14 冒険者登録と就職活動は似てる
「では、エントリーシートに記入をしていきますので、簡単なご質問にお答えください」
「エントリーシート」
就職活動かな?
ソシエさんはひとしきり冒険者不足の愚痴を言ったあと、俺の基本項目を確認を行う。
「さて、お名前はヒカルさんですね。住居はファナさんと同じ。種族は人間、性別は男で24歳と……間違いありませんか?」
「相違ないです」
「次に職業ですね」
職業って事務職とか営業職とかではなくて、ここでは『剣士』『武道家』『僧侶』『魔法使い』とかそういったのを指すんだろうな。
「う~ん……」
俺は何にあたるんだろうか。
魔法はファナに、近接戦闘の基本はセザールと、二人からある程度は仕込まれたが、その道のスペシャリストと名乗っていいレベルなのかどうかまでわからない。
「自分のスタイルに近いのを選んで頂ければと思います」
「適当に決めるのはまずいですかね?」
「他の人からパーティー参加の誘いを受ける時には困るかもしれません」
「例えば?」
「極端な例ですが、ヒカルさんが前衛職が欲しい時に戦士を自称している人をスカウトしたとします。いざ戦闘の際に『後衛職しかできません』となったらどう思います?」
「なるほど……」
たしかに自分のパーティーの強化をしようと思った時、弱み補強するにせよ、強みを更に伸ばすにせよ、加入させる人がどんな能力や技術を持っているかは知りたいものな。
自分が欲しいタイプの人材と、声をかけた人のタイプが異なっていたら確かに困る。
「それに、ギルドから名指しで依頼を割り当てる時がありますので、できるだけご自分のスタイルに近い方で申告して頂ければと思います」
緊急の依頼とか、長い間未着手になってる依頼をギルドから冒険者に受けてくれないか打診する時があるらしい。
「じゃあ……魔法使いよりの軽戦士ですかね」
冒険者登録表に記入しているソシエさんのペンが止まる。
そして顔を上げてこちらに向ける。
「ヒカルさんは魔法がお得意で?」
「ええまぁ……」
ファナ以外の比較対象がいなかったので、得意と言っていいのか正直まだわからないところはある。
だが、魔法が得意と自称しているファナ自身が、俺の魔法の構成を褒めてくれてるのだからそういうことにしておこう。
「いいですね。引く手数多だと思います」
この世界の人間はみんな魔力は備わっているが、全員が全員、冒険で通用するようなレベルで行使できるわけでもない。
一般人は簡単な魔力操作や、せいぜい薪に火を点けるといった簡単なもの。
大半の冒険者は身体強化や障壁を張る程度。だいたいは前衛職で後衛でも弓矢使いなど。
そして攻撃や回復など実用に耐えれるレベルの現象を起こせる本格的な後衛職は、数が少なめらしいのだ。
「では魔道軽戦士とでもしておきましょうか。ちなみに経験年数は? 冒険者登録していない期間のことも含めて結構です」
「ぜ、ゼロです」
「未経験ですね。承知しました」
なんか初めて就職活動した時を思い出してきた。
「ヒカルさんの強みは何でしょうか?」
「つ、強み? 大抵なことは平均レベルでこなせることでしょうか」
悲しいかな器用貧乏ともいう。
現在日本の社畜では様々なことに対応することを求められるのだ。安い給料でな。
「年収はいくらくらいをご希望ですか?」
「年収とかあるの? 依頼ごとの報酬制なのでは?」
俺はファナとセザールに教えてもらった『月にこれくらい稼げると安心』な額を伝える。
「当ギルドを志望した理由はなんですか?」
「ねぇここハローワークとか転職エージェントじゃないよね?」
俺が想定してた冒険者登録とぜんぜん違うわ。まったく胸躍る冒険とか始まりそうにないわ。
危険な未開の地よりも社会と言う地獄に歯車として出される気持ちにしかならん。
「ハローワーク?」
「いやそれはいいんですが、質問がさぁ」
「当ギルドの理事である辺境伯令息アンディ様が考案した質問でして、採用のアンマッチを未然に避ける目的とのことです」
「採用のアンマッチとか言い出したわ」
「せっかくパーティーに参加して頂いたのにスカウトされた方がパーティ参加前に想定していた仕事内容と合わない、パーティーの空気と合わない、とかギャップが原因ですぐ抜けるケースもけっこう有るんです」
「冒険者も色々な意味で大変なんですね」
「ええ、せっかく新規で登録して頂いた方でも、理想と違うとのことで数日で冒険者引退する方もいらっしゃいまして」
ふぅ――と眉間に指を当てながらため息をつくソシエさん。
冒険者もギルドもいろいろと大変なんだな。
冒険者を個人事業主、ギルドを依頼斡旋組織とそのまま置き換えたら、たしかに有りそうな問題かもしれないわ。
早期引退やパーティーの参加のアンマッチ問題に対策を取ったら、おのずとこのような登録方式になったのも仕方無いのかもしれない。
俺はどこか既視感のある冒険者登録を進めていった。
***
「では、冒険者証の登録をお願いします」
質問のやり取りが終わり、最後に名刺大の金属製のプレートを手渡される。
「これに魔力を少し流し込んでください」
言われるがままに少量の魔力を流し込むと、プレートは淡く光った後、すぐに光が消えた。
「このプレートにヒカルさんの魔力が登録されました。魔力の上書きはできないので簡単な身分証明にもなります。失くさないようにご注意ください」
ギルドは大き目の街なら支部があるらしく、これによってどこの支部でも依頼の受注や終了報告ができるらしい。もっとも納品系は受けた支部で無いとダメらしいが。
「最後にですが簡単な依頼をご用意いたしました。期限の余裕も有るので雰囲気を掴むためにいかがでしょうか」
おお、記念すべき初クエスト。
これを足掛かりにこの異世界の後世に俺の名が届く冒険譚の始まりかもな。
俺は依頼票をソシエさんから受け取り、内容を確認する。
「ペペ・スライムの捕獲?」
スライムってRPGでお馴染みのモンスターだよな。
ペペってなんだろう。
「通常のスライムよりもぬるぬるしており、主に性的な行為によく利用されますね」
「最低な依頼だな!」