63 見せてはいけないもの(ロイ視点)
魔物の討伐から戻ってきたランスたちは力を使いすぎて今にも倒れそうな程だった。俺とリラ、白龍ジュインはランスたちとは違い救護班とその警護に当たっていたためまだ余裕があり、ランスたちを先に帰して救護所を撤退するために準備を始める。
まだ現地で浄化作業を行なっている白龍を待つガイルとシキ、クロウとルルのコンビはどちらもぐったりとした騎士を聖女が抱きしめ聖女の力を分けている。白龍がいつ戻ってくるかわからない以上、人の目など気にしている場合ではない状況なのだろう。
「先に帰ったユーズ団長やランスたち、心配なの」
リラがガイルたちの様子を見て不安げにつぶやいた。
「そうだな。だがランスたちは白龍がそれぞれ急いで屋敷まで運んでいるからきっと大丈夫だ。セシルやベル様がちゃんと力わけをしてくれるはずだ」
そう言うと、リラは俺の服の裾をぎゅっと握って頷いた。心配は尽きないが今はここにいる全員の帰還の準備をしなければならない。
そう思っていると、ガイルたちの力わけがとりあえず終わったようで光がどんどん弱まり消えていった。ガイルは先ほどまでの倒れそうな様子が無くなり回復したように見える。それを見てリラがようやく少し安心したように微笑んだ。と、次の瞬間。
「わりぃ、まだちょっと力が足りないみたいだわ」
「は?何言って」
ガイルの言葉にシキが訝しげな顔でガイルを見つめたが、ガイルはシキの顎を掴んでそのまま口付けた。
「!?」
シキが慌てたように体を揺らすが、ガイルがそれを押さえつけるとシキは諦めたように大人しくなった。そのまま、二人の指輪からまた光があふれだす。
おいおいおいおい、流石にキスまで人前でやっちまうのか?!いや、抱きしめるだけでは力が足りないなら確かに仕方ないことかもしれないけど、さっきの力分けでガイルの顔色も良くなったし荒い息遣いも治っていたように見えたんだけどな……。
ふと、隣にいるリラを見ると両目を見開いて驚愕している。あ、そうだよな、リラは恐らくキスがどう言うものか実際に見たことはないんだろう。知識もあったかどうかわからない。ジュインから軽く聞いていたくらいだろう。
ガイルたちからはなぜかいやらしい音が聞こえてくる。光であまり良くは見えないが、光ごしにうっすら見える二人の影からして恐らくはガイルがシキへ何度も執拗にねちっこいキスをお見舞いしているんだろう。時折シキの荒い息づかいも聞こえてくる。おいおい、力分けするのにそんなキスしなきゃダメなのか?そもそも人前でそんな……。
あ、これはまずい。多分きっとまずい。恐る恐るリラを見ると、顔を真っ赤にして固まっている。あぁ、そうだよな、そうなるよな。
「リラ、あの二人はもう大丈夫だ、放っておいて自分たちの仕事をしよう」
リラの両耳を抑え顔を二人の方向から反対の方に向けようとすると、リラはそれを制してクロウたちの方を見た。そうか、あっちの二人のことも気になるのか。
クロウたちも抱きしめでの力わけが終わったようでガイルたちの様子をなんとも言えない表情で見つめている。
「クロウ、あなたもまだ力が足りない?もし足りないなら私たちも……」
ルルが控えめにでも心配そうにそう聞くと、クロウは慌ててルルを見て言った。
「いえ!とりあえずもう大丈夫です!!キスとかそのあとのことは全部屋敷に戻ってからで!!……人前でキスだなんて、あり得ない。ルルの息遣いやキスの姿なんて他の誰にも聞かせたくないし見せたくない」
最後の方の言葉はもはや独り言のようで声がだいぶ小さかったが、その気持ちはよくわかる。俺だってリラのそんな姿やそんな音、たとえ光であまり見えなかったとしても絶対に誰にも見せたくないし聞かせたくない。俺たちはまだキスを一度もしていないけれどもだ。
「クロウたち、大丈夫そうでよかったの」
二人を見て安心したのか、いつものリラに戻ったようだ。あぁよかった。リラにはあまりにも刺激が強すぎるだろ。なんてホッとしたのも束の間。
「……いつか、リラもロイとキスを、する、の?」
そう呟きながら俺を見上げるリラの顔がまた真っ赤になっている。うわ、なんだこれ可愛い。やばいな、っていや、こんな時にこんな気持ちになるのはまずいだろ。まったく、ガイルたちは何してくれてんだよ。




