表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/62

チビエコー

 「こ、これは……?」


 和樹は、いつもより目線が低いことに違和感を覚えつつ、シャワールームの鏡の前に立った。


 ふと背伸びして自分の姿を確認すると――


 「えっ!?これが『HN-07』……な、のか!?」


 そこに映っていたのは、小学生ぐらいの生意気そうな女の子。


 真っ赤なショートヘアーに、頭にはゴーグル。まるでエコーをそのまま小さくしたような姿だった。


 「な、なんだこれ……嘘だろ……!なんでエコーなんだ…」


 震える手でぺったんこの胸元を確認する和樹。その華奢な体に改めてショックを受け、鏡越しに呆然とつぶやいた。


 「いやいやいや……綺麗なお姉さんとか期待してたのにぃ!!」


 その場で天を仰ぎ、両手を突き上げながら叫ぶ。


 「俺、子供型とか聞いてないからぁぁぁ!!!」


 和樹の絶叫がシャワールーム中に響き渡り、朝の静けさを無残に打ち破った。


 ——ガチャ。


 シャワールームのドアが開き、エコーが顔を出す。


 「何、何、朝から元気だね!何か問題でもあった?」


 「大問題だよ!!俺はてっきりカッコいい大人のお姉さんが来ると思ってたんだよ!なのに……なんでエコーなんだよ!!」


 鏡の中では、赤いショートヘアーの子供型アンドロイドが自分を見返している。ショートパンツの裾を引っ張りながら、和樹は嘆き続けた。


 「これじゃ俺、『マスコットキャラ』扱いされるだろうがぁぁ!!」


 すると突然、ノアの声が頭の中に響く。


 (HN-07は機動力とステルス性に特化した近接戦闘モデルです。形状に対する不満は性能でカバーしてください)


 「いや、性能がどうとかじゃない!俺の心の問題なんだよ!!」


 (それは個人の問題です)


 和樹はぐぬぬと口を歪め、鏡の前でくるりと一回転してみる。


 「こんな可愛い見た目で敵と戦うとか、俺のキャラに合わないだろ……せめて声だけは渋く設定できないの?」


 (子供型に渋い声では余計不審に思われる可能性がありますが)


 「……くそっ!俺の楽しみを返せぇぇ!!」


 和樹の魂の叫びは、虚しくシャワールームの壁を震わせるだけだった。



 和樹は、一階のノクターナルに向かうため、エコーとともにエレベーターに乗り込んだ。


 「なぁ、なんで『HN-07』がエコーそっくりなんだよ?」


 和樹がジト目で問い詰めると、エコーは悪びれた様子もなく、満面の笑みを浮かべながら答えた。


 「えっ?だって、妹欲しかったんだもん!」


 「はぁ?」


 「『HN-07』が来るって聞いたから、博士に頼んで無理やり仕様を変えてもらったの。かわいいでしょ?」


 誇らしげに胸を張るエコーに、和樹の眉間に青筋が立った。


 「コラァ、エコー!犯人はテメェかー!」


 和樹はエコーの後頭部を平手で軽くはたく。


 「ちょ、ちょっと!やめてよー!」


 エコーは慌てて頭を押さえながら、少し涙目になって訴えた。


 「『HN-07』って力がすごく強いんだから…!」


 「いや、悪いのはお前だろうが!」


 和樹とエコーがエレベーターを降りてバー「ノクターナル」のドアを開けると、営業前の店内でノクトがデイブの左腕を直している最中だった。


 「おっ、起きたか?」


 「プッ、なんだよそのチビエコーは?ここはガキの来る場所じゃねえんだぜ!」


 「なによ、デイブのクセに!?」


 エコーが腕を組みながら睨みつける。


 「エコーの妹に文句あるの?舐めた口聞いてると、この子にバラバラにされるよ?強いんだから!」


 「おい、エコー、勝手に俺を使うな!」


 和樹が止める間もなく、デイブは挑発的な笑みを浮かべて反撃する。


 「…あァ? そのちんちくりんのクソガキがか? やれるもんならやってみせてもらおうじゃねえか! これでも俺はネオンセクター代表の拳闘士だぜ!」


 デイブが胸を叩きながら挑発する。和樹は眉をひそめ、深々と溜息をついた。


 「お前、本当に懲りない奴だな…。見た目で判断するなって、昨日、身にしみたはずだろ?いいのか、本当にやるぞ?」


 「何ブツブツ言ってやがる!やれるもんならやってみろってんだ!」


 「おいおい、デイブ、さっき直したばかりだぞ。また壊しても今度は直してやらんからな!」


 ノクトは作業を止めて呆れたようにデイブを見やった。その横で、和樹はゆっくりとゴーグルを調整しながら一言。


 「……じゃあ、遠慮なく――やらせてもらう」


 言葉が終わるや否や、和樹は一瞬でデイブの懐に飛び込む。小柄な体から繰り出される俊敏な動きに、デイブは一瞬反応が遅れる。


 「なっ、速ぇ――っ!」


 しかしその言葉が終わる前に、和樹の片手が修理したばかりのデイブの腕をしっかりと掴む。そして――


 ———バキッ!!!


 鈍い音が響いた瞬間、デイブの新しい腕が無惨にも引きちぎられた。


 「ぎゃあああぁぁぁ!!痛ぇぇぇぇ!!!」


 デイブが地面に転がり、断末魔の叫びを上げる。修理したばかりの腕を手に持ちながら、和樹はデイブを踏みつける。


 「おい、やってみろって言うから、やってみたぜ。満足したか?」


 「うわあぁぁぁ! 痛えよぉぉぉ!! うぅぅ…今日拳闘士の大会だったんだよ! こ、これじゃ出られないじゃないかぁ!」


 床に転がりながら号泣するデイブを見て、和樹は頭を抱えた。


 「はぁ……お前、そんなこと言うなら最初から挑発するんじゃねえよ……」


 「ほら見て!だから言ったでしょ、この子、強いんだから♪」


 「お前が余計なことを煽るからだろ!」


 和樹がエコーに怒鳴るが、彼女はケロッとしている。


 修理されたばかりの腕を抱えたデイブが、床に座り込んで大声で泣き叫ぶ。


 「ノクトの兄貴ぃぃ! 俺、今日大会に出れなかったら……罰金だよぉぉぉ! 50万クレッドなんて払えねぇってばぁぁぁ!!」


 「馬鹿野郎!せっかく腕を直してやったのに、何やってんだよ……自業自得だろ」


 「そんなこと言わないでぇぇ!頼むよノクト兄貴!俺の代わりに出てくれ!!」


 「はぁ? なんで俺が出なきゃなんねぇんだよ。お前が撒いた種だろ? それに、開店準備もしなきゃなんねぇんだぞ。無理に決まってるだろ!」


 ノクトの声が店内に響く中、和樹はカウンターの隅でジュースを飲みながら、そのやり取りをぼんやり聞き流していた。


 (ノア、『HN-07』でアストを今度どこか遊びに誘ってやるか、見た目も同じくらいの年齢だ。おかしくないだろ)


 (了解しました)


 (『IS-21』に戻って、今日はギルドに行こう、肩慣らしに通常の依頼も受けてみたい)


 和樹はジュースの最後の一口を飲み干し、カウンターに空いたグラスを置いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ