停止させるに十分な劇薬だった。
「どうやってここへ来た……! 魔素の薄いこの場所に、幹部級の魔物が来れるはずがない!!」
レオンの問いに、蒼き龍は噛み砕いた腕を吐き捨て、冷酷に告げた。
「単純明快。お前を殺すため」
直後、ヴォルテクスが咆哮する。
「"古代の大渦"!」
龍の口から、超高圧の水流が巨大な螺旋となって放たれた。岩壁を削り、空気を引き裂く一撃。
だが、レオンは左手一本でそれを迎え撃つ。
「"バギクロス"!」
放たれた真空の嵐が水流を飲み込み、力技でヴォルテクスを壁へと叩き伏せた。
「やはりな。魔素濃度の低い環境では、貴様らの実力はその程度か」
レオンは無表情に言い放つと、欠落した右腕を天に掲げた。
「俺に傷をつけた程度で、勝ったつもりか?」
その言葉が終わらぬうちに、断面から肉芽が沸き立ち、骨が伸長した。瞬く間に、新たな右腕が再生される。
レオンは迷わず剣を抜き、ヴォルテクスに突きつけた。
「ここで貴様を処分できるのは、むしろ好都合だ。死ね」
だが、ヴォルテクスの視線は勇者を見ていなかった。その先にあるのは、洞窟の天井。
「――ッ、狙いはそれか!」
再び放たれた"古代の大渦"が、天井を支える岩盤を粉砕しようとする。崩落すれば、全員が生き埋めだ。
「《マックスガード》!」
レオンは即座に防護魔法を展開し、洞窟全体の強度を魔力で強引に引き上げた。だが、その守りの瞬間に生じた一瞬の硬直を、ヴォルテクスは見逃さない。
「"蒼き流星"」
蒼い閃光と化した龍が、防護魔法を維持するレオンの胸元へ肉薄する。
しかし、レオンは勇者だった。複数の魔法を制御しながら、なおその剣撃は衰えない。
「"水一閃"!」
滝のごとき太刀筋が、突進する龍を真正面から切り伏せる。
競り合う剣と牙。レオンがじりじりと龍を押し返し、勝利の確信が場を支配した――その刹那。
「……魔王!?」
レオンの声が裏返った。
背後。いつの間に現れたのか、そこには全てを飲み込むような黒いオーラを纏った「魔王」が、静かに立っていた。
「"混沌への誘い"」
魔王が囁くように呪文を紡いだ瞬間、レオンの身体から全ての力が抜け落ちた。
誇り高き勇者の身体が、まるで糸の切れた人形のように崩れ始める。
「実に愚かな勇者よ。お前の敗因は、人類自らが発明した『魔力を蓄積する指輪』にある」
魔王は嘲笑を浮かべ、指に嵌められた指輪を見せた。
「例え魔素が薄い環境であっても、魔力がありさえすれば本来の力は出せる。私たちは魔素が薄い環境でも行動できるようになったのだよ」
魔王は豪快に、そして不気味に笑った。
「勇者が人類の発明に殺されるとはなんとも皮肉であろうか。しかし、安心しろ。元の指輪の性能だけでは決してこのようなところには来られなかった。お前らの指輪では魔力の蓄積量に限界があったのだよ。そこで、その指輪を改良し、ほぼ無限に魔力を貯蓄できるようにした。だが効率面は最悪だった。この魔法の為に全力を尽くして数年かかったのだからな。"混沌への誘い"が究極魔法である事も一因だが…。何が言いたいのかって?つまり、魔物と人類の共同制作品に殺されて可哀想だなってことだよ」
魔王が語り終えたとき、ヴォルテクスが脱力したレオンの首へ、無慈悲に食らいついた。
凄まじい音とともに、勇者の首と胴体が分かたれる。
鮮血の雨が降り注ぐ中、魔王の独白だけが、壊れたレコードのように洞窟内に響き渡った。
「縺ゅ>縺⿔縺薙l縺ッ……繧ゅ≧縺縺縺代↑縺シ迢ャ繧翫〒縺ッ縺ェ縺縲√◎繧後?∬ェー繧ら衍繧峨↑縺縺ッ縺壹□縲蟄伜惠縺励↑縺シ√≠繧翫∴縺ェ縺シ∬ェー縺?縲∬ェー縺?縲∬ェー縺?シ繧上◆縺励?縺薙%縺ォ縺?繧九?縺九i縲√%縺薙↓縺?繧九?縺九i縲』…」
その笑い声は、もはや知性を持つ者のそれではなく、世界そのものが壊れていくような、禍々しいノイズに満ちていた。
──目の前の光景に悠真はただただ震えていた。
勇者の首は壁へと直撃し潰れ、勇者の胴体はそのまま力なく倒れた。
いや、しかし、きっと、勇者なら。
すぐに立ち上がってくれるだろう。
勇者は右腕を一瞬で生やしていた。
頭から体を生成するのか、体から頭を生成するのかは分からない。
だが、きっと、必ず、勇者なら復活するはずだ。
だから。なぁ。
早く生き返ってくれよ勇者レオン。
…悠真の願いは届かない。
悠真達を守っていた兵士達は、剣先を魔王立ちに向ける。
それを見た魔王は人差し指を立てた。
すると、前にいた兵士達が即座にバタバタと倒れ始める。
そして、俺たちを方を向いたが特段何もせず、魔王とヴォルテクスがお互い首を傾けながら何かを話し合っていただけだった。
このダンジョンにおいて、自衛隊の指揮権は悠真が預かっていた。
少しでも応戦しなければならない状況、次殺されるのは自分たちなのだから早めに手を打たなければならない現状なのに、悠真は自衛隊に指示を出すことが出来ず、自身も魔王に立ち向かえないでいた。
未だに魔王と蒼き龍が話し合っている。
何を話しているのかはさっぱり分からない。
その事実に悠真は泣きそうになる。
なぜなら、スキル相互理解が働いていないことを理解したから。
つまり勇者は…。
そんな涙目になっている悠真の肩にそっと手が置かれる。
悠真は振り向く。
そこには千秋が居た。
千秋は耳元で呟く。
「次殺されるのは私達でしょう。何を話し合っているのかは分かりません。しかし、油断しているのは事実。もしかしたら、銃を使えば、少しでもダメージを与えられるかもしれません」
千秋はひと呼吸置く。
「自衛隊に指示を」
千秋の言葉に悠真は冷静さを取り戻した。
やらなければやられる。
その事実を理解した今、悠真のやる事は決まっていた。
自衛隊に指示を出そうとする。
しかし、悠真は動きを止めてしまった。
…なぜなら魔王が我々を直視していたからだ。
悠真は死を悟った。
悠真は魔王の迫力だけで気絶しそうになる。
しかし、予想とは裏腹に魔王は何もしてこなかった。
その代わり、魔王は指を鳴らす。
そして、何かを取り出した。
──天使の人形…?
魔王は天使の形をした人形を取り出していた。
魔王がそのアイテムを掲げると異変が起こる。
魔王と蒼き龍が光だして、姿を消したのだった。
悠真は周りを確認する。
…消えた?
あれは何かのアイテムだろうか。
そしてピンとくる。
"天使のお迎え"…!
勇者がヴォルテクスから逃亡する際に使ったアイテムが、瞬間移動できるアイテム、天使のお迎えだったはず。
奴らはそれを使い瞬間移動してきたということか。
そのように考え込んで込んでいたからだろうか。
千秋が耳元で何度も叫んでいることに気づけずにいた。
しかし、
「総理!…総理!!」
千秋の懸命な声がけによって、悠真は我に返ることができた。
前を向くと、そこには、倒れている兵士達と勇者の元へ駆け寄っている自衛隊と千秋の姿があった。
千秋は力強く言う。
「この兵士達はまだ生きています。迅速にダンジョンの外へ運びましょう」
そう千秋が提案した直後だった。
複数の足音が、いや、複数と言うには少なすぎる。数百の足音が入口方面から響いてきたのは。
その音は次第に大きくなってきていた。
こっちへ向かってくる。
そんな中、自衛隊の1人がその真相に辿り着いた。
「魔物…!」
その言葉を聞いた瞬間、悠真の意識が覚醒する。
悠真は自衛隊に対して指示を出した。
「総員構えろ!!」
悠真の令に、自衛隊は迅速に対応し陣形を組む。
悠真は続ける。
「恐らく魔王の魔法により魔物が押し寄せてきている!狙いは俺たちと兵士たちの始末。なんとしてでも、この空洞を死守する!」
悠真は勇者から貰った剣を構える。
そして、力強く言った。
「俺たちは生きてこの惨状を報告する義務がある!」
俺たちは生き残らなければならない。
魔王はもう、どこにでも現れるようになってしまったことをこの世界の誰かに伝えなければならない。
俺は生き延びなくてはいけないんだ。
魔物が入口まで迫ってきていた。
悠真は息を深く吸う。
そして、
「撃てぇ!!!!」
と腹から叫んだのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本作をもって「勇者編」はひと区切りとなります。
次章では視点を変え、日本の内政面や異世界各国の実情面などの側面にも焦点を当て、物語を描いていく予定です。これまでとはまた違った展開をお楽しみいただければ幸いです。
皆さまからの評価やご感想は、何よりの励みになります。もし感じたことがありましたら、ぜひお寄せください!
今後とも、本作をどうぞよろしくお願いいたします。




