80 終焉
私たちは黒銀の龍とベイルを倒し、リオン様はニオ様に見守られながら光になって消えていった。そうして、リオン様の最期を見届けた後。
「うっ」
騎士様たちが苦しそうにその場に崩れ出す。ランス様もすごく苦しそう!魔物討伐祭の時とは比にもならないほどの苦しみようで顔色も真っ青になっている。
「力の消費が思った以上に激しい、我々も正直辛い状態だ。こんな時にすまないが、聖女たち、どうか騎士たちへ力わけをしてあげてくれ。初めは抱きしめるだけで構わない、少しずつ体が慣れるように力わけを」
白龍ギール様に言われた私たちは、すぐに自分のパートナーである騎士様の元へ駆けつけ、ゆっくりと抱きしめた。
「ランス様、大丈夫です。すぐに良くなりますから」
そう言ってランス様を抱きしめるけれど、ランス様は声を出すことすら出来ずにこちらへ体を預けているだけだ。白龍の力を消費するとこんなにも騎士の体に弊害が出てしまう……。周りの聖女様たちも心配そうな顔でそれぞれ騎士様たちを抱きしめていた。
それぞれ白い光に包まれて、どのくらいの時間が経っただろう。
「……ありがとう、セシル。だいぶ楽になったよ」
さっきよりはほんの少し顔色の良くなったランス様が力無く微笑みながらそう言うけれど、やっぱりまだかなり辛そうだ。
「私も二人を乗せて送り届けるくらいには回復した。早く屋敷へ戻ろう」
そう言うミゼル様はすぐに白龍姿になって私たちを背中に乗せた。他の騎士様や聖女様たちもそれぞれ回復しつつあり、白龍様の背中に乗り始めている。
ただ、ガイル様とシキ様はまだ白い光に包まれているし、何ならちょっと濃厚そうなキスの音も聞こえてくるので、周りの方が恥ずかしくなってくる!あの二人、本当にどういう関係なのかよくわからないわ……。その二人の横では白龍ウェズ様が嬉しそうに微笑んでいた。
「みんな、本当によく頑張ってくれた。今回のことについてはまた追って連絡しよう。とりあえずそれぞれ無事に帰路についてくれ」
白龍姿のユイン様の背中にはユーズ団長とベル様、ケインズ団長とニオ様が乗っていて、ニオ様は放心状態のままだ。まだ苦しそうな顔でユーズ団長が号令をかけると、それぞれ白龍たちは騎士様と聖女様を乗せ羽ばたき出した。
屋敷に戻ってからまずランス様へキスでさらに力わけを行い、その後本格的に力わけを行ったのだけれど、力の消費が激しかったせいなのか、ランス様の様子があまりにも凄すぎて……。
「ごめん、セシル、自分でもどうしていいかわからない。制御したいけど制御できそうにないんだ」
そう言うランス様の瞳は獲物を狙う獣そのもので、正直どう返事をしていいかわからないまま力わけは進んでいった。前回の時もそうだったけど、力わけの最中は白い光に包まれて身体中が蕩けるようでわけがわからない。ただただその気持ちよさに身を委ねているといつの間にか気を失い、朝目が覚めるとランス様が申し訳なさそうな顔でこちらを見つめていた。
「本当にごめん、体は大丈夫?」
「は、い、多分……」
体は重くあまりの気だるさで起き上がれなかったけれど、ランス様はいつも以上に甘く私のことをお姫さまでも扱うようだ。ランス様だって戦闘の翌日で体は本調子ではないはずなのに……。
それにしても、あのランス様があんな風になってしまうなんて今回の力の消費は本当にすごいものだったのだろう。他の聖女様たちは皆大丈夫だったのかしら……。特にリラは多分本格的な力わけは初めてだろうし……ロイ様のことだから大丈夫だとは思うけど、色々と落ち着いたら様子を見に行ってみようかな。
そんな風に思いながらベッドからぼんやりと窓から見える空を見ていると、部屋から出ていったランス様がいつの間にか朝食を持って部屋に戻ってきていた。
「セシル、一緒に食べよう」
そう言ってランス様はベッドに朝食を置いて腰をかける。私をゆっくり起こすと、ランス様は優しく微笑んで尋ねてきた。
「どれが食べたい?」
目の前には美味しそうなふわふわのパンにオムレツ、彩り鮮やかなサラダにいい香りのするオニオンスープがある。
「えっと、それじゃまずはスープを……」
そう言ってスプーンに手を伸ばそうとすると、そのスプーンをランス様が取ってしまい、そのままカップに入ったスープを私のそばまで持ってくる。そしてスープをひとすくいすると、私の口元に持ってきた。
「はい、アーン」
「ラ、ランス様!?」
動揺する私をよそに、ランス様からは口を開けるまでずっとこのままだという強い意志を感じる。仕方なく口を開けると、ランス様はスープをフーッとしてから私の口へ流し込んだ。
「美味しい?」
「……はい、とても」
その後もランス様は私にどれを食べたいかを聞いてそれを全部食べさせてくれた。嬉しいやら恥ずかしいやら……。
「昨日は無理をさせてしまったからセシルのために何でもしてあげたいんだ。それに聖女誘拐事件や魔物討伐祭でずっと緊張した日々だったからね。こうして何の気兼ねもなくセシルとゆっくり過ごせることが嬉しいんだ」
ランス様の心の底から嬉しいと言わんばかりの笑顔に、心臓が撃ち抜かれてしまう……!
「全部、終わったんですね……」
「そうだね……ようやく終わったんだ」
二人で目を合わせ静かに微笑む。本当に色々なことがありすぎて目まぐるしい日々だった。けれど、こうして乗り越えることができたのもランス様と一緒だったからだ。
「みんな、あの後大丈夫だったんでしょうか」
「特に急を要する連絡はないから、きっと大丈夫だったんじゃないかな。それぞれがそれぞれにきっと仲良く過ごしているよ」
ユーズ団長からは一週間後に報告のための会議を開くのでそれまでは各自ゆっくり休むようにとの通達が届いている。
「ニオ様は大丈夫でしょうか」
「……ケインズ団長が一緒だから、きっと大丈夫だよ」
リオン様を失ったニオ様は帰る時もずっと放心状態だった。そんなニオ様をケインズ団長は自宅に招き入れ一緒に過ごしているらしい。ニオ様の心の傷は相当深いものだけれど、どれだけ長い時間がかかったとしてもケインズ団長はずっと一緒にいてその傷が癒えるのを待っていてくれるはずだ。
「さて、ご飯も食べ終わったし、セシルはまた寝ているといいよ」
「ランス様はもう寝ないのですか?」
ランス様だってまだ疲れが取れていないはずだ。ランス様の方こそゆっくり寝るべきだし、一人で寝るのはちょっと寂しい。そう思っていたら、意外な返事が返ってきた。
「……一緒に寝たいところだけど、可愛い君が隣にいると愛してしまいたくなるから。無理をさせた昨日の今日は流石に、ね。だから一緒には寝れないんだ」
そう言って私に優しく口づけをすると、ランス様は優しく微笑みながら部屋を出て行ってしまった。ランス様ってばそういうことを恥ずかしげもなくサラリと言ってしまうんだから。




