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第5話 戦果

あまり知られていないことだが、実は衝撃というのは空気より水の方が伝わりやすい。

つまり、水の中にいる方が、地面に立っている時よりも大きな衝撃を受けるということだ。

クラーケンに特大アッパーをかまして、その反動で背中を思いっきり海面に叩きつけた朝倉悠真は、イージス艦によるクラーケン爆撃の余波の衝撃に追い打ちをかけられていた。

その衝撃は、トラックが全速力でぶつかってきた状況を想起させた。

それでもまだ意識が保てているのは、絢爛の指輪の効果、体力+100のお陰であろう。

悠真は最後の力を振り絞り、海面に向かって泳いだ。攻撃力+200はここでも活きたようで、以外と楽に海面から顔を出すことに成功した。

辺りを見回してみると、数百メートル先にイージス艦の姿がある。

クラーケンが爆破されたと推定されるところには、クラーケンの残骸と思われる触手と枠組みが金色で彩られた赤い宝箱が浮かんでいた。

……宝箱!?

思わず驚いてしまう。

敵を倒したら、宝箱が出る。まるで、RPGの世界ではないか。

そう思っていたら、

「総理ー!」

スピーカー越しの声がイージス艦の方から聞こえてきた。

それに悠真は手を振って応え、イージス艦に向かって泳ぎ出す。

平泳ぎでイージス艦に向かっていると、救命ボートが迎えに来てくれて、そこに乗っていた自衛隊に救出されイージス艦へと再び戻ってきた。

海将後藤と千秋はずっと悠真の無事を祈っていたようで、元気そうな顔を見るやいなや、ほっと一息を着いた。

そして、後藤は豪快に笑う。

「ガッハッハッ!実に良かった!総理が生きていてくれて。爆発の余波でこのイージス艦が大きく揺れた時は、生きた心地がしなかった!」

それを見て千秋がため息をつく。

「笑い事では無いんですよ?いくら絢爛な指輪の効果があるとはいえ、こんな危険な作戦を取らなければならなくなってしまったのは我々の落ち度ですよ?」

悠真は頭をかく。

「あはは。でも、流石にこれを予想できたら苦労しませんよ。それに、恐らく現状の日本の武器だけでは、どんなに準備したところでクラーケンの対処は出来てないでしょう。」

距離さえ離れてしまえば、いくらでも高火力な武器をブッパなせるのだが、近ずかれてしまうと何も出来ないのが、この世界では致命的な弱点なのだろう。

それと、と悠真は思い出す。

「宝箱?のようなものが落ちていましたよね?あれはなんだったんですか?」

後藤は先程とは打って変わって真剣な顔つきになる。

「恐らくは、クラーケンを倒したから出てきた物ということで間違いないと思う。あんな場所に宝箱なんてなかったしな。」

と、言いながら後藤は腕を組み始める。

「まぁ、クラーケンから宝箱が出てきたことも不思議なことなんだがな。もっと驚くべきものが宝箱にあった。」

「何が入っていたんですか?」

魔物を倒したら落としたおかしなもの。ゲームにありがちなのは魔物の素材系とかだろうか?クラーケンの心臓みたいな…。

後藤は眉間に皺を寄せて、言う。

「指輪だ」と。

指輪。

おもむろに自身のつけている指輪を見る。

「効果を鑑定するすでを俺たちは持っていない。だからただの指輪か効果付きかは分からん。だが、あんな装飾の宝箱に入っていたのだから、ただの指輪なんて線は薄いとも考えている。」

アンファング王国で受け取ったこの指輪も魔物からドロップしたものなのだろうか、そう考えていると、千秋が会話に割り込んできた。

「ちなみに、落ちていたものは宝箱だけではありませんでしたよ?」

あちらに今回の戦利品が纏められてますので行きましょうと千秋は案内し始めた。

案内された場所には、まだ海水で濡れている引き上げられたものたちがまとまっていた。

それらを見て1番最初に目に入ってくるのはあの触手だった。

「この触手は大分厄介だったな!」

と後藤が豪快に笑う。

次に目に張ったのは宝箱、そして最後が、虹色に輝くゴツゴツしたなにかだった。

悠真は虹色の物体に目を細める。

「なんですかこれ?」

千秋が首を振る。

「私達もさっぱりです。」

「触っていいですか?」

「もちろんダメです」

止められてしまった。あれが何だか非常に気になる。

そう思っていると、後藤は普通に宝箱を触り始める。

「触ってるじゃないですか!?」

思わず声を荒らげた。

「宝箱は大丈夫だ。もう既に触っちまったからな」

そういえば、宝箱の中身が指輪だったって言ってたから、そん時にはもう触っていたのか。

「ちなみに、宝箱に入っていたのは指輪だけじゃないぜ」

そう言いながら後藤は宝箱の中身を見せ始める。

中には、謎の草が1束、剣が二本、指輪が1個入っていた。

悠真は顎に指を当てる。

「何故、こんなものをクラーケンは持っているのでしょうか」

「まぁ、討伐報酬ってところじゃないか?」

「そんな無茶苦茶な」

ゲームの世界ならば、それで納得するのだが、流石に今を生きてる世界でそれで納得したくはない。

悠真の考え込む様子を見て、千秋が自分なりの意見を述べる。

「もしかしたら、クラーケンが人の作った宝箱ごと飲み込んだ、という可能性も考えられます。」

確かにその可能性はありそうだ。

「ですがまぁ、我々の常識が通じない世界では考えるだけ無駄な気がします。」

そう…だよな。魔法がある時点でもう理屈とかはないのかもしれない。

「そうですよね。今は無事、アンファング王国に到着出来るように最大限を尽くしましょうか。」

千秋と後藤が頷く。

「既に厳戒態勢は取ってある。今度巨大生物が接近した際には魚雷を遠慮なく打ち込む手筈にしてある。」

「王国まであと2時間程度です。戦闘直後で申し訳ないのですが、外交に関することを2時間でみっちり話し合いますからね?」

千秋の言葉の通りに、アンファング王国に着くまでの間の時間を全て外交対策に費やした。



────アンファング王国の港は、口をあんぐりと開けた人々で囲まれることとなった。

その人々の視線はひとつに集中している。

それは、イージス艦であった。

木造以外の船が存在するのかという驚きとともに、その巨大さに呆気をとられていた。

騒ぎを聞きつけた勇者も即座に、港へ駆けつけ驚愕する。

「まだこんな兵器を隠し持っていたのか…?」

黒くでかい異質な船。

日本の底知れなさに恐れおののいた。

これらの様子を現代の一言で表すとすれば、まさに黒船来航だろう。

幸いにも、アンファング王国の港はとても大きかったため、イージス艦でもなんとか停泊することに成功した。

イージス艦からタラップが敷かれ、そこから手を振る朝倉悠真とそれを護衛する黒服が降りてくる。

それを見た勇者は、群衆をかき分けて悠真の元へ駆け寄った。

とてつもないスピードで。


朝倉悠真は初めての異世界の景色に見とれていた。

一言で言い表すなら中世ヨーロッパの街並み。

しかし、違う点もある。魔法の杖を携えた人、剣を腰にしまっている人、弓矢を持っている人などがいる点だ。

黒服も例外ではなかった。いくら訓練を受けていようと、やはり異世界の景色に感激を受けることを耐えられなかった。

そんな中だった。

勇者レオンが突然目の前に現れて、

「お前たちは日本国の者だな?」

と言い放ったのは。

朝倉悠真は急に目の前に人が現れたものだから、思わず腰を着いてしまった。

黒服達は一度体をピクつかせたが、すぐに総理を守る体制に移行する。

その様子を見て、勇者レオンは困惑しながら言う。

「あまり警戒するな」

と。

勇者レオンは、例えどこに現れようとも英雄扱いだった。

そのため、ここまで怯えられるのは酷く新鮮だった。

悠真は、突然現れた人物の容貌を見る。

そして察する。

この人物こそが、この世界の勇者であることを。

そのため、黒服を下げさせ勇者と話し合おうとした。

「お初にお目にかかります。私は日本国の内閣総理大臣である朝倉悠真です。どうぞよろしくお願いいたします。」

頭を深く下げた。

内閣総理大臣…、と勇者は呟く。

「もしかして、日本国の王か?」

鋭い眼光で聞いてくる。

「いや、王ではないです。日本の内閣総理大臣です」

「そういえば、王政ではないと聞き及んでいたな。だが、王のように、国を代表し導く者であるのだろ?」

まぁ、そうではあるがと、首を縦に振る。

「ところで、その格好はなんだ?伝統衣装か?」

「スーツという衣装です」

「派手な飾りはついてないのか?国の代表なのだろう?」

その質問で、悠真は勇者の考えていることを察した。

「なるほど。レオン様の常識では、国の代表は豪華な服装を着ているのが当たり前なようですね」

まぁ、確かにこっちの世界の常識では、そうなのだろうけど。

若くても、豪華な服を着ていなくとも、

「安心してください。私は、正真正銘国民から選ばれた行政の最高責任者であり、」

大きく息を吸う。

「日本国の内閣総理大臣です。」

悠真は誇りを持ってそう言い切った。





───王室の間。

朝倉悠真は、勇者といろいろ話し合った後、すぐに城に向かうこととなり王との初対面を迎えた。

日本国側は、内閣総理大臣、外務大臣、秘書官数人。

王国側は、勇者と王、その側近と横に列をなす兵士達とで対面した。

お互い短く挨拶を済ませた後、悠真は早速手筈通りにことを進める。

「早速ですが、本題に入る前に私達から質問させていただきたいことがあります。」

例のごとく、勇者に相互理解のスキルを使用してもらいながら対話する。

「私達が日本国を出港してから、約1時間後、とある事態と遭遇することになりました。」

「とある事態?」

王は聞き返す。

「それは、巨大なイカに襲われるという事件でした。」

その話に勇者の目が鋭くなる。

「それが、その時の写真です。」

悠真は写真を封筒から取り出し、王の側近に写真を渡した。

王の側近がそれの安全確認をしようと鑑定士を呼びつけようとするが、王が遮る。

「大丈夫だ。そのまま持ってこい」

そう言って、王は精査させずに写真を受け取った。

王は写真を見つめる。ついでに、勇者も一緒に見ている。

王は思わず呟いた。

「なんて、精巧な絵だ」

そこかよ、と思わず心の中で突っ込んだ。

まぁ、でも確かに、写真を初めて見たのなら、驚くのも無理はない。カラー写真は相当未来の技術だから。

王はごほんっと咳払いする。

「本題はそこではないな。」

悠真は頷く。

「この、巨大なイカに私達は襲われました。幸いにも死者を出すことはありませんでしたが、船は巻き付かれ、触手による攻撃で負傷者も発生いたしました。」

王が怪訝な顔をする。

「つまり、何が言いたい?」

つまり…?

悠真は堂々と答える。

「つまり…」

王は目を細める。

「これが何者かについて尋ねたいです。」

細まった王の目が一瞬にして緩まる。

そして、少し間を置いて話し始めた。

「恐らくだが、はじまりの海のヌシ魔物だろう。」

ヌシ魔物…?

そんなヌシポケ〇ンみたいな。

「ヌシ魔物とはなんですか?」

「決まった定義はないが、1エリアに1匹はいる、周りと比べて明らかに強い魔物のことをヌシ魔物と呼んでいる。しかしだな…」

と王はあごひげを触った。

「はじまりの海でそのような魔物と遭遇するとは。」

王は何か考え込んでいるようだった。

勇者が前に出る。

「少し補足させてもらう。ヌシ魔物は、1エリアに1匹しか居ないため、そもそも遭遇確率というのはとても低い。しかも、いくらヌシ魔物と言えど、所詮は魔王の住処の反対側の魔物。そこまで強い魔物はいるはずがないが、」

と勇者は続ける。

「その絵を見る限り、その魔物は余程強かったはずだ。木造の船であれば容易に潰されてしまったであろう。」

罪悪感を感じているのだろうか。

勇者は頭を下げた。

「申し訳なかった。ここまでの魔物がはじまりの海にいることを予想していなかった。怪我人が出たことも俺の責任だろう。この場を持って謝罪する」

悠真は、勇者の謝罪を黙って聞いていた。

(勇者がずっと写真を睨んでいたのは、責任を感じていたからか。責任感が強いのは大変ありがたいのだが、少しまずい。このままでは、全ての責任が勇者に転嫁されてしまう。日本国としては、外交のためにこの王国の責任としたいから、何とかしなければ。…しかし、)

悠真は就任して2週間なのだ。外交経験なんてからっきし。いくら対策を重ねたところで、腹の探り合いは下手だった。

少し考えた後、悠真は思っていることを正直に発言する。

「アンファング王国にとっても勇者にとっても、それは予想外な出来事だったのですから、仕方の無いことです。ですから私達は気にしておりません」

まぁ、しょうがないことだよねという軽い意図の発言で、一旦この場面を切り抜けようとする。

しかし、予想とは裏腹に、その発言に空気が一瞬ピリッとした。

悠真は気づいていないが、この出来事を「仕方の無いこと」で片付けることは、アンファング王国と勇者のプライドを十分に傷つける言動であったのだ。

故に、王は感心したかのような笑顔を浮かべる。

「流石は、日本の王であるな。その服装と若さから少し頼りなさを感じていたところだ。随分と言ってくれるじゃないか」

(なんだこいつ。上から目線でムカつく)

そう思ったが、もちろん口には出さない。

「大変光栄に預かります。」

とりあえず、頭を下げておく。

「それで、その魔物を討伐した際に、宝箱のようなものが出てきたのですが、それについては何か知っていることはございませんか?」

その質問に勇者は知っていると答える。

「それはレアドロップだ」

レアドロップ…?悠真は聞き慣れた聞き慣れない言葉を反芻する。

「大型の魔物はたまに宝箱をドロップする。それをレアドロップと呼んでいる」

んーなるほど。魔物を倒して、宝箱が出ればレアドロップということか。

「では、そのレアドロップである宝箱の中身なのですが…」

そう言いかけて、勇者が

「待て!」

と叫んだ。

一体なんだろうと勇者の方に目線を向けると、やけに動揺している勇者がいた。

それに悠真は困惑した。

「な、なんですか?」

「お前ら、もしかして、ミミックチェックをせずに宝箱を開けたのか?」

ミミックチェック?ミミックってあのミミック?

「そうですね。普通に開けました。」

後藤さんは何も考えずに宝箱を開けてそうだからな…。

「ほんとに常識を知らないんだな…。」

呆れられた。

勇者は続ける。

「一説には、全ての宝箱は等しく0.36%の確率でミミックであると言われている。」

ミミックね…。

俺が想像しているミミックと同じような魔物なのだろうか。

「そのミミックというのは、宝箱を真似た魔物ということですか?」

勇者は、あぁと頷く。

「奴らの特徴は、宝箱に擬態していることと、不意打ち特化の圧倒的攻撃力だ。」

さらに、と勇者は語る。

「厄介なのが、0.36%の確率でしか出現しない事だ。ミミックは忘れた頃に突如として襲ってくるから、死ぬ者が後を絶たない」

「そんな厄介な…」

もし、クラーケンのレアドロップの宝箱がミミックだったら、後藤さんは確実に殺されていただろう。

悠真はその事実にぞくりと震えた。

「そんな中、開発された魔法がミミックチェックだ。ミミックチェックを使えば相当高い精度でミミックであることを見破れる。つまり、ミミックチェックを使っておけば基本的にミミックと遭遇しないというわけだ。」

ミミックチェック出来ない時は、宝箱をむやみに開けない。

新しい教訓を悠真は身につけた。

勇者は一旦話を戻す。

「話が脱線してしまったな。ところで、宝箱には何が入っていた?ヌシ魔物のレアドロップなのだから、相当レアなものが入っていたと予想できるが」

その問に、悠真は素直に答えた。

「草の束のような物、指輪、剣2本でした」

「ふむふむ。それで、なんの草で、何の指輪で、なんの剣なのだ?」

王は当たり前のように、それらの物が具体的には何にであるかと問うてきた。

分かるわけないだろ、と心中で吐露し、もう少し言葉をオブラートに包んでから王に伝えた。

「知りません」と。

…その発言のせいだろうか。

王と勇者、どちらも驚愕した目でこちらを見ていた。

まるで知っていることが当たり前かのような目線で我々を見ているのだ。

王は口を開く。

「もしかして…、貴殿の国は鑑定スキルなしで発展してきたと申すのか!?」

…鑑定スキル、か。

悠真は再び文化の違いによって、いや、世界の理の違いによって苦しめられていたのだった。

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