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67 愛しい人(白龍リオン視点)

 太陽の光に照らされてこちらに振り返りながら優しく頬笑む彼女がいる。そのまま走っていく、あぁ、そんなに急いで走っては転んでしまうよ。

 私を置いてそんなに先にいかないでくれ、どうか一緒に……。



 静かに目を開けると、天井が見える。そうか、あれは夢か。私は気を失っていたのだ。


「リオン!目が覚めたのね!よかった」

 私の元に駆け寄り嬉しそうに手を握ってくる。あぁ、私の大切な聖女、ニオ。


「すまない、気を失ってしまっていたようだね」

「いいの、気にしないで。それにしても最近気を失う日が多くなってるんじゃない?あの男の言う通り他の聖女から吸収した力を分けているのに……どうしてなのかしら」

 ニオは神妙な顔でそう言うと、窓の外をぼんやりと眺めながら言った。


「また聖女を誘拐して力を取り出した方がいいのかしら……」


「いや、それは必要ないよ。大丈夫だ、少し休めば問題ないよ。それにニオはもう何もしなくていいんだ」

 私の言葉にニオは不思議そうに首を傾げる。


「この間、ニケ大森林で討伐祭が行われた。そこで起こったことを、君も知っているだろう」

「……街の人から少し聞いたわ」

 目を逸らし苦々しい顔をするニオの顔。ニオにはもっとたくさん笑って欲しかったのに、どうしてこうなってしまったのだろう。


「あれで他の白龍たちにこちらの状況が薄々バレたようだ。とにかく、ニオはもう無理はしないでくれ。奪った聖女の力を拒めばきっとあの男は君をどうにかしようとするだろう。それだけは避けたいからね、拒むことはしない。だが、いずれここへ白龍の騎士たちがやってくることだけは頭に入れておいてほしい。それまでは適当にあの男にうまいこと合わせるんだ」

 私の言葉にニオは驚愕し、次第に涙を浮かべ始めた。


「そんな、そんなのって……嫌、嫌よ!リオンと離れ離れになるなんて、リオンがいなくなってしまうなんて絶対に嫌!」

 そう言ってニオは抱きついてくる。ニオ、大切で大好きな私の聖女。



 私はどこかで間違ったのだろうか。大切な聖女のために騎士を追放し、聖女から直接の力わけを行ってもらっていた。それで自分の寿命が短くなったとしても一向に構わない。別に生に執着はないのだから。ただ、いずれ自分をおいて行ってしまうのかと涙を流して言われた時、この聖女を一人にしていくことがどうしても辛かった。

 

 いつの間にか彼女はサリ国の人間に言いくるめられ、サリ国で遥か昔に行われていたことをしていた。それは歴史から葬り去られた禁忌とも言える行為。

 知った時には驚いたしどうしてそんなことを、とも思った。だが、ニオの思いを考えると無理やり止めることもできなかった。銀龍の記憶を得ている私は、結末がむしろもっと悪くなることを知っているのに。


 それにこれはいずれアデル国の危機になりえることだ。私は国に、国王に従う身の白龍でありながら、国よりも一人の聖女の気持ちを優先している。

 他の白龍たちはどう思っているのだろう。きっと不思議に思うのだろうな。昔の私ならきっと理解できないと思うに違いない。



「ニオ、泣かないで。君にそんな思いをさせたいわけじゃないんだ。私は君の笑顔が大好きなんだよ」

 そっとニオの涙を指で拭いて、目尻に優しく口付ける。柔らかい頬も、赤らんだ顔も、潤んだ瞳も、全てが愛おしい。


「ニオ、君を抱いてもいいかい?」

 そう聞くと、ニオは驚いた顔をする。

「……少し前に私の虹の力は完全に失われたのよ。リオンも知っているでしょう。あなたにもう直接力わけをすることはできないの」

 ニオは俯いて震えながら静かに呟いた。そう、ニオにはもう虹の力は残っていない。


「知っているよ。力わけをしたいんじゃない、私は君自身を欲しているんだ。私は君の力をわけてもらっていた頃から、力ではなく君のことを求めていたんだよ」

 その言葉を聞いたニオは、両目を見開きその目にはどんどん涙が浮かんでいく。


「愛しているよ、ニオ」

 そっとニオの頬に手を添え、優しく微笑むと、ニオは両目からポロポロと涙をこぼし微笑んだ。あぁ、私の大好きな大好きなニオの笑顔だ。


「私も、愛してるわ、リオン」


 その言葉を聞いてから、ゆっくりとニオに口付けをする。優しく、何度も。口だけではなく首筋にも口付けると、ニオの口から吐息がこぼれニオの体が身悶えた。ニオの表情は次第に蕩け始め、どんどん力が抜けていくのがわかる。

 私は自分の内側に熱が込み上げるのを感じながらニオをベッドに倒し、ニオの体に手を伸ばした。


 これがきっと、最後になるのだから。



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