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第14話 本気の本気

アニャの報告から7時間後。

日は暮れてきたが、未だに魔物は留まる気配がない。

更には、戦っている最中に爆発音が数十回聞こえていた。

ヴァイセ国王は、この爆弾の正体に迫りつつあるようで、先程"通信水晶"で呟いていた。

「爆発したところの魔素濃度が急激に上がっておる。恐らく、魔素を放出する爆弾なのであろう。その爆弾の脅威は、魔物の出現条件である、周りと比較して魔素が濃いところという条件を満たさせることじゃ。これにより、魔物がわんさかと湧いてしまう。まさに、魔素濃度が低い我が国家特化の爆弾じゃの」

なんとも厄介な爆弾であろうか。

出てくる敵が雑魚であればありがたかったのだが、残念なことに強い。

そのため、アンファング王国の兵士のみならず、自衛隊も疲弊し、更には勇者パーティまでもが疲れを感じ始めていた。

国民はほとんど避難してるんだから、魔物なんて討伐しなくて良くないか?という意見もあると思うが、魔物は魔力を吐き出す習性も持っているため、狩らないとさらに魔物が増幅してしまうのだ。

「故に、元凶を倒せればそれが1番良いのだが。アニャ、貴殿の魔力探知でも無理そうか?」

「んー、微妙。魔素が入り乱れてて遠距離から特定するのは無理ゲーかな。ある程度近づかないと私でも気づけないや」

状況は一向に一転しない。

あと、どれぐらいで爆弾が尽きるのだろうか。

「便宜上、"魔物爆弾"とでも呼んでおきましょうか。"魔物爆弾"はどれぐらいで枯渇すると予測されますか」

「分からぬ。一瞬でここまで魔素濃度をあげれるとなると、一つ一つは高価なものだとは推測できる。だが、戦争のために以前から隠し持っていた事を考えると、何個あってもおかしくはない」

相手側の枯渇を狙うのは現実的では無いか。

「アレを実行いたしますか?」

「なしではないが、タイミングが重要じゃ。手筈通りに」

「承知いたしました」

手筈通りとなると、ソルド国が軍隊をアンファング王国に向かわせているタイミングとなるが。

(果たして、そこまで持ちこたえることが出来るだろうか。現在、アンファング王国は隣国に助けを求めているが、隣国からこの国まで馬車で8時間ほどかかるらしい。つまり、未だに増援は望めない)

「では、体制を整えるのはどうでしょうか。長期間戦うことを前提に、相手が他の切り札を持っていることも考慮した交代制にしましせんか?」

悠真の提案に王は乗る。

「確かに、その方が得策じゃな。特に、アニャ、ヒスト、ソルドスにはそれぞれ体力を残しておいて置いて欲しい。よって、そこを一塊とし、4時間程度の交代でサイクルするのはどうだろう」

アニャが元気よく返事をする。

「おっけーです!じゃあ私休憩入っちゃうね〜」

「バイトではないのですから、そんなに気軽に休憩入らないでください。まぁ、魔力を消費してしまっている私達が先に休むのは妥当ですから丁度良いですが。ソルドス、店番任せます」

「無論」

やはり、アニャ達は少し消耗していたようで、この提案は適切であったなと悠真は安堵した。

「朝倉殿、貴国の兵士はどれくらい消耗している?」

「自衛隊は先程からこまめに人員を入れ替えていましたので、あまり消耗はしてないです」

「貴殿は?」

「そこそこ疲れています」

「では、休め。貴殿の働き見事であったぞ」

「有り難きお言葉。では、また連絡いたします」

そう言って"通信水晶"を切る。

そして、悠真は深いため息を吐いた。

「流石にきついな」

魔物1匹1匹がそこそこ強い。

そのため、気の抜けない戦いがずっと続いている。

たが、それでもここまで長い時間戦い続けることが出来たのは、

「家を荒らしちゃだめー」

そう言いながら、魔物に向かい銃を打つニーシャ。

この猫の子のお陰である。

俺、ニーシャ、3人の自衛隊からなるこのパーティーの、魔物討伐数の圧倒的1位はニーシャである。

卓越した反射神経と運動能力により、次々魔物を討伐してしまっていた。

「いやぁ、とても強いんですけど、我々の尊厳が無くなるのが玉に瑕ですね」

悠真の発言に、そばにいる自衛隊達が苦笑する。

ニーシャは一通り魔物を討伐し終わったのか、悠真の所へ駆け寄って来た。

「褒めて!」と言いながら。

なので、とりあえず

「良くやった!偉い!」

と言って思いっきり頭を撫でてあげた。

「えへへ」

と声を漏らしながら喜んでいる。

丁度きりが良いし、ここで切り上げるか。

「そろそろお腹も減ったろ?ご飯にしよっか」

悠真がそう提案すると、ニーシャは嬉しそうに返事をするのであった。





───夜のアンファング王国内は真っ暗である。

街灯はない。

代わりに、兵士たちの持つロウソクのようなものが街全体を照らしていた。

悠真はその様子を城の中から眺めていた。

恐らく、相手の攻めが激しくなるのは夜。

ならば、今夜か、明日か明後日か。

それは王も理解している様子で、昼よりも見回る兵士の数が増えていた。

"魔物爆弾"の発生は、夕方以降急激に減っている。

分散して爆発させるよりも、まとめて爆発させる方が効率的であると判断したのだろう。

…全く関係ない話にはなってしまうのだが、俺らが遭遇したクラーケンって、もしかしてあの"魔物爆弾"の影響なのだろうか。

実験の一環で海で何度も爆発させてたために、魔素濃度が上がって偶然誕生した的な。

勇者も明らかに強いと言っていたし、結構可能性はあるのではなかろうか。

そんな事を考えていたら、

ペタッと、背中に細長くてもふもふした何かがくっつく。

悠真はそれが誰の仕業なのかすぐに察した。

「ニーシャ、まだ起きてたのか?」

いつの間にか、ニーシャは隣に立っていて、水色の尻尾を背中に当てていたのだ。

「そっちこそ」

意地悪そうにニーシャは言う。

「俺は単に寝れないだけさ」

そう返したところ、

「本当〜?」

とジト目で返されてしまった。

悠真は苦笑する。

「ほんと。ほんと。まぁ、俺は良いとして、ニーシャには明日も頑張って貰わなきゃなんないから、早めに寝て欲しいんだけどな〜」

悠真も意地らしく返した。

…今思えば、俺は子供を武力として当てにしてしまっているのか。

いくら世界は違えど、子供を戦いに参加させるというのはどうなのだろうか。

まぁ、確実に良くないことではあるか。

本来なら安全な場所へ非難させなきゃいけなくて、子供なんか参加させちゃダメなんだよな。

そう思いながら、警戒を怠らない兵士達の様子を眺める。

ニーシャは悠真の機微に敏感であった。

故に、悠真がいつもよりも悲しそうな表情をしていることに気づいた。

だから、ニーシャは悠真の手を握る。

「私はいつでも悠真の味方だよ?」

突拍子のない発言であった。

しかし、悠真は気づいてしまった。

自身が彼女に心配を与えてしまった事を。

その発言に愛が詰まっている事も。

だから、

「ありがとな、ニーシャ」

と頭を撫でる。

こうすると、ニーシャは尻尾を大きく揺らし喜んでくれるのだ。

銀色の髪から生えた水色の耳をヒクヒクとさせ、ニコッと笑顔で笑っている。

気をつかってくれたお礼に、沢山撫でてあげようとした。

───突然だった。

ニーシャの元気一杯だった尻尾が突如として項垂れる。

あれほど元気の良かった尻尾が一瞬にして。

そして、ふらっと体が揺れたかと思えば、ニーシャの体は脱力し、全体重で悠真の方へと倒れ込んできたのだった。

「ニーシャ!!??」

悠真はすぐに異常を察知する。

嫌なデジャブが蘇る。

魔王が勇者を殺す際に、勇者が陥った状況に酷似しているのだ。

これは…まずい!!

咄嗟に抱え、何度も呼びかけるが反応がない。

「ニーシャ!!生きてるなら返事をしてくれ…!!」

…返事はない。

そして、外から何かが燃える音がした。

焦げ臭い。

咄嗟に外を見る。

「な、何が!?」

思わず声が漏れてしまう。

そこに広がっていたのは地獄の光景であった。

兵士達が全員その場で倒れている。

しかも、倒れた衝撃でロウソクが家へとぶつかったのか、家の炎がゆらゆらと空気を揺らしていた。

一つだけじゃない。そこかしこで何十軒も。

あれほどまで暗かったアンファング王国内の景色とはうってかわり、灰色と赤色が1面を照らしていた。

そんな悲惨な状況の最中に、更に追い討ちがかかる。

各地で爆発音が聞こえ始めたのだ。

恐らく"魔物爆弾"。

悠真達は、ソルド国の本気を舐めていた事に、ソルド国を過小評価していた事に気付かされるのであった。







───ドンクスには誤算があった。

「あぁ、"魔物爆弾"がきれてきやしたね」

"魔物爆弾"の本質は瞬間的な魔物生成にはない。

では何が本質なのか。

それは、本来魔物が出現しない場所をダンジョンへと変容させることである。

魔物が住み着く度に、魔素は濃くなる。

そして、魔物が出現し、更に魔素は濃く。

このサイクルを極端に早くさせるのが、この"魔物爆弾"の脅威であった。

だが、

「あぁ、ここまで素早く処理されてしまうのは想定外でございやす」

魔物のサイクルが起きる前に処分する。

単純明快であり、非常に有効な対処法であった。

「あぁ、ここまで、短期間に何発も爆発させるのは意図されてませんで。3日3晩戦わせるには数が足りやせんね」

ドンクスは、この作戦が遂行出来なそうであることは察していた。

だが、全く悲惨そうな顔は見せていなかった。

「あぁ、もうアレ、やっちゃいやすか。夜ですし」

そう言うと、虚空からエリクサーのようなものを取り出す。

「あぁ、とっても高価故に惜しいでございやすが、使いやしょう。ここで粘られるほうが面倒でございやす」

そのエリクサーのようなものに付いていた、蓋のようなものを開閉させる。

「あぁ、"睡眠爆弾"。体内の魔力に反応し、強制的に脳をシャットダウンさせやす。つまり、チェックメイトでございやす」

そして、ドンクスは手に持っている"睡眠爆弾"を真上へ高く投げた。

"睡眠爆弾"は、はるか上空へと届いた瞬間爆発する。

音はほぼなかった。

だが、紫色の粒子が四方八方へと広がってゆき、アンファング王国の都市内を埋め尽くす。

その様子を確認したドンクスは、

闇の支配者(ダークエンペラー)

と唱え、粒子が満ちきる前に闇の中へと姿を消したのであった。

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