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15 王都騎士団長

 ランス様と初めてキスした翌日、私とランス様はミゼル様の背中に乗って城内にある白龍使いの騎士団本部へ向かっている。


 キスをしたその日は屋敷に戻ってからもランス様はなぜか静かで暗く、何かを考え込んでいる様子だった。そんなに私とキスするの嫌だったのかな……。

 

 いくら結婚しているとはいえ契約結婚なわけだし、そもそもランス様には思い人とかいるんだろうか。そういうの全然聞かないまま私の聖女としての決意ばかり伝えていたから、今更だけれど気になってしまう。


 もしも思い人がいるとしたら、昨日のキスだって心苦しかっただろう。力を分けるためにキスをするのを躊躇うのも合点がいく。そっか、もしかしてランス様には思い人が……?

 

 そもそもこんなに素敵で優しい人に思い人や思い合う人がいないわけがない。あぁ、どうして私はジョルジュやジェシカにちゃんとそういうことを聞かなかんだろう。いや、ランス様自身にきちんと聞くべきだった。

 

 自分が生贄になって死ななくて済んだことに安心して、聖女としての力をランス様やミゼル様のために使えると喜んでいるだけで、実際にランス様がどんな風に思っているかなんて考えもしなかった。ダメだな、私。


 というか、ランス様にもしかして思い人がいるかもしれないと考えるとすごく胸が痛い。なぜだろう。


 はぁ。思わずため息が出てしまう。

「どうしたの?具合でも悪い?」


 私のため息を聞いて、ランス様が後ろから気を遣ってくれた。あぁ、本当にお優しい。


「いえ、……大丈夫です」

 ミゼル様が横目でチラリとこちらを見た気がしたけれど、その目線に込められた思いは今の私には残念ながら読み取れない。





 白龍使いの騎士団本部近くの広場に到着すると、今回もまたミゼル様はその場にゆっくりと座った。


「すぐに戻るよ」

 ランス様がミゼル様に言うけれど、昨日からランス様からミゼル様への態度がなんとなくぎごちない。ミゼル様は特に気にしていない様子だけれど、あんなに仲が良さそうだったお二方なのに。



 コンコン。白龍使いの騎士団本部に到着して、騎士団長の部屋をノックする。

「ランスです」

「入れ」


 部屋にランス様と一緒に入ると、騎士団長の近くに見知らぬ男性が立っていた。


「ケインズ団長……」

 ランス様がそういうと、その男性はニッと笑った。


「よう、ランス。久しぶり、元気そうだな。そちらがお前の聖女様か?」


 ケインズと呼ばれたその男性は、ずんずんと歩いてきて私の目の前に立った。背が高く、緑かかった黒い長めの髪の毛を後ろでひとつに束ねている。

 こちらも随分と見目麗しい顔立ちだ。騎士団にいる人たちは皆イケメンばかりなのかしら……?


「へぇ、これはこれはまた可愛らしい…いいじゃねぇか」

 ニヤニヤと不気味に笑いながら私を上から下までじっくり眺めている。なんだろう、すごく嫌悪感を感じる。


「王都の騎士団長様がここに何の用ですか」

 ランス様が私の前に立ってケインズ様から遮る。


「ひでぇな。俺は最近起きている瘴気の騒動についてこいつと相談していたんだよ」

「ランス、すまない。お前が来る前に話を終わらせたかったんだが、ケインズがどうしてもお前と聖女様に会いたいとごねてだな」


 ランス様の直属の上司である白龍使いの騎士団・騎士団長ユーズ様が申し訳なさそうにランス様へ言う。


「そういうことなら、仕方ありませんが……」

「お前、この間山奥の瘴気を浄化しに行ったんだろ。報告しろ」


 ケインズ様が腕を組んでランス様へ促す。なんだろう、どうしてこの人はこんなに偉そうなんだろう?騎士団長と言っても白龍使いの騎士ではなく王都の騎士団でランス様の直属の上司でもないのに。


「ケインズはランスがまだ白龍使いの騎士団見習いになる前、王都の騎士団でランスの上司だったんだよ。白龍使いの騎士は王都の騎士団からも白龍から選ばれるんだ。選ばれた騎士は白龍使いの騎士団見習いとして白龍使いの騎士学校へ行くんだ。そして白龍が聖女を選ぶと一人前の白龍使いの騎士として認められることになる」


 私の怪訝そうな顔を見て察したのか、ユーズ様が教えてくださった。なるほど、そういうことですか。ランス様の前の上司ですか。そうだとしても気に食わないですけどね。


「一昨日、山奥の瘴気を浄化してきましたが、複数の魔物が我を忘れて襲ってきました。浄化の最中でしたが浄化の作用は効かず凶暴化したままでした」


 ランス様の話に、ユーズ様とケインズ様はふむ、と難しい顔をする。


「瘴気の騒動というのは、いつから起こっているのですか?」


 王都よりもずっと外れの領地の教会で暮らしていたため、王都やその近くで起こっていることは全く知らされていない。私にとってはこんなことが起きているだなんてびっくりだった。


「そうだな、ここ数年は続いている。突然あちこちで瘴気が発生し、魔物が凶暴化する。山奥だけでなく小さな村でも発生していて、その村の人間が次々に凶暴化して同じ村人を襲う被害も出ている」


 魔物だけでなく人も凶暴化してしまう瘴気……。一体何なのだろう。


「最初は王都の騎士団だけで処理するつもりだったが、原因が瘴気である以上は白龍の力を借りなければ太刀打ちできない。瘴気を消せるのが現時点で白龍だけなんだ」

 ケインズ様が眉間に皺を寄せて言う。


「お前は白龍使いになってまだ間もないが、だからと言って前線に出ないなんてことはない。白龍と聖女様、どちらとの結び付きも今からしっかり強めておいてくれ」

 ユーズ様がランス様を見て言うと、ケインズ様はニヤニヤとした顔でランス様を覗き込む。


「聖女様との体の結びつきはもう終えたのか?いいよなぁ白龍使いの騎士様はこんな可愛らしい聖女様と結婚してちゃっかりやることやれるんだもんなぁ」

「ケインズ!!」


 ユーズ様が叱責する。

「いくらお前でも白龍使いの騎士と聖女を愚弄するような真似は許さんぞ」

「はいはい、すみませんね」

 ケインズ様は手のひらをヒラヒラさせてランス様から離れ、次に私の方に近づいてきた。


「ランスとはどこまでやった?もしランスで物足りなかったらいつでも俺に言ってくれよ」

 耳元でそっと囁く。見た目と共にその声も魅力的だが、鳥肌が立つほどの嫌悪感が身体中を走る。


「さて、俺はそろそろ自分の本部へ戻るよ。情報も手に入れたし、あまり長居するとユーズにもランスにも怒られそうだからな」

 そう言ってランス様の顔を見てから驚いた顔をする。そして、ゲスい微笑みをした。


「へぇ、……お前そうなのか。そうだとしても白龍と白龍使いの騎士にとって最も必要なものはなんなのかを忘れるな」


 よくわからないことを言いながらランス様の肩をポンと叩いて、ケインズ様は部屋を出ていった。


「ランス、本当にすまない。あいつがいるとロクな事がないな」

 ランス様の様子を見てユーズ様が複雑そうな顔をしている。ランス様はそんなにも怒ってらっしゃるのかしらと横を見てみると、そこには全身で怒りを露わにしているランス様がいた。


 ランス様のこんな姿、初めて見た。いつもはお優しいランス様でも、こんなにも怒ることがあるんだ……。






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