表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

19 うるさい黙れ ★

 野営地から少し離れた開けた場所で対峙する俺とアズリナ。

 そして余興の見学で俺達二人を囲むように周囲に立つ分隊の兵士たち。


「副官と手合わせする奴って誰?」

「ファナさんの弟子だってさ」

「ってことは魔法士か」

「ファナさんの弟子なら魔法の腕は凄そうだな」


 視界の端にアンディ様と並んでいるファナが目に入るが、どことなくソワソワして嬉しそうな顔をしている。

 間違いなく間接的に褒められてて良い気になっている。


 あいつ持ち上げられたり賛賞されるのが好きなんだよな。

 これが終わったら『承認欲求エルフ』と呼んでやる。


「距離は近すぎるとアズリナが有利だし、離れすぎるとヒカルくんが有利だな。二人とももうちょい離れて……そうそう、ちょうどいい」


 アンディ様の誘導に従ってアズリナとの立ち合い開始時の距離を調節する。

 目測で10メートル程度だろうか。

 俺が飛び道具で相手が近接武器だとするとこの距離でも俺が有利が気がする。

 しかし、この世界の戦闘職の奴等はみんな身体強化を使うので、この程度の距離なら一瞬で詰められるだろう。


「一応確認だが、ヒカルは無手で良いのだな?」


 アズリナが自身の細身の剣を俺に向けつつ問いて来る。


「ああ。変に剣なんて振り回したら自分がケガしちゃうよ」


 近接格闘訓練としてセザールがナイフの使い方もそのうち教えてくれるらしいが、まだ素手での身のこなし方しか教わっていない。

 もっとも例え訓練をしていたとしても俺のスタイルは魔法中心のままだとは思うけれど。


「では、そろそろいいかい? 二人とも構えて」


 アンディ様が俺達に構えるように促す。

 アズリナが剣を構えると気迫のようなものが彼女の全身から噴き出したような錯覚を覚える。


 なんでこの人こんなにやる気満々なんだよ。


 俺はげんなりしながら先ほどのやり取りを思い出していた。


 ***


「なんで摸擬戦を?」


 俺はアズリナに理由を尋ねる。

 アンディ様との会話からこの人もそれなりの身分の方なのかもしれない。

 しかし、初対面でいきなりの高圧的な態度が気に喰わないので、こちらもそれなりの態度で良いだろう。

 礼を欠く相手に礼を尽くす気は無い。


「うるさい黙れ」

「うっ」


 予想外に強い言葉がシンプルに返ってきた。これは怯む。


「はっはっは、アズリナ。さすがにその態度は失礼じゃないか」

「この男は平民なんでしょう? 私が立ち会えと言っているのですから素直に従えば良いのです」


 アンディ様との会話の雰囲気からアズリナも貴族なんだろうと推測してたけれど、やはりそうか。


 平民が逆らったからご不満かな。


「平民は平民かもしれないけど、そんな態度だと嫌われるよっていつも言ってるじゃないか。『家畜に神はいない』と言い放った騎士が平民に討たれる古来の話も知ってるだろう?」

「しかしですね、気高きアンディ様のご任務に同行させるんでしょう? 足を引っ張らないかどうか確認する必要があります!」


 その気高きアンディ様とやらはついさっきまでローション塗れで恍惚としてたけどな。


「彼らは万が一の予備戦力だよ? 足も引っ張るも何も基本的に待機だよ?」

「それでもです!」


 アズリナはまったく引き下がる気は無いようだ。


 面倒くさいから帰ろうかな。

 もともと参加したかったわけでもないし。


「ヒカルくん、悪いんだけどアズリナが納得しないから付き合ってあげてくれないかい? こんな性格しているけどヒカルくんが瞬殺すれば『くっ殺』系のキャラに早変わりすると思うからさぁ」

「そんなのになりません!」


 別に進んで任務に参加したい訳ではないし、面倒くさそうだから帰ろうか――と、ファナに相談しようとした矢先、彼女の方から耳打ちしてくる。


「ヒカルさん、ヒカルさん。アズリナさん相手ならヒカルさんは完封できると思います」


 そうかなぁ。

 この人、騎士さんなんでしょ?

 ちゃんと戦闘訓練してる人に勝つ自信なんてないよ。


「それに剣を使う相手との経験はまだ無いですし、いい練習の機会です」

「そんなこと言ってるけど、参加しないと今回の件で給金が貰えなくなるからだろ?」

「はい!」


 うーん、満面の笑み。

 仕方ない。やってみるか。


 今いち自分の力がどれくらい通用するかまだわからないし、この件がある程度の物差しになるだろう。


「わかりました。お受けいたしましょう」

「おお、ありがとう」

「ふん、いい覚悟だ」


 こうして俺はアズリナと立ち会うことになったのだった。

 

 ***


「じゃあ準備はいいかい?」


 俺とアズリナにそれぞれ一瞥した後、アンディ様が開始前の確認をしてくる。

 アズリナが頷いた後、俺もわずかに遅れて頷く。


 うーむ、中々の緊張感。


「始めっ!」


 開始の合図と同時に弾かれたようにアズリナが真っ直ぐに突っ込んでくる。

 続いて抜かれた剣もこれまた一直線の突きで俺に向かう。

 最短距離で一刻も早く俺を突き刺したいのか、それとも真っ直ぐな性格なので戦い方までそれが反映しているのかはわからないが、とにかくこのままでは俺の喉に剣が刺さって終わりである。

 そのまま死にたくはないので、一歩も動かないまま俺は魔法を発動させた。


「<(シールド)>」

「むっ!」


 ガキィン――と彼女の剣が俺の張った防壁に阻まれる。

 彼女の突進はかなりの速さだったので、あっと言う間に距離は詰められてしまった。 

 だが、防御系の魔法は構成が単純なので早く発動することができる。

 不意打ちならともかく、相手の動きを見てからならば余裕で間に合う。

 

「――シッ!」


 初撃を防がれたというのに彼女は意に介することもなく、連続で刺突を繰り出す。


 うん、この程度だったら防げるな。


 俺の予想通り、防壁はしっかりと彼女の連撃を防いでくれる。


「基本的な防御はできるようだな! ならばこれはどうだ?」

「!?」


 アズリナは立ち合い開始と同時に身体強化の魔法は発動させていたが、それの効果を突然切った。

 直後、瞬時に別の構成が展開および実行され、彼女――というか彼女自身と彼女が身に付けている物全てがぼんやりとした薄い白い光に包まれる。

 彼女が手に持つ剣も当然包まれており、それが再度向かって俺の防壁に突き出される。

 

 ――やばい、抜かれる。


 直観で危険を感じた俺は直ぐに新たな防御魔法を実行する。


「<多重防壁(マルチプル・シールド)>」 


 瞬間的に新たに張られた防御壁を1枚、2枚とアズリナの剣は貫通したが、3枚目の壁で阻まれる。


「わっ!」


 止まったとはいえ、目の前に剣先が来ているのを見て冷汗が噴き出した。


「ちっ!」


 今舌打ちしたよね?

 これ摸擬戦なんじゃないの? 殺す気だよね?


「ほぉ、アズリナのあれを止めるか」

「ふふーーん」


 天狗になってるハーフエルフの気配を感じるが、今は鬼になってる目の前の女騎士に集中しなければ。


「防御は得意のようだな? しかし残りの壁は1枚しかないぞ?」


 そう言って剣を引いて再度攻撃を仕掛けようとするアズリナ。


「いや、あと8枚なんだわ」

「えっ?」


 彼女の目にも新たに出現した7枚の防御壁が映っていることだろう。


「3枚のシールドではないのか?」

「ループの回数をとっさに10に指定したんだよな」


 シールドを張るという魔法関数をn回繰り返す――という内容の構成が多重防壁(マルチプル・シールド)の中身である。

 ループ回数の後半になるにつれて処理速度が下がっていたので、少し遅れて残りのシールドが展開されたというわけだ。


「何をわけのわからないことを!」


 アズリナは何か癪に障ったらしくより一層激しく攻撃を加えてくるが、それらの攻撃は多重に展開された俺の防壁を貫通してくることはない。


「あれは10の魔法を同時に実行しているのかい?」

「あれらまとめて1つの魔法で実現しているんです」

「へぇ……どうやってるのかはわからないけど、さすがに別々の魔法を同時発動は難しいかな?」


 俺はアズリナの攻撃を完全に防いでいるが、このままだと反撃もすることができない。

 多重防壁を解除すれば可能だが、その瞬間にアズリナに攻撃を割り込まれて終わりだろう。


「ふん、亀のように閉じこもって私の攻撃を防げはしても、反撃もできなければどうしようもないな! ほらどうした? そのままか?」


 アズリナもそれを理解しているようだ。

 軽い挑発で俺に防御壁を解除させようとしてくる。


「アズリナの言う通りだねぇ。膠着しそうだし、しばらくしたら引き分けでいいかな」

「それがですね……ヒカルさんできるんですよ」

「何をだい?」

「同時発動です」

「うん?」


 多重防壁を維持したまま、右手の先に火球を出現させる。

 さすがにこれには意表を突かれたようで、アズリナの表情に焦りが見える。


「なんだと……同時発動ができる魔法士なんてファナしか知らぬぞ……」

「ファナのやり方は俺にはできなかったから、手法は少し違うんだけどな」


 魔法は術者本人の身体を実行環境として展開と発動が行われる。

 通常は1つの実行環境で1つの魔法の発動なので、2種の魔法の発動にはかなり高度な技術が要求される。

 それができるファナはかなりの職人芸なのである。


 一方、俺は違うアプローチを試してみた。

 1つの実行環境で1つの魔法ならば、実行環境を増やせばその分だけ実行できる魔法が増えるのではないかと考えたのだ。

 それを実現させたのが仮想OS(ハイパーバイザ)である。

 今は俺自身の物理的環境にて仮想OSが実行されており、その効果で仮想の環境が2つ配置(デプロイ)されている。

 そして、片方で多重防壁が実行中で、もう片方で火球を発生させているというわけだ。


「じゃあ、悪いがあんたの望んだ立ち合いなのでフィニッシュするぞ」

「くっ!」


 右手の火球を放とうとした時、アズリナが後方に跳ぶ。

 しかし焦って少しでも距離を取ろうとした結果だろう。その身体は高く宙に浮いてしまっている。


「それじゃ避けれないだろ」

「くそっ!」

「<燃えろ>!」


 俺の放った火球はゆるやかな弧を描いて飛んでいき、アズリナに直撃すると巨大な炎となって彼女を包み込んだ。

 こうして俺は強気な女騎士を()()()()ることに成功した。

■一般の魔法士

―――――――

|  魔法  |

―――――――

|魔法実行環境|

―――――――

|魔法士の肉体|

―――――――



■ヒカル

――――――――――――――――――――

|   魔法①   |   魔法②   |

――――――――――――――――――――

|仮想魔法実行環境①|仮想魔法実行環境②|

――――――――――――――――――――

|         魔法        |

――――――――――――――――――――

|       魔法実行環境      |

――――――――――――――――――――

|       ヒカルの肉体      |

――――――――――――――――――――    

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ