第15話 炎龍
悠真は、倒れてきたニーシャを抱えベットで寝かせる。
そして急いでドアを開け、豪華な廊下を通り、階段を降りて王の元へと向かった。
すると、階段を降りた先に、膝を着く王の姿があった。
「ヴァイセ国王!!」
悠真はヴァイセ国王の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか!?意識はありますか!?」
悠真は肩をさする。
「大丈夫だ。これしきのデバフ魔法程度で意識を失うほど、ワシは柔くないわい」
王は口ではそう言っている。
だが、膝を着く体勢が、声の低さが、そのデバフ魔法の効果を如実に表していた。
「敵がデバフ魔法を街全体にかけたのでしょうか」
王は頷く。
「そうであろう。それ程の事が出来る魔法使いがソルド国にいるとは思わなかった」
王は自身の膝を拳で叩く。
「してやられた。先程各地で爆発音が聞こえたじゃろ?わしら兵士が眠っている最中に、魔物を増やして一斉に処理しようとしたのだろう」
王がそう呟いた時だった。
銃声が各地で轟く。
その銃声は、正にアンファング王国にとっての希望であった。
王は不敵の笑みを浮かべる。
「そして、ソルド国最大の誤算は、日本国の者にはデバフ魔法が効かないことであった」
悠真の無線機から、次々と現場の交信が鳴り響く。
「各員へ、兵士の容態を確認。……睡眠状態と判明。どうぞ」
「了解。三班に増援。どうぞ」
「了解。アルファ班、援護に向かえ。どうぞ」
「了解。待機班、行動開始。どうぞ」
「了解。――三班、総理の生存を確認せよ。どうぞ」
悠真は送信ボタンを押す。
「こちら総理。生きてます。ヴァイセ国王も一緒です。あと、兵士たちはデバフ魔法により意識を失っている状態らしいです。どうぞ」
「本部了解。閣下、ご無事で何よりです」
王は安心した表情を浮かべる。
「本当に貴国がいてくれて助かった。貴国がいなければ、とっくに滅んでいただろう」
「礼は後で受け取っておきますよ。とりあえず、立てますか?」
悠真は王の肩を支える。
そして、安全な場所まで運ぼうとすると、"通信水晶"からアニャの声が聞こえてきた。
「みんな〜、生きてるー?」
戦場には似つかわしくないセリフと呑気な声だ。
「無論」
「えぇ、生きてます」
どうやら、アニャ、ソルドス、ヒスト、誰もが無事なようだ。
「王様は?」
代わりに悠真が答える。
「ご無事ですよ。ですが、デバフ魔法の影響を少し受けているようです」
「あれ?朝倉さんはデバフ魔法の影響を受けていなんですか?…と言うよりも、日本国の人達は影響を受けていない?」
「えぇ、私達は魔力を持ちませんから。体内の魔力に干渉する魔法は基本的には聞かないと思います」
「そんなメリットがあったんだ!?魔力なしっていうのも悪くないんだね〜」
いや、本当に。
魔力があったら、今頃全滅してたかもしれないからな。
「アニャさん達はデバフ魔法の影響を受けていないのですか?」
「受けてるけど、耐えてるって感じ。これぐらいなら全然へっちゃらだよ!」
「同じく」
「そうですね。ですが、ステータスに影響は多少なりとも出ていると思うので、私がデバフを解除します。ついでに、王のデバフも。全員城に迎えますか?」
「同意」
「ちょっと待って〜。この魔物たちはどうするの?放置って訳には行かないし」
「それは…」
そう、それは俺らの役目。
「そこは任せてください。自衛隊が魔物を殲滅します。増援も呼んでいるので相当な時間持ちこたえられると思います」
「頼もしいー!じゃあ、城に全力で向かうね」
その言葉を最後に、"通信水晶"は切れた。
とりあえず、アニャ達が向かってくるまでの間に、王を安全な場所まで連れていかなければならない。
「ヴァイセ国王、安全な場所ってどこですか?」
「ワシの家族の寝室じゃ。ついでに、安全確認の為に1度見ておきたいしの」
「家族いたんですね。承知いたしました」
ヴァイセ国王の案内により、寝室までと赴くのであった。
───ソルド国の城の中で、シルドは足を組みながら、"通信水晶"ごしにドンクスの報告を聞いていた。
「あぁ、つまり、日本国の奴らが思いの外めんどくさかったんで、さっさと"睡眠爆弾"を使う判断にいたりやした」
シルドはその報告を聞いた後、突然立ち上がる。
と思えば、急に拳を握り始めた。
すると、部屋の端においてあった花瓶がパリンと割れるのだった。
どうやら相当苛立っているらしい
「そりゃ、貴様に引導を渡してやったさ。だが、1日目で使うってなんなんだよ!せめて2日は持ちこたえろよ!!」
そう言われても、ドンクスはいつもと表情を変えない。
「あぁ、ですから、"魔物爆弾"の数がたりやせんで。思ったよりも早く魔物が処理されるもんですから」
ドンクスは冷静に、シルドに状況を説明する。
だが、
「バカかお前は!!何のために貴様がいると思ってる。お前が戦って持ち堪えれば良かっただろ?」
シルドは激高したままである。
「あぁ、お言葉返しますぜ。未知の武器に挑むのは蛮勇でございやしょう。もしやしたら、私に特化した武器かもしれへんで。慎重に慎重を重ねる必要があるでございやす」
「あぁ言えばこう言うなお前は。とにかく!!こんな早期に切り札の1つを使ってしまったのは大変痛いからな!?」
「あぁ、えぇ。承知してやす」
ドンクスは頭を下げた。
シルドはチッと舌打ちしたかと思うと、虚空から赤い水晶を取り出す。
「貴様のせいでもう1つ、切り札を切ることとなった。この責任覚えておけよ?」
シルドは赤い水晶を掲げる。
そして、
「炎龍!!!」
と怒鳴ったのだった。
───王の寝室に、アニャ、ヒスト、ソルドスが合流した。
アニャはヒストに抱きつく。
「ヒスト〜。早く解除して」
「分かってますよ。ハイディスペル」
ヒストがそう唱えると、アニャの少し感じていた気だるさがバッサリと消える。
ヒストは、ソルドスと王にも同様の魔法を使用した。
「それにしても…」
ヒストは窓から街を見下ろす。
「とんだ大惨事になってしまいましたね」
火事は燃え広がり、その炎は勢いをまし、それに伴って灰色の煙がどこからも、もこもこと立ち上がっていた。
「アニャ、今なら雨を振らせられるでしょ?」
「もちろん!レインウェザー」
アニャがそう唱えると、空からぽつぽつと雨が降り始めた。
そして、どんどんと雨足を強めていく。
誰もが降り始めた雨を見る。
しかし、王だけは雨ではなくアニャを見つめていた。
「アニャ。貴殿のその魔法、相当魔力を使ったな?」
王の問に、王の不満を感じ取ったのか、アニャは頬を膨らませる。
「なんですか、王様。このまま、全ての家が燃えてもいいってことですか?」
王は頷く。
「そうじゃ。少なくとも、ソルド国は1都市を一瞬にして行動不能にする力を持っていることが分かった。もし他に何か手を打たれたれた時に、貴殿が魔力不足であったらどうするのだ?」
「んぐぐぐ」
アニャは歯をギシギシさせる。
「いえ、そこまで間違った選択肢でもありませんよ、王様」
そこに、ヒストが参入してきた。
「家が燃えるのとついでに、そこら辺に倒れている兵士達は死んでしまう可能性があるでしょう。兵士達は貴重な戦力です。下手に死なせてはなりません。更に、自衛隊の方々も魔物を討伐しやすくなりますしね」
「ふむ。一理ある」
が、と王は強く言う。
「アニャに魔力が充分にあること、これこそが不測の事態に備える最も効果的な方法であっただろう」
ヒストはピクッと動かす。
流石に、今のこの現状でヒストと王が言い合いを起こしてしまっては無駄でしかないので、悠真は話の方向を変える。
「一旦、その話は置いておきましょう。話し合うべきは今後の方針です。違いますか?」
悠真の言葉に誰も異論を唱えない。
「ありがとうございます。では、早速進めていきましょう。私としては、アニャ、ヒストさん、ソルドスさんの中の1人でも万全な状態の方がいれば、基本的にどんな不測の事態にも解決し得ると考えているのですが、どうですか?」
悠真の考えに、ヒストは首を振る。
「私は戦闘要員ではないので難しいですね。私の職業は僧侶なので、サポートに特化しています」
アニャはその発言にクスクスと笑う。
「とは言っても、そこら辺の強い冒険者よりも攻撃力が高いんだけどね〜」
ヒストはアニャにチョップを食らわせた。
「私以外なら、とてもお強いので大丈夫だと思います。ただ、より汎用性が広いのはアニャですかね」
全員の視線がアニャに向く。
アニャは自身の胸に手を当てた。
「私、最強の魔法使いだからね!」
確かに、雨降らせたり出来るんだから汎用性は高いか。
「では、アニャさんが…」
悠真がそう言いかけた時だった。
───部屋の空気が一変する。
あの穏やかな空気は何処へ行ったのだろうか。
一瞬にして、空気が重く張り詰める。
悠真以外は、皆一様に目を見開いていた。
悠真が彼女らの様子がおかしいと気づいた時には、アニャ、ヒスト、ソルドスは既に目の前から姿を消していた。
そして、窓ガラスの割れる音が遅れて聞こえてくる。
その音の方向に目をやれば、空中に浮いて杖を構えるアニャの姿が見えた。
「獄炎の焔」
アニャは、いつもとは違う低い声でそう唱えていた。
アニャの周りから炎が発生し、それは彼女の杖の先へと恐ろしい密度で収束していく。
そして、彼女は迷うことなくその力を解き放った。
放たれた紅蓮の奔流は、大気を震わせる咆哮を上げながら一直線に突き進み、大爆発を起こしたのだった。
悠真は爆破の衝撃から身をかがめる。
一体何が起きているのか。
悠真にはさっぱり分からなかった。
そんな悠真の様子を見た王は、今何が起こっているかを解説する。
「龍が来た」
…龍?
「名を炎龍。古代から生物の頂点として君臨する化け物の1匹じゃ」
「魔物ではなく?」
「いや、生物じゃ。奴は恒魔動物。魔素がそこまで濃くない環境でもその力を発揮する」
"魔物爆弾"の次はドラゴンか。
悠真は歯を噛み締める。
「しかしなぜ、そんな生物がここに?」
「分からぬ。たまたま来たという線は薄い。つまり、ソルド国が何かやったと考えるのが自然であろうな」
流石、戦争で領地を増やしていた国だ。
戦争においての選択肢の幅が広い。
「ちなみに、私達の武器、銃でダメージって与えられますかね?」
「1ダメージにもならんわい」
「そうですよね…。炎龍は無視しとくように伝えましょう」
無線で、炎龍に攻撃しても無駄である可能性が高いため、安全を確保しつつ出来れば魔物を討伐して欲しい旨を伝えた。
「貴国は銃以外に、奴とまともに戦える武器を持っていないのか?」
「一応あります。例えばロケランっていうのがあるんですが…。すみません、やっぱダメージはしょぼそうですね。手段を選ばなければまだまだ選択肢はあるんですがね…」
対魔物なんて想定されてないからな。
過剰火力か過小火力の2択になってしまう。
「ヴァイセ国王は戦いに参加しなくて良いのですか?」
「ワシには役が重い。ワシの最高火力を当てて怯ませられるかどうかじゃの」
ワシも訛ったもんだなと腰を触っていた。
「お、そろそろ地上に降りてく…」
王の言葉が終わらぬうちに、大地が悲鳴を上げた。
凄まじい衝撃に足元をさらわれ、悠真は無様に床へ転がる。
荒い息をつきながら窓の外を仰ぎ見た瞬間、視界が「それ」に支配された。
燃え盛るような紅蓮の鱗。翼の節々に備わる、城壁をも穿ちそうな巨大な爪。
琥珀の瞳は鋭い光を湛えて前方を睨み、剥き出しの牙の隙間からは、絶え間なく灼熱の炎が漏れ出していた。
「ふむ、大丈夫か?」
倒れている悠真に、王が手を差し伸べる。
「ありがとうございます」
そう言いながら、手を握ろうとした。
その時だった。
王の持っていた"通信水晶"から男の叫び声が聞こえてきたのだ。
「王、聞こえますか!?」
その声は切羽詰まっていた。
王は即時に対応する。
「聞こえておる!!どうした!?」
「ソルド国に…」
その国の名を聞いた瞬間、王は察する。
第3防衛線に奴らの軍隊が攻めてきたのだと。
我が国が混乱に陥っているため、今こそ進軍すべきだと判断したのだと。
しかし、現実はより非情であった。
「第1防衛線が只今突破されました…!!」
「な、何!?」
"魔物爆弾"、龍、防衛線崩壊。
王の予想よりも、遥かに状況は混沌を極めており、アンファング王国の崩壊は間近であった。




