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第10話 希望

王はなにが起きたのかを理解した。

魔力を貯める指輪、通称''魔鉱石の指輪''。

その指輪は数年前から実用化されていた。

しかし、性能面の観点から一般には出回っていなかった。

性能が向上し、市場に出回るようになったのはごくごく最近である。

恐らく、試作品を盗み出し独自に開発を行っていたのだろう。

しかし、独自に開発したという事実は残酷な現状を浮き彫りにすることになった。

──魔法技術で魔王に遅れをとったことである。

魔王及び魔物に人類が打ち勝ってきた理由の一つに魔法技術の進歩があった。

例えば、魔法の体系化である。

昔は、魔法といえばオリジナリティのあるものであった。

"炎の踊り子(ファイアカーニバル)"、"聖なる右手は神をも癒す"、"トワノブリザード"などなど。

才能のあるものが魔法を極めていた。

しかし、今は才能なきものでも魔導書の通りに練習を励めば大抵魔法を使えるようになった。

"ファイアボール"、"ヒール"、"アイス"などである。

これにより、この世界は国民総魔法使いの時代へと突入し、魔物に対しても強く出れるようになったのだ。

他にも、装備品、アイテムなどで魔王に対し強く出れているのは言うまでもない。

つまりである。

魔法技術で優位をとっていた人類が、魔王の魔法技術よりも劣っているということになれば、人類の敗北に他ならない。

もちろん、勇者の力により魔王を追い詰めていたという面もあるのは事実であったが、その勇者がいない今、世界は窮地に立たされていた。

城へ戻る馬車の中で悠真の話を聞いていたヴァイセ国王は先の無礼を謝罪する。

「そなたが嘘をついているとは思えない。また、勇者が認めた男だ。疑いが最も愚かな行為であった。先の無礼、謝罪させてもらう」

そう言って頭を下げてきた。

悠真は仕方の無いことです、と諭しこれからの展望について話し合おうとした。

「問題は山ずみです。魔王は技術力を持つこと。アイテムを使えば転移が可能である事。勇者がいない今、魔物の動きはより活発になることなどです。これらを早期に対策せねばなりません」

悠真は分かっていた。

今まで、日本にとって魔王という存在は正直どうでもいい存在であった。

しかし、事情は変わった。

魔王はいつでもどこにでも現れてもおかしくなくなり、この世界の希望である勇者は死んだ。

この世界は確実に魔王に支配される。

日本も例外ではなくなったのだ。

王は頷く。

「そうだな。やるべき事を迅速にやらねばならぬ」

そう呟いた。

そして、悠真が対策法を模索しようとしたところに、王は爆弾発言を投下する。

「勇者を蘇生させるのもありだろうか」

ぼそっと王が呟いたのだ。

蘇生という言葉に悠真は絶句する。

「ちょっと待ってください!蘇生とは!?」

死んでも復活できる?

そんな馬鹿げた話はやめて欲しい。

神への冒涜だろう。

しかし、悠真の願いも虚しく王は事実を淡々と述べる。

「協会で死者の蘇生が可能だ。だが、神フェイリスにその分の金銭を支払わなければならないため現実的では無いが。」

なんてことだろうか。

この世界はふざけている。

死んだ人間が金で生き返る。

そんなのはゲームだけの話であろう。

であるはずなのだが、残念ながら現実の話である。

悠真は前を向く。

「いくら払えば良いのですか?」

「分からないが、勇者のレベルとステータスと考慮すると少なくとも60兆ゴールド程度は必要だろう」

「60兆ゴールドとはどれくらいですか?」

「我が国家予算の10倍だ」

10倍…。

「到底払える金額ではありませんね…」

国家予算の10倍の金を貯めておくなぞ絶対にできない。

「そうなのだ。だから基本的に蘇生は行われない。高すぎて誰も払えない。だが、世界単位で動けばなんとかなるかもしれぬ。勇者の蘇生とならば協力してくれるのではないだろうか」

世界単位の協力が必要なほど、死者の蘇生はコストが重いのか。

だが、勇者が復活出来る可能性があるならそれに賭けてみるのは悪くない

そう思い、より深く復活の仕組みについて聞く。

「蘇生の条件は?」

「魂の寿命が尽きていないこと。対価は金で支払うこと。」

「魂の寿命とは?」

「まんまの意味だ。魂の平均寿命は120年。勇者は20年生きているため残り100年程度」

「蘇生に必要なのは金のみ?」

「金のみだ」

「なぜ?」

「神フェイリスがそう定めた」

「通貨はゴールド?」

「いや、なんでもよい」

もしかして…。

「日本円も使えますか?」

「流通してる通貨なら可能であろう」

「いくら払えばいいかをどうやって知るのですか?」

「協会に居る神フェイリスが判断する」

これはワンチャンがあるかも知れない。

そう考えた悠真は少し顔が明るくなる。

しかし、そんな悠真に対して王はため息をつく。

「恐らく、お主の考えは間違っておる」

王は冷静に悠真に言い放つ。

「日本円と言ったか。ここら辺でそんな通貨は聞いたことがない。通貨の価値とは信頼。貴国のみが使う通貨が価値があるとは思えない」

悔しいが、王の指摘はごもっともだ。

現状のままでは、円の価値はゴミ。

だがしかし、王は知らない。

日本の人口、歴史、科学力、軍事力、経済力、日本の底力を。

「神が判断するのなら可能性はあります。目的地を変更しましょう。教会へ一直線へ」

神が本当に存在し、貨幣の価値を判断するなら、これは日本にとって一世一代のビックチャンスである。

なぜなら、信用が得れるから。

神がどんな基準で価値を判断するのかは分からない。

だが、神は神である。

円の価値は神に委ねようではないか。




──ステンドガラスが虹色に輝き神々しい雰囲気が漂う教会の中に、日本の内閣総理大臣及び日本の王が立っていた。

悠真は、聖職者から伝えられた言葉をそのまま繰り返す。

「アグア、エーエン、ミス、スラード、ニキ、カントル、ブルッヘンデ」

そう言うと、辺り一面が白色に輝き始めた。

少しだが、神の気配を感じる。

雰囲気に流されているだけだろうか。

しばらくすると、脳内に女性の声が響き渡る。

「プルレンレンシクニゼクスラーラ」

ほんとに声が聞こえてきた。

悠真は少しビビってしまうが、その声にデジャブを感じた。

この声に聞き覚えがあったのだ。

(レベルアップの際に聞こえる声?)

そう。確か、レベルアップした時もこんなような声だったはず。この脳内に響く女性のような。

つまり、もしかしてステータスというものは神が作り出したものなのだろうか。

そう考えたが、今は考察している暇もないので、聖職者に言われた通りに言葉を紡ぐ。

「パル、ジ、クルス、エーエン、ツ、ブルド」

そう唱えると、神から返答が来る。

「クルドエーエンジ、ロクチョウエン」

ロクチョウエン…。

6兆円…!!

「キ」

そう悠真が言うと、辺り一面の白い光が徐々に弱まっていき、普段通りの教会が戻ってきた。

神は日本の味方であったと悠真は確信した。

悠真は王へ振り返る。

「6兆円だそうです」

王は未だに懐疑的な目をしている。

「6兆円。貴国にとってどの程度だ」

その質問に悠真はニヤリと笑った。

「我が国家予算の20分の1と言った所でしょうか」

一瞬、場が凍る。

その発言を聞いた王は

「あ、ありえない…。」

と驚愕の表情を浮かべていた。

心なしか汗までかいているように見える。

「勇者を復活させるのにたかが1国家の予算の20分の1じゃと!?ありえぬ!」

悠真は頷く。

「普通ならありえないと思います」

しかし、と続ける。

「日本の人口をお教えしましょう。…日本の総人口は1億人以上です」

「1億!?」

王は思わず叫んでしまう。

無理もない。

ここが中世ヨーロッパの世界だと仮定すると、一国の総人口は600万人ぐらいである。

桁が違うのだ。

そんな驚愕する王の姿を見て、悠真は心の中でぼやく。

(まぁ、人口だけで言えば確かに凄いんだけど、実態としては、高齢者が多いし、ここの世界の人より弱いし、アメリカとか中国とか貿易相手がいなくなった瞬間、いつ崩壊しても可笑しくない国になっちゃったんだけどね。後、普通に金が足りん。)

もちろん、悠真はただ王に日本の凄さを見せつけたかった訳ではない。

神に認められた今、この世界では紙くず同然だった日本円が、神という信頼により価値が跳ね上がる。

「単純計算で、1円=10ゴールドですよね?」

60兆ゴールドまたは6兆円で勇者を復活させられるのだからこの計算は正しいはず。

流石の王も頷かざる負えない。

「その通りだ。神が下す判断に間違いは無いだろう」

「では、今後1円=10ゴールドで取引しませんか?」

王は頭を悩ませる。

その反応も予測通り。

「そうですよね。やはり、どこぞの知らない国の通貨に10ゴールドも払えませんよね」

では、と提案する。

「1円=9ゴールド。これで手を打ちませんか?」

王は目を見開く。

「正気か!?神に価値を認めてられているのに、1ゴールド分も価値を下げるか」

悠真は頷く。

「えぇ」

その提案に、王は…

乗った。

「分かった。但し、神に認められようと私が即座に頷けないことを、貴殿は理解しておるな?」

分かっている。

「現状、円の使い道が人の蘇生しかないですからね。実質、蘇生額十分の一軽減。蘇生にはとんでもない金額を請求される分、蘇生は活発に行われていない。つまり、蘇生のみの用途しか価値の無い円は持ちづらい。だが、ほかの用途にも使えれば?」

「その通りだ。そこもまた、後で議論しようではないか」

「承知いたしました」

それと、と悠真はまだ続ける。

「この大陸の、日本と近いところに土地を買いたいのですが、土地は金で買えますか?」

王は悠真を見つめる。

「その心は?」

「色々です」

為替、土地、勇者の蘇生。

これらの情報から、悠真は既に魔王を倒すための筋道を描いていたのだった。





──日本の会議室の中。

悠真を含めた今回の交渉隊は、1部を除き日本へ帰還していた。

王との会議、情報収集に徹していた外務大臣や自衛隊との合流を終えた悠真は、即座に帰ることを決定したのだ。

その目的はひとつ。

「これらが異世界で得た情報です」

情報共有である。

あまりにも濃密すぎた異世界の出来事は、悠真に帰宅させることを選ばせた。

どれほど事が深刻であり、希望があるか。

それを報告する義務があった。

勇者の蘇生の話以外は全て話す。

すると、会議室の中がざわめき始めた。

防衛大臣は声を詰まらせた。

「こ、これが異世界…。そして、勇者の死」

この異世界で何が起きようとしているのか、この中に分からないものは居なかった。

悠真は政府の指針を示す。

「この混沌とした世界で生き延びるには、我々の世界で培ってきた技術を遺憾無く発揮することが非常に重要です。科学という概念を知らない世界では、圧倒的優位に立ち回ることができるでしょう」

悠真は続ける。

「しかし、相手には魔法があります。従来の科学では太刀打ち出来ないふざけた物です。ですが、魔法には理論が存在する。つまり、活用出来るかもしれません」

悠真は大きく息を吸った。

「直近の目標は、第1に科学の源である石油の確保。石油さえあれば、多くの日本の課題を解決できます。食料不足でさえです。第2に魔法の解明。魔法の原理さえ分かれば、それを利用できるかもしれません。私達はそれらに全力を注ぎます」

悠真の方針に、防衛大臣、経産大臣、官房長官などの官僚達に意義を唱えるものはいなかった。

しかし、そんな中、ひとりのメガネをかけた男性、いかにも研究職っぽい人が控えめに挙手をしていた。

全員の視線がその人に向かう。

この場で手を上げるとは相当勇気があると、悠真は発言を許可する。

その男は話し始めた。

「魔法の解析を任されている教授です。魔法の解明の進捗をここで報告させてもらっても構わないでしょうか」

この場に居るということは、政府関係者から相当信頼されている教授ということだろう。

言わば、魔法の専門家。

そんな人が、今ここで研究成果の報告をしようとしている。

恐らく、直近に判明したことがあり、まだ報告していないが非常に重要な何かを発見したに違いない。

「お願いします」

悠真は話を促した。

その男はお辞儀をした後、簡潔に述べた。

「魔法の源を特定しました」

と。

…会議は踊る、故に進む。

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