59 本体のお出まし
「本体のお出ましのようだね」
白龍ギール様が表情を変えずに一言呟くと、茂みの奥から禍々しい魔力を発した大きな物体が現れた。何あれ、どす黒い霧のようなものに覆われていて形がよくわからない。けど、目だけは真っ赤に光っているのがわかる。
その場が急にズンッと重くなる。瘴気が現れてどんどん濃くなっていく。
「こいつの仕業か、このままだとヤバいことになるな」
口元を腕で覆いながらケインズ団長は険しい顔で言う。確かにこの瘴気の濃さは異常だし、これ以上強くなると全滅してしまう可能性だってある。
突然、ギール様が身震いをした。すると、ギール様から光が放たれてどんどん白龍の姿になる。慌てて近くにいた王都の騎士やルル様、クロウ様は離れて距離をとる。その間にギール様は完全に白龍の姿になっていた。
———ここは私が浄化しよう、邪魔されないように援護を頼むよ
白龍姿のギール様の声が脳内にはっきりと響いてきた。ギール様って白龍姿でも会話できるんですね?!
ギール様は空をゆっくり見上げ、深呼吸した。そして羽を大きく広げで一振りする。すると、キラキラと輝く細かい光の粒が辺り一面に広がっていく。浄化が始まったんだわ!
「ヴァアアアア!!!!」
まるで浄化の邪魔をするように、黒い物体から黒い霧状の塊が飛んでくる。それが地面に落ちると、その場にあった植物は枯れたかと思うと突然意識を持ったかのように動き出し、近くにいた王都の騎士に巻きつき始めた。
「う、うわあぁぁ!」
騎士は慌てて絡みついた植物を剣で切り付け取ろうとするが、枯れているはずなのにびくともしない。逆にどんどん巻き付いて締め上げていく。首にまで絡みつき、騎士は苦しそうにもがき始めた。
あちこちで悲鳴が上がっていく。絡みついた植物には棘があるものもあり、それが王都の騎士達を貫いているのだ。
「今助ける!」
ユーズ団長やランス様を筆頭に次々と白龍使いの騎士達が植物へ斬りつける。白龍の力のおかげなのか、王都の騎士の剣ではびくともしなかった植物がどんどん斬られ、苦しんでいた騎士達は解放されていく。すごい、これが白龍使いの騎士の実力なんだ……!
人の姿をしたままの白龍様達は聖女を守るように立ちながら、黒い霧状の塊へ息を吹きかけたり手を振り翳したりして浄化していく。
「ここは俺達じゃどうにもならないようだ。お前達に任せるしかない、頼む」
負傷した騎士を庇うようにしてケインズ団長がユーズ団長へ言うと、ユーズ団長は力強く頷いた。
「そのために我々はここにいる、任せてくれ」
ユーズ団長の声に、ランス様やガイル様、クロウ様も大きく頷く。
「ヴァアアア!!!!」
ギール様の浄化のおかげなのか、辺りの瘴気も薄まっている。そして黒い物体は苦しそうに呻き声をあげていた、次の瞬間。
ヒュンッ
黒い物体から黒く長い霧状のものが伸びてきて私の左手に巻き付いた。同じようにベル様やシキ様、ルル様の左手にも巻き付いていく。
「きゃあっ」
何これ、気持ちわるい!黒い霧状のものはどんどん私の左手を包み込んでいく。ベル様達も同じように左手がどんどん黒い霧に包まれていく。ひっぱっても振り払ってもうんともすんとも言わない。
ギリッギリッ
黒い霧状の中で、何かが薬指にまとわりついている。え、何?何なの?これはそうだ、指輪だ!指輪を取ろうとしているんだわ!でも指輪はしっかりと私の指にはまっている。しかも、黒い霧状のものが指輪を取ろうとすればするほど指輪は指に食い込んでいく。
「痛い!指輪!指輪を取ろうとしてる!!指が引きちぎれそう!!!」
思わず悲鳴をあげると、ランス様が血相を変えて黒い霧状のものに斬りかかった。
「セシルから離れろ!!!」
黒い霧状のものは簡単に切断されたけれど、すぐにまた結合して私の左手から離れない。でも突然、フッと指輪にかかった圧力が解けた。もしかして斬られたことで力が弱まったのかな?
なんてホッとしていたのも束の間、今度は左手ごとどんどん本体の方に体を持って行かれてしまう!指輪が取れないなら私ごと持っていくってこと?!
「きゃぁぁっ」
ベル様達も同じように体ごと黒い物体の方へ引きずられていく。
「ヴァアアにアくいアア ゆアびわアア にじアアアのちかアアアらア アよこアアアせアア」
本体から呻き声の他に複数の女性の声がする。これは一体……?




