57 自分自身の力
「セシル、今ここに集中するんだ、できるだろう」
白龍ミゼル様のおかげで心がフワッと軽くなるのがわかる。それに、ぼんやりとしていた頭もはっきりとしてきた。あれ、私、一体何を不安に思っていたんだっけ……?
「どうやらここの魔物は心が弱っている人間に漬け込むのが得意らしい。その人間の一番気にしている部分を指摘して弱らせ、動きを封じてそのまま全てを喰らい尽くそうとするようだね」
私に聞こえていた声はどうやらここの魔物の仕業らしい。私の一番気にしていること、役に立てていないことに漬け込んで惑わそうとしていたのか。きっとあの声は私自身だ、私自身の言葉で私を追い詰めていたんだわ。気持ちの弱っていない他の人たちには何も聞こえていないようだし、私だけだったのかな……不甲斐ない。ってまた弱気になってしまったらだめだわ!そんな風に思っていたら。
「う、うわあああああ!来るなああああ!」
突然叫び声がして、王都の騎士様の一人が誰もいない方向へ剣を必死に振り回している。顔は真っ青で目の焦点があっていない。
我を忘れて逃げ惑う騎士様もいて、いつの間にか数人の騎士様の行方が見えなくなっていた。
「彼らもどうやら惑わされたようだね。声だけではなく幻覚まで見えているようだ。きっとまだ見ぬ恐ろしい得体の知れない魔物の幻覚と戦っているんだろう」
ミゼル様がほんの少しだけ眉間に皺を寄せ、片手を開き手のひらを口元に近づける。そしてふうっと息を吹きかけると、キラキラとした光が剣を振り回している騎士様の周りを取り囲んだ。すると、騎士様はハッとして当たりを見渡す。
「おい!幻覚になんて惑わされるなよ!気をしっかり持て!!目の前に集中しろ!」
ケインズ団長の怒鳴り声に、騎士様は慌てて近くにいる魔物に斬りかかる。
「どうやらここが本体のいる場所のようだね。姿を隠してはいるけれど、禍々しい魔力を放出しているのがわかるよ。ミゼル、お願いできるかい」
何かに気がついた白龍ユイン様がミゼル様にそう言うと、ミゼル様が私を見て微笑んだ。あぁ、その微笑みだけで浄化されてしまいそうです……!
「セシル、これから魔物を放出している本体と戦うことになるからみんなに強化魔法を施してほしい。この日のためにたくさん一緒に練習したんだ、できるよね?魔法を発動している最中は私が君を守っているから安心して」
有無を言わさぬ笑顔でそう言うミゼル様。今私自身のこの力を使わないで、いつ使うと言うのでしょう。やってやりますとも!もう幻聴も聞こえないし、何より今こそ私の出番だ。ただ守られるだけの虹の力を持つ聖女だなんて真平ごめん、私だって皆の役に立ちたい!
「はい!」
両手を胸の前に組んで目を瞑り、祈るように集中する。剣がぶつかる音、魔物のうめき声、様々な音が聞こえるけれど心はいたって静かだ。とにかく魔法を発動するために集中する。
大丈夫、ミゼル様とあんなにたくさん練習したんだもの、できないことなんてない。私にはできる。すうっと一つ深呼吸。内側から、虹の力とは違う自分自身の魔力が湧き上がってくるのを感じる。
「能力底上強化」
自分の足元に緑色の魔法陣が浮かび上がり、光輝いていく。魔法陣はどんどんと大きく広がっていき、その場にいる全員の足元にまで及んでいった。
「な、なんだこりゃぁ?!」
その場にいた誰もが自分の体をしげしげと見ている。
「すごい、力が漲ってくる」
「消費した魔力もあっという間に回復してるわ」
「疲れも一瞬で吹っ飛んだし、かすり傷も消えちまってるぞ」
「これは一体……」
シキ様、ルル様、ガイル様、クロウ様が次々と驚きを口にする。
「セシル!」
ランス様がとびきりの笑顔をこちらに向けて名前を呼んでくれた。あぁ、ちゃんと魔法が発動できたんだわ!
「上出来だよセシル、ご苦労様」
ミゼル様も労いの言葉をかけてくれた。よかった、私、皆の役に立ってる。
ホッとしながら喜んでいると、次々と現れていた魔物達が突然、煙のようになって一箇所に吸い込まれていく。
「お出ましのようだ」
白龍ギール様が表情を変えることなく静かにつぶやいた。




