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13 冒険者より安定した仕事の方が人気あるのは仕方ない

「行ってらっしゃい。気を付けてくださいね」

「お帰りを待ってます」

「土産は酒場で売ってる『鬼神降臨ONI(オニ)殺し』で頼む」


 ファナ、ルーチェ、セザールの3人に見送られて家を出て、徒歩で片道2時間をかけてイリニの街の冒険者ギルドまで辿り着いた。

 前にここに来たのはルーチェと出会った日のことである。

 あの時は観光気分のような気楽さでファナとセザールにただ付いてきただけだが、今日はギルドに俺の冒険者登録をしに来たのだ。


 あれから一ヵ月、俺は冒険者登録を見据えてこの世界のある程度の知識や一般常識をファナから本腰を入れて教えてもらい、並行して魔法の訓練もみっちりと行ってきた。


『もう大丈夫だと思います。ばっちりです。むしろ魔法に関してはライバル心がうむむ……』


 昨日、ファナから魔法の訓練の終わり際にお墨付き(?)をもらったので、早速ここに出向いて来たというわけだ。

 教育係のGOサインが出たのなら、だらだらと登録を先延ばしにする必要はない。

 本来の目的である『お金を稼ぐ』というステージに早く入るため、即行動するのが正解だと思う。

  

 そう決断した俺に対し、ファナとセザールはまるで保護者のように心配してくれて『一緒に付き添いで行こうか?』と申し出てくれたが、丁重に断った。

 この世界で冒険者としてお金を稼ぐのだから、単独(ソロ)で行動してギルドで登録してくるくらいできないと話にならない。未知の場所へ行かないとならない依頼だってあるんだろうしさ。


 さて、入口前に突っ立っていても仕方が無い。

 さっさと中に入って登録を済ましてしまおう。


 ギィ―――と大き目の木製の扉を開いて入ると、中は大きな酒場を兼ねたホールとなっていた。

 いくつかのテーブルとイスが並んでおり、何席かは埋まっていたが全体的にガラガラ言ってもいいだろう。

 奥の方にはバーのようなカウンターがあり、右手の奥には役所のような受付カウンターがあり、女性の職員が何人が座っていた。

 冒険者登録手続きはおそらくこっちの方だろうな。


 受付カウンターの方には依頼ボードがあり、いくつかの紙が貼られていた。

 何となく何枚からの依頼票を内容を確認してみる。


 『120種類の魔物または動物を集めて私の箱舟に乗せてください。依頼期間8年』 

 『鶏のような赤いモヒカン頭の大男が率いる人間狩り集団を殲滅して欲しい。要火属性対策』

 『雪山に生息する氷牛からタンの部位を3頭分集めてきて欲しい』


 どれも大変そうな依頼ですね。

 

「あら、あなたは確か……」


 依頼を見ていて気付かなかったが、いつの間にか隣に立っていた人に声をかけられた。

 声をかけられた方を見やると短めの髪に眼鏡をかけた女性――ギルドの受付嬢のソシエさんが書類を抱えて立っていた。


「ファナさんと一緒の家に住んでおられる――ヒカルさん?」

「ええ、そうです」


 ここで仕事なんてしていたら様々な数多くの人と対応するだろうに、よく一回会っただけの俺の事を覚えていたな。


「ああやっぱり。本日はファナさんの付き添いでしょうか?」

「いえ、実は私の冒険者登録をさせて頂こうかと思いまして」

「えっ?」


 俺の用事が以外だったようで、ソシエさんは目をぱちくりとさせるとフリーズする。


「いや、登録です。何で固まってんですか」

「失礼しました。登録を希望する方が久々過ぎて思考が停止しました。あなたが今月始めての登録者ですよ」

「今月って今日が最後ですけど」


 近くの受付カウンターに置かれている卓上カレンダーを確認する。

 うん、今日が今月最終日だな。


「ヒカルさん、あそこの空いてる席にどうぞ。手続きを取らせて頂きます」


 ソシエさんに促されて指定の空いてる席に移動する。

 移動の最中、他の何人かの受付嬢に期待を込められた眼差しを向けられた。


「早速ですが特典のギルド名人の石斧です」

 

 ゴトッ。


「それはすぐしまってください」

「そうですか」


 席に着くなり石斧を出してきたソシエさんだが、俺に断られると心底残念そうな表情で机の下のスペースに戻す。

 なんでそんなにその石斧推してるの?


「改めまして本日は冒険者登録ありがとうございます。本当に人手不足の状況なので大変たすかります」

「冒険者ってそんなに少ないんですか」


 せっかくの剣と魔法と魔物の世界なんだから、たくさんの冒険者がパーティを組んで様々な依頼を達成し、あちこちに冒険の旅に出かける――ってイメージはどうしても持ってしまうわけよ。


「ハイリスク・ハイリターンなお仕事なので、短期間で大金を手に入ることもあるのですが、ケガも多いですし、最悪お亡くなりになることも珍しくは無いので、安全志向の方には敬遠されるんです」

「…………」

「それにここら辺の魔物は強いんです。最終ダンジョン手前の街とか言われることもあるくらいですし」

「…………」

「能力がある人は行政関係の方に就職してしまいまして、こちらにはそもそもの応募が少なくなっているんです」


 零細企業の人事採用みたいな愚痴をたんたんと聞かされてるな。

 ここギルドだよね?

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