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66 銀龍と白龍

「聖女誘拐事件の目的は、ここにはいないひとりの聖女による虹の力を奪うためであり、それはその聖女が自分の白龍を助けるために行ったことだ」



 ギール様の言葉に、会議室内が一斉に騒がしくなる。動揺するもの、驚くもの、信じられないと言うもの、さまざまな反応だ。ギール様の言う白龍のためって一体どういうこと……?


「我々白龍は白龍の力を使えば使うほど寿命が短くなり、最後は命を落とす。騎士を通じて聖女から虹の力を供給されなくなった白龍はただただ静かに、自分の住まう山の中でその命を閉ざすのだ」


 ギール様が話し始めると、会議室内はまた静かになった。皆、ギール様の一語一句を聞き逃さまいと真剣だ。


「聖女誘拐事件の主犯である聖女は、騎士と良好な関係を築けなかった聖女だ。騎士は女遊びに耽り、聖女をただの力わけの方法としか思わないような騎士だった。そんな騎士を白龍は追放し、白龍は聖女から虹の力を直接分けてもらっていたのだ」


 ギール様は、その聖女様と白龍様の話をただただ静かに、淡々と語り始めた。


 白龍が聖女から直接力わけをしてもらうことは問題ではない。だが、騎士を失った聖女の虹の力はなぜかいずれ枯渇してしまうそうだ。


 虹の力を失うことはすなわち白龍へ力わけができなくなること。いずれ白龍はひっそりと死んでいくはずだった。


「だが、聖女がそれを拒んだ。騎士に愛されなかった聖女は白龍を愛し、そして白龍もまた聖女を愛していたのだ。白龍を失いたくない聖女はなんらかの形で白龍の命を永らえようとした」


 ギール様の言葉に聖女様たちは皆息をのむ。騎士たちも動揺を隠せないようだ。


「少し白龍使いの騎士の歴史について話をしよう。聖女誘拐事件に関わる重要なことだ」


 そう言って、ギール様は深く濃い紫色の瞳をその場にいる全員へゆっくりと向けた。


 私たちのいる国アデルから東、海を隔てた大陸にあるひとつの国、サリ。そこはもともとアデルと続いていたそうだ。


 元々ひとつの大陸だった頃国は分かれておらず、その時代では白龍は銀龍と呼ばれていたそうだ。


 地殻変動で大陸は割れ、海を隔てて別れてしまう。ひとつだった国がふたつになり、区別するためにアデル国では銀龍を白龍と呼ぶことにした。


「呼び名を銀龍のままにしたサリ国では欲深い人間が多く、銀龍と聖女を利用して様々な実験が行われたそうだ。聖女の力を一人からではなく複数の聖女から銀龍へわける、聖女の力そのものを取り出し別のものに蓄えて保管する、他にも無謀ともいえる様々な実験がたくさん行われた」


 ギール様は顔色ひとつ変えずに淡々と話しているけれど、この場にいる聖女様も騎士様も皆ざわめいている。

 海を隔てた先の国で、そんな実験が行われた過去があったなんて……。


「ちょっと待ってください、騎士見習いの頃に白龍使いの騎士とその歴史について学びましたがそんな話はありませんでした。文献にも載っていないはずです」


 騎士様の一人がそう言うと、他の騎士様たちもそうだそうだと口々に言っている。ランス様を見ると、目を合わせて頷いた。


「はるか昔のことだからね。我々が生まれるずっとずっと前の過去の話だ。そしてそれは我々白龍にしか伝わることのない悲劇の過去だからだよ」


 悲劇の過去……?


「複数の聖女から力わけを受けた銀龍は途中から自我を無くし暴走したそうだ。また、聖女の力を別のものに蓄え保管するとそこから瘴気が発せられた。そんなことが次々と起こり、最後には銀龍も騎士も聖女も全て息耐えサリ国には銀龍の力そのものが無くなった」


 ギール様の話が本当だとしたら……それは……。


「聖女誘拐事件を起こした聖女はまさにこれと同じことを行っている。だが聖女が過去の歴史について知るわけがなく、何者かがその聖女に白龍の命を延ばすことができると嘘を言ってそそのかした。そしてその何者かというのはサリ国の者だ」


「……目的はこちらの国の白龍を壊滅させるため、か」


 ユーズ団長が静かに、苦々しい顔でそう言う。


「白龍がいなくなればこちらの国力はぐっと弱まる。そこを狙っているのだろうな」


 ギール様がそう言うと、会議室内が騒がしくなる。そんな、まさか他国が関わっているだなんて……!


「サリ国にとっては公にはしたくない黒々とした歴史だ。だからこそ文献にも残らず歴史から葬り去られた。我々白龍だけが、銀龍の記憶だけを代々継承している」


 白龍様たちは様々な記憶を白龍同士で共有できるそうで、銀龍様たちのつらい過去の記憶を白龍様たちは生まれてすぐに自然に受け取るようになっているのだそうだ。そうして闇に葬り去られた過去の記憶は代々ずっと継承されていく。


「サリ国は歴史が公から葬り去られたことを良いことに今回の事件を引き起こしたのだろう。実験で行われていた技術だけは密かにサリ国内の一部の人間の間で遺されてきた。恐らくはこの事件を引き起こすために何年も前から時期を伺い虎視眈々と狙っていたのだろうな。そしてたまたま今回自分たちにとって都合の良い聖女と白龍が見つかったというわけだ」


 ひどい、ひどすぎる。自分たちがしでかした落ち度で今度は他国、しかも元々はひとつだった国をめちゃめちゃにしようとするなんて。


 しかもそれに、聖女様と白龍様を使うなんて!


「今回のことが発覚したのは、その白龍からの記憶の共有だ。ずっと意識が伝わらないよう閉ざされてきていたのだが、討伐祭での出来事で隠しきれないと思ったのだろう。聖女を助けてほしいと伝えてきた」




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