81 あの日のロイとリラ(ロイ視点)
聖女誘拐事件が幕を閉じてから数日後。ランスとセシルが屋敷に遊びに来た。遊びに来たと言うのは名目で、おそらくセシルがリラの様子を見に来たんだろう。
そりゃそうだ、あの日、白龍の力を莫大に消費した騎士たちは皆本当にどうしようもない状態だったのだから。聖女様たちはどれほど大変だっただろう……。リラを心配するセシルの気持ちはよくわかる。
「リラ!」
「セシル!いらっしゃい、なの!」
セシルの姿を見たリラはすぐに走り出しセシルに抱きついた。セシルも嬉しそに笑い、その隣でランスは俺を見て軽く挨拶をした。
「ロイ、久しぶり」
「ああ、あの日以来だな。そっちも問題なさそうでよかったよ」
「ロイたちも。セシルがずいぶん心配してたから」
ランスの言葉に俺は苦笑する。本当に、あの日は俺にとってもリラにとってもいろんな意味で特別な日だった。
「ロイ、しっかり」
黒銀の龍とベイルを倒し、屋敷に戻った俺はリラと白龍ジュインの肩を借りながらなんとか自室に戻ってきた。ベッドに静かに座らされ、リラが横に座る。白龍の力の消費が激しい俺は一時的にリラから力をわけてもらったが、それでも自分の足だけで立つこともままならない状態だ。
「リラ、後は頼んだよ。一刻を争う、このままではロイの命も危ない」
ジュインの言葉にリラの顔が青ざめる。そしてジュインは俺の顔を見て言った。
「ロイ、覚悟を決めるんだ。君がリラと本格的な力わけをしないと言うのであれば私が代わりにリラと直接力わけを行う」
「ジュイン……それは……」
だめだ、と叫びたい。だが、こんな状態でリラと本格的な力わけをするのは自分の意志に反する。リラを傷つけたくないし悲しい思いも辛い思いもさせたくない。できればもっとゆっくり時間をかけてあげたかったのに。
「ロイ、リラは大丈夫なの。ロイとなら、リラ、どんなことでもできる、だから」
そう言ってリラは静かに俺の唇に自分の唇を重ねる。俺たちの指輪の石から白い光が放たれ、俺たちは光に包まれていった。静かに、だが確実に体の内側からどんどん力が湧いてくるのがわかる。そのまま時は流れ、いつの間にか光はどんどんと弱くなって消えていった。
リラが静かに唇を離す。リラの不安そうな顔が俺の両目に映った。あぁ、そんな顔させたいわけじゃない、俺はリラにいつだって笑顔でいてほしいのに。
「ロイ、大丈夫?」
「あ、あぁ、だいぶ楽になった……」
だいぶ楽になったのは本当だ。だが、それ以上に体はもっと力を欲しがっている。もっと、もっと、もっと。その衝動をリラにぶつけたくて仕方がないが、そんなことをしたらリラがどうなってしまうかわからない。それが恐ろしくて俺は顔を背けた。
「ロイ、リラは覚悟を決めている。覚悟ができていないのは君だけだよ。いいかい、君がリラのことを本当に大切に思っているのはわかる。だが、リラの気持ちを無碍にすることは私が許さない。リラの気持ちをきちんと受け取るんだ。君にはその資格も義務もあるんだよ」
そう言ってからジュインはリラを見て微笑んで頷き、部屋から出ていった。ジュインが出ていった部屋には静寂が訪れる。
「ロイ、リラと本格的な力わけをするのは、そんなに、嫌?」
悲しそうに尋ねるリラの姿に、俺は思わず大きく首を横に振った。違う、違うんだリラ。
「そうじゃない、そうじゃないんだ。……本当はもっとゆっくり、リラのペースに合わせて進みたかった。リラを傷つけたくないし辛い思いもさせたくない。リラにはいつだって心から笑っていてほしいんだ」
「リラは、ロイと一緒になってから、ずっと幸せ。だから、大丈夫。それに、今力わけを、しないで、ロイが死んでしまうことの方が、リラは悲しいし、辛い」
リラはまだ辿々しさが残る口調で、必死に気持ちを伝えようとしてくれている。そんな姿を見ているとさらに俺の中で熱いものがふつふつと湧き上がってくる。もっと、もっと。リラに触れたいしリラの全てを欲してしまっている。
「今の俺は力の消費のせいで尋常じゃない。この状態で本格的な力わけをしてリラが辛くないわけがないんだ。リラをどうにかしてしまいそうで俺は怖い。そんなことはしたくないんだよ」
拳を握り締めリラを見つめて俺は言った。そんな俺の手をリラの小さな手が包み込む。
「ロイが、どんな状態でも、リラは、大丈夫なの。リラにとって、ロイは、救世主だから。リラは、ロイのためなら、どんなことでも、したい。リラ、ロイのことが、好き。大好き。たぶん、これが、愛、して、る?だと思うから」
そのリラの言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが弾け、そのまま俺はリラをベッドへ押し倒した。リラの表情は驚いているが困っている様子はどこにも見られない。
「……悪い、手加減できそうにない。でも、俺もリラを愛してる。心の底から」
そう言うと、リラは本当に本当に嬉しそうに微笑んだ。そうして、俺とリラは本格的な力わけを初めてその日行い、愛し合った。
「リラも元気そうでよかった。うまくいったんだな」
その日のことをぼんやり思い出していた俺は、ランスの声で我に帰った。
「あ、あぁ。どうなることかと思ったけどな」
実際、力わけの最中は本当にただただ夢中だったが、力わけが終わって気絶するように眠ってしまったリラを見て俺は正直嬉しさと苦しさで困惑していた。
リラの見た目は正直若い、というか幼い。そのことが背徳感を誘うが、実際リラは見た目が幼いだけで成人済みだ。しかもロイの元に来てから栄養をきちんと摂れるようになったからだろう、少しずつ体つきもしっかりしていつの間にか女性らしさもつき始めていた。それがむしろ俺をかき立てる一つにもなったのだが。
「ランスのところはどうせ問題なかったんだろうな。そもそも常にイチャイチャしているようなもんだし」
「はっ!?そんなこと……ないだろ。まぁ、あの日セシルには無理させちゃったと思うけど」
頬を指で軽く掻きながらランスは少し顔を赤らめて言う。はいはい、ご馳走様。そんなランスを見ながら俺はまたあの日のリラのことを思い出す。
一眠りして目が覚めたリラは、隣にいる俺を見て何かを思い出したんだろう、顔を真っ赤にした。
「体、大丈夫か?痛いとことか、辛いとことかないか?」
「だい、じょうぶ……なんかあちこち痛い、気もするけど……でも、頭がふわふわするし、なんか不思議……」
顔を赤くしてぼうっとしながら言うリラの姿が可愛くて仕方がない。そして、次の言葉に俺は耳を疑った。
「力わけだと、ああなの?力わけじゃないと、どうなの、かな?」
たぶん言ってる意味をちゃんとわかってないだろ。リラらしいっちゃリラらしい。
「……今度、力わけとは関係なくたっぷり愛してやるよ。むしろ力わけの前にちゃんとそうしたかった。順番が逆になってしまってごめんな」
俺がそう言うと、一瞬リラはキョトンとしてから赤かった顔をさらに赤らめていく。そうして、上にかけていた布団に顔を半分埋めて恥ずかしそうにする。
「……楽しみに、してる」
そんなリラに、俺は理性を保つのが精一杯だった。どうしてうちのリラはこんなに可愛いんですかね。俺の聖女様がリラで本当によかったし、リラの騎士が俺で本当によかった。こんなリラ、他の誰にも見せたくないし渡したくないからな。




