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61 力わけ

 白龍使いの騎士様たちはロイ様を除いて全員顔面蒼白で今にも倒れそうだ。


――後のことはケインズに任せて我々は一度屋敷へ戻ろう。ウェズとギールももうじきここに来る。それまで少し我慢するんだ。待ってる間、必要であれば力を分けてあげるといい。ハグするだけでも少しはマシになるだろう


 白龍姿のミゼル様の言葉にシキ様とルル様が頷く。ガイル様とクロウ様は肩で呼吸をしながらシキ様とルル様になんとか支えられている状態だ。


 こんなにもひっ迫した状態になるなんて。白龍の力をあんなに消費することなんて今まで一度もなかったから、どれだけあの得体の知れない黒い塊が強かったのかわかる。ランス様も呼吸が苦しそう。早く屋敷に戻って力わけをしないと……!


「早く帰ったほうがいい。ここは俺たちに任せてくれ」

「みんな、早く」

 救護班だったロイ様はまだ余裕があるらしく、リラも私たちのことを心配してくれている。医師や看護師たち、怪我が軽い王都の騎士様たちもテキパキと動いて王都へ帰る支度を始めている。


「……すまない」

 ランス様が苦しそうに言うと、ミゼル様がランス様を背中に乗せる。私も自分でミゼル様の背中に飛び乗ってランス様を支える。

 ユイン様の背中にはすでにユーズ様が乗り込んでいて、ベル様がユーズ様の体を支えていた。


「ケインズ、すまない。追って今日のことについて話し合いを……」

「ごちゃごちゃうるせーんだよ、さっさと行け。お前たちに倒れられると俺も困るんだよ」

 ユーズ団長がケインズ団長に声をかけるが、ケインズ団長は眉間に皺を寄せぶっきらぼうに言い放つ。きっとケインズ団長なりの気遣いなんだろう。


 ミゼル様とユイン様は大きく頷いてそれぞれ羽ばたいた。





「ランス様!」

 屋敷に到着してランス様を支えながら屋敷に入ると、ジョルジュとジェシカが慌てて駆けつけてきた。


「ランス様は私めが運びます。セシル様もご一緒に来ていただけますね」

 ジョルジュが悲痛な顔でランス様を受け取り運び出す。

「もちろんです!」

 一刻も早くランス様に力わけをしなければランス様が倒れてしまう。それにこのままランス様が死んでしまったりしたらどうしよう……!ってダメダメ、そんな最悪なこと考えてる場合じゃない、とにかく早く、力わけをしないと!


 ランス様の部屋に着くとジョルジュがランス様をそっとベッドに横たわらせた。

「すまない、こんな状態になって……」

 ランス様が力なくそう言うと、ジョルジュは首を横に振る。

「何をおっしゃいますか、それだけご尽力なさったということでしょう。それではセシル様、あとはよろしくお願いします。どうかランス様をお頼みしますね」

 静かに微笑みながらジョルジュは私の方を向いてお辞儀をし、退室した。


「セシル、本当にごめん……君にも迷惑を……」

「ランス様、無理しないでください!」

 ゆっくり起き上がるランス様を、慌てて受け止める。顔は相変わらず蒼白だし呼吸も荒い。


 そんなランス様を見ながら、ミゼル様の背中に乗って屋敷に帰ってくるまでの間にミゼル様から言われたことを思い出していた。



――いいかいセシル。今ランスはとても危険な状態だ。力わけをきちんと行わなければいずれランスは死ぬだろう

 ランス様が、死ぬ?!そんな、そんなの絶対に嫌!ランス様を救うために私にできることだったらなんだってしてみせる!だって私はそのためにランス様と契約してここにいるのだから。


「ミゼル様、私はどうしたらいいですか?」

――屋敷に着いたらまずはハグをしてゆっくり力わけを行うんだ。急速に力を巡らせると体が順応せずショックを起こしかねない。ゆっくり力をわけたら、ランスの状態も一時的に落ち着くだろう。あとはランスに任せて力わけをしっかり行うんだ


「ミゼル、それは……」

 顔面蒼白のランス様がか細い声で言う。

――そうだね、君にとってはこんな時にそんなことをするのは不服かもしれないが君の命がかかっている。それに今はもう君たちは両思いなんだ。何を躊躇ためらううことがある?




 あの時ミゼル様が言っていたことをこれから私たちは行わなければならない。それってつまり、最後には……。ぎゅっと目を瞑り、私は深呼吸した。


「ランス様、まずは抱きしめて力わけを行いますね。ゆっくり行いますから安心してください」

 力なく私に体を預けているランス様をそっと抱きしめて、私は目を閉じた。


 静かに、でも確実に自分の内側から虹の力が湧き上がってくるのを感じる。それが体を通じてランス様に流れていく。ゆっくりゆっくり、暖かくて優しい光が瞼の裏に見えてくる。


「暖かいな……」

 ランス様が静かにそう言った。先ほどまで荒かった呼吸もだんだんと落ち着いてくるのがわかる。


 どのくらいそうしていただろうか。光が静かに消えていき、抱きしめていた手を緩めてランス様の顔を見ると顔色はすっかり元に戻っていた。呼吸も落ち着いているし、具合も良くなっているみたい。


「ありがとう、すごく楽になったよ」

 フワッと微笑まれて思わずドキッとする。よかった、いつものランス様に戻っている。


「……セシル、ミゼルに言われたことを覚えている?」

 ランス様が目を逸らして俯きながらそっとそう言った。

「はい、覚えています」

 静かに返事をすると、ランス様が戸惑いながらも目を合わせてじっと見つめてくる。美しい瞳。初めて出会った時にもこんな透き通るような美しい瞳で私を見てくれた。


「こんな風に君に触れることになるなんて俺としては納得がいかないんだ。……でもどうか許してほしい。今はこうするしか方法がないんだ」

 辛そうに言うランス様。そんなこと思わなくていいのに。スカートの上で握りしめた手に力が入る。


「ランス様、聞いてください。私はあなたと契約した聖女です。あなたに力わけをするためにここにいると決めたんです。それに」

 慌てず、ちゃんとしっかり伝えよう。そう思って深呼吸をした。


「私はランス様とそうなることを望んでいます。だって、こんなにもランス様のことが大好きだから。聖女としての契約を抜きにしても本心でそう思っているんです。出会った時から素敵な騎士様だと思いました。そして一緒にいるうちにランス様にどんどん惹かれていって、もうランス様のいない人生なんて考えられません。だからランス様に触れてもらえるなんて、まるで夢のようだし嬉しくて私……」


 言い終わる前に、いつの間にか唇にランス様の唇が重なっていた。




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