ロングトレイル
瞳と仁は、高速を降り、近くのコンビニに車を止める。
「こっから1時間ちょっとかかる。遠いなって」
「中央道の方が早かったじゃない」
「いいんだよ。これの方が行くって感じ出るでしょ」
「まあ、いいけどさ」
また車に乗り込み、走り出す。
「やっと着いたー」
宿について、瞳がつぶやく。
「夕方だよね、大会の説明会」
「そうだよ。すぐ近くの体育館だよ。それまでゆっくりしよう」
瞳と仁は、部屋でまったり明日の準備に取り掛かる。
「明日、80kmかっ〜、長いよねきっと」
「大丈夫だよ、練習だってしたし、制限も緩いって聞いてるから」
明日のリュックに、携帯食、雨具を入れる。
近くの体育館で大会の説明会を受けて、仁と瞳は、ゆっくり宿に戻る。
大会当日。朝5時。ブラッシュ高山スキー場のスタート地点。沢山の選手がスタートを待っている。仁と瞳もその列の中にいる。
「いよいよだね」
瞳が言う。
「ゴールで待ってる」
仁は一言返す。まもなくして、スタートの号砲がなり、選手が走り出す。
まずはブラッシュ高山のスキー場のゲレンデを登っていく。まだスタミナがある状態での登りなので、瞳は軽いステップで進んでいく。
登り切って、ここからゲレンデを降り、国道を少し走り、また山道に入っていく。第一の山、茶臼山までの登り、傾斜は緩いが、長く直登していく、高い木々がなく、直射日光が選手のスタミナを奪って行く。
仁は、小刻みのステップでなんとか山頂に辿り着く。山頂からは、美ヶ原の山々の絶景が見える。仁は、携帯登りカメラで、景色を取り、再び走り出す。
瞳は、茶臼山まで登りは、歩いていた。直射日光の影響で、大量の汗で、スタミナ遠奪われている。
仁は蓼科山の裾野を通過、少し降って、美ヶ原高原に到着。ここは、歩行区間なので、走りたい気持ちを抑えて、早歩きです進んで行く。
瞳はやっと茶臼山山頂には辿り着く。景色には感動して、補給のジェルを飲み、また走り出す。
歩行区間の終了地点が第一関門、美ヶ原。仁は制限時間に余裕を持って通過。その後、二つの山の登り降りが待っている。
瞳は、やっとの思いで美ヶ原高原には到達、歩行区間を早歩きで進み、なんとか制限時間ギリギリで関門を通過。
二つの山を越え、仁は大門牧場内を走っている。牧草地を進んで行くが、牛がデカい。また牧場地には、大きな糞がゴロゴロしている。傾斜は、ほぼなくフラットだが、これまでアップダウンを走ってきた脚は、スムーズに動かない。
なんとか、第二関門、大門牧場に到達。ここで、仁は10分位休む。
瞳は、二つ目の山の登りで、苦労していた。思うように脚が動かず、すぐ息が上がる。
『全然身体が動かない、マジやばいな』
瞳は重い脚をなんとか動かして、山頂にたどり着く。
『仁はもうすごい先に行ってるんだろうな、やっぱり自分はまだまだだ』と景色を眺めながら、心の中で呟く。
仁は、大門牧場の関門での休みを切り上げ、再び走り出す。少し休んだので、軽快にステップが踏めている。『瞳、大丈夫かな』
心の中で心配している。
いよいよ、最後の難関、大門の壁が、仁の目の前に現れた。
傾斜角度85度、落差80メートルの鎖場。
鎖場とロープが垂れている。それを掴みながら登り始める。
瞳は、ようやく大門牧場の関門に到達した。制限時間まで、後6分での通過だった。瞳はドリンクの補給して、また走り出す。ほぼジョギングペースだが、進んでいる。
大門の壁を仁は登って、ようやく僅かなロードに出た。ロード出て、仁は、『瞳、関門通過したかな、ちょっと待ってみるか』
仁はロードを少し歩き出す。『関門を通過してるなら、自分が歩いていれば、瞳が追いつくはず』『完走は確実だし、一緒にゴールしたい』仁は、瞳の追いつくのを待つように、歩き出す。
瞳は、その頃、大門の壁を登っていた。ロープをしっかり掴んで、一歩一歩確実に進めていく。なんとか、大門の壁をクリアして、瞳もロードに出た。ジョギングペースで進んでいく。瞳の視界の中に、仁の後ろ姿が入ってくる。
仁に追いつく瞳。
「先にずっと行ってると思った」
瞳は、仁の肩を軽く叩く。
「先にいこうって思ってだけど、だんだん瞳と一緒にゴールしたいって考えて、歩いてた」
「ありがとう〜、嬉しいなっ」
「この先は、絶景のトレイルだから、タイムより、一緒に走りたい。後は関門ないし」
「そうなの。また辛い登りとかないの」
「車山は、一度登山で来たけど、きつくないよ。登山道も車道位広いし」
瞳と仁は、ロードから左折して、車山の登山道に入る。緩やかな登り。2人は、ジョギングペースで走っていく。
「すごい、花が綺麗だし、走りやすいしいいね」
「花は、なんとかツツジって言って、山に良くあるやつ、今が見頃らしいよ」
「これが最後の山だよね」
「そう、これ登れば、登りはないよ。後はゴールまで下り」
瞳と仁はほぼ登りを登りきり、大きな登山道の交差点に着いた。後は、左に曲がり、下っていけばゴールが待っている。
「後は下り、最後の走りしますか」
仁は、ドリンクを一口飲み、瞳に言う。
「オッケー、余り早く行けないけど、付いて行くよ」
2人は、大きな登山道の下りを、出来る限りの軽快なステップで進んでいく。2人の目にゴールゲートが入ってくる。
「ゴールは後少し」
瞳が叫ぶ。
「いこう、後少し」
2人は、疲労いっぱいの脚を軽快に動かして、最後の下りを駆け下りる。
ゴールゲートを2人で通過。
「やったー、80km」
瞳が両手を空に向かって上げる。
「やったね、80kmコンプリート」
仁も瞳と同じように、空に向かって両手を上げる。
夕日に照らされたゴールゲートに次々と選手が入ってくる。