69 騎士と聖女の仲
「今回のことが発覚したのは、その白龍からの記憶の共有だ。ずっと意識が伝わらないよう閉ざされてきていたのだが、討伐祭での出来事で隠しきれないと思ったのだろう。聖女を助けてほしいと伝えてきた」
白龍使いの騎士団本部で聖女誘拐事件の会議で聞かされた聖女誘拐事件についての詳しい話は全てが驚くことばかりで、会議室全体が騒がしくなったり静かになったりを繰り返していた。
「誘拐事件を解決するとともに、サリ国の人間に操られている聖女を救出する、白龍ももちろん一緒にだ。この任務には魔物討伐祭に参加した騎士と白龍、聖女のみで取り掛かろうと思う。それ以外の騎士たちについては、通常の任務についてもらう。通常の任務も大事な仕事だ、こちらに気を取られることなくしっかりと任務に当たってくれ」
ユーズ団長の言葉に威勢よくはっ!と騎士たちが言うと、ユーズ団長は討伐祭に参加した私たちを騎士団長室へ促した。
騎士団長室へ行く間、リラはずっとロイの手を握って不安そうにしている。白龍様たちは皆いつもと変わらぬ表情だけれど、口元から微笑みは無くなり無表情だ。そのちょっとした変化がより一層不安を掻き立ててくる。
こんなに複雑な事件だったなんて……。まさか聖女が関わり、白龍のために行っていることだったなんていったい誰が予測できただろう。
騎士団長室に入ると、そこには王都の騎士団ケインズ団長がソファに座っていた。
「ケインズ団長……」
「おう、会議は済んだか」
今回の任務は白龍使いの騎士団のみで行うと聞いていたのに、なぜここに?
「今回の任務には王都の騎士団は参加しないが、ケインズだけには参加してもらう」
ユーズ団長の言葉に皆疑問の眼差しを向けると、ケインズ団長がいつもと変わらぬ様子で口を開いた。
「今回の事件に関わっている聖女というのは、俺の幼馴染だ」
ケインズ団長が聖女ニオ様との関係を詳しく話してくるけれど、ケインズ団長はいつもと変わらず飄々としている。むしろ白々しいくらいだ。幼馴染なのにどうしてこんなにもあっさりとしていられるんだろう。
ケインズ団長は元々本意が読めない人だって言うし、だとしたらこれは……。
「俺はあいつを助け出してあいつからも白龍からも話を聞かなきゃ気が済まない。そう言うことだから、よろしくな」
最後にそう言って腕を組みユーズ団長を見る。ユーズ団長は頷いて私たちを見た。
「任務の詳細についてはケインズとギールと共に計画を練り、追って通達する。今回の話は情報量が多すぎて皆混乱しただろう。領地に帰って少し落ち着くといい。これを機に、聖女との関係性もしっかりと考えて仲もより深めておいてくれ。ガイルとシキ、お前たちは特にだ」
突然名前を呼ばれたガイル様とシキ様は驚いてお互いを見る。ガイル様は頭をかきながらやれやれと目を逸らし、シキ様はすぐに真顔に戻って正面を向いた。この二人、本当に一体どういう関係なのかしら?
屋敷に戻ってから一息ついて、私はバルコニーに出ていた。
ぼんやりと空を眺めながら今日会議で聞いた話を頭の中で反芻する。本当に、情報量が多すぎるし驚くことばかりだ。
騎士に愛されなかった聖女様は白龍様を愛し、白龍様からの愛を望んだ。白龍様はそれに答え、聖女様を愛した。実際にそんなことが起こっていたなんて考えもつかない。
いずれ先に旅立ってしまう白龍様をなんとかして生き永らえさせたい聖女様の気持ちはどれほどのものなのだろう。いずれ聖女様をおいて旅立ってしまう白龍様の気持ちも……。
想像すらできないほどのもののような気がして胸が痛い。
はぁ、と深くため息をつくと、フワッと後ろから抱きしめられる。
「ラ、ランス様!?」
驚いて首だけ横を向くと、ランス様が肩に顔を置いて私に抱きついている。腕はしっかりと私の脇腹に回されて身動きが取れない。
「何か考え事をしていた?呼んでも反応がなかったから心配したよ」
ランス様が喋るたびに耳元に吐息がかかり、思わずこの間のことを思い出して体の奥がキュッと疼いてしまう。
「ご、ごめんなさい。今日の会議でのことを思い出していて……」
私がそう言うと、ランス様は顔を上げて私の横に立った。片腕は離れたけれどもう片腕はまだしっかり腰に回されて半身はランス様の体に密着している。
体の交わりによる力わけの日以来、やっぱりランス様はどうも距離感が近くなりすぎな気がする。私としては嬉しいのだけれど、あの日のことをその度に思い出してしまって体がなんだかおかしいし恥ずかしい。
「俺もずっと会議のことを考えていたよ。考えたところで何も変わらないのだけれど……やっぱり頭から離れない」
そう言って瞼を落とすランス様の横顔は、夕日に照らされて神々しく輝いて見えた。
「聖女様と白龍様の気持ちを考えると、なんだか胸が苦しくて……今回お二人を救出できたとしても、いずれ白龍様は先に旅立ってしまうのでしょう。聖女様はきっとお辛いままでしょうし……」
結局、私たちは何もできないのだ。それがもどかしい。
「……ケインズ団長は一体どう思っているんだろう」




