救いの女神
俺の目が覚めた時、辺りは真っ暗だった。
それにしても、今日は辛かった。
やはり、こんな姿の俺は世の中に受け入れて貰えないかもしれない。
脱走してまだ半日も経っていないが、俺は父の元に戻ろうかと考えはじめていた。
その時、外で気配がした。
立ち上がり、戦いに備えようとしたが足首を打撲しているようで力が入らない。
外の気配は足音に変わり、どんどん近づいてきた。
いよいよ、足音は扉の前に来た。
俺は終わりを覚悟した。
扉が開かれ、月光が差し込んだ。
浮かび上がったシルエットは女性だった。
彼女は、眼を大きく見開くばかりで悲鳴をあげなかった。
俺は逃げようとしたが、脚が痛くて動けない。
「怪我、してるんですか?」
彼女の声は美しいかった。俺に哀れみの言葉をかけてくれる人間などいないと思っていたから、その声は美化されたのかもしれない。
「俺が、怖くないのか。助けを、呼ばないのか?」
俺は聞いた。逆に怖かったからだ。
「あなた、人間でしょ。なら助けないと。私につかまって、家にはすぐそこだから。」
人間。蜘蛛人間ではなく、2本脚で2本の腕2つの眼を持つあの人間と対等に扱ってくれると言うのか。
俺は、涙を流して彼女の肩を借りた、その涙か痛みのせいなのか、喜びのせいなのか俺には分からなかった。
「ありがとう。」
俺には、こんな時何を言えばいいのか、分からなかった。感謝を伝える言葉をこれしか知らなかった。
敷地に侵入した時は気がつかなかったがとても大きな家だった。
俺を助けた女性は20才くらいだろうか。
すらっとしていて、とても美人だった。
これまで見てきた映画では主演を務められそうなくらい綺麗だった。
玄関はとても綺麗だった。整然としていて、恐らく一人で暮らしているのだろう。
廊下を少し進んで左側の扉を開けると、リビングとキッチンが一緒になった拾い部屋があった。
「とりあえずそこのソファに座って。」
彼女に言われるがまま、そこに座った。
「救急箱を持ってくるから待ってて。」
すると彼女は、部屋のカーテンを全て閉じた。
俺を隠すためだろうか。
彼女が階段を駆け上がる音が聞こえ、少し余裕が出来た俺は周囲を見回した。
相当な綺麗好きなのだろうか、生活感が無さすぎた。そもそも俺は、女性の部屋など見たことがない、これが普通なのかもしれない。
戻ってきた彼女は他の人なら気持ち悪いと言うであろう4つの瞳をじっと見つめながら「大丈夫?」「痛くない?」と聞きながら消毒や処置を施してくれた。
問われる度、俺は「うん。」といい、頷く事しか出来なかった。
胸のざわめきを感じていた。
あのロマンス映画を見終わった時に似ている。恋なのか愛なのか、俺には確かめる術がなかった。
一通り処置が終わると、彼女は私に名前を聞いてきた。
「俺は、父からアラーネと呼ばれている。」
「アラーネくん。かっこいい名前だね。私は、峰原純菜。よろしくね。」
手を差し出す純菜。
俺は右の上の腕を差し出し、握手をした。
その後の会話から俺が知り得た情報はこうだった。
純菜さんは両親を亡くしており、この家に一人で住んでいるという。また、歳は18で春から町役場に務め始めたと言う。