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15 ATSU森

「ここら辺にペペ・スライムが良くいます」


 ファナに案内されて着いたのは湿気に満ちた空気が身体を包む湿地帯。

 枯れ草と低木が生い茂り、背が高く伸びた樹木にはツタが絡まっている。

 足元には水たまりが点在し、一歩ごとに踏み出した足が軽く沈む。長靴を持ってきてよかった。


 昨日、依頼を受けた後、俺はすぐに出発はせずに家に戻ることにした。

 ソシエさんから教えてもらったペペ・スライムのおすすめの捕獲場所――つまりはここが家から向かった方が近いからだ。

 それにあのまま直接ここに向かっていたら距離的に野営することになり、そのためには準備が不足していた。

 家に戻り、事にギルドで冒険者登録を済ませ、ペペ・スライムの捕獲の依頼を遂行することになったことを家でみんなに伝えたら、他に湿地帯で収集したい素材があったファナが案内してくれることになったのだ。


「少し休憩してから捕獲しましょうか。わ、あの木なんていいですね」


 ファナは腰をかけるのにちょうどよさそうな倒木を見つけ、さっそく座った。

 ぽんぽんと木を叩いて俺に隣に座れと主張してくる。

 俺はファナから一人分のスペースを空けて腰を下ろす。  


「え~微妙に離れてないですかぁ?」

「わざわざ密着せんでもいいだろ」

「む~」


 何故か不満気だな。

 ファナの距離感はよくわからない。

 膨れているファナを横目に、ソシエさんからもらった依頼票を改めて確認する。


 【依頼】

 ランク:F

 目的:ペペ・スライムの収集

 必要量:こちらで用意した容器の八分目以上

 期限:なるはや

 備考:収集方法は捕獲、店での購入など、手段は問わない


 期限の『なるはや』とかいうフランクさがイラっときたので実は受けたくはなかったのだが、ちょうど他に手頃なチュートリアルになりそうな依頼が無かったので、仕方なく引き受けたものだ。


 ギルドが内容を審査して決定する難易度は通常A~Fと別れており、これは最低ランクの『F』。

 駆け出しの冒険者はみんなこのランクで実績を積んでいくことになる。

 ちなみに『S』ランクの依頼も稀にあるらしいが、これは冒険者側から応募するのではなく、ギルド側から熟練の冒険者達に打診される形らしく、ギルドの依頼ボードに依頼票が貼り出されることは無いとのこと。


「で、この湿原のどういう所にペペさんはいるんだい?」


 茂みや樹木が多いので、見渡したところでどこにいるのかすら検討が付かない。

 そもそも実物も見た事ないので、視界に入っても認識せずにスルーするかもしれん。


「ペペ・スライムは茂みに隠れてもいますが、岩とかの下にもよくいますよ」

「ダンゴムシみたいだな」

 

 ファナはそういうと立ち上がり、近場にあった20cmくらいの岩をよいしょ、とひっくり返す。


「ほら、いました」

「これがペペ・スライムか」


 裏返された岩の裏にはぶよぶよした透明のゼリーみたいなものがペトッとくっ付いていた。


「触っても大丈夫?」

「ええ、無害です。でないと使う時に……」


 ファナが途中で話すのを止める。

 コレの用途は知っているみたいなので、それを口に出すことになるのに気付いたのだろう。

 白いエルフの頬が見る見る桃色に染まっていく。


「使う時とは?」

「……あの……」


 俺は紳士なのでこういう時は促すだけで多くは話さない。

 ちゃんとファナが全部話せるように暖かい目で見守ろうではないか。


「……えっと……」


 美少女が恥ずかしがる姿というのはなんと絵になるのだろうか。

 しかし、美少女といっても今までの会話から推測するにファナは少なくとも200歳は超えてることは確定しているのだが、ここまで初心なものなのかね。


「…………」


 ファナは顔を紅潮したまま俺が運んできた容器を取ると、小型のナイフでスライムを岩から剥がしてその中に落とす。

 見るからに粘度が高い液体というのがわかるほど、岩からボトルの中まで糸が引いている。


「手で触っても大丈夫ですが、ぬるぬるして取れないのでこんな感じで剥がします」


 おお、さっきまでの話を強引にスルーしたぞ。

 あまりイジメても可哀想だから、そこは俺も突くのはやめておこう。


 今ので中に納まったスライムはわずか。

 容器のサイズはウオーターサーバで良く見る10~12リットルくらい入るボトルに近いので、これに八分目まで集めるとなると大変かも。

 こんなにスライム(ローション)集めて何に使う気だよ。

 イリニの街にも18禁の店があるとのことなので、それの関係者だろうか。


「1匹でこれだけだと、時間かかりそうだな」

「今のは小さいサイズですけど、大きいのもいますから大丈夫ですよ」

「そうか、ならよかった」

「時間かけてコツコツやれば比較的安全に達成できるこういう依頼が一番です」


 そんなこと言ってるファナだが、危険な『森』によくクエストで単独で入っている。

 数泊してくるのも珍しくない。


「自分は『森』に入るのにな。俺も次は少し入ってみようか」


 あんまり深く入るとこの世界に転移初日に遭遇したドラゴンやら巨大なサイとか出てきそうだからそれは自重するが、入口周辺なら大丈夫じゃないかなぁ。


「ダメですよ! あそこは本来最低でもCランクからなんです。駆け出しFランのヒカルさんでは死んじゃいます」

「Fランって言い方にどことなくダメージを受けるんだけど」


 学歴でも冒険者でもFランって嫌な響きだなぁ。


「そもそも転移直後のヒカルさんが生きていただけで奇跡みたいなものなんですからね? あの森の通称なんていうか教えましたっけ?」

「すごい危ない森くらいしか聞いてない」

「Abandoned Threatening Serious Uncharted Forestです」


 アバンドンド・スレッティング・シリアス・アンチャーテッド・フォレスト、ね。


「『見捨てられた脅威のある深刻な未知の森』とかなり昔から呼ばれてまして、通称……」

「通称?」

ATSU(あつ)森です」


 うん、ぜんぜん危険を感じないな。

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