社員旅行の下見に片思い中の先輩と来たけれど、温泉旅館が混浴だった
『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
主人公→女性
先輩→男性
「「混浴!?」」
先輩と声を合わせてしまった。この旅館、混浴しかないらしい。
「え? 部屋にお風呂は!?」
「ございません」
…………ありえないんですけど!!!
先輩と2人で社員旅行の下見に来た。部長に熱心に勧められた温泉旅館。ホームページもないなんてどうかと思ったけど部長の言うことは絶対だから、平日に社命で下調べにきた。
あの、エロジジイ〜〜〜〜〜〜〜〜!
この段階で却下だ。会社の人間全員同じお風呂とか冗談じゃない。予約は取っちゃったのでチェックイン。あとは先輩の車に乗って周辺の旅館を当たった。成果もなしに帰れない。
なんとか男女別の温泉旅館と観光できるところを見つけ、最初の宿に戻ってきた。
「こちらでございます」
服を着たまま見せてもらった温泉が最高だった。露天の、趣のある佇まい。川に隣接していて眺め良し。
「……入りたいですね」
「そうだな……」
「本日のお客様はお二人だけでございます」と女将に言われ決意した。時間をずらして別々に入ろうと。まず私が入り出てきたら先輩に声をかける。これなら風呂場でかち合うこともあるまい。
「ぜっっっっったいに入ってこないでくださいよ!」
「誰が入るかバカっ!」
1人、温泉に浸かる。
「ふぃ〜〜〜〜」
最高だわここ。ご飯も美味しいし、旅館の人も気さくだし。混浴じゃなければなぁ。知る人ぞ知る秘湯なんだろうな。
夜中になっても寝付けなかった。
3時か……。先輩とっくに寝ているな。
もう一度入りにいく。びっくり。真っ暗だ。
でもせっかく来たから入る。星々の明かりだけの露天風呂も悪くない。
念のためバスタオルを体にしっかり巻き付けたまま湯船へ向かうと先輩がいた。
「「!?」」
「何やってんですか! 今夜中の3時ですよ!」
「こっちのセリフだ!」
「眠れなかったんですよ!」
「俺もだよ!」
ザブンと湯船に浸かった。先輩が焦る。私に背を向けた。
「何入ってきてんだよ!」
「だってぇ。寒かったんだもん」
外の渡り廊下が長かったのだ。
互いに背を向けてしばらく黙った。
「……先輩」
「なんだよ」
「ここ、いい旅館ですね」
「そうだな」
「ご飯も美味しいし」
「宿の人も気さくだし」
「温泉気持ちいいし」
「これで混浴じゃなければなぁ」
ふふふ。
「「混浴の社員旅行なんてないよねぇ」」
笑いあった。
でも。
『『2人でなら、また来てもいい』』
2人の距離は、あと1センチ。
ここで振り返ったらどうなってしまうんだろう。
確かめてみたい。
私は振り返った。
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