ガンショップ リンダ
ホアン、カレン、そしてラグナがエレベーターで2階に上がると、ガンショップ、ボディスーツ専門店、依頼に必要なツールを扱うショップなど、様々な店が所狭しと並んでいた。
ラグナは迷うことなく、少し奥まった場所にある寂れた小さな店へと足を踏み入れた。
店の入口には「ガンショップ リンダ」とピンク色のネオン看板が怪しく光っている。
「リンダさん、いるか?」
ラグナが呼びかけると、厚化粧にきらびやかなアクセサリーを身につけ、まるで鋼鉄のように張り詰めた筋肉をさりげなくアピールする男性が、くねくねと腰を揺らしながら奥から現れた。
「あらぁ~、ラグちゃんじゃないの!久しぶりね、何かご入用?」
「サーチャー初心者の装備を一式揃えてもらいたいんだ。ホアン、カレン、こっちに来い」
ラグナが呼びかけると、ウロウロとあちこちを興味津々に見ていたホアンとカレンが近くにやってきたが、目の前のリンダのキャラクターに圧倒され、ぽかんと口を開けたまま立ち尽くす。
「…………」
「…………」
「あらまぁ、かわいい坊やとお嬢ちゃん、リンダよ~!よろしくねぇ!」
リンダがウィンクを飛ばしながらホアンとカレンに挨拶すると、二人は顔を見合わせて少し戸惑った表情を浮かべる。
「さてさて、サーチャーの赤ちゃんたちには何がいいかしらねぇ~?」
リンダはウインクしつつ、しっかりとホアンの肩を掴んで逃がさないようにしながら、ニッコリと微笑んだ。
「まずはアタシの自信作、ほら、このステルス機能付きワンピースなんてどう? あなたみたいな可愛い坊やが着たら…もう一流のサーチャー、いや、いい女に大変身よぉ!」
「ひっぃ!!」
ホアンはリンダの迫力に圧倒され、その一言で完全に怖気づいてしまい、思わず尻もちをついてしまった。
「ハハッ!リンダさん、冗談はほどほどにしてくれよ」
「まぁ、残念だわ〜! でも、その驚いた顔もたまらないわね〜! で、ラグちゃん、装備っていっても、どんな依頼を受ける予定なの?」
「…回収系だな。コイツらでも自衛ができる装備が必要だ。できればステルス系かジャミング機能付きのボディスーツ、それと防御シールドも新しいものにしてやってくれないか?」
「いいわよ〜、じゃあ、今使ってる装備をお姉さんに見せてちょうだい!」
ホアンとカレンはゴソゴソと装備を外し、テーブルの上に並べた。
「まぁーやだ!この旧式プラズマガン、ラグちゃんが昔使ってたやつじゃないの! ってことは…あなたが噂の妹ちゃんね? 本当に可愛い子じゃないの〜。お姉さんの妹になる気はない?」
カレンは戸惑いながらラグナに視線を向けると、ラグナは苦笑しつつ首を振るだけだった。
「あ、ありがとうございます。でも…大丈夫です」
「あらぁ、残念。こんなかわいい妹欲しかったわぁ〜でも、しょうがないわね。さーて、装備のチェックね。プラズマガンに通常弾のリボルバー、それから携帯式防御シールドが2つ、小型探索ドローンも…ふぅん、本当に最低限の装備だけねぇ。予算はどのくらいかしら? 予算内で最高のセットを用意してあげるわ。」
「どうする、カレン?いくらまで使う?」
「うーん、活動資金も少し残して…10,000クレッドくらいがいいんじゃない?」
「了解、それじゃあちょっと待っててね」
リンダは一瞬ウインクしてから、奥へと装備を取りに向かった。
「リンダさんってちょっと変わってるね」
「ちょっと?! じゃねえよ! かなり変わってるだろ! 俺、クアッドハウンドが出た時よりビビったぞ!!」
「まぁ…そうだな。でもリンダさんは信用できる人だ。それに前はアークライト・インダストリー社のバイオ兵器開発部で部長をやってたんだぞ」
「えっ…スーパーエリートじゃん! なんでこんな寂れたショップやってるの?」
その時、リンダが静かに戻ってきて言った。
「ふふ…寂れたショップで悪かったわねぇ」
「うげッ、リ、リンダさん…い、いや、あの、違うんです…な、なんていうか……」
「ふふ、いいのよ。寂れてるのは事実だから。それにアークライトを辞めたのは、まぁ…いろいろと、方向性が違ったからよ」
「もう…ホアンのバカ…」
「さぁ、それじゃあ、装備を見せてあげるわよ」
リンダが取り出したのは、黒くて分厚いアタッシュケース。テーブルの上に置くと、ケースの表面には『C』に稲妻のデザインが重なるロゴが刻まれている。
「えっ、マジ…これ、レーザー兵器で有名なクロノヴァ・テクノロジー社のロゴじゃないか!」
「あら、知ってるのね〜。驚かせたかったのに」
リンダは小さくウインクしながら、ケースの留め具をパチンと外すと、黒光りする大きなスコープを備えたハンドガンが姿を現した。
「これが『ハートシーカー Mk-II』よ。距離に応じてレーザーの収束率が自動調整されて、長距離でもライフル級の精度を発揮するわ」
ホアンは興奮気味にハンドガンを構え、スコープを覗き込んだ。
「スコープには高度なセンサーが搭載されていて、標的の動きを瞬時に解析して、照準を自動で微調整してくれるのよ」
「す、凄すぎる…で、でも…これって企業ブランドの装備だし、かなり高いですよね?」
「それがねぇ〜、これは型落ちなのよ。それに最近、ヴァンガードセクトが長距離射撃の人材を集めてるでしょ? だから元の持ち主がレーザースナイパーライフルに買い替えたってわけ。これはその下取り品で中古だから、4,000クレッドでいいわ。早い者勝ちよ〜」
「マジでかっ!」
「それと、このパルスジャミング・ジャケットも見て。断続的にパルス信号を放つナノ繊維で織られているの。探知センサーや通信ネットワークに干渉してジャミングしてくれるんだけど、あらかじめ自分たちの通信周波数に設定しておけば、その影響は一切受けないわ〜」
ホアンとカレンはパルスジャミング・ジャケットを試着してみた。ボディスーツほどの防御力はないものの、軽量なナノ繊維素材と軍用ジャケット風のデザインが相まって、機能的でありながらスタイリッシュな印象を与えていた。
「次はこれね、ネオバース・システムズ社の光学迷彩シールド。周囲の環境に溶け込む光学迷彩を発動できる小型デバイスよ。ベルトや手首に装着可能で、シールド機能も付いているから、防御と迷彩の二役をこなす優れものよ」
リンダが手に持ったデバイスは、滑らかなメタリック素材に淡いブルーの光が脈動するデザインで、見るからに高性能であることが伝わってくる。
「ハートシーカー Mk-IIが4,000クレッド、パルスジャミング・ジャケットが2着で2,000クレッド、光学迷彩シールドが2機で4,000クレッド。合計でちょうど10,000クレッドね。」
リンダは満足げに計算結果を告げた。
「さらにサービスで、ハートシーカー Mk-II用のエネルギーカートリッジもおまけしてあげるわ。これだけ揃えれば、安心して回収依頼に挑めるわよ。」
リンダはウインクしながら、テーブルに装備を並べてみせた。そのラインナップはまさに、これから活動を始めるサーチャーにとって理想的なセットアップだった。
「どうする、カレン? 俺はこれでいいと思う。それにラグナさんもリンダさんのことは信用できるって言ってたし」
ホアンが装備を見ながらカレンに確認する。カレンは少し考えた後、頷いた。
「うん、私もこれで大丈夫。兄さん、リンダさんにお願いしていい?」
「ああ、大丈夫だ。俺も現場に出てた頃はリンダさんには世話になった。間違いないよ。」
カレンはリンダに向き直り、少し緊張した様子で頼んだ。
「それじゃあ、リンダさん、お願いします」——
***
モニターを眺める和樹は、装備を選びながら依頼に期待を膨らませるホアンとカレンが眩しく映った。
同じ年頃の彼らが夢中になって楽しんでいる様子に、和樹は心の中で羨ましさを感じずにはいられない。気づけば、その会話に自分も引き込まれていた。
(俺もサーチャーになって、ホアンやカレンみたいに装備を選んだり、依頼を探したりしてみたいな…)
そんな思いが胸をよぎるが、声に出すことはできなかった。両親がどんな想いで自分にインディペンデントAIとナノマシンを組み込んだかを知ってしまったから。
そして、サイヴァートレックスを創り出すために、どれだけ多くの人々が夢と希望を託したかも理解してしまったからだ。
「了解!毎度あり。さて、今使ってる防御シールドはどうするの?どうせ使わないでしょ。1機300クレッドで買い取るけど。それと、この探索ドローンね……」
リンダはテーブルに置かれた小型ドローンを手に取り、細部を確認しながら話を続ける。
「このドローン、解析やデータ収集もできる結構いいモデルよ。まだまだ現役で使えるわ。これ、もしかしてラグちゃんが使ってたやつじゃない?」
「はい、そうです。兄さんから譲ってもらいました」
「さすがラグちゃん、手入れがいいわね。あとはしっかり整えて、依頼にバッチリ備えましょ!」
ノアが和樹の様子を見ながら、無機質な声で提案をした。
「和樹、明日アンドロイドとリンクしたら、サーチャーのメンバーに登録してみましょう」
「えっ?なんで?訓練は……いいの?」
「外部でドローンを相手に訓練する場合、実際の依頼をこなしながら行った方が、より自然で効率的です。様々な依頼を受ければ、必要な情報収集やクレッドの獲得にも繋がります。それに、チームで行動することで連携のスキルを磨けますし、現在の人類が使用している装備や戦術についての理解も深まるでしょう」
「…そ、それは……確かに、わかった、そうするよ」
和樹には機械的な存在である無表情なノアが、なぜかまるで母親のように優しく微笑んでいるように見えた。
「ありがとう、ノア……」




