第7話 ダンジョン観光1
石で舗装された道の上を、豪華に装飾された赤い馬車が堂々とゆっくり進んでゆく。
その後ろと前には、少し格の落ちた馬車が豪華な馬車を守るように囲っていた。
その様子は、一目見ただけで王族が移動していると直感させる。
そんな馬車達が城壁の門へと、がらがらがらがらと向かってゆく。
朝倉悠真は、そんな豪華な馬車の中にいた。
外交目的できただけなのに、なぜこんな豪華な馬車に乗り、国の外に出ることになっているのか。
それはダンジョンに行くことになってしまったからに他ならなかった。
悠真は隣に座る千秋に心情を吐露する。
「ダンジョン…。本当に私が行かなければならないんですかね?これでも内閣総理大臣ですよ?」
悠真の不満に対して千秋はふふっと笑う。
「私達が望んだ1番のものと、情報が得られますからね。アンファング王国のご好意ですよ。ほとんど、アメリカの首相とゴルフする事と変わらないですからね。」
その意見に即座にツッコむ。
「違います。主に危険度と未知度が。」
なんだよ、ダンジョンって。
魔物の巣?
そいうのは冒険者や勇者の担当だろう。
そんな悠真の心情を感じ取ったのか、向いに座っていた勇者が、冷静に諭す。
「あのダンジョンは絶対に安全だ」
絶対ほど怖い言葉はないのだが。
もちろん、直接そんなことを勇者に言わないが、少しぐらい不安を吐露したっていいだろ。
「まぁ、危険性の無さっていうのは、統計的にも論理的にも納得しましたよ。ですが、心が追いつかないんです。」
そう言う悠真に対し、勇者は
「俺がいてもか?」
とクールに返してきた。
しかし、それでも不安だと悠真は頷く。
「実際、どれくらいレオン様がお強いのかっていうのはイマイチ分かっていませんからね。確か、四大魔王幹部?というのに敗北なされているのですよね?」
悠真の確認に、無表情で勇者は「あぁ」と返し、続ける。
「あの時は少し調子に乗っていた。俺たちは、四大魔王幹部の1人、グランドゴーレムを撃破したばかりだったからな」
俺たち…?
勇者は1人だけではないのか?
「レオン様は、パーティーを組んでらっしゃるのですか?」
勇者は頷く。
「俺らは、魔法使いのアニャ、戦士のソルドス、僧侶のヒスト、そして、俺勇者のレオンでパーティーを組んでいる。」
「今は何処に?」
「それぞれ修行中だ。何処にいるかはよく分からない」
結構自由主義のパーティーなんだなと悠真は思った。
それよりも、
「あ、話の腰を折ってしまいすみません。つまり、四大魔王幹部に敗北したのは調子に乗ってしまっていたからということですか?」
勇者は少し俯く。
「その通りだ。調子に乗ってた俺らはレベル上げを然程せずに、実力に見合わないダンジョンへと足を踏み入れてしまってな。」
勇者は続ける。
「途中までは順調だったんだが、思ったより体力と魔力を消耗してたようで、そこに待ち伏せていた四大魔王幹部の1人、ヴォルテクスに惨敗してしまった。」
「惨敗…。もしかして、死者が?」
勇者な首を振る。
「いや、何とか一命は取り留めたのだが、''天使のお迎え''を消費してしまった」
「その''天使のお迎え''とは?」
「使用すれば瞬間移動できる超絶レアアイテムだ。それを逃亡に使ってしまった。とても勿体ないことをしたと後悔している。」
「なるほど」
悠真はある程度勇者の現状について理解した。
「ヴォルテクスには負けてしまったとはいえ、グランドゴーレムは討伐しているから、強い事は間違いないんですね?」
「あぁ。少なくともここら辺の魔物に遅れを取ることはない。あの、写真?に映っていたクラーケンでも一瞬で片付けられる。」
あのクラーケンを一瞬で…。
それは相当強いなと悠真は確信した。
指輪の力で攻撃力が+200になっていた悠真のパンチでは、吹っ飛ばすことしか出来なかったことが勇者の強さの証明だ。
そして、ふと気になった。
「レオン様のステータスってどれ程なんですか?」
思えば、ステータスを聞けばだいたいの強さなんてすぐに分かった。
その問に、勇者は少し悩んだ素振りを見せた後、何かを決断した顔つきになる。
そして、ハッキリと答えた。
「ステータスを見せる行為は、本来ならば自分の弱点を曝け出す愚かな事だ。しかし、信頼の為なら見せよう。他言無用で頼む。」
そう言い、勇者はステータスオープンと唱えた。
本来ならステータスオープンと唱えるだけでは他人にステータスが見られることはない。
しかし、勇者のステータスは、悠真と千秋の目にハッキリと映し出された。
その驚愕のステータスが。
《名前:レオン・ルーラ
職業:勇者
レベル:68
体力:2032
魔力:653
攻撃力:1109
知力:13004
敏捷:923
幸運:1021
スキル: 相互理解Lv10、状況把握Lv9、直感行動Lv10、危険察知Lv8、索敵Lv6、鑑定Lv10未来予測Lv4、戦況解析Lv7、感情読解Lv5、剣術Lv10、魔術Lv4、武器熟練(全種)Lv9、徒手格闘熟練Lv6、闘気操作Lv8、会心強化Lv7、連続攻撃Lv6、反撃強化Lv5、対人戦適応Lv8、対魔物特攻Lv7、弱点看破Lv4、格上キラーLv8、成長加速Lv7、起死回生Lv6、英雄の意志Lv9、物理耐性Lv8、魔法耐性Lv7、火炎耐性Lv8、氷結耐性Lv5、雷撃耐性Lv4、状態異常耐性Lv5、呪詛耐性Lv6、精神汚染耐性Lv7、即死耐性Lv5、環境適応Lv6、魔力制御Lv9、高速詠唱Lv7、無詠唱補助Lv4、複合魔法構築Lv6、属性親和Lv5、魔法拡散Lv3、魔力回復強化Lv8、魔力感知Lv10、自己再生Lv7、疲労耐性Lv6、致命傷軽減Lv5、自然治癒促進Lv8、味方強化Lv7、指揮統率Lv6、戦場支配Lv5、士気高揚Lv8、生存術Lv8、隠密行動Lv5 …》
圧倒的なステータスと莫大なスキル量…!
悠真と千秋は空いた口を塞ぐことは出来なかった。
ステータスの数値がおかしいのは確かだが、何より1番目を見張るのは、スキルの量。
スキルの量が多すぎるせいで、ステータスウインドウが馬車の下まで突き抜けて途中までしかスキルを見ることが叶わなかった。
まさに圧巻のステータスであった。
そんな悠真たちの心情を知ってか知らぬか勇者は補足する。
「俺の最大の武器は圧倒的知力。知力はスキルや魔法の習得率、習熟率の速さ、習得可能制限を表す。ステータスが1つでも1000を超えれば、最上位の冒険者と評される。俺はそれを凌駕する10000以上の知力だ。」
最上位の10倍以上…!?
心臓が早く脈打つ。
これが、圧倒的強者に対面した際に感じる鼓動なのだろうか。
悠真は冷静ではいられなかった。
絶対にこの人には逆らわないとそう決めた。千秋が心配そうにこちらを見つめる。
「大丈夫ですか?体がピクピクしていますが?」
千秋に心配されていることに気がついた悠真は、気丈に振舞おうとクールに返事をしようとする。
「あぁ、いや、全然、まったくもって、大丈夫、では、あります。いやぁ、勇者様はお強いですな。」
逆効果だった。
そんな悠真を見て、勇者は流石にやり過ぎたかと反省する。
「そこまで過剰に反応されるとは思っていなかった。俺は勇者であるから、ある程度ステータスが高いことは予想が着いていたと思うが。」
その勇者の呑気な発言に悠真は突っかかる。
「私達の元の世界では、そんなステータスなんて見たこと無かったんです。ましてや、ステータスが+200上がる程度の指輪を貰った程度で、私達は自身のステータスの20倍だ!って騒いでいたんだから驚かないのは無理な話でしょう。」
勇者は顎に手を当てる。
「確かに。それは配慮が足りなかった。謝罪する。つまり、知力だけでいえば約5000倍程度の差があったのか。驚くのも無理はない。」
なんか微妙にムカつく言い方をしてくるが、恐れ多い存在になってしまったからツッコむことは叶わなかった。
悠真が気長にそんな事を考えていた直後、勇者は無表情から真剣な面持ちへと変えた。
そして語る。
それでも魔王には及ばない
強くならなければならない
と。
───初めのダンジョン。
悠真達の乗っていた馬車は、山の表面にある大きな洞窟の入口の前で動きを停めた。
勇者は、ダンジョンに着いたことを感知し、馬車の扉を開け悠真達に着いてくるよう指示する。
その指示に従い馬車から降りた悠真は、生まれて初めてダンジョンというものを目にすることとなる。
悠真は、ダンジョンと聞いて思い浮かべるのが古代遺跡のようなダンジョンであった。
それを期待していたからだろうか。
初めて見たダンジョンは思った他拍子抜けであった。
一言で表せば、ただのでかい洞窟である。
悠真は微妙な顔をした。
その顔見た千秋は悠真に話しかける。
「拍子抜けでしたか?あれだけダンジョンを怖がっていたのに?」
恐らくからかっているのだろう。悠真は乾いた笑いをする。
「現実とゲームは違うのは当たり前ですよね。ですが、ダンジョンはダンジョンですから気を引き締めていかないと」
そんな風に千秋と話していると、兵士と話し終えたらしい勇者がこちらに向かってくる。
「心の準備は出来たか?」
悠真は頷いた。
「なら出発だ」
と颯爽と勇者は歩いていった。
それに悠真と千秋は続き、その後ろに自衛隊5名が続いた。
その後ろに続くのはアンファング王国の兵士であった。
───ダンジョンを歩いて5分。
ずっと緊張状態で歩いていた悠真は、たった5分しか歩いていないのに、もう30分以上歩いていたのではないかと錯覚していた。
無理もない。初めてのダンジョンなのだ。
ダンジョンの見た目はただの洞窟であったが、中に入った瞬間、独特な雰囲気に気を引き締めらずにはいられなかった。
ちなみに、このダンジョンの名前は「初めのダンジョン」らしい。ほんとに初級中の初級ダンジョンなのだそうだ。
そんな緊張状態の最中で、少し疲れ始めていた悠真に、突然勇者が声をかけてきた。
「魔物だ」
と。
その言葉に、緊張状態であった悠真が更に緊張状態へと移行する。
そして、その極度の緊張状態を更に締め付けられる発言を勇者がする。
「朝倉悠真、出番だ」
と。
出番…?
その勇者の発言を何度も噛み締め、やっと理解する。
(俺が戦えということか!?)
流石に無理があった。
動物とも戦ったことがないのに、魔物と戦えと?
悠真は体を震わせる。
そんな悠真の震えを見た勇者は、少し悩んだ素振りをした後、口を開く。
「まずは、自身のステータスの確認をしてみろ」
勇者の発言の深い意味を考えずに、悠真は言われるがままステータスを確認した。
「ステータスオープン」
その言葉の直後、悠真の前にステータスウインドウが表示された。
そのステータスウインドウは、国会で初めて見たものと一見は同じであった。
しかし、軽快な効果音と音声により自身のステータスの変化に気づく。
【テテテテーン!シルゼクルーケン】
突然脳に響いた効果音と音声に思わず頭を抑える。
電子音…?と女性の声。脳内に何か埋め込まれたか?
そんな悠真の様子を見た勇者は
「やっぱりか」
と呟く。
しかし、そんな勇者の発言を気にしている場合ではなかった悠真は、自身の表示されたステータスをじっくりと見る。
《名前:朝倉悠真
職業:NA
レベル:7(+6)
体力:18 (+5) +100
魔力:0 (+0)
攻撃力:16 (+6)+200
知力:17 (+7)
敏捷:18 (+9)
幸運:27 (+11)
スキル:NA》
…レベルが上がっている。
何故レベルが上がっているのだろうか。
少し思考した結果、即座に結論を出す。
「クラーケンを討伐したからか…?」
悠真の呟きに勇者が反応する。
「その通りだ。魔物を討伐すると経験値が手に入る。一気にレベルを6向上させるとは並大抵のことじゃない。クラーケンは相当手強い敵であったということか」
なるほど。魔物を討伐するとレベルが上がる仕組みなのか。
だが、気になることがある。
「私が討伐した訳ではないのに経験値が入っている。つまり、戦闘に関わった人は全員レベルアップするということですか?」
勇者は頷くが、少し訂正する。
「経験値は全員貰えるが、貢献度によって貰える経験値が変わってくる」
貢献度。
恐らく、俺のアッパーがクラーケン討伐には不可欠だった。だから+6レベルも上がることになったということだ。
勇者がすごいと言っているのだから+6レベル上がった俺は相当貢献したんだろう。
だが、ステータスが向上したからこそ受け入れなければならない事実もあった。
「Lv100にしても、このステータスの上がり幅じゃ全く強くなりませんね」
そう。あまりにも貧弱な上がり幅だった。これじゃあいくらレベルをあげようと勇者にはかないっこがない。
現実に叩き止めされていた悠真に勇者は新たな情報を提供する。
「その原因は恐らく、職業に付いていないからだ」
職業…?
「それって何ですか?」
「後で王国に戻ったら話そう。それより前を見ろ」
その勇者の言葉通り、悠真は前を見て気づく。
悠真の数メートル先、そこには青いスライム状の魔物が居た。
その姿を見た悠真は恐れよりも安心を得た。
(序盤にありがちな敵…!最初に戦う敵っていうのは世界共通なのかもしれない。なんか倒せそうな気がする。)
悠真は自信が湧いてきた。
そして、悠真は拳を上げる。
そんな素手で戦いに行きそうな悠真を見た勇者は、これを使えと剣を渡してきた。
「それは鉄の短剣だ。あと、これも授ける」
そう言った勇者が急に青く淡く光り出す。
そして、勇者から漏れ出た青い光が塊となり悠真を包んだ。
「な、何を?」
思わず警戒してしまう。
怯える悠真に対して堂々と言う。
「鑑定Lv1を授けた。もう少しレベルが上がればLv2も習得可能だ」
鑑定Lv1、スキルのことか。
勇者はスキルの譲渡までできるのかと悠真は感心した。
勇者は使い方を補足する。
「鑑定したいと思えば、鑑定したいと思った物に対しての情報が知れる。やってみろ」
悠真はスライム状の魔物をじっと見つめる。
そしたらその魔物の隣にステータスウインドウのようなものが移り出された。
《名前:ブルースライム レベル:2》
なるほど、魔物の名前とレベルを知ることが出来るのか。
悠真はブルースライムの方へ向かって、短剣の先を向ける。
そんな悠真の様子を見たブルースライムは、悠真に向かって一目散に動き始めた。
ぴょこぴょことジャンプしながら悠真へ向かって突進してきたのだ。
悠真は勝ちを確信する。
(ジャンプの規則が一定だ。動きが単調だから剣をどこに刺せば当たるのかが分かりやすい!クラーケンに比べれば序盤の敵…!)
短剣を後ろへ引いて構える。
ブルースライムが悠真の目前まで迫った瞬間、
「そこだ!」
と短剣を突き出した。
だがしかし、何かを突き刺した感触はなかった。
あったのは、腹に何かが当たった感触だけだった。




