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7 冒険者ギルドの女性職員(メガネ装備)

「申し遅れました。私は冒険者ギルドのソシエと申します」


 馬でファナを訪ねてきた若い女性――ソシエさんは胸元から名刺サイズのプレートのようなものを見せてくる。


 おお、冒険者ギルド! やっぱり有るんだな。


 受付嬢が座っているカウンターに、依頼が貼ってあるボード、ホールにはテーブルが並び冒険者達の待合室と酒場を兼ねているという定番のイメージ通りなんだろうか。

 なんとなくワクワクして胸が躍る。


「あの……?」


 こちらの反応が無いことに怪訝な表情を覗かせるソシエさん。


「あ、すみません。自分はヒカルです」


 この世界では姓は貴族や平民でも特別な一族しか持っていないらしい。

 面倒になるので人に名乗る時は名字は言わないで良い――とファナ達に言われている。


「それは身分証ですか?」


 俺はソシエさんがかざしているプレートを指差した。

 写真はないし、文字も読めないからなんて書いてあるかはわからない。


「ええ。見るのは初めてですか? ギルド関係者や冒険者登録した方に貸与されるものです」

「変なこと聞きますが、それでステータスとか確認できます?」

状態(ステータス)確認ですか? 確認できるのはこれに記載している名前など一部の情報だけですね」


 やはりこの世界にはステータスとかスキルの存在とかは無いようだ。

 ファナ達も聞いた時に『何それ?』って感じだったので、確定ということだろう。

 つまりは俺専用のチートスキルも無いということだ。


 いくら誰でも魔法が使える世界だといっても、チートスキル無しに異世界転移って少々過酷じゃないか?

 生きるのに厳しい世界は元の世界だけでお腹いっぱいなんだよ。


「もしこれが欲しかったら冒険者登録を是非どうぞ。冒険者は人手不足なので歓迎いたします」

「誰でも登録できるんですか?」


 身元が不明で証明できない俺でも登録できるのだろうか。


「特に問題ありません。孤児でも亜人でも、刑期を終えた犯罪者でも制限はありません」


 『孤児』という単語に瞬間的にひっかかる。

 辛い目にあっている子供らも少なくは無いのだろう。

 経済や社会保障とかの仕組みもどうなのか不明だが、文明レベル的にも現代日本ほど進んではいないので、セーフティネットは手厚くは無いだろう。

 そんな俺の心境には気付かずソシエさんは続ける。


「今、キャンペーン中ですので、掛け金型での登録をすると何かあった時の給付金が多く出てとてもお得ですよ」


 生命保険会社の営業かな?


「わかりました。考えておきます」

「なお、さらに特典で今なら『ギルド名人の冒険島』の石斧レプリカもプレゼントします」

「いや要らないです」

「え? あのギルド名人が冒険島を制覇した時に使用した伝説の石斧のレプリカですよ?」


 この人、さっきまであまり表情が変わらないでたんたんと話す印象があったのに、なんで心底びっくりしたような表情してるんだよ。

 誰だよギルド名人って。

 何処だよ冒険島って。


「それよりもファナの未払い金ってなんですか?」


 加入特典の紹介が続きそうだったので、無理矢理に話題を変更する。

 個人情報もあるので詳しい内容までは教えてはくれなかったが、ギルドはファナに大金を貸し付けているらしく、定期的な支払いの未納分の催促に足を運んできたとのこと。


「せっかく来ましたが不在なのでは仕方ありません。本日は失礼させて頂きます」


 そう言うとソシエさんは大人しく待っていた馬に跨り、街の方へ引き返して行った。

 近くはない距離なのに無駄足させてしまって、俺の事では何だか申し訳ない気持ちになった。


 ***


 ファナは森で何か採取してきたのだろうか、両手にパンパンに詰まった袋を持って夕食前には帰ってきた。

 ダイニングでセザールと夕食の準備をしている俺を見つけると、ファナは気まずそうな表情を浮かべた。


「ファナよ、今日からお前は借金王の称号を名乗るがよい」


 王様が配下の貴族に行うような仰々しい動作でセザールがファナをからかう。


「はうぅ……そんなこと言いますけど、セザールだって関係あるじゃないですか」


 ソシエさんの話だとファナ個人の借金に思えたが、セザールも共同での借主なのだろうか。


「ワシには支払い義務はないぞ。借主はお前さんじゃろがい」

「でも、支払えなかったらここに住む事だって……」


 ちょっと待て。嫌な予感がする。


「なぁ、もしかしてその借金ってこの家に関係ある?」

「ほれファナよ、ヒカルから良い質問がきたぞ。『はい』、『いいえ』、『たぶんそう 部分的にそう』、『たぶん違う そうでもない』、『分からない』から答えるがよい」

 

 何その五択?


「…………はい」

「支払えなかったら、この家から出ていかないといけない?」

「…………はい」


 申し訳無さそうに小さくなって下を向いているファナ。

 その隣にセザールが近寄よって何かぼそぼそと囁く。


「一人でお金稼ぐの?」

「…………はい」

「たくさんお金必要だよ?」

「…………はい」

「じゃあ、覚悟してるんだね」

「…………はい」

「じゃあまずはそこのイスに座って? そう、こっち顔向けて」

「…………はい」

「これからエッチなことされちゃうけど、いいよね」

「…………は……ええっ!?」

「やめんかぁ!」


 びっくりして赤面しているファナを助けるように二人の間に身体を割り込ませ、セザールに思わず突っ込む。

 何の個人撮影が始まる所だったのか、まったく見当もつかない。

 俺の割り込みに対してセザールは目を丸くした後、どこか嬉しそうな表情を浮かべ、腕を組んで壁により掛かりながら目を鋭くする。


「ファナよ……こいつはいいのを拾ってきたかもしれないな」


 不意に鋭くした目が光る。


 びかびかっ!


「うおっまぶしっ」

「ああこれ魔法で光らせたのよな」

「本当に光らすな!」


 まだ一週間しか一緒に暮らしてないが、セザールが居ると話がまったく進まないことは理解している。

 まだボケたそうなセザールをいったん無視し、さきほどの流れでイスに座ったファナに目を向ける。

 セザールの不意打ちセクハラボケでまだ少し頬が上気しているようだ。


 正直かわいい。


「この家って借家なのか?」


 二人で住んでるには大きい家である。

 二階建てで個室や大部屋含めて何部屋も有るし、炊事場も俺たちが今いるここの食堂も広いし、広間も有る。

 離れにはセザール用の工房――ドワーフらしく鍛冶や細工を行っている――まで建っている。


「いえ、この家は私の持ち家です。ただこの家がギルドから借りたお金の抵当に入っているだけです」

「じゃあ、支払いが滞ったら……」

「はい、没収されますね」


 てへぺろ、という擬音がぴったり当てはまるように、片目を瞑ってチロっと舌を出すファナ。


 だ、騙されないぞ。


「はいヒカルくん残念~。せっかく異世界転移して運良く美少女とイケオジが住んでる家に転がりこめたのに、すぐホームレス生活再開~。や~いお前は家なき子~!」


 イラッとして思わず殴りたくなる。

 マジ切れしそうな俺の雰囲気に気付いたのか、ファナが慌ててフォローを入れてくる。


「あ、大丈夫ですよ。さっきも森で素材を拾ってきましたし、明日にでも街に行って換金と支払いをしてこようと思います」


 街か。

 外で魔法の練習中に遠目で見ているけど、まだ行ったことが無いんだよな。


「ワシもギルドに納品するものがある。ヒカルも一緒に着いてくるがよい」

「わぁ、ちょうど良いですね。街のこともご説明したいですし、みんなで一緒に行きましょう」


 こうして急遽、異世界での最初の街に行くことが決定した。

 ちょっと楽しみにしている自分の気持ちを自覚した。

ブックマークや評価してくださった方々に気付きました。

どうもありがとうございます。もっと精進したいと思います。


また、誤字脱字を報告してくださる方もありがとうございます。

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