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5 転移者は稀にいる

 目が覚めるとお世辞にも寝心地が良いとはいえないベッドに居た。

 俺の他に誰も居ない小さな部屋。

 壁や床は木材でできており、避暑地にあるロッジを連想する。

 窓の外は明るいので夜ではないようだ。

 このままここに居ても仕方が無いので誰かいないか探してみよう。


 部屋のドアを開く。鍵はかかっていない。

 状況的にエルフ――ハーフエルフって言ってたか? の女の子が助けてくれたのだろうから、危険は無いだろう。

 危険があるならドアに鍵もかからない個室のベッドに寝かしてくれるわけがない。

 

 廊下には誰もいない。見張りもいないようだ。

 奥に階段が見えたので降りてみると、広いダイニングとリビングのような空間が有った。

 食事らしきの支度をしていたハーフエルフの女の子がこちらに気付く。


「あ、目が覚めたんですね。おはようございます」


 挨拶から今は朝なのがわかる。

 

「えっと、キミが助けてくれたんだよな? ありがとう」

「どういたしまして」


 感謝を伝えつつ目の前の女の子を改めて見てみる。

 身長は150cmちょっと。

 ハーフエルフとのことだから年齢はよくわからないが、外見だと人間の16~17歳に見える。

 服は白い大きめのTシャツみたいな形の服に膝丈程度のハーフパンツ姿で動きやすそう。

 綺麗な金髪の髪はボブカットで尖った耳が飛び出ており、碧色の目でニコニコしてくれている。

 ちょっと信じられないくらいの美少女である。

 

「あの後大変だったんですよ。気を失ったあなたを森の外にまでは運んだんですが、そこで浮遊(レビテーション)の効果も切れちゃったんです。魔力も少なかったので、取り合えず森の外に放置して応援を呼んできたんですよ」

「森の外に放置」

「森の中に比べて大して危なくないですからね。たまに陰気なハイエナ(グルームハイエナ)とか出てきますけど」

「ハイエナ」

「デュフッ! デュフッ! と笑うような鳴き声を上げて群れで行動するだけのハイエナです」

「二重の意味で怖い」

「ですからちゃんと魔物避けのポーションを振りかけておきましたよ」


 エルフの女の子は人差し指を立てながら、片目を瞑って得意げな表情をした。

 そういう便利な物もあるんだな。


「それよりお腹空いていません? ご飯にしましょう」


 不倫が発覚したあの日以来、食事はまともにとっていなかった。

 食欲は失せてしまい、栄養ゼリーや野菜多めのスープなどばかりを流し込むだけの作業。

 自分の分は要らないと伝えようとしたが腹が鳴った。

 この感覚……久しぶりだ。


「ふふっ……セザールのご飯は美味しいんですよ」

「セザール?」


 エルフの女の子は俺の背後を指差す。


 振り替えると背後に背の小さな男が居た。

 服の上からでもとんでもない量の筋肉が詰まっているのがわかる、まさに筋骨隆々とした体形。

 長髪をオールバックにして後ろで結んでおり、口周りにはふさふさしたヒゲを蓄えている。


「ドワーフのセザールだ。突っ立って話してないでメシでも食べながらにしようや」

「ええ、あなたの事を教えてください」


 食卓に誘導され席に着いた。

 久々に暖かいまともな食事をとることになるのが、まさか異世界でのテーブルだとは。




「ヒカルさんは異なる世界から来た人、転移とか転生者ですね。稀に居ます」


 食事をしながら俺に起きたことを簡単に話し終わった後、エルフの少女――ファナという名前らしい――はあっさりと言った。


「その人達には会えるか?」

「無理じゃろなぁ。ワシも最後に会ったのが百……二百年近く前だったしのぅ」

「ヒューマンだから亡くなっちゃってますよね」


 転生・転移者は数百年に1人という間隔で現われているようだ。

 今のこの世界にいるのは俺だけかもしれない。


「ヒカルよ……お前さんはこれからどうするね?」


 セザールに問いかけられて考える。

 行く当てはない。そもそもこの世界の事を何もしらない。

 曜子のことは気になるが、少なくともファナは森の中では車も他の人も見てないようだ。

 この世界に転移していないのかもしれない。


 元の世界に帰る方法を探すか?

 来ることができたのだから、帰る事もできるだろう。探せば方法は見つかるかもしれない。

 だが帰ったところで何が有る?

 陽向はもういないし、そもそも俺には親兄弟も居ない。

 関わり合いがあるのは会社の同僚くらいのものだ。

 不倫の件でメンタルに支障をきたしてしまった俺に配慮してくれた会社や部署の人に、やり掛けの仕事を残して迷惑をかけることになるのが申し訳ないくらいなものである。


「ヒカルさんが良いならここに居てもらっても大丈夫ですよ」


 考え込んでいる俺にファナが優しい言葉をかけてくれる。


「異世界人が居るとお金儲けのチャンスだしのぅ」


 過去の転移者はだいたい色んな分野で技術革新を起こしているらしい。

 現代知識チートってやつだろうか。

 セザールがあからさまにイヤらしい笑顔を向けてくるが、茶化しているだけで言葉は本心ではなさそうだ。

 二人とも優しい人なんだろうな。


「ごちそうさま。そしてありがとう」


 俺は綺麗に空になったお皿を見ながら、お腹が――そして心が少し満たされているのを感じていた。

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