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76 目的

「一体何をしようとしている。二人に何をするつもりだ」


 ベイルの言葉を聞いてユーズ団長が響く低い声で言う。ユーズ団長は剣に手をかけ今にもベイルに切り掛かりそうな顔をしてるけれど、ニオ様とリオン様のことを考えて踏みとどまっている。


「ふふ、知りたいですか。ふむ、あなたたちもいずれは死ぬ運命だ、せっかくなので冥土の土産に教えてあげましょう。この聖女には我が国を蝕んでいる聖女たちの怨念の器になってもらう。そしてこの白龍にはその聖女たちの無念の思い、憎しみ、悲しみを一手に引き受けて死んでもらうんですよ。この聖女にこの白龍を殺させるんです」


 聖女に白龍を殺させる!?それってつまりニオ様にリオン様を殺させるって言うこと!?ベイルの最後の言葉に白龍様たちでさえも驚愕の色を隠せない。


「何故そんなことを!」


 驚いたランス様の問いかけに、ベイルはふんと鼻で笑う。


「海を隔てた君たちには何もわからないだろうが、サリ国はずっとずっと瘴気に覆われている。報われることのなかった聖女たちの愛されたいという願いと愛されることのなかった悲しみ、憎しみ、辛さ、長年の歴史で積み重ねられた彼女たちの意思が怨念となってサリ国を覆っているのだよ。土壌は腐敗し、人々は病に苦しみ、狂気と化した。一部の王族とそれに仕える者たちだけが結界の中でなんとか生き延びていたが、その結界ももう限界にきている。結界を張れる魔導師がもういないのだ。そうなれば瘴気をどうにかするしかない。そのために我々はずっと研究を行なっていた」


 ベイルは両手を上げ両目を見開いて言った。もう丁寧な口調をするのもやめたみたい。


「そうしてようやく解決策を見出したのだ。聖女たちの怨念を一人の聖女に集め、その聖女に白龍を殺させればいいと。報われることのなかった聖女たちは自分に合う騎士を選べなかった白龍たちのせいだと思っているだろう。その白龍の一人をこの聖女の手で殺させれば、聖女たちの無念は晴らされ瘴気も無くなるはず。騎士に愛されることはなかったのに白龍からの愛を受けたこの聖女に、愛する白龍を殺させれば聖女たちはきっと清々するだろうさ。騎士に愛されることのなかったお前が白龍からの愛を受けるなど間違っている、愛を知るなんて許されないのだと」


「……そんな身勝手なことがまかり通ると思っているのですか」


 いつもは冷静な白龍ギール様が明らかに怒りを含んだ声で言うと、ベイルは笑顔を崩さずむしろ面白いものを見たような顔になる。


「ほおう、いつでも冷静沈着な白龍が怒りを露わにするとはね。ははは、これは良いものを見た。君たちも連れて行って聖女が白龍を殺す瞬間を見せてやりたいくらいだ。そうしたら君たち白龍は一体どんな表情を見せてくれるんだろうか」


「貴様……!」


 怒りのあまりランス様やロイ様騎士たち、そして剣を持つ聖女のベル様とシキ様は今にも走り出さんばかりの勢いだし、ルル様も杖先に攻撃魔法を集中させている。だけどニオ様とリオン様を拘束している男たちが二人を地面へ突き飛ばし腰にかけていた剣を抜いて剣先を向けた。そうされてしまえば私たちは何もできないとわかっているのだ。……酷い、酷すぎる!


「卑怯ものめ」


 白龍ミゼル様は怒りを隠そうとはせず、他の白龍様も皆それぞれに怒りを体現している。


「ははは、ここまで白龍を怒らせることができるとは最高の気分だ。だがそろそろ自国に戻らないといけないのでね。雑談はここまでにしよう」


 ベイルがそう言って後ろへ下がる。それが合図だったかのように、ニオ様とリオン様に剣を向けていた男たちは懐から薄黒いツヤツヤした球体のようなものを取り出し、口に含んだ。


「ぐおっ、おっ、げえっ」


 男たちは突然吐き気を催したかのようにうめき出し、そのまま体がボコボコと変形していく!


「セシル、俺の後に」


目の前にはいつの間にかランス様が私を守るように立ちはだかっている。他の騎士様たちも聖女様たちを守るようにして立っていて、白龍様たちは何かに気づいたように眉間に皺を寄せた。一体何が起こるの?


「残念だが君たちにはここで死んでもらう」


 ベイルがこちらを向いてニヤリと笑う。そのベイルの目の前には体が変形し巨大化した男たち、ううん、もう人間なんかではなくどう見ても黒銀のような龍の姿になっていた!




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