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1 出会い

「本当にこんな気持ちになるなんて。君の心も体も全てを食べてしまいたい。……愛してるよ、セシル」


 そう言って目の前の騎士、ランス様は今まさに私を(いろんな意味で)食べようとしている。


 まさかこんなことになるなんて、あの日の私には絶対に予想できなかった。だって、私は騎士様にではなくて白龍への生贄としてここにやってきたはずだったのだから。






 白龍使いの騎士。それはこの国に古くから仕える最強の騎士。その力は膨大で、どんな魔物も倒し、国同士の争いでさえ一掃してしまうという。


 そんな白龍使いの騎士様にほんのり憧れを抱いた時期もありました。ありましたとも。小さい頃、言い伝えとして白龍使いの騎士様の上辺だけの話を聞いてかっこいい!なんて思ったりもしたなぁ。


 だけど、今は違う。むしろ絶対に会いたくない。なぜなら、白龍使いの騎士様には生贄が必要だからだ。虹の力という、聖なる力を持つ聖女を白龍に生贄として差し出すことで白龍使いの騎士は一人前の白龍使いの騎士と認められるのだ。


 そして、私がその虹の力を持つ聖女なのです。やだどうしよう、怖い。


 どうして私が虹の力なんて持っちゃってるのか自分でも全く意味がわからない。でも、小さい頃から妖精や天使が見えたりとにかく不思議ちゃんなものだから魔力を測られたらあまりにも異常な数値、なおかつ10歳の時にうっかり奇跡を起こしてしまい、虹の力を持つ聖女に認定されてしまった。


 そしてあれよあれよという間に教会に預けられ、今日も私は目立たないようにひっそりと暮らしているのです。


 まだ白龍に選ばれていない虹の力を持つ聖女は国内で私を含めて現在3人。今までに何人もの聖女が白龍使いの騎士様に生贄として望まれ教会からいなくなっていったけれど、いなくなるごとになぜか新しい聖女が国のどこかで誕生するのだ。



「セシル!確か明日はお誕生日だったわよね。お祝いしなくちゃ!」

 虹の力を持つ聖女ではない、教会に勤める修道女の中でもひときわ仲良しなリリーが嬉しそうに言ってきた。そっか、誕生日か、すっかり忘れてた。


「20歳か、なんとかここまで生き延びてこれたわ。来年もひっそりと目立たないようにしていこう」

 ボソリ、と呟くとリリーが悲しげに寄り添ってきた。


「セシルも虹の力を持つ聖女ではなく普通の修道女だったらよかったのにね。そしたら何も心配しないでここでずっと一緒にいれるのに。あっ、でも生贄になるって決まってるわけじゃないし!これからもきっとずっと一緒にいられるわよ、ね」


 ぎゅっと腕を組んで笑顔で言ってくれるリリー。その笑顔、全力で守りたい。

「ありがとう、リリー。とりあえず明日の誕生日楽しみにしてるね」

 そう言うとリリーはさらに笑顔になって頷いた。





 それなのに。どうして、どうしてこうなってしまったの。


「セシル、お前にお客様だ。白龍使いの騎士、ランス様がいらしている」

 誕生日当日の朝、教皇様に突然呼び出されたと思えばこれだ。


 教皇様の横には、美しいダークブルーの髪色にアメジスト色の瞳をした美しい青年がいる。わぁ、スラリとして背も高めだしすごいイケメン……じゃな・く・て!


「わかっているとは思うが今回お前が白龍様に選ばれた。急だが本日中に支度をしてランス様と一緒に行ってくれ」


 え、まさか本当に?私?私なの?なんで???


「……な、なぜ私なのでしょうか。虹の力を持つ聖女は国内に3人います、なぜ私が選ばれたのですか」

 

私が選ばれなければ他の誰かが選ばれる。それはそれで辛い。今までだってとても辛い気持ちで選ばれてしまった虹の力を持つ聖女たちを何度も見送ってきた。

 でも、でも!それとこれとは話が違うわ。


「お前の力がこの方の白龍に適していた。ただそれだけのことだ。詳しくは道中でランス様に聞きなさい」


 教皇と話している最中、ランスという騎士様はずっと私を見つめている。イケメンに見つめられるのは嬉しいしちょっと恥ずかしいけれど、今は正直それどころではない。


 どうしよう、この危機をなんとか脱するためにはどうしたらいい?とにかく、なんとかして逃げなくちゃ。


「……わかりました。支度をして参りますのでしばらくお待ちください」


 教皇と騎士様に深々とお辞儀をして、私はその部屋を出てから一目散に自分の部屋へ戻る。



 いつか来るこんな日のために、実は日々少しずつ少しずつお金を貯めていたのだ。さらに編み物や織物、職としてやっていけそうなものはとにかく何でも一通り身につけてきた。


 ここから逃げ出して、どこか遠くに行って一人でも生きていこう。きっと簡単なことではないだろうけれど、でも生贄になって死ぬよりはまだマシだわ!


 最低限の荷物をまとめて、一旦廊下を見る。何人か人が歩いているから不審な動きをするとバレてしまうかな。

 ドアを閉めて窓の外を見る。ここは教会から続く建物で2階、下には観賞用の植物がいい感じに植えられている。飛び降りてもうまくいけば無事に降りたてるかも。


「……よし。行くわよ」

 ふうーっと深呼吸する。こんな時に浮遊魔法でも使えたらよかったのに、なんで私は浮遊魔法が使えないのかしら。


 窓枠に足をかけていざ!と思った瞬間、建物の影から騎士様が突然現れた。え、なんで?騎士様がこちらを見上げた、嘘でしょ。見つかった!


 慌てて部屋に戻ろうと思ったのに、まんまと足を滑らせてしまった。


「いやああああ!!!!」


 あぁ、だめだ、落ちちゃった……そう思って目を瞑ったけれど、あれ?痛くない。確かに落ちた感覚はあるのに。でも植物の感触も地面の感触もない。なんでだろう。


「大丈夫?」

 声がして恐る恐る目を開けると、そこには騎士様がいた。どうしよう、騎士様にしっかり受け止められている。っていうか、顔が近い近い近い!!!

 イケメンの破壊力!やばい!


「わあああすみません!大丈夫ですか?重かったですよねすみません」

 慌てて退けると、騎士様はフッと微笑んだ。やだ、笑った顔もめちゃくちゃイケメン、結構タイプかも……じゃな・く・て!


「俺は大丈夫。全然重くなかった。むしろ軽かったよ、ちゃんと食べてるの?」

 よいしょ、と私の腕を掴んで起こしてくれる。優しい……っていうか、待って、そもそもなんでちょうどいいタイミングでここに来たの?


「あの、なぜこちらに?教皇様とご一緒に部屋で待っていらしたのでは……」

「あぁ、ミゼルが教えてくれたんだ。ミゼルっていうのは白龍の名前ね」


 ポンポンと手で足元の砂を払いながら騎士様は言った。えっと、白龍が教えてくれた?どゆこと?


「君って窓から飛び降りるのが好きなの?面白いね」

 クスクス、と楽しげに笑う騎士様。わぁ、笑った顔もやっぱり素敵だけど、違う、そうじゃない。


「荷物はそれだけ?準備ができたなら行こうか」

 片手を差し出しながらそう言う騎士様は、朝日に照らされてとっても綺麗だ。それはもううっとりするくらい。


 思わず片手を出すと、騎士様はその手を掴んで歩き出す。暖かい手。男の人と手を繋ぐなんて初めてだから緊張してしまう。

 私はきっと、この騎士様から逃げ出すことはできないんだろうなと、自然にそう思ってしまった。


 

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