明かされる真実
蜘蛛人間事件は多少世間を騒がせた。
巻き込まれた佐々木萌乃や安藤早希、ショーン武藤に注目が集まったのはもちろん。蜘蛛人間の風貌が世間の興味を一層盛り立てた。
1年が過ぎた。
大きな事故も、事件も起こらない日々。
俺か拳銃を使うのは後にも先にもあの事件だけになるだろう。
そんな安心もあった。
何気なくつけたテレビで、映画ランキングというのをやっていた。
「10週連続1位の作品は、ショーン武藤監督の蜘蛛人間です。ホラー界に革命を起こした映像表現とリアリティ。この夏見るべき映画です!」
キャスターがそう伝えた。
映像は短く、薄暗い映像でよく分からなかったが。
ショーン武藤と蜘蛛人間というこの単語から、ショーン武藤があの事件からインスピレーションを受けたことは間違いなかった。
非番だったので、ふらっと映画館に入った。
映画館でホラー作品を見るのは少し緊張した。あのデカいサウンドで恐怖を煽られたら、大の大人でも少し震えるだろう。
後方の端の席に座れた。
そこ以外は、すっかり埋まっており、おそらくリピーターと思われるグッツを身につけた客も多かった。
面白くなければ出ればいい。
そんな気持ちで見始めた。
そして、後悔した。
映画終わり、エンドロールまで目を話せなかった。
何度も、めまいがした。
映画館を飛び出すと、駅前のベンチに座り込んだ。
「俺は人殺しだ。」
汗が止まらなかった。
ラストシーンはリアリティを超えていた。そう、俺の見た景色そのものだったのだ。
あの映画は、アラーネという結合双生児を上手く操り、警察官の俺が彼を撃ち殺して完成する映画だったのだ。
おそらく、冬木とショーン武藤は繋がっていたのだろう。冬木の邸宅で撮影されたと思われるシーンもあった。
隠しカメラだろう。アラーネが町で暴れるシーンも様々な人のスマホ映像を繋げていた。
ヒロインの名前は峰原純菜。佐々木萌乃が演じている。
隣人で劇中では通報者になっている安藤早希は役名、西村徳子だ。
純菜の家となっている場所は、あの撮影所兼稽古場だった。
2階には数人のスタッフが常に駐在し、隠しカメラやマジックミラーを使い巧みに映像に収めていた。
まるで、アラーネと純菜の生活そのものを移したように。
アラーネ役は数名の役者がCGで演じたことになっていた。
アラーネ。彼は様々な違和感を持っていた事だろう。
そして、金儲けのために育ての親の冬木、そしてショーン武藤によって殺されたのだ。
しかし、忘れてはいけないことがある。
実際にアラーネを殺害したのは、この俺だ。
この事実を報告するべきか。
それとも、俺は殺人者として生き続けるのか。
俺は絶望した。
あの蜘蛛人間を思い出しながら、泣き叫んだ。