幸せの終わり
純菜の誕生日当日。今日は七夕だ。
しかし、俺にはどうしてもはっきりとしないことがあった。純粋な気持ちで彼女を祝うためにこれだけは聞いておかねばど思っていた。
「あの、純菜。」
「アラーネ。おはよう、どうかした?」
「昨日の、というよりいつも夜になるとどこに言ってるの?」
「それは。」純菜は、もごつき目も泳いだいた。しかし、キリッとした目つきになった。「私にだって、色々あるの!」
俺はなんだか裏切られたような気がした。
「誰かにあっているのか?バイトか?買い物か?」
「アラーネ、あなたが知ることじゃない。」
純菜はそう言い放つと、不機嫌そうな顔になり、朝は出勤するまで一言喋らなかった。
「いってきます。」
俺の「いってらっしゃい。」を聞き終える前に彼女は扉を閉めた。
俺は今朝の言動を悔やんだ。
せっかくの誕生日を、彼女の幸せな一日を台無しにしてしまった気がしたからだ。
そして、自分の気持ちにも気づいた。
これが恋なのか?好きな人に嫉妬してしまう気持ち、好きな人の事を知りたい気持ち、好きな人に喜んで貰いたい気持ち、好きな人の悲しそうな顔は見たくないという気持ち。
俺は、彼女を喜ばせないとと本気で思った。
掃除に皿洗い、この前教えてもらった洗濯を完璧にこなした。
そして、純菜のために夕飯の副菜を作った。見た目は良いとは言えない肉と野菜の炒め物だ。
しかし、味は悪くないと思う。
そして、何より大切な物がある。
すみれだ。あの花は純菜を元気づける。
夕方頃、俺をコートと帽子を被り、カーテンを少し開き、外を確認した。
小屋が見えた。その周辺にはすみれらしき花は咲いていなかった。
つまり、方角は反対といことだ。
素早く、庭に降りた。出来るだけ身をかがめて、小屋の反対方向にまわる。
そこには青く咲き乱れたすみれの花があった。
俺は「ごめんな。」と言いながらそのうちの1本を摘んだ。
戻ろうとした時斜め上の方から視線を感じた。
まずいと思い。全力で走り、家に駆け込んだ。
窓と、鍵、カーテンを閉める。
息は上がり、震えが止まらなかった。しかし、すみれは無事に摘み取ることが出来た。
俺の存在がバレていないことを願った。
その時、家の裏側で人の気配を感じた。
しかし、ここでカーテンから覗いて見つかったら完全にアウトだ。
純菜の帰宅を待つことにした。
外が暗くなり始めたきっかり6時半。玄関まえで口論が始まった。
声は純菜と女性の声だ。
もしや、西村だろうか。嫌な予感がした。
少しして、純菜が帰ってきた。
その顔には疲れが見えた。
「おかえり。どうかした?」
「大変。とにかく逃げないと。」
純菜は焦っていた。バタバタと準備を始めた。
俺は手に持っていたすみれを隠し、ポケットに閉まった。
「純菜。何があった?」
「アラーネ!あなたのせいでしょ。外に出たのを西村さんがみてたの。追い出すか、自分で警察に自首しないと通報するって。」
やはり、バレていたのだ。
「ごめん。でも理由があったんだ。」
「理由?そんなのどうでもいいの、2人で暮らすためには逃げないと。」
俺は困ってしまった。その場に立ち尽くし、純菜が脱出の準備をするのを見守るしかなかった。
するとチャイムがなった。
「警察ですが、大丈夫ですか?」
インターフォンのカメラの映像には警察官3人が写っていた。
純菜が2階から駆け下りて来るのが聞こえた。
その時、窓が割られた。
ちょうど純菜が1階についた。「きゃっ。」小さな悲鳴をあげた。
「純菜!2階に逃げろ!」
3回ほど叫ぶが、純菜はその場から全く動かない。
俺は、椅子や花瓶を持つと、警察官におそいかかった。
警察官は後退りし、庭に出た。俺が追撃しようとした時、2発の銃声が響いた。
俺は腹と胸に激痛を感じた。
庭は明るく照らされていた。
俺は思わず叫んだ。
純菜に見せたいものに気がついた。
痛みを堪え、階段の下で立ち尽くす純菜の元へ歩いた。
「純菜、純菜。」
彼女の目には涙がつたっていた。
後ろでは先程の警察官が「止まれ!」と牽制している。
1本づつ彼女に近づく。発砲音が聞こえる。脚を撃たれた。
俺は純菜にしがみつくように倒れた。
「これを。誕生日プレゼント。」
俺は最後の力を振り絞って、すみれを取り出し彼女に見せる。
「アラーネ。ありがとう。」
俺にしか届かない程の小さな声で純菜は囁いた。
彼女が泣き叫ぶのが、聞こえ。俺は目を閉じ、闇の中に落ちて行った。
あるのは死だった。